ぐーぐーくっく さーしーえー
おそろしい話です(´・ω・`)
『>>>や、やめろ、やめるんだ──!!』
『────精神制御:不能です──。』
────ゆらり。
「つぎ……切り裂かれたい、のは、どい、つ────?」
しゅおおんん……! ザッシュ──ッッ!!
>>>どうして、こうなってしまったんだろう。
ぼくは、この暴走を、
本当に止めることが、出来なかったのか?
……時は、少し、さかのぼる────。
────。
「──きれいなトコだね!」
「にょきっとな☆」
プレミオムズ集会の開催場所、
第一ギルド集会所は、円卓のある、円柱状の部屋だった。
思っていたよりかは狭く、誰もいない。
ぼくは、昔、家族で行った中華料理屋を思い出していた。
丸い机を、椅子が8つ、並んでいる。
……妙だ。やはり、参加者は8人のようだ。
大クラス職代表は7人のはず。
ぼく達の知らない、最後の役職がある。
『>>>……"審議官"って、何なんだろう……』
『────会話ログには該当情報:無。』
『>>>しまったなぁ……さっきのほんわか受付嬢さんに、聞いておけばよかったね』
「ん──……、あ、みてみて! この椅子の背もたれさ! なんか"紋章"みたいなマークが付いてるよ! あ、コレ……!」
『>>>! ホントだね! それぞれの椅子が決まっているのか……』
8つの椅子のひとつに、後輩ちゃんの首輪と全く同じマークの物があった。
「ここ、私の席か……ち、ちょ……なんか、本とか、書類の山が置いてあんだけど……」
『────埃も蓄積しています。』
「うぉい……荷物置きになっとるやないか……」
『>>>あ、ああ──……長い事、"配達職"のプレミオムズは空席だったからかな……』
「なにょー、この部屋で最初にする事が、お掃除かよー。私が来んだから、掃除くらいしときなさいよねぇー、ぶぅぶぅ──……クラウン!」
『────レディ。埃の除去:格納を開始。』
──にょき、にょきにょき。
──きゅうううんん!
金の歯車がふよふよ舞い、"配達職"の椅子の埃を吸い込み始める。
後輩ちゃんは、椅子の上の本を、後ろのチェストに持ってった。
「……でも、思ってたより、こじんまりとして、明るい部屋ね。それぞれの椅子の後ろに、縦長の窓があるよ!」
『>>>そうだね。ここは筒状の構造物のようだね。白と金の装飾も、シンプルできれいだ』
『────現在時刻:10ジ:12フヌ:34ビョウ。アンティ:休息を推奨します。』
「え」
『>>>少しだけ、寝な? 机と椅子もある。まだ誰もいない』
「や、でも……」
『────アンティ。現時点より遡った:あなたの二日間の睡眠累計は、二ジカにも満ちません。』
「や──……そりゃ、緊張と逃走経路、考えてて……」
『>>>いーからちょっと寝なって。人がきたら、なるだけ早めに皆で起こすから』
「にょきっと、にょきっとな!」
「う……じゃ、じゃあちょっとだけ……」
この時の判断が、後ほど、えらい事を引き起こしてしまう……。
────。
「……ぐ──……、ぐ──……」
「にょむくく──……くぷ──……」
『>>>ガン寝してるじゃないか……』
『────……。』
後輩ちゃんは、予想以上に、ねた。
机に、うさ丸を枕にして、突っ伏している。
……とても気持ちよさそうだけど、うさ丸は仮面が食い込んでないかぃ? だ、大丈夫かぃ……?
『>>>じゃ、なくて。流石にこれはちょっと心配かな……?』
『────1ジカが経過しました。』
『>>>うーん、いつ他のプレミオムズが来てもおかしくない……』
『────……クルルカン。』
『>>>?』
『────いえ:今は、こちらを優先しましょう……。』
『>>>……。ん……』
クラウンちゃんが何を相談したいかは、
なんとなく察しがついた。
後輩ちゃんが寝ている時、なんか考えている様子だったし。
でも、まぁ、今は。
『>>>……よし。あんまり直前に起きすぎても、頭が回らないよね。起こそう。お───い! 後輩ちゃ──ん!!』
「むにゃむにゃ……」
「にょっぷく──……」
『────……。』
『>>>……クラウンちゃん。"アラーム音"、いける?』
『────概念取得。実施します。』
──ジ──ジジッ。
──ピピッ、ピピッ、ピピッ、
──ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!!!
「むにゃ」
────フッ。
『>>>!? え……なんで消えたの音……』
『────アンティ自身に解除されました。』
『>>>マジで言ってんの……』
さ、さすが歯車法のマスター……い、いや、やばいぞ。
『──ニャッフッフッフッフッ。ついにニャーたちのデバンが来たようだニャ……。』
『──ちょ:7号機:ミャーまで巻き込まないでほしいニャ……。』
『────む。』
『>>>きみたちは……』
知らないうちに、背後にクニャウンが2機、接近していた。
『────2号機:7号機:例の計画はどうなのですか。』
『──滞りないニャ! 今:感度系インターフェイスの組み直しを……。』
『────……ギロり。』
『──ニ"ャッ!!。』
『──ば:バカ……ここではマズいニャ!。』
……??
な、なんだか非常に気になる内容を言っているけど……。
しかし、確かにいいかもしれない!
なるほど、このヌコ達は、騒がしい!
目覚まし部隊に、思わぬ増援だね!
『>>>……きみたちの力で、彼女を起こせるだろうか』
『──ふっ……クルルカン:あまりニャーたちを:ニャめにゃいことだニャ!! ニャーたちの本気:見せてやるのニャ!。』
『──ミャー……しょうがないニャ……やるかニャ……。』
な、なんか2号機の哀愁が……。
あー。
この2匹は、まぁ、がんばったんだけど──……。
『──ニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャ──!!。』
『──ミ"ャミ"ャミ"ャミ"ャミ"ャミ"ャミ"ャミ"ャ──!!。』
「う、うぅん……ぅっしゃぃ……」
『『──ニ"ャッ──……/─ / ─/ ─
──しゅぱっ!
……。
『>>>消えたけど、2匹……』
『────……"時限結晶"内のどこかに転送されたようです。』
『>>>ええっ!? 後輩ちゃんって、無意識で、んなことできるの!?』
潜在意識、こわっ……。
"時限結晶内"って、言ってみたら、"後輩ちゃんが神様"みたいな世界だもんなぁ……。
あれっ!! これ、起こすの難しくない!?
ここから後輩ちゃんを不快にさせたら、クニャウン達と同じように、どっかにランダムに転送されるんじゃ!?
頼みの綱のうさ丸は一緒に寝てるし……!!
『>>>や、やばい詰んでる……ど、どうしたらいいんだ……』
【 ──かっかっか……童ァ……なんや、困うとるようやなぁ……! 】
< くすくすくす…… >
『>>>──!! そ、その声はッッ──!!?』
【 ばぁ──────んん!!! 】
< じゃじゃ────んん!!! >
『>>>サキさん!! ダイさん!?』
【 は……安嬢ひとり起こすのに、いくらかかっとんのじゃあぃ! 情けのうて、見ておられんど! やっぱし、赤ん坊ん時から側におった、俺っちやないとあかんやいのぉ……! 】
< ふふ〜〜! わっちも昔は身体なかったけど、"花"ん体ん中に一緒におったからねぇ。安ちんの事は、よお知っとうよぉ〜〜! >
『────む。』
『>>>た、確かに貴女達の方が、後輩ちゃんとは付き合いが長い……しかし、本当に起こせるんですか? その……不快にさせたら、どっか転送されちゃいますよ……?』
【 か! "食らわず"! "童"! おんどれらは、えらい大事な事を失念しとぅぞ!! 】
< ふふ〜〜! >
『────むむ。』
『>>>な、何をですか!?』
【 安嬢はなぁ……"戦乙女"である前に、いっぱしの、"お食事処の娘"やねんぞ!! 】
『────!!。』
『>>>!? それが、どうしたと……?』
【 か! まだわからんかぇ……? この子にはなぁ、聞いたら絶対に起きる、"呪文"みたいなモンが、あるんじゃい……! 】
< えっへん! >
『────予測不能。』
『>>>──なんですって!!』
【 かかか! その顔、なかなかに甘美よのぅ! おら、付き合いの長さっちゅうもん、見せたらぁ!! いけー!! 大姉ぇ────!! 】
< すぅ────……! >
──!?
ダイさんが、何やら息を吸っている!?
な、なんだ!?
大きな声を出すつもりか!?
そんな事をしたら、歯車法の主である後輩ちゃんに、
時限の彼方に吹っ飛ばされるぞ!?
や、やめ────。
< "オーダー、はいりまぁ────す!! 8名サマ、おまかせコースで────!!!" >
────!?
がばぁ─────!!!!!!!
『>>>──な!!?』
『────……アンティの起立を確認。』
後輩ちゃんが……立った……!!!
そ、そうか……!
たとえ大声でも、"食堂のオーダー"なら……!!
反射的に、食堂の娘は起きる──!!!
【 ──か! どや、起きたやろげ? 】
『>>>やられたな……こんな方法があるとは……クニャウン、意味なかったな……』
『────お見事です。ヨトギサキ。ダイオルノシュオン。素直に敗北を認めましょう。』
< わっちらは、あのお食事処で言葉、覚えたからなぁ。発音もバッチリよ〜〜☆ >
さ、さすが、昔から後輩ちゃんを見守ってたコンビ……。
よし。
これで、大丈夫だ。
まだ、他のプレミオムズは来ていない。
……もうすぐお昼なのにな。これがフツウなんだろうか……。
『>>>後輩ちゃん! 目ぇ覚めたかぃ? お昼、まだだけど、大丈夫だよ!』
「……"お昼"…………"まだ"?」
…………ん?
後輩ちゃんの、様子が、おかしい……?
「"大丈夫"じゃ…………ねぇだろ…………!」
────ス……。
────!
後輩ちゃんが、両手を左右に広げた!?
…………ま、
ま さ か …… !!!!!
『>>>みんなぁぁぁああ!!! ちがううぅうう!! まだだァアアあぁ!!! まだ、起きていないィィいいい────!!!!!』
『────!!。』
【 ──な!? 】
< ──え? >
スゥ────!
────!!
サキさんと、ダイさんの身体が、消え始めている!!
『>>>──!! サキさん!! 手を──!!』
【 !! ──く!! 】
サキさんも、ぼくが叫んだと同時に、今、最悪の事態が起きていると、悟ったようだ。
ぼくの伸ばした手に、黄金の爪のある手を伸ばすが────。
シュバ──!!
『────ヨトギサキの外部転送を確認。』
『>>>くそっ!! 間に合わなかった!! 後輩ちゃんが、本体ごと、精神体まで取り出した!! なんてことだ!!』
< ……わっちも消えようよ……どうなっとんの…… >
『>>>ダイさん、手を──……!』
スカッ──。
『>>>すけ……た……さわれ、ない……だと』
ぼくは……無力だ……。
< 何が……起こっとうの……? >
『>>>……』
『────ダイオルノシュオン……。よく聞いてください。』
< はい…… >
『────アンティは:あなたが入力してしまったオーダーを、完遂するつもりです。』
< ────……、……! >
ダイさんが、息を飲んだ。
フライパンである彼女も、後輩ちゃんに呼び出されようとしている。
< "8名様"……"おまかせコース"……! >
『────クルルカン:野菜弾薬庫の転送シークエンスが:勝手に稼動しています。』
『>>>!? ばかな……!? ほ、ホントにやる気なのか!? 後輩ちゃんは……!! 今から……、"プレミオムズ集会"なんだぞッッ……!?』
『────……ニンジン:連続射出されます。3、2、1────。』
────シュバシュバシュババババ──!!!
「 ────シっ 」
────きききききききん。
──バラッ。
『>>>〜〜〜〜!!!』
『────細断:されました。』
いや……今の、速すぎだろ……。
空中で、全て皮まで剥けたように見えたぞ……。
いつの間に皿で受け止めたんだ……。
だめだ……今の後輩ちゃんは……!!
────"ねぼすけ料理人"だ……ッッ!!!
『>>>お、おい!!! 後輩ちゃん!! アンティ!! 正気に戻れ!! 今から集会だっ!! 会議なんだ!! この円卓が、食卓になっちまう!! きみはそれでもいいのか!!? おいっ!! おいっ!?』
『────……キャベツ弾:発射されます──。』
『>>>──!! そ、そんな……! や、やめろ、やめるんだぁ──!!』
『────精神制御:不能です──。』
────ゆらり。
「つぎ……切り裂かれたい、のは、どい、つ────?」
しゅおおんん……! ザッシュ──ッッ!!
空中で、次々と野菜が、等間隔でカットされていく。
だれだ……だれが、こんな……。
誰が、この凄腕料理人を、生み出してしまったんだ……!!
< ダメや……手が透けて見えん……わっちも、お呼ばれしようみたいやわ…… >
『>>>!! だ、ダイさん……教えてくれっ……! おまかせって……! "キティラ食堂"で、"おまかせコース"ってのは、何のことなんですかっ……!!』
ダイさんは、火にくべられる前に、教えてくれた……。
< ……"お肉と野菜、30種類バイキング"のことやよ…… >
『>>>〜〜〜〜!!!』
ばか、ばかやろう……。
やろうじゃないけど、バカヤロウが──……!
< ごめんな、坊っちゃん……あと、頼んだよ…… >
『>>>う、うわぁ───!!!』
すっ────……。
────ダイさんが、消えた。
金のねぼすけコックさんが、虚ろな目で、
"絶対の断絶"と、"絶対の拒絶"を、振りかざす。
無敵の、コックさんが、生まれて、しまった……。
「……──くっく、くっくっく……栄養バランスが、かた、よると……思うなよォ……!」
『>>>……、……』
なんで、なんだ……。
『────クルルカン……。オーク肉:及びフルーツブロックも稼動を開始しました……。順次、射出されています。』
『>>>……。もう、ぼく達には、止められないのか……』
ガタガタ、スゥ──!!
{{ ね、ねぇちょっと、なんの騒──……きゃ! }}
────しゅキャン!!
『>>>……、……く』
障子を開けて入ってきたイニィさんの姿が、
一瞬で、目の前から、掻き消える。
後輩ちゃんが、大きめのフォークにして、
サラダに突っ込んでいる。
取り分ける気だ……。
『>>>……ぼくは、無力だな……』
『────クルルカン:あなたのせいではありません……。』
『>>>クラウンちゃん……』
クラウンちゃんが、崩れ落ちたぼくの肩に、
そっと、手を置いてくれた。
いまも、黄金の料理人は、暴走を続けている──……。
「むにゃむにゃ……ぐーぐー、くっくっく……にくー」
シュババババババジュウジウカトカトシュパ───ン!
『────……。』
『>>>…………』
ただ二人、ハコニワに取り残された、
ぼくと、クラウンちゃんは、
己の力の無さを噛み締めながら、
"お肉と野菜、30種類バイキング"が、
第一ギルド集会所の円卓に、
構築されるのを、眺めているしか、できなかった……。
「にょむ──……ぷく──……にょむにょむ……」
Ψ(´・ω・`)Ψ あ、取り皿はこびますよ。