スキルとけんかとなかなおり?
仮面をつけて迷宮跡地から這い上がる……まぁ這ってはないな……飛び上がると、入口が元通りに落ち葉でくるまれた。
……これもしかして大発見?
王都に報告したほうがよいかな?
ブウウウウウウン!!
「ちょ、振動やめい! ていうかアンタも私の心の中よめるの!?」
15歳の乙女のプライバシーどこいった!
無断で顔をマッサージするんじゃねぇ!
「わかった、言わない、言わないから……」
呪いのマッサージはやめてください。
仮面の左右の耳らへんに、小型の歯車を接着する事にした。
さっき、デコに上げていたら、頭上のクラウンと接触して、ガリガリ言ってた……。
こいつ回ってっかんな……。
今は首元を隠す感じで、顔から下げて、固定している。
教本の挿し絵で見た、重盾職の冒険者の、首鎧みたいだ。
両側の歯車を、両耳に被せるように動かすと、すぐに装着できる! というスグレモノ……あ、ダメだこれ、呪いの仮面だった。
すぐつけれたらアカンやん……。
「ねぇー、ほんとにこっち〜〜?」
『────正。呪詛除外方向です。』
例の如く、私の足は、くるくるりん。
もう20フヌは、経ってる。
この速度で滑っているから、かなり奥地だと思うんだけど……。
どうやら、ちょうど森の裂け目のような場所らしく、視界は思ったより良好。魔物に会わない。
まぁ、近くを通りすぎている可能性はある。
警戒は必要だ。ただ、クラウンもいるからな。
「手紙を読める生き物がいればいいけど……」
宛名の"バスリーさん"が、こんな所に住んでるのかな……
ドドドドド……
「! 何の音……」
『────水流感知。河川です。』
「かわか!」
この音、大きくない?
水ってこんな音すんの!
てか流れてるよね!
飛び越せんの!?
「クラウン! 川幅、教えて!」
『────分析完了。推定12メルトルテ。』
「ばかやろう! はやく言わんかい!」
お魚さんのエサになっちゃうでしょうが!
「えぇい、クラウン! 加速して! 飛び越えるよ!」
『────非推奨。』
「何とかなるなる!」
『────実行中。』
ぎゅるるるるるる!!
おお、見えた。
でかいね。
と───────────ん!
身体は浮く。
右手で右足を、つかむ。
身体を半回転させつつ、距離をかせぐ。
ま、このままじゃムリだわな。
「クラウン」
『────予測実行。』
川の、真ん中のあたりに、歯車の足場。
カイィンッ!!
左足の歯車と、歯車の足場が、かち合う音。
右足をはなし、振り上げる。
────────ォオン……
空を切る音。
まわる世界。
水流は、もう後ろ。
────ガッ、ぎゅいいいいいい!!!
「はい余裕〜〜!!」
『────────。』
ま、これくらいならね。
きゅいいいいいいん……
まだ進んでいると、珍しく、相棒から話しかけてきた。
『────議題提案。先刻行動について。』
「お? 何よ急に。改まって」
『────先刻の河川横断は、危険値を超過していました。』
「……あら、お説教?」
スキルに怒られる看板娘て。
「おこなの?」
『────事前行動入力を申請。』
「……」
『────無予告の作戦は危険です。』
「そんな大げさじゃないってば」
『────予測実行には、確実性がありません。』
「私は、あんたを信じてるよ?」
『────クラウンギアは、"スキル補助機能"を逸脱しません。過度な依存は危険。』
「……あんたねぇ、そんな事を言ってんの」
まーた、変な心配の仕方して……。
スキルにしては思いやりに過ぎるのよ。
「あんたは、スキルに過ぎないから、期待しすぎると危ない、ってんでしょ?」
『────模範的な回答。』
まったく……私の相棒は。
過小評価が過ぎる。
わざと、突き刺さるように、言った。
「────黙れ。お前には、魂がある」
『───────。』
「お前は、心で感じて、私を守ってくれてるでしょう?」
『────過大解釈。』
「ちがう。クラウン、あんたが自分で考えて、私と戦ってくれてなかったら、私、もう死んでる」
『────────。』
「この足のさ? 何だっけ……衝撃を吸収する機構? あんたが考えてくれたでしょ?」
『────状況判断。』
「それよ。さっきのも。できたでしょ。」
『────次回成功が確立できません。』
「ほら、今、自分で、言ったじゃない。あんた、怖がってる」
『────────。』
「"こわいから、私はそんなに、有能じゃないから、次はやめてくれ"っつってんのよ」
『────────。』
「ばかね。あんたが、できた子だから、私はみんな、守れたのよ」
『────────。』
「あーもー、何て言ったら……"自信もて、相棒"!」
『────"自信"。』
「ん。"私はスキルに過ぎない"は、怖さを誤魔化す、言い訳みたいで、なんか嫌だ。つか、あんたさ、タダのスキルとか、とっくに逸脱してるからね? 喋るし、助けるし、考えるし、怖がるし、ぷっ! くく、何なの! 歯車法の異常性、ナメんじゃないわよ!」
ほんと、わらえてくるわね!
「あとさ? これからも多分、ああいう事はあるよ。ごめんだけどさ?」
『────。』
「でも、怖がらないでほしい。どうせ私と、死ぬまで一緒でしょ?」
『────。』
「私も絶対、一緒に考えるから」
いつも勝手に頭の中のぞいてんでしょが。
「気に入ってんのよ。アンタとの信頼を。アンタの性格を。それを、"スキルごとき"って表現されると、なんかムカつくのよ」
『────私は。』
「ああっ、もう面倒くさい! もうオシマイ!! たよりにしてる! わかった!?」
『────困惑、しています。』
あほ。
タダのスキルが困惑するか。
────ココロ、だだ漏れだから。
「あと……心配してくれて、ありがと。……ちゃんとヤバい時は、前もって相談するから」
『────受諾しました。』
まったく、こんな話、スキルとする話じゃないわ。
歯車法、マジいみわかんない。