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あしょこじゃないの? さーしーえー




 キィ────……。



 私が登っていくと、ひとりでに、大きな扉は開いた。

 中は、灰色の闇がひろがり、外の陽の明るさとの差で、

 まだ、輪郭をとらえられない。


 いこう。

 うさ丸が、中で待っているはずだ。



 ……──キィン。



 階段をのぼりきり、



 コ────ン。



 ──ちゃんと、"建物"の中に、立った。



「にょむ」


 うさ丸いた。


 目の前の石畳に、ちょこんといる。

 けっこう、天井が高い。

 アーチ状になってる?


「……教会? いや……」


 違うわね。

 この天井は、お城特有の造りなのかもしれない。

 ……! 灰色の暗さに、目が追い付いてきた。

 ……あ。


「本があるわね……たくさん」

『────索敵中。反応:無。』

『>>>──! いや、待って! 足元に何か──』


 ──キィン!!


 ────ビュゥゥウウンン、バチっ!!!


「──ッッ!?」

『────流路反応。』


 慌てて、一歩飛び退く。

 足元で、妙な感覚があった。

 変化が起こる。


 ────スゥゥゥ──……サァァァァァ……!


「な、に……?」

『────。』

『>>>これは……?』


 光の幕のようなもの(・・・・・・・・・)が、

 いま、私が踏んだ場所から、ほどけていく(・・・・・・)

 日焼けした肌が、ぺりぺりと、めくれていくみたいに──。



 ……──ァァァァァ──……!



「──……」

『────……。』

『>>>…………』



 床から、ほどけだした光は、

 あっという間に壁や天井に伝わった。


 何かが(・・・)剥がれ落ちて行く(・・・・・・・・)

 空気に、溶けていってしまう。

 これは───……?


『────申し訳ありません。何らかの魔法装置を見落としたようです。』

『>>>今のは仕方ないと思う。床の模様の境い目に、違和感があっただけだ』

『────"初代の知恵袋":おみそれしました。』

『>>>ちゃかすなって。これ……"アナライズホロコーティング"に、似てると思う』

「──……」


 "アナライズホロコーティング"は、

 戦闘時にアナライズカードを変形させた流路で、

 私の髪や肌を保護するために展開する、

 "障壁デバイス"のひとつだ。

 さいしょの色は淡い水色っぽい透明だけど、

 私が気合いを入れたりすると、金色になる。


 今の現象は、それを解除した時に、よく似てるわね……。

 表面の光の幕が、さらさらと──……。


 ……この部屋は、"コーティング"されていた?


「……()ったピーナッツの薄皮が、こんな風に消えたら、テーブルのお掃除がラクなのにね?」

『>>>おや、きみのご実家(キティラ食堂)は、ナッツも出すのかい? やぁやぁ、ぼくには花吹雪のように見えるけどね? ふふ、えらい差だな』

「あーら、最愛の人に花を贈ろうとする紳士は、言うことが違うわねー」

『>>>……まじかんべん。ロマンチストではないつもりだよ』

「きひ……バスリーさん案件が増えたわね、クラウン?」

『────お二人共:職業病だと言うことです。』

『>>>おいおい……誰の職業がロマンチストだって?』

「きひひ、何言ってんの、くっく、く……」


「……にょんむ?」


 うさ丸が、ちょっと先の床で、きょとんとしていた。

 うさ丸には何も反応しなかったんだろうか。

 辺り一面から解けた光の薄皮花吹雪。

 もう、視界から消えつつある。


『>>>"保護魔法"と言った所かな……』

『────クラウンギアは:クルルカンの予測に賛同。』

「……うっわ。横の本棚、すごいいっぱいね……天井近くまであるわ……崩れないわよね?」



 きぃん。きぃん。きぃん。

 ぽてぽて。


 きぃん。きぃん。きぃん。

 ぽてぽて。



「こら、うさ丸ぅ、あんま前いくな──!」

「にょむ──っ!」


「聞いちゃいねぇ……」


 本棚の通路を、進む。

 窓がないので、少し薄暗いけど、問題ない。

 すぐ前に、光が射し込んでいる所があるわ。

 横に部屋が続いているみたいね。 

  

 ……。


 きぃん、きぃん、きぃん。

 ぽてぽて。



挿絵(By みてみん)



 ……てかさぁ。


「ここさぁ……ぜったい私のクラスルームじゃないでしょ」

『>>>あ──、そだねぇ、なんか間違ってるよねぇ──……』

「……ちょっと確かめたら、引き返しましょうか」

『────お二人共:その結論は早計です。』

「およ?」

『>>>え?』


 なになに? クラウンどゆこと?


『────上を:ご覧下さい。』


 んぁ?


『>>>……あっ!』

「えっ……あっ!!」


 ────なっがい、旗のようなものが、

 通路の天井から、垂れ下がっている。

 陽の光の逆光で、少し見えにくかった。

 金の(ふち)どりがしてあって、高そうな布!

 その旗の真ん中に、何やら見慣れた紋章がッ……!?


「あ、あれって……私のプレミオムアーツの意匠!?」

『>>>うっそぉ……』

『────"郵送配達職(レターライダー)"の紋章が刺繍されています。』


 ほ、ホントだ……!!

 でっかい旗に、私の首のと同じモノが……?

 えっ……まじですか……?


「……ここ、ホントに私のクラスルームなの……?」

『>>>あら〜〜……』

「いや、あらーじゃないわよ先輩……え、ここに来る時、毎回あの階段、歩けってか……」


 ここ、お城やよ……?

 なんとも場違いな場所にある、確かな私の証。

 ……なんか、実感、湧かない。


「こっ……、こんなでっかい部屋もらっても、どうしようもないんだけど……」

『────まだ室内の空間量は未知数判定。ここは入口です。』

「いやいやいや……ぜったい中も大きいって……」

『>>>とりあえず、そこ曲がってみようよ』

「どーなってんの、私の扱い……」


「にょんむ〜〜!!」


「はいはい、ちょっと待ちなさいな」



 きぃん、きぃん、きぃん。

 ぽてぽて。



 薄暗い、天井の高い本棚の通路を抜けて、

 光の漏れる部屋にたどり着き────。



「────」

『────。』

『>>>────』




 ────"本"。



 入り口、だけじゃない。


 中も、本だらけだ。



『>>>あ、書庫じゃないの?』

「わかるわよぅ、そんくらいぃ……」



 ──見渡す限り、本棚。

 窓からの光に、照らし出されている。



『────空間把握。ほぼ円柱状の部屋のようです。』

「円柱状っつったって、コレ、でっかいわよぉ……?」


 広さ、直径50〜60メルくらいあるんじゃないの……?

 いや、もっとあるかな……?


「……と、図書館……?」

『>>>うーん……。確かに大きいけど、お城の蔵書を集めたにしては、なんだか少ないような気もするねぇー』

「いやいやいや!! 充分多いってば! 見て! 二階も本棚があるわよッッ!?」


 てか、お城の蔵書を集めた図書館に、私なんかが侵入したら、ダメなんじゃないのッッ!?


 ──ぴょんぴょん! ぴょ──ん!!


「にょっき! にょっきゃ────!!」

「……」


 うぉぅ……たくさんの本の壁を見たうさ丸が、

 テンション上がって、跳びはねてらっしゃるわ……。


「どどどどど──なってんの……? このメチャクチャ本がある図書館が、私の"クラスルーム"……?」

『>>>いや、そんなにないってば。ほら、部屋の中央の空間は、対面ソファとテーブルがあるだけじゃん』

「い、いや、あんたねぇ! 私の学校の図書室と比べたら、数十倍は大きいわよッッ!? 何を基準に言ってんのよぅ……」

『>>>あっ……。ははは……』


 あ、でも……。

 先輩が言った通り、この図書館の中央は、

 ぽっかりと空間が空いていた。

 真ん中には、私なら4人くらい座れそうなソファが、

 長めのテーブルを挟んで、もうひとつある。


 ……アリーヴァ学童院の学院長室の手前にある、応接室みたいな家具の配置ね……。

 追いかけっこしてたら、たまに呼び出しくらって、よく行ったもんなぁ、あそこ……。


 ───とてとてとて……。


「にょきっとなぁ〜〜!」

「あぁ、こらどこいくのよぅ!」


 ──きんきん、きんきんきんっ……!


 うさ丸を追っかけて、部屋の中心を通り過ぎ、

 本棚の並ぶ中へ、潜入する。


『────汚れの蓄積:皆無です。やはり先程の術式は:この室内の環境保持に重きを置いたものだと予測できます。』

「ほんとね……ぜんぜんホコリっぽくないわ。っと……──ほぅら捕まえたッッ!」


 きんきんきんッッ──ぐんむ!


「──にょんやぁぁ〜〜!? にょっ!」

「ほれ、肩のっとけ、肩。ここの本汚したら、私が怒られんのよ?」

「にょきっと」


 うさ丸を捕獲したすぐそばに、

 本棚に隠れて、作業机のようなものがあった。


「これ……本がバラバラになってるわ?」

『>>>ほんとだね』


 なんだろう。

 表紙のところの紙、文のところの紙……。

 丁寧にわけられて置いてある。

 ヒモが、いくつかの束になって、小さなカゴに入れられている。

 あ、これは何かの魔物の革を、なめしたものかも。

 綺麗な素材だわ、高級品っぽいなぁ……。


『────書籍の作成:及び分解をした形跡。』

『>>>バラして組み立てたってことだろうか? なんで……』

「わ、見て、この取れてるページ……ラクガキまみれなんだけど」

『>>>……! これは……』


 バラバラにされた本のページの一部に、

 単語にマルをつけたり、矢印で注釈を書かれた所がある。

 誰がこんなことを……。


『>>>……王城の蔵書に、こんな堂々と書き込みをしているなんて……』

「ここの囲ってある単語の所、なんかメモが書いてあるわ……えと……"互換性"、"P147"……?」

『>>>……?』

『────不明瞭。』

「……うん、全然わからん。置いておきましょう」

「にょむ?」



 ──ペラ、トントン。


 バラバラ書籍をそろえて置いて、

 また、のんびり、歩き出す。

 私がバラバラにできるのは、肉だけですよー。

 あ、嘘です、野菜もできます。

 お魚もできますねー。


 ──きん……きん……。


『>>>……蔵書のジャンルに、偏りがあるな……』

「え?」

『>>>見て。それとか、児童書だよ?』

「えっと……」

『────マーカーします。』


 クラウンがアナライズ矢印で教えてくれた本を、

 棚から引き抜き、ひらく。


「──! ほんとだ。これ、子供が字を覚えるやつじゃん……文字の一覧がのってるわね」


 王城の書庫に、なんでこんなモノが……?


『────右上部の棚:絵本が集まった一角を確認。』

「──えっ!!」


 あっ……! ほーんとだ!

 おおっ!! めっちゃある!

 ……ちょ、ちょっと気になるわね……。


『>>>おーい、読んでたら日ぃ暮れちゃうよー』

『────"義賊クルルカンの冒険"を発見。』

『>>>ま、マジっすか……』


 私、けっこう絵本とか好きなんだよなぁ……。

 ドニオスギルドの塔の家にも、

 捨てれずに、けっこうあるし……。


 あ──……うん。ダメだやめよう。

 窓から射し込む光が、だいぶ、オレンジに近くなりつつある。


『>>>窓の一部が、すりガラスみたいになってるな……本を直射日光から守るためだろうか……』

「うわ──ん! それより、このクラスルームカードどうすんの──!?」

「にょきっとな?」


 部屋の中央の台座にかざす……?

 んなもんなかったわよ!

 ソファとテーブルだけだったもん!


 うわぁ──ん!!

 親切な説明を求む───ぅ!!


『────アンティ。正面の本棚を:右に曲がってください。』

「へ……? なして……?」

『────素敵なものを感知しました。』


 ……んん?

 クラウンにしては、珍しい言い回しねぇ……。

 ……。

 ど、どれどれ……。




 ────きん……きん、きん──……。


 ──きん。




「    」


『>>>……すげぇ……』



 ……ちょ……。



『────大型のベッドを確認。"時限結晶(アイテムストレージ)"内のベッドの:上位種と判定。』

『>>>じょ、"上位種"って、クラウンちゃん……魔物じゃないんだからさ……?』


 ……当たり前じゃい。

 私のベッドと、こんのベッドをくらべんのは、

 月とタートルをくらべるみたいなもんさ……。

 こちとら、食堂娘やぞ……。


 これは……、明らか、

 "キングベッド"ってヤツじゃ、ないのよぉぉおお!?


「な、なんか、上から布、たれてるわよッッ!? ほ、ほらっ、なんて言ったっけ、なんて言ったっけ、あの布ッ!?」

『>>>……"天蓋(てんがい)"?』

「そ! ──それよッ!! ベッドに、"てんがい"ついてるじゃないのォ!!」


 わ────!! なんなのこれわぁぁあ!!!

 なんで、書庫にキングベッドあんのっ……。

 なんで、ベッドに上から布たれな、あかんのや……。


「……にげましょう」

『>>>いや……別に悪いことしてないでしょ……』

「ぜっっったいここじゃない!!! こ・こ・じゃ・な・い!! ──帰ろう。私は夢からさめたい。そしてお風呂はいる」

「にょっき……?」

『────アンティ。ベッドの横に。』

「へっ?」


 我が15年の生涯で見た中で、

 イチバン豪華なベッドの横に、小さな棚が置いてある。

 チェストと言うヤツだろうか……。


 その棚の上に、丸い金属性の台座が置いてあった。

 上に、くぼみがある……。


『>>>青銅の金魚鉢みたいな台座だね……』

「きんぎょばち、ってなんだっけ……」

『────アンティ。クラスルームカードを。』


 ……うそでしょ。

 ……"台座"?

 ここ、部屋の中央の机じゃないじゃん。

 端っこの窓際の、キングベッドじゃん。

 なんなの、さっきのくまさん達の説明。

 いくら新人でも、涙ちょちょぎれるわよ?


「ちがうって。絶対ちがうって……。こんなので寝たら私、バチ当たるって……」


 そ〜〜〜〜っと、

 変な金属の台座に、カードを近づけた。




 ふわっ


 くるくるくるぅ──


 ……ジ、ジジ……




 "────entry:ANTI-QURULU."






 ────。






「────わたしのへやだぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ──────!!!」



「にょやっ!」



 ──ぴょん!!


 ──ぽふ。



「にょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむにょむ──!!!」




 兎の王が、キングベッドに、いちばんのりした。


 純白のシーツの上で、あらぶっている。




「にょきっとなぁぁぁ────♡♡♡」


「…………」




 私は、がっくりと、床にヒザをついた。







 きぃ──────ん。






 

+ ∩ ∩ ふわふわ!

●(ฅ˙꒳˙ฅ)●

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