魔法少女★おあずけマジカ さーしーえー
YO!(; ・`д・´)DA☆RE!
「うわぁ────!! すごぉ──い!! おいしそ、……、ぇ……?」
驚きの声をあげたエコープルが、
集会所の円卓から目をそらし、
困惑の表情を浮かべた。
目線を、追う。
だっぱ、だっぱ、だばだば〜〜。
だっぱ、だっぱ、だばだば〜〜。
だっぱ、だっぱ、だっぱっぱっぱっぱっぱ……。
「まじか……」
おれ達も、気づく。
「……見てベア、"聖なる泉"が湧いているわ……」
「……バカたれ……源泉が、"魔女"じゃねぇか……」
────魔女が、"滝"になっている。
椅子に座り、
行儀よく、ひざに手を置き、
滝だった。
口、首、胸元、はら、股間、イス、内股、床……。
とめどなく、流れ落ちている。
下に、水溜まりができていた。
"魔女の泉"である。
こいつは、普段は小憎たらしいヤツだが、
今回ばかりは、不憫に思えた。
決して、女性が陥っていい状況ではない。
おま、よだれで、べっちゃべちゃやないか……。
「…………むごぃ……」
「わぁ──えらいことなってるわね──! すごぉぉ──!! 豪勢ねぇ──!!!」
「……ま、マジカお姉ちゃん……だいじょうぶ……?」
羊は泉を見放し、少女は泉を慈しんだ。
これが、おっぱいと人との差である。
この魔女っ子、ぜったい待っててくれた感じだろ……。
「ひゃあ───うっまそ────ぉ!!!」
「おま、……」
ちょっとは、労ってやれよ……。
「 ……、…… ……、 」
「ん?」
よく見ると、ぷるぷると小刻みに震えながら、
滝の源泉から、なにやら音が聞こえる。
近づいてみた。
「 」
ぐぎゅるるるるるぅ……。
「…………」
……意識が、混濁しかかっている。
待たずに、食っときゃよかったんだ……!!
おま、なんでこういう時だけ律儀に待つんだよ……。
「あっ」
違うイスで、燃え尽きた表情をしている、サムライがいた。
こいつも、ひざの上に手を置き、お預けくらっている。
「……サムライ、説明しろ」
「某がここに入った時、もうすでにこのようになっており、マジカ殿がポツンと座っておられた。この強大な誘惑の前に、普段、悪態をついてばかりだと思っていたマジカ殿が、あられもない姿になりながら座ってしかと皆を待つ姿に、某は胸を打たれた。先人に習い、某も座り、待ちの姿勢を決め込みもうしたが、この誘惑、強烈なり。永遠の10フヌを超え、拷問のような空腹に気を失いそうになった時、ついに、ついに……ッッ! ううっ……ベア殿たちが、参られたのでござるぅぅ……っ!」
よくしゃべるなこいつ……。
「……バカヤロウ共が……おれ達を待たずに、食っときゃよかったんだ……」
「……ふ……同じ金の証を得た、仲間ではござらぬか……」
「……おま、カッコつけやがって……」
第一ギルド集会所の円卓は、
ごちそうの山になっている。
フライパンのエビチリ。
コガネリンゴの入ったサラダ。
ロールキャベツの山。
トマトと肉野菜のパスタ。
鍋のクラムチャウダーから、湯気がでている。
ハルマキが美味そうすぎる。
エビフリャーが尻尾を上に、皿で渦を作っている。
この肉野菜炒めは初めて見るが、絶対に美味いという確信がある。
まな板のローストタウロスの側には、カット用の包丁が添えてあった。
湯気の具合から、明らかに調理されてからさほど経っていない。
幾つかの料理は、四角くてデッカい、
おぼんみたいな皿に入っている。
なぁ、これ、全部グラタンじゃね?
こっち、全部ティラミスじゃね?
白い清潔そうなタオルには、
フォークやスプーンなどの食器が、
隊列を組んで輝いている。
このお皿のタワーはどこから来た。
なんなのこれ?
どうなってんの?
コックさんでも呼んだのか?
ドレッシングが七種類あるぞ?
こっちのチキンには香草がまぶしてあり、
やみつきになりそうなキケンな香りを発している。
ぜったい美味い。
すべてのスープ系の料理には、大量の野菜がぶち込んであり、
そこらへんの屋台のケチくせぇ料理とは、見た目だけで格が違った。
……とりあえず、ハルマキをおれによこせ。
──ひょい。
……あ、おっぱい。てめ、こら。
「あ──んっ……。"パリッ"……"ジュん"……、──っ!! ん──!! ん──!! んまいィィ───!! くま!! くま!! これはやばいっ!! ハルマキ争奪戦だわっ!!」
─────バシバシバシバシバシ!!!
わ、わぁ───った、わあった、叩くなって……。
お、おま、こんなべちょべちょになって待っててくれてた奴いんのに、先に食うなよ……。
ちゃんと、" いただきます "しろよ……。
ちょ、おま、次食ってるけど、手ぇ洗ったのか……?
───ボダボダボダボダ……!
「──あわ、あわわわわぁ……ま、マジカお姉ちゃん……!」
「ん? うわっ……」
エコープルの慌て声に振り向くと、
マジカが、静かに泣いていた。
目も口も、人肌源泉かけ流しである。
──ほぅらおまおっぱいおめぇぇ──!!
言わんこっちゃねぇだろォォーがァァああ!!!
「──、──、──……」
マジカが、かくかくと、こちらに振り向いた。
その漆黒の髪と同じ色の瞳が、
今日は一段と、光なく見えた……。
「……べ……べ……べあ……い、イイのか? マジで、いいのか……? ウチ、こういうのあんまお呼ばれせんから、こういう時は、待っといたほうがいいかもって……マジで、食っていいのか? ウチは、やり遂げたんか……? ま、ま……マジで、いいのか……?」
「……、……」
目と口から足の下まで液体をたらす魔女っ子に、
こんなこと言われたら、
"不衛生だから風呂入ってこい"とは言えん……。
「……」
おれは、カゴの中のタオルに並ぶフォークをふたつ、
そっと取り、
柄のほうを向けて、魔女に、静かに差し出した。
「……、……」
聖なる泉の魔女は、ふらふらと、
両手でフォークを、にぎる。
(……しまった)
左右にフォークを握らせてから、
片方、ナイフにしておけば良かったと、後悔する。
だが、放心しながら両手にフォークを掴む、
べっちゃべちゃの魔女は、非常に儚げだ。
ナイフと取り替えるためとはいえ、
片手からフォークをとりあげたら、
おあずけマジカの精神と源泉は、無事では済むまい……。
恐らく、両目の泉は、決壊するだろう……。
おれは少し悩んだあげく、
両手フォーク装備の魔女でもイケそうな、
"トマトと肉野菜のパスタ"を、大皿のまま、
前に置いてやった。
このパスタだけは、おれの盾にかけて、
他のプレミオムズから死守しよう……。
「べ……あ……」
「……食え。お前の全てを赦そう、マジカ・ルモエキラー……!」
「お、お、お〜〜……! マジで、やった……!」
泉の魔女は、両手のフォークを天にかざし、祈り、
パスタを毛糸玉みたいに丸め始めた。
(うんうん……!)
……おい、サムライおま。
うんうん頷いてっけどな。
お前が来た時に、一緒に待ったりしなかったら、
こんなべっちゃべちゃには、ならなかったんだからな……。
「はぁ……後でこいつの着替え、用意してもらわねぇと……」
「ベア殿! ベア殿! 某も食べてよいかな!? よいかなっ!?」
……てめぇで考えろ、ポニテ侍が。
「ねぇクマさん! 私もたべていい?」
「うーん、他のヤツらはいいが、エコープルはあっちで手を洗ってからだな。それに今オシハが毒味してるから、ちょっと待て。もうすぐ倒れるかもしれんし」
「……おいくま、コラ貴様ぁ……」
「や、ベア殿、それは大丈夫でござる。もぐもぐ……実は某、この料理を作ってくれた人物を、知っておるのでござるよ。前にナトリの街で、差し入れを頂いたことがあり申してな……」
「──あにぃ!? そうなのか!? なんだ、ヒナワの知り合いかよ……」
「や、知り合いと言うか、"これから知り合いになる"のでござるよ……」
「……は?」
??
何言ってんだコイツ……?
「んぐんぐ……ベア、マジで気づいてないな」
「はぁ!? な、何をだよ……」
ま、マジカ、お前すげぇ食い方してんな……。
「ははぁ……なるほど、"クルル"って、そういうことなのね……」
「──! んん……?」
オシハが、変なことを言う。
"クルル"……? なんだ? それ……。
「よ、よくわかんねぇよ……おいヒナワ、結局、料理を作ってくれたヤツって、どんなヤツなんだ……?」
「いや、だから……そんなヤツでござるよ。ベア殿、すぐ後ろでござる……」
ヒナワが、スプーンで、おれの後ろを、さす。
陽の光が反射して、金に光った気がした。
ふりかえる途中で、エコープルの顔が、目に入る。
唖然と、しかし、キラキラと。
輝く瞳で、おれの後ろを見ている。
それは、年相応の、子供らしい、憧れのような───……。
時が、ゆっくりになるような中、振り向いた────。
「 ……──まじかよ……」
「──は、は、ねぇベア……この料理、どうやら、"絵本"の中から飛び出したようよ──?」
「────……、……」
「 すぅ────……、すぅ────…… 」
「……お……女の、"クルルカン"……?」
おれのすぐ、後ろのイスで。
"黄金の義賊クルルカン"が、
白いクッションを抱いて、お寝んねしていた。
(´・ω・`)おきれ。
よんひゃっかいやぞ、まぅ。