天空の階段
いちおう連投ですねん(*´ω`*)+
キン、キン、キン、キン、キン………。
キン……。
「……おかしくない?」
『────……。』
ヒュオオオオオオ……。
……いや、絶景なのよ?
お城のね?
塔と塔の間に、階段があるんだからね?
……これ、ぜったいドニオスの私のウチより、高いわよね。
下……下、こっわッッ!!
めっちゃ高いので、お城の中の緑色の芝生が、だいたい見渡せるわ……。
うおお、あれ王都か……す、すご……。
「にょむむむむむ……」
「うさ丸、あんたぜったい落ちるなよ……めっちゃ掴まっときなさいよ。落ちたらホント、うん泣く、私泣くからな……」
「にょきっとぉぉお〜〜!!」
……ん? でもこのコ、
この前、ドニオスの街からカーディフの街まで、
特大弾道ジャンプしてたような……。
……。
いや、やめよう。精神的な問題だわ。
「──てかさ! 本当に私のクラスルーム、こんなとこの先にあんの!? 変じゃない!? 空通るって、変じゃない!?」
『────識別コードは:"アンティ・クルル"名義になっていました。』
「で、でもぉ、なんか変だってぇ〜〜!! ほらぁ、あの、階段の先の建物! 明らかに、お城の中心にある建物じゃ〜〜ん!!」
「にょにょにょにょにょ!!」
この王城は、いくつかの塔のあつまりでできているみたい。
下を見ると、その塔の間を、回廊が橋渡しになっている。
でも、いま私が登っているような、
空中に浮いている階段は、当然、ここだけである。
……うん、なんだこれ。
「わ! あれ、あそこ。ふつうに騎士さん、あるいてるじゃないのよぉ……。先輩! 本当に私、あの人たちに見えてないんでしょうね!?」
『>>>う? うん、断言はできないんだけど……この階段、トンネル状に術式が組んであってね? 多分、"隠蔽"系の魔術式だと思うんだ……ていうか、きみにも"眼魔"で見えてるだろうに!』
「見えてるけどぉ〜〜!!」
先輩の仮面のスキルのひとつ、"眼魔"。
簡単に言うと、魔力が光って見えるスキルだ。
足場だけの階段の周りには、ユラユラゆれる、
半透明の光の紋章のようなものが展開されており、
陽の光にあたってキラキラしていてキレイだ。
……私、座学は得意だったんだけど、この魔法式は読めない。
こんな細切れのライスペーパーみたいなもんで、
私の姿を見えなくしたりできるんだろうか……。
……きんっ、──ガキん!
つまづいた。
手をつく。
……うん。階段の段と段の間は、ふつうに何も無い。
もし、ここでうっかり、
手に持っているクラスルームカードを落としたとしよう。
下に真っ逆さまに落ちて、地面に突き刺さるわ。
身体を起こしながら横を見ると、
肩にしがみついていた、うさ丸が、無言で怯えていた。
涙目である。……ごめんって……。
『────損傷:無。クラスルームカードの格納を推奨。』
「にょ……! にょ……!」
『>>>ちょ、ちょっとやめてよ……ほんとビックリするから……』
「うるさいわね……私もビックリしてんのよ。何がビックリしてるって、こんな地表から100メルくらい離れてる所でつまづいても、そんなに怖いと思わなかった自分にビックリしてんのよ……」
『>>>そりゃ……きみ空飛んだり、ガルンでかっとばしたりしてるじゃないの……』
『────このレベルの距離でしたら:クルルカンの蕾のナイフを入手する際:落下しています。』
「いや、あん時は……うわぁ、ヤなこと思い出したあ……」
「にょ? にょんむ?」
『>>>あ──……泣いてたね……』
「ちょ……ちょと、誰のせいで……! ……はぁ。わかった。進もう。進んでから、考えよう……」
──きんっ、きん。きん。きん。きん──……。
「……ねぇ、先輩」
『>>>なに?』
「"蕾のナイフ"ってさ? あれ……精霊花を、透明のナイフに閉じ込めてたじゃない?」
『>>>そだね』
「……あれってさ、どうやってんの?」
『>>>あ──……』
『────……。』
──きん。きん。きん──……。
『>>>……後輩ちゃんさ、ぼくの"本名"って、わかる……?』
「え? えっと……」
なによ、急ねぇ……。
……。
……あの時。
レエンの湖の底で、"すとっぷどらいぶ"を使って。
バッグ歯車の中に入って、千年の眠りについて。
──目が覚める、少し前に。
私は、先輩の記憶の中にいて────。
「……おうの、かねとき」
『>>>……そ。"黄野 金時"。それが、ぼくの本当の名前』
『────……。』
「……あのナイフは、やっぱ企業ヒミツ?」
『>>>! はっは! 変なコト言うねぇ……えーっとね。ぼくの昔の仲間に、"言葉からチカラを引き出すスキル"を持った子がいたんだ』
「──!」
『>>>……あのナイフは、精霊花に魔法を施して、ぼくのチカラで"時間結晶化"したものだ』
「……じかん、けっしょうか?」
『>>>"時"を止めてしまう能力だよ』
「──!」
……きん。
「……それって。……"すとっぷどらいぶ"……みたいな?」
『>>>いや……あんな、完全なものじゃない。ぼくのは、一度止めたものを、動かす事はできなかった。ただ、止めるだけの能力だよ』
「……」
『>>>ぼくはね、空間を"停止"させて、よく、透明のナイフのようなものを作って、使ってたんだ。あの"蕾のナイフ"は、それの応用だね。……ほら、歩いて』
「ん……うん」
……──きんっ、きん、きん、きん、きん──……。
『>>>ぼくのチカラはね、その、"言葉のチカラを引き出すスキル"で、引き出されたスキルだったんだ』
「……それって……つまり、名前の……」
『>>>──そう。今のきみなら、わかるよね。ぼくの名前……"黄野 金時"には、"時"って字が入ってる。……ぼくが止めた時間は、結晶になって、ゆっくりと金色になった。絵本のぼくは、真っ金金だよね? あれは、鎧に少しずつ結晶化した空間が定着して、金に染まっていたからだと思う』
「……ヨロイに、結晶化……?」
『────……。』
『>>>まったく、誰が絵本なんかにしたんだかね……?』
「……」
きん、きん、きん、きん──……。
「でも」
『>>>ん?』
「止めた時間を、動かす事は、できないって、さっき言ってた」
『>>>言ったね』
「でも、"蕾のナイフ"は、動いたわ。あの呪文で」
『>>>……』
「あれって……」
『>>>ちょっと、裏ワザでね。あのやり方は、もうできない。それに、今のぼくに、"時間結晶化"は使えない』
「──! そう、なの? なんで……」
『>>>しんじゃったから、かな……』
「……」
『────……。』
『>>>あ──いや! で、でも、"眼魔"と"反射速度"は、仮面に残ってよかったよね! これは、ぼくが自分で転げ回って習得したスキルだから! けっこう便利なスキルだろう?』
「うん……」
『>>>あ──……、……』
「……」
……きん、きん、きん、きん、きん……。
「いつかさ」
『>>>……ん?』
「ゆっくり、聞いていい?」
『>>>えと……』
「先輩の、過去」
『>>>……』
……きん、きん、きん、きん、きん……。
『>>>うん……そうだね。いつか、必ず話すよ』
「いいにくかったら──」
『>>>いーや、話す。約束。一代目から、二代目に、歴史を伝授するのだ!』
「なっ、なにそれ」
『>>>まぁ……いずれ、タイミングが合ったらね。"箱庭"で、お茶でも飲みながら、ぼくと、クラウンちゃんと、後輩ちゃんで……いっかい、ちゃんと話すよ』
『────ぁ……。』
「……いいの?」
『>>>いいさ。せっかく、ご縁があったんだもの!』
「! ふふ、呪いの仮面として、だけどね?」
『────ふ、ふ。』
『>>>あ、クラウンちゃんが笑った。』
『────……笑ってません。』
『>>>いやっ……、笑ってたじゃん……』
『────笑ってません。』
『>>>えぇ──……』
「あんた達、仲いいわねぇ?」
……きん、きん、きん、きん、きん……。
「にょきっと」
「うおっ、びっくしたぁ。耳元すぎるわよ? うさ丸……」
『────もうすぐです。』
『>>>……扉があるね。でかい』
「うん」
……きん、きん、きん、きん、きん……。
「……先輩、約束よ?」
『>>>え?』
「私が死ぬまでに、教えてね?」
『>>>……! そ、そんな大事じゃ、ないってば……』
『────……。』
「せーんぱぁい?」
『>>>──ああ! 約束だ。ちかいうちにね』
「ふふ、わかった」
────きん。
「ふぅ──……。で、初代クルルカンさま? この扉、どうやって開けんの?」
『>>>や、もう開いているよ。見てみな』
「……──!」
……──ぎぃ、ぃぃ、ぃぃいいいい────……!!!
「……あらんま」
『────危険の有無を:分析しています……。』
「ふぅ、よかった。このまま開かずに、お外で待ちぼうけ食らうかと思ったわ……」
『>>>ははは、そいつは勘弁してほしいね』
「──よしっ! 大丈夫でしょう! いけっ! うさ丸!! あの扉の向こうを、調べるのよッッ!!」
「にょきっとぉぉおおおおお────!!!!!」
ぴょ────ん!!!
白い弾丸は、オレンジ色に照らされつつある扉の隙間に、
吸い込まれていく。
『────分析完了。
────トラップ:及び毒物の反応:共にありません。
────暫定安全区域指定。』
「いざゆかんっ!! 未知の領域へ!!」
『>>>はは、何そのテンション……?』
ゆっくりと開く、大きな扉の中へ。
私たちも、踏み出していった。