黄金ぶぅぶぅお墓参り
私の輝かしい旅立ちの初日。
時刻は、もうすぐ夕方です。
あ〜〜父さん母さんは、今頃ゆっくりしてるかな〜〜……
娘の門出を祝って呑み会してるかもな〜〜……
その娘はと言うと……。
「ぶう、ぶうぶう!!」
隣に豚はいますが、鳴いているのは、私です。
「ぶぅううぅう〜〜〜〜!!」
『────……。』
泣いているのも、私です。
──ぶぅ。ぶぅ。
なに、あんたは私の味方なの。
そんなつぶらな瞳で見て。
さっき豚カツって命名してごめん。
あっ、私のしゃがんでる所ね。
草が生えてるのね。
そうね、じゃまよね。
はいはい。
あ、根っこ掘るんだ……
「────ぶゔゔぅぅぅぅぅう!!!!」
「……なんて泣き方をする娘だぃ……」
「ぶばっ!?」
び、っくりした! おお、あなたは!!
「────ばばばばーちゃん!!」
「アンタにまで、その呼び方をされる筋合いはないよっ!!!」
金髪の豚は、ばあちゃんに捕獲された。
豚に出されるエサにしては、とても温かい食事だ。
すいません、ナマ言いました。
「お姉ちゃん、髪きれいだねー!!」
「あ、ありがと」
「お目目もきれい!! 見せて!!」
「あ、えと」
「ロロロ! 食事中によそ見しまくるんじゃないよ!」
「うぇ〜い!」
「なんだいその返事は!」
食事中に気づいた事だが、ばばばばーちゃんは、言ってる事は、至極真っ当だ。
声がでかいだけで。
いい人だと思う。
いや、怖い、怖いけどね。
ていうか、ろろろ?
「ラララも、アンタ、膝にこぼし過ぎだよ。外で叩いてきな」
「は〜い!」
「まったく、返事だけはするんだから……」
「…………」
「なんだい、人の顔みて固まって」
「あの………もしかして」
「あん?」
「あなたの名前は"バババ"ですか?」
言ってから、ちょっと失礼かなと、思ったけど……
「……あんた、さっき分かって呼んでたんじゃないんだね……」
バババ、ばーちゃん。
いや、どもってるだけだと思うから。
ごちそうさまでした。
「──あんた、この耳は気づいてるね」
「あ、はい。エルフですよね」
「正確には、ハーフエルフさ。母が人間でね」
「そうなんですね」
「……ふぅ、どうやらあんたは悪い人間ではないようだね」
「?」
「最初は、難癖つけて、子供たちをさらいにきたのかと思ったんだよ」
「な! ……そんなことしません!」
「だろうね。私達にエルフの血が流れている事に、あんたは随分、無関心だ。あの子たちを、ただの子供として接してくれたしね」
2人の子供達はもう、眠ってしまっている。
今は、夜の9ジ前くらいだろう。
「そんなこと」
「今はだいぶ無くなったけどね、昔はかなり、そういう事はあったんだよ。まぁ、私はババァだから、かなり前の事か」
「そう言えば私、お年をめされたエルフの血筋の方を、はじめて見たかもしれません」
「ふん! まぁまぁ丁寧にしゃべれるじゃないか。さっきはぶぅぶぅ言ってたくせにねぇ」
「ぐっッ!」
「はっ。私はいくつに見える?」
「えと、……150歳くらい?」
「300だよ」
「!! さんっ!?」
……エルフって、そんなに生きていける血筋なんだ。
カーディフの街で、たまに食堂にきてくれるエルフのお客さんもいた。みんな若々しい印象がある。
「私は半分で、父方のエルフ筋だからね。ばぁさんの時間も、それなりに長いんだよ。まったく、イヤになるね」
「……えと、なんて言えばいいか」
「こらっ! ……そんな気回しはよしとくれ。生きる事は、それなりに楽しい事もあるよ。半分くらいはね」
長く生きた人の言葉は、深みが違ってる。
コップをかたむける。
出されたスープは、冷めても美味しかった。
「ここには、前から住まれてるんですか?」
「ああ……。ここは花守の最期の場所なんだよ」
「花守?」
「"精霊花"を守る、エルフの一族のことさ。……あんた、まだ眠くないかい?」
「え? ええ。これくらいなら、よく仕込みで起きてたし……」
「仕込み?」
「あっ、こっちの話です……それで?」
「ふん、ついといで」
バババさんは、そのまま外に出ていってしまった。
私は少し慌てて後を追う。
家のすぐ側、丘のてっぺん。
そこから、ポツリ、ポツリ、夜に輝く光が見える。
「精霊花の名残だよ」
「花が、光ってる……」
淡い、白や、青や、紫。
少ないが、確かに暗闇で光る花があった。
すごい、幻想的だ。
周りの草に隠れて見づらいけど、確かに光をはなっている。
「きれい……」
「本物はもっと綺麗だよ」
「本物?」
「この花はね、精霊花と、普通の花のハーフさ。私と同じだよ」
「…………」
「交ざっちまったのさ。量が減って、生きるために。このせいで、ここの精霊花は、徐々に、普通の花になっていったんだ」
「そんな……」
「仕方ない事ではある。この子たちも生き物だ。環境に依存していく事はある。だが、純度の低い精霊花は、魔物を追い払うチカラが薄くなっていく。逆に、魔物に食べられてチカラを与えてしまう」
「…………」
「だから、精霊花たちは見捨てられたのさ。私は里に帰らないまま、花を愛でている、物好きだよ」
「……あの、2人の子供は」
「血は繋がってない。里で、些細な理由で馴染めなかったのを、私が引き取ったのさ。純血のエルフだよ」
「そうだったんですか……」
「ふん、ホントに何も知らずに来たんだね」
「え、えぇ……」
「……あんたを悪人だと警戒したのは、もうひとつ理由がある」
「はい」
「……ついといで」
丘を道沿いに進むと、精霊花もどきが、輪になって輝いている所があった。
バババさんが植えたのだろう。
その中心に、十字架に、円を重ねたような、石碑があった。
もちろん私も、これを知ってる。
太陽十字。
お墓に使われる、シンボルだ。
「仮面の男は、ここにいるんだよ。あんたが言う仮面は、100年前に盗まれたんだ」










