しのびこみっと
アンちゃんに、お城潜入は可能かどうか……
( ✧Д✧)+
………。
──キン、キキン。
「あうわわわ……あうわわわわ、あわうわあわうわあわわ……!」
──キキィィん──……!
『>>>こ、こらぁ! もう城内なんだから、そんな端っこ歩いちゃダメだって! ちゃんと絨毯のところ、歩かないと!』
『────クルルカンに同意。足音の発生を抑えられます。』
「そ、そそそ、外はさ、別にいいじゃない!? 勝手に屋根に登って、おもちゃの剣を取るのと変わんないわよ!? で、でも、中に侵入するのはさ!? ね? ここ、お城だしっ!?」
『>>>きみが助けるって言ったんじゃないか……』
拝啓、故郷の父さん、母さん。
私、アンティ・キティラは、今──。
お城に、潜入捜査をしております。
────秘密で。
「……あ、あれ!? これ、私、お天道様に足を向けるようなマネしてるんじゃ……!?」
『────方角的には:問題ありません。』
「──ちゃうぅ!! 例え話よッッ!!」
『>>>声でかいって! 何考えてんの!? 見つからないモンも見つかるって!!』
ぐっ……!! くそう!!
二人とも、声はこっちに響かないからって……!?
わっ、こんな高級そうな絨毯を、
外から忍びこんだ私に踏んでいけと!?
『>>>いやぁ──槍トラップの下に、上手いことひとつだけ、空気通しの窓があってよかったねぇ──。後輩ちゃんって色々スマートだから、スルッと通れたし』
『────アウトです。』
「うわぁぁ〜〜ん!!」
うさ丸どこぉぉお〜〜ぅ!!
おうちへ帰ろうよぉ〜〜!!
私、盗賊になっちゃうよぉ〜〜!!
「ふえぇ〜〜ん!! ふぇえぇぇぇ……」
『────……クルルカン。』
『>>>う、うん、やばいな。後輩ちゃん、基本的に悪いことに耐性なさそうだもんな……お城に明らかに不法侵入した事への自責の念が強い……』
「うさまゆどこぉぉ〜〜……」
『────幼児退行も発生中。』
『>>>う〜〜ん、どうしようかな……後輩ちゃん! 歯車を使って、足を浮かせながら空中を歩くの、できたでしょ! あれで、天井付近に隠れながら行ったら、余裕だって!! きいてる?』
「お、おうちかえる……うさ丸は、お腹減ったら帰ってくるよ……ぐすん……」
『────……クルルカン。』
『>>>え、ええぃ!! なぜこの子は、こんな高スペックで何でもできるのに、こんな場面で罪の意識に怯える良い子に育ってしまってたんだ……お、落ち着きなよ! 見つからなければ、不法侵入じゃないんだよ?』
「うわぁぁ〜〜あん!! せんぱぁいが、とうぞくっぽい〜〜……!!」
『>>>う……まぁ、やってた事は、盗賊みたいなモンだったからねぇ……』
ううう〜〜……。
こわぁあい〜〜……!!
見つかったら、タダじゃ済まないじゃ〜〜ん!!
外なら、ピュ〜〜っと逃げれるけどさぁ〜〜!?
中で見つかったら、逃げてもお尋ね者じゃないの〜〜!?
『>>>いや……外で見られても、こんな目立つ格好してたら、即お尋ね者にされるよ……』
『────……クルルカン。アンティの精神状態が思わしくありません。一度:先程の通気口から外に出て、回復を待つ事を提案。』
『>>>う……いや、休憩するなら、室内の方がよくないか? 外で、ビュウビュウ風が吹く中で、心が休まるかどうか……』
『────む……。』
うぇぇえ〜〜ん!!
そんなの聞いちゃったら、
中でも、外でも、もう心なんか、休まらないよぉ〜〜!!
「ふえぇぇ〜〜ん……!!」
『>>>あ、あぁ〜〜、泣かないで、お願いだから……クラウンちゃん、うさ丸の位置は掴めるんだっけ?』
『────肯。うさ丸が装備している"ほのおどらいぶ"は:歯車法と同期状態にあります。おおよその位置は特定でき、現在:ここから、かなり上部に位置しています。』
『>>>動いているね?』
『────肯。いつも通り:小刻みに跳躍移動しているようです。生存しています。』
『>>>……よし、わかった。後輩ちゃん? 一度外に出て、きみのクラスルームに戻ろう』
「え……でも」
『─────クルルカン。よいのですか。』
『>>>あのねぇ……はっきり言うけど、きみの能力の高さなら、こんなお城に忍び込むのなんて、余裕のはずなんだからね? や、足音はちょっとアレだけど……』
「う、ぅ……」
『>>>……でもね、イチバン大事なのは、当然、キモチの有り様さ。こんな、罪の意識にガクブル怯える女の子には、どんなチカラがあっても、お城なんて攻略できないね』
「う、ぅぅ……でも、うさ丸、どうするの……?」
『>>>……幸か不幸か、うさ丸の存在は、プレミオムズにも、見張りの騎士さんにも知られてるだろう? 君もプレミオムズだ! "うさ丸が飛んでっちゃいました"って、正直に話して探してもらうって事も、できるんじゃないかな?』
────ッッ!?
ちょ……!!!
「そ、そんなこと思いついてんなら、はやく言ってよぉ〜〜!!!」
『>>>い、いや!! きみとクラウンちゃん、ノリノリでお空飛んじゃったじゃないか……! ぼくも、ついてっきり、自信満々で、お城に潜入捜査する流れなのかと……』
『────む。私のせいと言うことでしょうか……。』
『>>>ち、ちがう、そいうこと言ってんじゃ……』
うぇ〜〜!!!
そうよぉ〜〜!!!
うさ丸、このお城でもう、
まぁまぁ有名なウサギさんじゃないのぉ〜〜!!
正直に"探してください"って言ったら、
お城なんて忍び込まないでよかったんじゃないのぉ〜〜!!?
「うあああぁぁん……!」
『────……。』
『>>>……ダメ、か。いや、その方がいい……後輩ちゃん。きみは精神的に、悪いことに耐えられない。いー子過ぎだ。そんな子が、お城に潜入するべきじゃない。ごめん……ぼくが止めるべきだった……』
「うぅ〜〜……」
こ、ここまで来ちゃったけど、
自分が悪いことしてるって思うと、
足がガクガクして、ヨロイがキンキン鳴る。
度胸が、ないってことなんだろうか……。
うう、やっぱり、お城の人に正直に言って、
うさ丸を探してもらおう……。
『>>>きみは……度胸がないワケじゃないさ。"きみが信じるモノ"には、いつも、突っ走っていくじゃないか!』
「……ふぇ?」
『────……そうですね。"王城への潜入"。この作戦は:アンティの信じる道ではないのでしょう。』
「……」
『>>>よし……後輩ちゃん、さっきの空気窓みたいな所に戻るよ! 天井にあった通気口だ!! さぁ……立てるかい?』
「……うん。だいじょうぶ……」
……。
私の性格だと、一生悪い事はできないっぽいな……。
先輩は、絵本の中で"義賊"って言われてるけど、
生きてる時は、誰かを助けるために、
こんな事を、繰り返したのかな……。
それって、辛くなかったの……?
『>>>……ごめん。きみへの配慮が足らなかったね……いけるかぃ?』
「う、うん、ありがと……あそこから出るくらいなら……」
よい、しょ……。
────。
『────振音感知。足音です。複数。』
「 」
『>>>クラウン。"反射速度"を使用して、時を加速しろ。状況判断と、アンティの精神的なフォローをする時間をかせぐ』
『────了解。"反応速度":発動します。』
「 ぅ……」
時が、重くなる……。
「 ……ぁ」
『>>>アンティ。"力量加圧"では動くな。不用意に金属音がして、発見される可能性がある。今は、意識だけ集中して』
「───……」
『>>>クラウン。足音の方角と、できれば数を』
『────……通気口のある方角から:恐らく4名以上です。意識加速中ですので、それ以上の情報は──。』
『>>>よし……アンティ、きいて。さっきの通気口には、戻れなくなった。4人もいたら、やり過ごせる可能性よりも、こちらを見つけられる可能性の方が、うわまわる。ヒトってのは、本当に、たまに予測できない行動をするからね』
「…… 」
『>>>アンティ。反対方向に、階段がある。そちらには、人はいない。ぼくは、バクチは打たない主義だ。この階にいるよりも、音もなく、別の階に行った方が、確実に見つかる可能性は減る』
「 …… 」
『>>>……きみに、酷なことを言っているのはわかる。きみは、こういう事に、慣れていないんだよね……でもね、ここでおいそれと見つかって、大事なきみが、安易に犯罪者になるのはさ、ぼくは、死ぬほどイヤなんだよ。あ、死んでるけどね……』
「 ……」
『>>>悪いことしてんのは、わかってんだ。でも、動け。今だけは、ぼくのわがままに付き合ってくれ……できるかぃ? 音もなく、階段まで、いくんだ……』
……わかったよ。
てか……ここに忍び込んだの、
先輩だけのせいじゃ、ないんだかんね……。
「 ……ん 」
『>>>……よし。日が暮れるまでには、お城の入り口に戻ろう。約束だ』
『─────クルルカン。』
『>>>クラウン。"反射速度"を解除したら、索敵頼むよ。こちらもフォローする。アンティ? パニックにはなるな。どんな時も、時を加速すれば、ある程度、ゆっくりと考える事ができる。ぼく達が、必ず、一緒に考えてやる』
……ありがと。
【 お、あの童、いっちょ前なこと言いやがって! 】
< あらぁ〜〜、けっこう男前やなぁ〜〜♪ >
{{ 私達もいますよ── }}
『──ガルルン?』
『──ニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャ──!!。』
『────アンティ。解除します。』
うん、わかった。
音を出さず、脇目も振らず、階段に逃げる。
──そうよね?
『>>>ふん。やれるさ。"義賊の先輩"が、ついてるだろう?』
──はっ……自分で言うなって。
『────"反射速度"──解除しました。』
(と……!)
……くるぅん!!
義賊先輩の、ありがたぁぁああい説法のお陰で、
いくぶん、心が落ち着いた。
私も、こんな所でお縄にはなりたくない。
まだ15歳の乙女やっちゅうんじゃ。
ベッドに寝てた、うさ丸ふっとばして、
お縄につくって、なんやねん。
イミわかんないし。
今は、先のこと考えずに、
脇目も振らず、逃げる────ッッ!!!
ずいぶん遠くの方から、談笑のような声が聞こえる。
クラウンは、かなり早めに接近する人を見つけてくれたみたいね。
てか、前から思ってるんだけど、
この、歯車でできた耳カバー、やたら音、ひろわない?
ま、今はいいや──……──集中しろ、アンティ!
足音を鳴らすワケにはいかない。
両足は、絨毯についている。
両足で、バク転する──……。
よっ──……!
(クラウン、空中で両足に歯車の多重構造)
『────"空中散歩"。』
──ン──……。
一枚だけでは、浮力が小さい歯車。
それを、金のブーツに多重構造にして、
"空を翔けるブーツ"に、仕立て上げる。
組み上げるのは、一瞬だ。
身体は、回っている途中で、
足が天井の方を向いている時に、完成する。
(クラウン、準反重力機構システマは使うな。マントの格納もいい。今からじゃ、音を作っちゃう)
『────レディ。ご随意に。』
身体が一回転し、足が絨毯につく前に、
方向を、変えなくては。
──ふぅ。
今は、やろう。
(りゃ……!)
片足で、空気を、ける。
流れるように、風のように。
角で動いちゃダメだ。止まるし、音が立つ。
曲線で動く事を、忘れない。
弧を描く、ツインテールと、マフラーマント。
綺麗に、なびく、なびく、なびく。
円の動きの連続は、音を生み出さない。
もう、空気を7回ほど、蹴っている。
吸い込まれるように、階段へと、流れる。
ゆらめくように、宙をいく───。
そう、まるで、幽火のように──。
……や、見たことは、ないけどね?
……──ふぁああァァァ──……。
『────……。』
『>>>……お見事。人間やめてる動きだ。空中を漂う、スーパーのビニール袋みたい』
……先輩、何いってんの?
階段まで、あっという間。
『────アンティ。』
『>>>!! ──上への階段しかない!! くそっ……』
……。
しかたないわよ。
のぼろう?
……──くぉおおおん──……。
風にのっかるように、二対の軌跡を描いて、
くわんくわんと、舞いあがる、私の身体──……。
階段っていうか、"段"、使わない。
『>>>やれやれ、こりゃ、"神童"ってヤツかな……』
『────お見事です。』
ちょ、ちょと! さっきから何よぅ!
『────アンティ。次の階には震音は感知されません。部屋の内部を確認中──……。』
(──わかった。念の為、天井付近に張り付きながらいくわ。これ、慣れたら動きやすいわね?)
『────……。』
『>>>……ほぅら、度胸あんじゃん……胸が変換されてんじゃないの?』
『────クルルカン:アウトです。』
……あ、なんか言ったかコラ?
誰も、気づきなど、しない────。
クルルカンは、風の如く、駆け巡るのだ────。
(´・ω・`)すげぇなアンちゃん……










