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"黄金の英雄力" さーしーえー



 ……──ガシャアアアンン!!



 すぐに窓が、また割れた。


 熱で、変形したのだろうか。


 空気が、中の炎を燃やし、


 煙が、ここからでも、よく見えた。


 もちろん、山火事よりかは、小さな火だ。


 でも、でもここは、街中(・・)だ。


 あれは、お店(・・)なんだ……。



 人が、いるだろって────。





「うああ、うああ! ドアの下に、白い煙が出ていたんだ……うああ──!!」

「お、落ち着くんだ、ランドさん!!」

「おい! この人を行かせるな!!」


 すぐ横に、数人の男に取り押さえられている人がいた。

 カフェの前の大きな立像と、同じ顔と、格好をしている。

 ……店長、さんだ。

 よく見ると、服や顔に、火傷のような痕がある。


「私は、ドアをっ、開けただけなんだっ……! なのに、いきなり風が入って、爆発してっ……うああああああッッ!!」

「お、おい、おい、暴れんな!!」

「気を確かに持てッッ!! おいっ!!」


『>>> ……"バックドラフト現象"…… 』


 先輩が、ポツリと何かを言った。

 私にはよくわからなかったけど、

 あの店長さんが、

 この火事のヒキガネになってしまったことは、

 何となく、わかった。


「うああ、うああ、店は、いい!! 壊れても、いいんだ! でも、でもっ! 私の店で、人が死ぬのは、ダメだぁぁあああ!!! 壊せ! 壊してくれ! 店を壊して、中の人を、たすけだすんだぁああ!!」

「よ、よすんだ!! アンタが行っても、焼け死んじまう!!」

「水の魔法使いを待つんだ!!」

「おい! ほんとにくんのか! 誰か助けを呼んだんだろうなッッ!?」


 カフェの方を見ると、一階の下で、何人かが水の魔法を使っていた。

 一般の王都市民だろうか。

 しかし、巨大な建物に、それは、お遊びに見えた。

 ──今日は、いい天気(・・・・)なのだ。


「誰か、誰か……」


 ……クソッタレ、クソッタレが。


 私の中の何かが、フツフツと、音を立てた。


 黄金のグローブが、カタカタと、揺れる。


「きゃああああ! 煙が、煙が!」

「すっげ……こんなこと、あるんだな」

「これ、マジなやつだよな……」

「おい! あんまり近づくな! 危ないぞ!!」

「うわぁ、やばいな……」

「中に人とか、残ってないでしょうね……」


「……」



 今日、私は。


 初めて人ゴミを、不快に思ったかもしれない。



 お前ら、なんだ。


 なんなんだよ。


 それが……今、一番言わなきゃいけないことなのか?


 それが、本当にイチバンなのかッッ!?


 あっこに、誰かいるかもしれねぇんだろ?


 じゃ、もっとよ、みんなでチカラ合わせてよ、


 やれること、あんじゃねぇのか!?


 なんでじっと突っ立って、動かねぇんだよ……。


 なんで……。


 あ……。



「…………」






 それは、






 うつった。






 私の、瞳。






「こども……」



『────"視覚域拡張野(ベアークラッチ)":拡大視野に反応:有。最上階フロアに2名:取り残されています。』



 私の視覚は、今、色が反転したようになっている。

 まわりは青黒く、人影は、白く見える。

 2人(・・)いた(・・)

 小さい。



「や、でも、流石にみんな逃げてるでしょ〜〜」

「だよね〜〜あとは火ぃ消すだけじゃん」

「ふん、まったく、迷惑な話だな」

「おい、みんなで下がれ! 前の連中が戻れない!!」

「うお、押すなって! 危ないだろう!!」

「ちょ、やめてよ!! そんな場合じゃないでしょう!!」




 ……。


 なに、いってんだこいつら。

 なに、いってんだこいつら。

 なに、いってんだこいつら。


 なんで、そういうふうに、なんだよ。




「ぐ、ぐ、ぐ……」


『────。』

『>>>アンティ……』



 妙な、葛藤があった。


 吐きそうになっている。

 私にわかって、みんなに、わからない。

 フツウじゃ、ないのだ。


 なんで、私の手は、震えてんだ?

 まわりがギャーギャーうるせぇからか? 

 自分が、ここにいるからか?

 ……保身か?   



 こどもが、たぶん、生き残っている。


 私は、空に、手をあげた。


 あの時の、紫電みたいに(・・・・・・)


 あの子は、かっこよかった。


 シュッと、手をあげたら、雷がおちるんだ。


 あざやかだ。


 てなれてた。


 本当の、魔法使いって感じだ。


 私を見ろ。


 ぐるぐるして、


 金ピカで、


 今まで、殴って蹴ったりだ。


 ……は。


 あんな、綺麗な魔法使いに憧れて。


 私が、これか。


 こんな、金ピカんなってさ。



『>>>……後輩ちゃん……あのさ……』



 今から、先輩はムカつく事を言う。


 確信だ。


 違うんだ。


 わかってんだ。


 この人は、優しいんだ。


 こういう時に、たぶん、


 先輩ん時(・・・・)は、誰も助けてくれなかったんだ。


 泣きながら、自分で、決めたんだ。


 でも、今は、私がいるから。


 私に(・・)助け船を出す(・・・・・・)



『>>>これは、"義務"なんかじゃ……』



 逃げては、いけない。


 ムカつかなきゃいけないのは、


 ここに突っ立ってる、自分自身(・・・・)にだ。



「 ── 子供(・・)見つけた時点で(・・・・・・・)選択肢は(・・・・)ねぇ(・・) ── 」


『>>> ──…… 』



 天にあげた、金の腕。


 何も、掴んでいない。


 煙のにおいが、にがい。


 私が手を上げても、雷は落ちない。


 火事に雷おとして、どうすんだ。


 バぁカか。


 あの時の、あの手は、きれいだった。


 間違っても、こんな金ピカグローブじゃない。



『>>>だったら、すきに、やれよ──……』


「──!」


 目を、見開く。



『>>>すきに、やれって──!!! こっちはなぁ、きみが何して暴れようとも、どこまでもさぁ、ガンガン助ける気マンマンなんだよ!! 今、きみがやることはさぁ、"する"ってことと、"たのむ"ってことだろう──!!!』


「────!!」


『────アンティ。遺憾ですが:クルルカンに全面的に同意します。あなたが今やるべき事は:バカみたいに、動き出すことです。』


「あ──」


『────後は:任せてほしいものですね。』


「  」



 ……。


 ……く、くくくっ、くくかか。


 ……あぁ、あぁ……。


 知らねぇぞ。




 あの時の手は、シュッと、空に伸びていた。


 私は、あの子には、なれなかった。


 だから、こぶしを(・・・・)にぎった(・・・・)────。





「 ──やる(・・)たのむわ(・・・・)─── 」






   "────まかせろよ"  と。



       みんなの声が、聞こえた気がした。






 ──天にかかげた握り(こぶし)で、下の花壇を、ぶん殴った。





 ────キィィイイイイイインンン────ッッ!!!!!!!






 石が砕け散って、私の身体が、上に、跳ね飛ぶ。



 轟音。


    (どよめ)き。


       視線。



『────頭髪部:及び肌露出部に"アナライズホロコーティング"を開始。流路圧縮展開中。』



 空中で、私の身体が、まわる。


 空。建物。人。地平線。髪。


 金の髪が、小さな透明の何かで、(おお)われていく。


 透明だった膜は、無限の流路が通り、黄金の光を放ちだす。



 ───コォォオオ! ───コォオオオオオン!!



『────コーティング完了。熱対応万全です。』



 アホみたいに思いっきり地面を殴った勢いが、


 星の重力に、引かれだす。


 人がジャマで、移動できねぇんだよ。


 一対の、光の粒子の尾を引きながら、


 下にある、街灯を、蹴った。






 ──キィィイイイイイインンン────ッッ!!!






 光の魔石が、砕け散る。


 しるか。


 身体の、ぶっ飛ぶ向きが、変わる。


 もちろん、次の街灯のほうに(・・・・・・・・)、蹴っている。


 作戦確認。



「水」


『>>>溺れ死ぬ。むり』


「火」


『>>>空気ごとだから窒息。むり』


「直接いって助ける」


『────レディ(準備完了)。作戦受諾。』



 ──キィィイイイイイインンン────ッッ!!!



 三つ目の街灯を蹴り壊した頃。


『>>>アンティ。ひとつ歯車くわえな。もひとつは外へ。空気を通す』


 先輩の言ったことを瞬時に理解できた。


 小さな歯車を出し、飴玉のように含む。


 歯車ひとつ、外にポイする。


 どっちもバッグ歯車。


 この方法なら、私は海に沈没したって、溺れない。


 でかいアダマンタイトの像が、最後の足場になるわ。



 ────バァアアアアンン!!!



「ち」



 立像に着地する直前。


 3階の壁が、バクハツして落下してくる。


 このままじゃ、下の野次馬にあたる。



「「うわ」」「「「うわああああああ!!!」」」

 


 ───キ、ゴ、ンン!!!


 アダマンタイトを、足場にした。


 とぶ。


 足跡へこんだ。





『────"力量加圧(パワーアシスト)"。』

「──うらああああァァアアアアア────!!!!!」  



 

 ──キィィイイイイイインンン────ッッ!!!


 ギゴゴゴゴッ──




 蹴り上げる。


 壁が湾曲しながら、屋上に、乗る。



 ──ドガッ、しゃあああんん……

 


『────4階で炎格納は窒息の恐れがありますが:下の階は大丈夫でしょう。アンティ。』

「ん」


 ────ソン!

 ────キュオオオオン──!!



 アダマン店長像に着地する前に、反対の足を振り上げる。


 ブーツから歯車が外れて、


 1階から3階の壁をぶち破って中に入った。



『>>>"アナライズスキャン"を放射する』


 ───ゥヴォォ!

     ヴォヴォヴォオンッッ!!!

       ヴォヴォヴォォゥンン!!! 


 透明のカードが数百枚、一瞬で、ぶちまかれた。


 建物の壁を透過して、通り過ぎる。


 私の視覚に、喫茶店の立体地図がうつる。 


 4階の窓際に、人はいない。


 アダマン像を足場に跳び、ぶち破る。



 ──キィィイイイイイインンン────ッッ!!!

 ────どっごぉおぎゃああおおおんん!!!



 燃えている。


「先輩、熱い油のにおい」


『>>>そこに水はダメ』


「小分けしての炎格納と水分消火」


『────レディ(準備完了)。腰部より歯車射出。』


 ──ジャコン!

 バシュシュシュシュシュ……!!

 きゅ──ん! キュゥウン!! キュゥウン!


 腰のバッグ歯車から打ち出された歯車は、


 それぞれが生きてるみたいだ。


 水を出し、炎を吸う。


 おら、どこだ。



『────左の壁です。』

『>>>近いよ。殴っちゃダメだ。』



 破片を飛ばしたら中の子供がヤバい。


 壁に正方形を書くように、


 4機のチャクラムタイプの歯車を、


 高速回転させながら、はわす。



 ──ギュウウィィイイイイイインンン────!!!



 壁に正方形のキレ目が入った。



 ──ギャゴン……!!

 ポィ──



 壁に、指をフォークみたいにぶっ刺して、


 引き抜き、後ろにほる。

              ……がらがっしゃん!

 はいる。


 



「う、あ……」

「こほ、けほ……」



 兄妹か。


 生きてる。



「……助けにきたよ」


「……! う、あ、エミリ、おきて!」

「ぅえ、えっ……!」


「これを口に入れて、お願い。息が楽になるから」


「「……」」


「はやくッッ!」


「「は、はいっ!!」」


 子供2人に、歯車をくわえさせる。


「「ふぁ……」」


「掴まって。私を絶対はなさないで。このマントは燃えないから」


「「え……」」


「 ……信じろ。必ず助ける 」


「は、はい!」

「──うんっ!」


 抱き寄せた兄妹を、歯車で固定する。


「うわっ、わっ」

「なにこれ!」


「いくよ」



 ────キィィィィィインン!!

 


 まだ、火が(くすぶ)ってる店内を、


 蹴破った、窓側の方に向かって、走る。


 このかべじゃま。


 片方の手のグローブに、歯車を回転させる。


 その周りに、六つの回転歯車。


 噛み合う、七つの、高速回転。



「アンティパンチ」



 ────ドッコガキィィイイイイインンン!!!!!!!

 ガラッ、がらんがらんっ!!!



 後ろに人がいないなら、壁に遠慮とか、ねぇから──。 



「とぶわよ」


「えっ、あ」

「うわぁ!」





 ────キィィィィィインン!!





 今はチビっても許してやるから。


 飛び降りる。


 人、じゃまだな。


 ちかいって。もっと離れろって。


 ちぇ、またアダマン店長におりるか。



 ──キィィインン!!



 ────どぉおおおおんんんん!!!



「あ?」


『────屋上部:オイルタンクに引火。』



 火の雨がくる。



「「「きゃあああああ!!」」」

「「「うわあああああ!!」」」



 ───っち。

 

 だから、近いって──。


 像の上でふんばり、


 片手で兄妹の歯車を支え、


 もう片方で、マントを掴む。


 力任せに、ぶん投げる。



『────"燃焼防止(フレアオフ)"。』


 ───ボボボゥ、ボボゥ、シュウシュウシュウ──……。



 拡がる、劇場のたれ幕。


 そうだ、そうだ、幕を、おろしてしまえ。


 おおきく、おおきく、ひろがる白金(しろがね)────。



「クラウン──!」


『────レディ(準備完了)。格納開始。』



 ……──キュゥ、オォォゥゥゥウウウン!!!


 でかい幕に隠れて、歯車が炎を、食い尽くす。


 アンティ(わたし)さんに、炎でケンカ売ってんじゃねぇよ。



「──クラウン、マフラー(・・・・)戻して」


『────レディ(準備完了)。』


『>>>あっ』




 炎を消し去った魔法のマント(・・・・・・)は、


 ふたつ、つねられたように引っ張られ、


 私の肩を目指す。



 ──シュルルルルルルゥ──……!!


 キィん、キィん──!!!



 ……。


 ……。


 やれやれ……。


「「……」」


 手の中の、確かな命を見る。


 ……。


 ま、元気そうね……。


挿絵(By みてみん)

「 ……ふぅ。アンタたち、だいじょぶ? 」


「「わぁ……」」



 さて、このでっかい店長像から、どうやって下ろすかだけど……。



『>>>後輩、ちゃん?』


「? あによ」


『>>>言い、にくいんだけどさ?』


「あん?」


『>>>きみ、いま……"マフラー"って、言っちゃったよね?』


『────はっ。』


「え?」


『>>>今の、きみのマントのカタチ……"マフラーマント"になってるよ……』


「    」




 ……。

 

 ぎ。ぎ。ぎ。


 手の中の、兄妹を、見る。



「わぁ〜〜!」

「が、がちゃんこ、かっけぇ〜〜……!!」


「…………」



 私を見る目が、とてもキラキラしている。


 まるで、絵本の主人公を見るような目だわ……。



『>>>あ──……でね? 提案なんだけど……』


『────申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません。』


「……」


『>>>……──逃げよっか? すぐに──……』






 静かだ。


 像の、上にいる。


 うしろ、したを見たい。


 見たくない。


 そ〜〜〜〜っと、振り返る。




「……」



「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「「「「「「「………………」」」」」」」




 ……。


 わー。


 これ、何千人くらい、いるんだろう。


 や、でもさ?


 意外と、コレ、バレないかもって思───……、






「「「「「「「  ク  」」」」」」」

「「「「「「「  ル  」」」」」」」

「「「「「「「  ル  」」」」」」」

「「「「「「「  カ  」」」」」」」

「「「「「「「  ン  」」」」」」」

「「「「「「「  だ  」」」」」」」

「「「「「「「  あ  」」」」」」」

「「「「「「「  ぁ  」」」」」」」

「「「「「「「  ぁ  」」」」」」」

「「「「「「「  ぁ  」」」」」」」

「「「「「「「  ぁ  」」」」」」」

「「「「「「「  あ  」」」」」」」

「「「「「「「  あ  」」」」」」」

「「「「「「「  あ  」」」」」」」

「「「「「「「  !  」」」」」」」

「「「「「「「  !  」」」」」」」

「「「「「「「  !  」」」」」」」

「「「「「「「  !  」」」」」」」

「「「「「「「  !  」」」」」」」

「「「「「「「  !  」」」」」」」

「「「「「「「  !  」」」」」」」








「 ──よぉし、逃げるぞっ☆ 」





 にげた。






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