黄金の姫は凱旋せり 〜にょきっとソング〜
お城の前。
昨日と同じ、騎士さんペアだった。
ありがたいわ……。
「え!? うさ丸も入っていいんですか……」
「にょやにょきゃ───い☆」
──ばむんばむん、ばむんにょん。
「ふむ、構わない。それは"義賊殿"の従獣だろう」
……え、えとーぉ……。
「……正直に言いますが、私はこの子を従獣登録しておりません。王城に連れ込み、後ほどトラブルになるようでしたら、お預けするか、宿で待つように言おうかと思っていたのですが……」
「! ふふ、おかしな事を言う。貴殿は昨日、そのラビット殿……うさ丸殿と共に、ここに現れたではないか」
「あ……! や、……それは……」
──そ、そや!
なんでそのまま行ったんや私!
肩にラビットを乗せた黄金の義賊むすめ!
うん、あやしい!
お城に行くカッコやない!
「貴殿にとって、うさ丸殿は、信用に足る存在と言うことであろう。だから、隠しもせず、ああも堂々と、我らの前に現れたのだ」
「──! それは、その……トモダチだから……」
「にょ! にょきっとな!」
「……ふ、心配せずともよい! ちゃんとギルドの者にも、うさ丸殿の入場の許可は、とってある!」
ま、マジすか……。
騎士さん仕事、ぱなぃわねっ……!
「し、しかし、従獣未登録の魔物を、王城に連れ込んでよいのでしょうか?」
「ふっふ。義賊殿はずいぶんと心配しておられるようだが、そのような可愛らしいラビットは、あまり魔物扱いはされないだろう」
「そ、そうですか? しかし……」
きょ、巨大化すんだけどなぁ、とは流石に言えず……。
騎士おじさんと会話している側で、
うさ丸に、騎士にいちゃんが手を伸ばしてる。
ガントレットをずらして手が見えているってことは、
まぁ撫でたいんだろうな。
フェイスガードを上げた所から覗く目が、キラキラしてるわね……。
「──にょきっとな!」
「──ぅをっ!?」
──ぽふっ!
肩に乗ったうさ丸が、騎士にいちゃんの手を、耳ではさんだ。
なにをしとんのや、アンタ……。
……相変わらず、よく動く耳ねぇ。
「ほ、ほぉぅ……! これは……、いぃッ……!」
「にょきっとなぁ〜〜☆」
「う、うさ丸、こらぁ……」
「ハッ、ハッ、ハッ──! この魔物が危険だと言うのは、少々無理があろう。それにな、義賊殿。……昨日の貴女と、うさ丸殿には、なんというか……"誠意"のような物が、確かに感じられたのだ。私も騎士は長い。この目を、感覚を、信じたいのだ」
「は、はい……」
うさ丸が、空気を読んで、鳴かなかったことを言っているのかな……?
そーいや、一緒にお辞儀してくれたしな。
いま思うと、うさ丸が隣にいてくれたのは、なんだか心強かったわね……!
仮面ごしに、騎士にいちゃんと戯れるうさ丸を、微笑みながら見ていると、
騎士おじさんから、問いかけられた。
「……ひとつ聞きたいのだが」
「……? はい、なんでしょうか?」
「……昨日、"黄金の義賊クルルカン"が、広場方面のカフェにて活躍したと、噂で聞いている」
「 」
「君かな?」
……。
……。
……。
「は、はは……ただの"郵送配達職"に、子供なんて、助けられませんよ」
『────! ……。』
『>>>あちゃ〜〜……』
「──! ……ふ、ふふ、なるほど……」
「……ほぅ」
「…………」
ひぃ〜〜〜〜!!!
「──いや、不躾な質問だった。忘れてくれ」
「──!」
あれっ!?
……なんか、あっさり引き下がられたな……。
……?? なんで……??
もっと、激しく職質されると思ったンだけどな……?
「あ、あの……?」
「"アンティ・クルル"殿、"うさ丸"殿──。王城は、君たちを歓迎する──!!」
「ここをまっすぐ行くと、ギルドの者がいる受付がある。行きなさい」
「──!! ……ほんとに、よいんでしょうか……その、うさ丸……」
「にょや?」
肩のうさ丸を両手で掴み、顔を隠すように前に出す。
こう、返された。
「ふふ、騎士にラビットの世話は、ちょっと難易度が高いクエストだ……」
あ……。
預けることで、逆に迷惑になりそうだ……。
「わ、かりました。ご配慮、感謝します」
「うむ、通られよ」
「は、はいっ! では……」
……──キン。
キン、キン。
キン、キン、キン キン キ…… …… ……。
「……」
「……」
「……やはり、あの子なのでしょうか」
「恐らくな。あの返しは、悪意がなく、本人で無ければ返せぬ」
「はは……隠す気があるのかどうか」
「ふふ、あまり嘘に慣れていないのだろう。あの者は、鎧や髪だけでなく、心も黄金なのだ」
「……まさか、騎士人生の中で、"黄金の義賊"を、城に招き入れることがあるとは思いませんでした」
「! ハッハッハ! 人生、何があるかわからぬ! 王都に、"本物の絵本の主人公"が現れるとはなぁ!!」
「や、女の子ですけどね?」
「ん? なんだッ! 貴殿はあのような娘がタイプかッッ!」
「や、ち、違いますよ……! やめてください! そ、そういうのではなくてですね……」
「ハッハッハ!! では、あのラビット殿のほうか!」
「あ! あれは! その……申し訳ありませんでした! 職務中だというのに……」
「よい! あのような者を護るのが、我らの本来の勤めだ! 愛でる心があってよいのだ!」
「あ、ありがとうございます……?」
「しかし、王都に来て早々、子供の命を助け、何千の街の者から逃げおおせることができる黄金の義賊とは……。しかも、プレミオムズでもある。我らの護りは、要らぬのやもしれぬな!」
「はは……ほんとに絵本の世界みたいだ。はぁ。何にせよ、あんだけ警戒心の湧かない不審者は、世界広しとはいえ、あの子だけですよ。ははは……」
「違いない。時に、あのラビット殿……どうだった?」
「……超、ふかふかでした」
「なんと」
──ふるっふり。ふるっふり。
「──にょっき♪ にょっき♪ にょきにょき〜〜♪」
うさ丸が、私の肩で歌ってらっさる。
こりゃ、ふりふりすんじゃねぇ。重心が。
「なんか、入れちゃったわねぇ、お城。……いいのかなぁー」
『>>>後輩ちゃーん、さっきの返しはマズイヨ〜〜……』
「え。なにが」
『>>>いや、何がって、きみ……』
『────……アンティの:良い所です。』
『>>>いや、まぁそうだけどさぁ〜〜』
「???」
なんやいな。
なんかまずったか私……。
「……ま、いか。騎士さん、こっちにギルドの人がいるって言ってたけど……」
門を通って、ちょっと歩いたけど、これ、まだ外だわ。
草生えてるわ。いや、ほんとに。
「うわぁ──……すげぇ、でけぇ──……きれぇ…………」
田舎の食堂娘の語彙力なんて、こんなモンよ……。
見上げてんのよ。城を。
金と、白で、出来てる感じだわ……。
あそこのアーチの下のトコとか、どんだけ高いのよ……。
──! いかんいかん、見とれてるばやいやない。
「うーん? あれぇ? これ、ギルドの人、どこにいんの……?」
「にょきっとなぁ〜〜」
「受付って、ドニオスの街でキッティとうさ丸がいるような所でしょ……?」
『────アンティ。聞こえています。』
「へ?」
『>>>後輩ちゃん、ほら、その方向から、右!』
「へっ?」
この状態で、みぎ……?
……。
……あ、手ぇふってる……。
──ッッ!!?
「えっ──!? まさか、あ、アレッッ!?」
『────そのようです。』
『>>>おおきいねぇー』
や、大きいっていうか……別荘かなんかじゃないの!?
え、何これ、これが受付なの!?
……ウチの食堂よりデカいんじゃ……!
……。
キン、キン、キンキンキン、キンキン……!
「あ、あの……」
「はわ〜〜気づいてくれましたか〜〜」
「あ、そ、その、アンティ・クルルです」
「にょきっと!」
「は〜〜い! 門番さんから聞いてますよ〜〜義賊さんと、うさちゃんですねぇ〜〜」
……。
なんだか、ほんわかしまくりまくった人だな……。
白と、金の装飾の制服を着ている。
でも、ギラギラしてなくて、オシャレな服だな。
そしてこの受付の建物……ッ!!
キッティ、王都、すごいよ……。
もう、別世界だよ……?
「ひゃわわわ……ふぁ……、──ひゃっくしょや!」
「くるぅー?」
「仕事しろ仕事……」
「はーい、プレミオムズ"郵送配達職"、アンティ・クルルさんで間違いないですねぇ〜〜?」
「は、はい。あとこの子……うさ丸です……」
「にょきっとな!」
「はーい、にょきっとな☆ うさ丸ちゃんですねぇ〜〜」
……普通に"にょきっとな"って返したわね……。
この受付嬢さん、すごいな……。
ほわほわ度を、母さんの倍にしたような人ね……。
「さぁーて、アンティさんは、今回がプレミオムズ集会、初回ですねぇ〜〜?」
「あぁ、はい……そうです」
「ふふふ、緊張してますねぇ〜〜? だぁ〜〜いじょうぶですよぉ〜〜! あなたもけっこうおかしいので、ちゃんと張り合えますからぁ〜〜」
「……、……」
いま、とても不安なことを言われましたが……。
「セントラルギルドの第一集会室は、王城の中にありますぅ〜〜! 防衛上の関係で、間取り図はご用意できません〜〜今から道筋をいいますが、大丈夫ですかぁ〜〜?」
「あ、だいじょぶです。教えてください。ちゅうも……、たくさんの事を覚えるのは、慣れてます」
「すばらしいですねぇ〜〜」
ウチの食堂の注文は、お昼時とか、メモとってられないかんね……。
定食の名前と数とか、基本暗記よねぇー。
ま、クラウンもいるから、聞き損じはないわね!
「でぇ〜〜あっちがこっちで、こうなってぇ〜〜」
「ふむふむ」
『────記録中。』
ほんわか王都受付嬢さんに、だいたいの道筋を聞く。
……わかっていたけど、やはりあのお城の中のようだ……。
生きて出てきたいわね。
「さぁて、お城に入る前に、問題がありますぅ〜〜」
「えっ!!!」
な、なんだろう……! もんだい??
や、やっぱりカフェで暴れたのがバレてんのかなッッ!?
うまいこと騎士さんたちはかわしたのにぃ!!
こ、これはマズい予感……?
子供を助けたとはいえ、魔石街灯、何本か蹴り壊してるし……。
あわわわわ……。
「お城に入るまえにぃ、歌ってください〜〜♪」
……。
「……はい?」
『────……。』
『>>>んん……?』
???
「……私が、ですか?」
「いえいえ、そちらのうさちゃんがですぅ〜〜♪」
「……」
……んん?
「にょきっと?」
「ほらぁ〜〜さっき、歌ってたじゃないですかぁ〜〜♪」
「え、え? ……ああ!」
そぃや、歌ってたな……。
「……ぅ、うさ丸?」
「にょ……にょ? ……。……──にょっき♪ にょっき♪ にょきにょき〜〜♪ にょきにょき、にょやにょや〜〜♪」
ふりっふる。ふりっふる。
「おおお〜〜♪」
パチパチパチ──!
「──はいっ。じゃあここの、自分の名前のところにチェックしてくださいねぇ〜〜♪」
「……へ? ……は、はぁ……」
……。
……なんだこの人ぉ……。
……あれっ!? これ私、大丈夫かな!?
王都、こわいよぅ……。
……。
ま、まぁいいや……。
自分の名前の場所にチェック──……。
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●プレミオムズ集会名簿●
[ ]剣技職:オシハ・シナインズ
[ ]重盾職:ベアマックス・ライオルト
[ ]格闘職:ゴウガリオン(たぶんきません)
[ ]軽技職:ヒナワ・タネガシ
[ ]魔法職:マジカ・ルモエキラー
[ ]回復職:ユユユ・ミラーエイド
[✓]配達職:アンティ・クルル
[ ]審議官:エコープル・デラ・べリタ
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「…………」
……んん?
「いち、にぃ、さん……、……は、ち? あれ?」
……。
……8人、おるやんけ……。
「ちなみに、まだ誰も来てませんよぉ〜〜♪」
「うそぉ……」
「にょんむ〜〜」










