夕焼け問答
夕ご飯に行き着くまでの、ふたりの話です。
(*´ 艸`)
横殴りの、夕日の街。
飲み屋に、行くまで。
胸の揺らぎか、獣の盾か。
「…………」
「…………」
コッ、コッ、コッ、コッ……。
ノシ、ノシ、ノシ……。
「……くれぇわ」
「……うん?」
「"うん?"じゃねえよ……おま、メシ屋に着くまで、ずっと黙って前、歩く気か。気が滅入るっての。まるで、おれが女怒らせてる熊みたいじゃねぇか!」
「……美女を、背後から狙う熊?」
「おーぉ、そうだそうだ。それくらい、ふざけきってやがれ。ずーっと考え込みやがって……夕日に沈黙は、こたえらぁ」
「……ふっ、なんで男って、沈黙に弱いのかしら?」
「アホ。沈黙は盾じゃあふせげねぇ。熊も性別も関係ねぇよ。おれの前で、たまにそうなんぞ、おま……」
「……ごめん」
「……いやぁ、いいんだけどよ」
コッ、コッ、コッ、コッ……。
ノシ、ノシ、ノシ……。
「確かに、変なやつ──……」
「……──あのフライパン、どんな感じだった?」
「……か、かぶせてくんなよ。さっき、あいつらの前でも言ったろ?」
「"すげぇフライパン"、とだけね? いっちばん、気になったトコはなに?」
「……」
「……いいじゃん……」
「……はぁ。"掻き消えた"、ってトコだ」
「……"威力"、が?」
「ああ」
「……"ゼロになった"って意味に、聞こえる」
「そう言ってんだよ」
「……そんなの……」
「お前の、包丁は」
「……ぇ、」
「あれは、何が、"よく斬れる包丁"、だったんだ?」
「……。私さ、肉、ずっと切ってさ? 食べてたじゃない?」
「あぁ──……おれも、もっと食いたかったぜ……ぽんず最高!」
「まず、さっき言ったとおり、"斬れ味"の凄さ。久しぶりに、"刃物って、怖いんだなぁ"って、思った」
「……おま、そんなにかよ……?」
「でもね、もっと不思議な事があった」
「……?」
「ずっと、ローストタウロス、何枚も、スライスしてたわよね?」
「めちゃくちゃ食ってたな。腹立ってきたぜ」
「……肉の下の、まな板に、いっかいもキズが入らなかったのよ」
「……、なに?」
「ありえないのよ、ベア。あの斬れ味……下のまな板に、キズが、つかないハズは……ない。ぜっっったい、ないっ……」
「おま……それを確かめて……」
「は、は……もう、怪奇現象のレベルよ……お陰で食べ過ぎたわ」
「……、……。なぜか、説明できるか?」
「簡単じゃないの。"包丁自身"が、"斬れ味"を調節してるのよ……」
「──!!」
……──ガジガジ。
「ぉぃぉぃおいおいおいおい……よしてくれ、頭がかゆくなるぜ!!」
「ぜっっったいそれしか、有り得ない!! 間違いない。あーんな木のまな板が、あーんなに肉が切れる包丁で、なんで無傷なのよ!? ……あぁ〜〜、意味わかんない、お酒飲みたい」
「……意思が、宿っていると?」
「マジカが触っていた、紫のフォーク」
「──!」
「──"1000年生きた悪魔が封じ込められている"」
「……。た、しかに、本人が言ってたけどよ……」
「真偽球は、光らなかったわ」
「……」
「"審議官"は、声の振動や、魔素の波動から、心の形を感じ取り、嘘と真実を表す能力を持つ……。エコープルほどの審議官よ? 無意識に聞いていても、本人がウソと思っていたら、絶対に光るわ」
「……フォークに悪魔が宿っているように、あの包丁にも、何かが宿っていると?」
「もしかしたら、あの、フライパンにもね?」
「……あっりえねぇ……」
「ベア。その言葉の前には、"もし有り得たら"が省略されているわ……」
「……」
「マジカも、あのフォークの魔法伝導率は、異常だって言ってたでしょ? 流路の流れを正し、魔法の威力そのものを、増幅する作用があるって……」
「あいつがフォーク突っ込んだ鍋、バクハツしてたよな……」
「あの義賊ちゃん、国宝級の、えっぐいアイテムを3つも所持してる可能性があるわ。それも、ぜんぶ食器!」
「……はぁ、意味わかんねぇ……酒飲みてぇ」
「──んぅん……。あと、ヒナワが言ってたこと、覚えてる?」
「おーぅ、よくしゃべるようになったじゃねぇか。女はその方がいい」
「なっ……偉そうな熊さんねぇ……で、どうなのよぅ?」
「はっ……ヒナワも、"恐ろしく動きが速いでござる"、としか言ってなかっただろがよ?」
「私が気になったのは、"何度か対象を見ずに動いておった"ってヤツよ」
「ああ! ……てか、おれがケリ入れられた時も、その瞬間、あったぜ?」
「毒針、覚えてる?」
「宝箱のか?」
「あの子、ぜんぶ、目で追ってたわよ?」
「おま……あの金ピカの目を見ることだけに、集中しやがったな?」
「だって……ユユユは攻撃食らっても、本人は大丈夫じゃない。こっちが避ければ済む話よ。ベア、あんな動体視力がある人間が、あえて見ない理由って、何」
「……勘?」
「ぶっぶぅぅぅ───!! くま、失格!!」
「……、ガォォゥン……」
「真横の対象も、瞳は追ってない時があったわ……変よ。何か、とてつもなく……まるで、目線を合わせていなくても、見えている、みたいな……」
「妙な所、気にするヤツだなぁ。もっと色々あっただろ……」
「……うーん、ありすぎる……」
「はっ……さすが、"二代目クルルカン"、だな……」
「 ……ソレも、ホントっぽかったわよね……?」
「む……むぅ……」
コッ、コッ、コッ……。
ノシ、ノシ、ノシ、ノシ……。
「……なぁ。あいつ、なんであんな地図に詳しいんだろうな?」
「……配達数、見たでしょ?」
「約七万通、だったか?」
「あれだけ、あちこち配ってるからじゃないの?」
「ダンジョンならともかく、広大な大地を、どうやって記録すんだよ。空でも飛ぶのか? 真偽球は光らなかったぞ?」
「あの資料のまとめ方のほうが、非常識だと思ったけど?」
「そだっけか?」
「ベア、7万通よ? 2ヶ月で、7万通」
「変なのか?」
「んあ〜〜鈍感メェ〜〜……」
「……な、なんだよ。」
「はぁぁぁああぁぁ〜〜……」
「おい……」
「……」
「……」
コッ、コッ、コッ……。
ノシ、ノシ、ノシ、ノシ……。
「……おまえさぁ、なんか、隠してんだろ……」
「──! なんでよ……」
「その顔で、前見てる時は、だいたいそうなんだよ……」
「……」
「……なんで、"ドラゴンの鎧"のこと、話さなかった……」
「……」
「……いいけどよ……」
「……」
「……」
ノシ、ノシ、ノシ……。
──コッ……。
「……、オシハ?」
「……"火の玉"、"光の柱"……」
「……?」
「以前……私とヒキハの元に依頼が来たの。知り合いのラクーンの夫婦からで、故郷の魔物の被害がひどいから守ってほしいって……」
「? ……ラクーンが、か?」
「私とヒキハは、その時、流石に動けなかったから、断るしかなかったの……ラクーンの奥さん、けっこう泣いちゃってね……? その時、ヒキハちゃんが、こう言ったの」
「おぅ?」
「"ドニオスのギルドにでも行って、助けを求めてごらんなさい! もしかしたら、"絵本の英雄"が現れて、無償で助けてくれるやもしれませんよっ!!"」
「────!!!!! お、おまっ、それっ……!!?」
「ヒキハちゃんは、以前から、あの義賊ちゃんを知っていた……。ヒキハちゃんは、ラクーンの里の魔物討伐を、あの子に依頼したのよ」
「ばっ……おま……なんで、そんな大事なこと……」
「ヒキハちゃんは、あの子のことを、隠したがってる……」
「……。それが、あのクルルカン娘が、ドラゴンの鎧を着ているかもしれないって事を、あの場で言わなかった理由か……!!」
「……あなたには、今言ったわ……」
「ラクーンの里……。南……。"火の玉"、"光の柱"の方角と同じ……」
「無関係じゃ、ない、かもとは、思う……」
「アホ……。それが違うとしてもだ。騎士隊の副隊長が、名指しで指名できる程の強さって事だぞ……! どんだけだよ、クルルカン……」
「あの子が、"郵送配達職"であり続けるのには、何か理由がある……その強さをひけらかさない、何か、秘密が……」
「……おれに、黙っておけと?」
「ヒキハは、守りたがってる」
「……」
「……」
「……ひぇ〜〜!! 聞くんじゃなかったぁ〜〜!!」
「ちょ、ちょっとお……」
ノシ……ノシ、ノシ、ノシ、ノシ……。
コッ……コッコッ、コッ、コッ、コッ……。
「……あいつよ」
「……えっ……? あ、な、なぁに……?」
「寝ぼけて、おれを見た時よ……」
「……? うん……」
「……"バーグベア……?"って、呟いたんだ……」
「……──っ!」
「あいつは、ホンモノの"バーグベア"に、会った事がある。そして、その上で、横にいた"子供"を守り、おれに蹴りを入れたんだ」
「……あは、は」
「──見上げた根性だ! イカしてるぜッ!! まっったくビビってなんか、いやがらなかった!! あの時の、金の瞳を見たか……? あれは、"守るヤツ"の瞳だ……"闘志"のシンエルが、宿ってやがった!! 本当に、"二代目クルルカン"ってのがいるんなら、あいつはそれに、相応しいぜ──!!」
「なぁんだ……あんたも、気に入ってんじゃないの……」
「ふぅ……まぁ。いやでもな!! "火の玉"と"光の柱"に関わってるってのはよ、ちょっといくら何でも、王様に秘匿しがたいぞっ、って、なんだその乳わぁぁ──!!?」
──ばよんっばよぉん。
「おっぱい10ビョウ、揉んでいいからぁ〜〜♪」
「──アッ・ホッ・カッ!!!」
「ひ〜〜み〜〜つ〜〜ぅ♪」
「はぁ……酒だ酒……酒おごれ……」
「ちょっとぉ〜〜! 後輩に、たかるのってどうなのよぉ〜〜?」
「今は職位もランクも一緒だろうが、アホたれ……」
「しょ〜〜がないなぁ〜〜! だから、ねっ? "実はすっごいクルルカン!!"のこと、あんま言っちゃ、や〜〜よ?」
「はぁ──……あいあい、わあったわあった。うわぁ、やっかいな事になったなぁ……おい、もし、本当にあの新米が、"光の柱"を起こせるんならよ。"手に入れた"ヤツによっては、国の勢力図が書き変わんぞ……?」
「……ヒキハちゃんが隠しているのは、"正解"かもしれないわね……」
「……」
「……なんか、あの義賊ちゃんは……その、利用されたりとか、しちゃいけないと思うのよ……」
「おいオシハ……自分たちと、重ねすぎんなよ? お前らは、ちゃんと、今、掴みとっただろ……?」
「 ふぁ…… 」
「……。なんだよ。すっとんきょうな顔しやがる……」
「あ、いや、その……」
「クマをなめんなよ? さびしいか? よしよししてやろうか?」
「ち、ちがうわっ! っ、たく、くまのくせにぃ……」
「……で? エコープルに頼むのは、今夜か?」
「あ……! ……うん。今夜、王立教会に泊まるのよ、あの子。私とヒキハちゃんで、まぁ、護衛という名の、里帰り? その時に、こっそり頼もうかと思って」
「おいおい、ヒキハもいるんだろ……? 大丈夫かよ。真偽球で、あのクルルカンのランクなんか調べるヒマあるか?」
「そこは何とか、見つからないようにするわよ! いけるっ!! お姉ちゃんに、まっかせっなさい!」
「ホントに大丈夫か……? 見つかんなよ? あんまり良くねぇからな、個人的に、審議官の"索引"を使うなんてよ……まぁ、エコープルも、あのクルルカンっ娘は気に入ってたからな。やってくれそうではあるが……」
「ふふ、心配?」
「ああ、心配だな」
「 ぅ…… 」
「あとな? 前から気になってんだけどよ」
「う、うん……?」
「いっつもな? "ええ"、って答えんだよ、おま」
「は、はぁ……?」
「おれの前で、たまに、昔と同じ、"うん"、に戻るぞ?」
「 ゅ 」
「くっく……そのおっぱいのデカさで、"うん"は、恥ずかしいぞ? 乙女かおま」
「……、……おいクマぁ……! 酒のおごりは無しだ。今日は、私の財布は軽くはならないだろう……かくごしろぉ……?」
「えっ、ちょ……なんでじゃ」
「ばかくまぁぁあああああ────!!!」
コッコッコッコッコッコッコッ──……!!
「……はぁ。まぁだ、先輩に奢らせんのかよ……やれやれ……」
ノシ、ノシ、ノシノシノシ、ノシ──……。
……──ぴゅぅぅううう──……
……──バサャッ!!
「のぶぁっ! ……なんだコレ……うォ!」
……ガサッ──……。
「……はっ。こりゃあ、いい酒の肴だなァ?」
夕日の街、女子、追いかける熊の顔に、
瓦版、まとわりつきけり。
広げれば、黄金の活劇、綴られたり。
+ ∩ ∩ どこやここー!
●(ฅ˙꒳˙ฅ)● =)=)=)