お城のはぐるま
「……うわぁ」
「にょきっとー!」
なんども蒸し返してわるいけど。
私は、魔無しの食堂の娘だった。
それが、今、お城に入っている。
……そりゃ、街娘丸出しの顔しますよ。
同じクラスの皆で、こんなとこ来たことあるの、
ぜったい、私くらいだわ……。
や、やった……?
う、か、かえりたい……。
空気まで、外と、違う。
なんか、"場違い感"というか……。
「でも、きっれぇ……」
床。
全てではないけれど、金の刺繍のついた赤い絨毯が敷き詰められている。
私の足音がならない。ふわふわだ。
繋ぎ目がわからない。なっが。
うわわ、こんなとこ歩く日がくるなんて……。
天井。
あのシャンデリアの宝石みたいなのが、
全部、加工された光の魔石なんだろうか……。
いや、ぜったい本物の宝石も混じってる……。
「…………」
壁。
とにかく、絵がすごい。
宗教画、というやつだろうか。
人と、獣人と、神様を題材にした絵がいっぱいで、
植物や花の描き込みがヤバいって……。
あ、これ、光の精霊王ヒューガノウンだ……。
絵本にもなっている絵のモチーフがあって、
ちょっとその……庶民的に、ひと息つく。
ラビットが描かれている場所もあって、
うさ丸が、何やら懐かしそうに見ていた。
昔の仲間のことでも、思い出したのかな……?
まだ朝に近い。
私の視界に、クラウンが道筋を表示してくれている。
ありがたいことに、まだそんなに人に会っていない。
何人かの見張りの騎士さんに会釈をしたら、
一人だけ返してくれた。
プレミオムズ会議をする部屋はギルド管轄だから、
貴族さんらがいるエリアとは違うんじゃ?
と先輩が言ってた。
できれば一人も会いたくないわね──……。
窓がある絢爛な渡り廊下? から少し中に入る。
道はあっているはず。
階段も、足音がならない。
王城、すごい。
いつもは首元をマントで隠す。
今は、プレミオムアーツを見せていなければいけない。
背中から伸びるマントを感じ、
なんでこんなことやっとんねんと思いながら、
ふわふわ階段を登りきる。
道筋どおりに、しずかに、そわそわと進み、
道が交わる、まぁるい部屋のような空間に出た。
チッ チッ チッ コチッ チッ ───
くる くる くる ───
リーン リーン ───
「信じられない……"じかん箱"だわ!!」
「にょや──!」
まさか、部屋の中にあるなんて──!!
部屋の中心に浮かぶ、
様々な大きさの、ガラスのような箱。
その周りを、複雑に組み合わさり、
ゆっくりと回る、透明のはぐるま。
透明の箱の中にも、はぐるまが入っているはずだけど、
あれは、外から見ただけじゃ、
透けてるように見えてわからないの。
私も、子供の時に、秘密であの箱を開けたもんだ。
きれいで、まわって、おもしろいもんねぇ……。
カーディフの街にあるやつは、
ここにあるやつみたいに、でっかくは、ないけどね?
透明の箱は、どこかが必ず開いて、
開けると、透明だったはずの箱の中に、
これまた、透明のはぐるまが、入っているの。
この世界で、その時、"何ジ"か、知るためには、
"じかん箱"か、"日時計"しかない。
私の感覚だと、高価な術式だから、
"街"には"じかん箱"があるけど、
"村"には"日時計"しかない、と言えるかもしんない。
ゴリルさんの故郷の、バヌヌエルの村は、どうだったっけな……。
私の故郷のカーディフの街には、あんまり数がない。
ドニオスの街には、ちょこちょこあったはず。
教会が管理する、高額な魔法術式。
そんなもんが、お城の部屋ん中にあるのだ。
「でっかいわねぇ……! 街のと全然違う! こんなの初めて見たわ!」
『────現在時刻:午前9ジ:47フヌ:23ビョウ:です。』
『>>>……似てるよねぇ』
「? 何が?」
『>>>アナライズカードに、さ?』
「あ……そ、うだね」
前から、ちょくちょく思っていたけど。
この"じかん箱"の材質、
なーんか、アナライズカードを連想すんのよねー。
「えい」
ヴォン──!
「……おお、みて、そっくり……」
小さなアナライズカードを出して、
金ピカの手で持って、かざすように、比べる。
ビビビ……
「ん? なんか文字が映ったような……」
─────────────────────────────
D:System No.00007
type:timer
Server:FRIDAY│
─ ─ ─ ─ ─ ─
─────────────────────────────
「うわっなにこれ」
『────識別コードのようです。』
『>>>……! 流路情報を読み取ったんだ……"D"システム……? "FRIDAY"……?』
「あれ、"ふらいでー"って、なんか聞いた事あるような……」
『────…… 。』
『>>>……!』
「にょきっとなー!」
あれー?
フライデー……。
どっかで聞いたぞ?
どこだっけ……?
うーん、思い出せん……。
『>>>こ、後輩ちゃん? そろそろ行かないと、遅れちゃうよ?』
「……ん? そ、そうかな、私、一番のりだったみたいだけど……」
『────あ:アンティ:事前行動は:大切です。』
「そ、そうだね……! ま、大きくても、ただの"じかん箱"だもんね! いやーしかし、この"はぐるま"を見てキャッキャしてた子供ん頃は、まさか"歯車法"ってスキルに出会うとは、夢にも思わなかったわね──! ふわわわあぁ……」
『>>>! やっぱ眠そうだね……部屋で仮眠できるかな? 誰か来たら起こすよ?』
『────良い作戦です。クラウンギアは:推奨します。』
「やーね、だいじょうぶだって……なんか、元気だし……」
『>>>いや、まぁ寝れたら寝ときな? 机突っ伏して15フヌくらいでも、けっこう違うもんだよ?』
「う、うーん、そーぅ……? でも、机とかあるかな……?」
しばらく、くねくねと歩き、
絨毯の床が終わり、足音が響きだす。
だれも、いない。
そして。
まぁるい、ちょっと大きな机を、
8の椅子が囲んだ、窓のある部屋についた。










