黄金の大道芸人
(●´ω`●)れんとう?
「え、えええ〜〜!!!」
とんでもない誤解が判明した……。
"仮面をつけて、マントで全部身体を隠す"と、
私はどうやら、貴族に間違えられちゃうらしい。
宿屋のおやじさんと娘さんの話を中心に、整理してみよう……。
①「そんな仮面、貴族しかつけねぇぞ?」
そういや、私は初めて先輩仮面を見た時、
クルルカンの物だとは気づかなかった。
けっこうユータたちに、絵本を読んでたのにもかかわらずだ。
つまり、身体が見えずに、単体だけなら、
この仮面は、貴族がパーティでつけそうな、
高価な仮面に見えるってことだわ!
なんか模様も入ってるし、
冒険者のフェイスガードよりは、
とても高級に見えてしまうらしい……。
②「マントの刺繍、金色ですっごい高そうです!」
アブノさんから、なし崩しにもらった、"白金の劇場幕"。
そう、実はこれ、裾に金糸で、めちゃめちゃ刺繍が入っているのよ!
マフラーみたいにちょっと巻いてたら、
そんな目立たないんだけど、
全身を覆うようにした途端、白地に金の刺繍が、
これでもかってくらいに、目立つの!!
アンティラ様の時も、こんなだったのかっ……!
アブノさんの変態的なこだわりの金の刺繍は、
下手な貴族の服よりも、よっぽと高級に見えるらしいわ……。
つまり、変態のせいで、全身マントの私は恐ろしく高貴に見えちゃっとる!
③「髪と瞳が綺麗すぎるだろ……」
んなこと言われてもねぇ……。
生まれつきだかんねぇ……。
淡い金色の髪と、燃えるようなオレンジの瞳。
このふたつがそろったら、そんなに人間離れして見えますかね?
え? 貴族のお嬢様に見える?
どこがやねん……。
や、確かにお風呂好きだからけっこう入るし、
歯車でお湯作れるし、汚れは吸い取れるし、
滝作ったりしてジャブジャブたまに遊んだりしてるから、
けっこう綺麗だとは思うわよ?
や、だからサラサラは生まれつきだって……。
クセっ毛って、けっこう憧れなんだかんね!
④「マントにもヨロイにも、全く汚れがありません!」
や、だからそれはですね……。
私の歯車は、高熱の水蒸気とかブシューってできるワケですよ……。
汚れもピンポイントで吸い込めるワケでして……。
そりゃ、毎日洗濯するよね。ん? 洗濯か?
汚れとか、ほとんど落ちるわよぅ……。
もち、ピッカピカやがな。
さっき、マントのスキマから見えた手甲も含めて、
高級すぎるから貴族だろって?
違うのよぅ……。
このヨロイ、マントをちょっと取ったら、
すぐクルルカンに見えんのよぅ……。
へそとか、実は丸見えなのよ?
背中とか、肩甲骨まで、丸見えなのよ?
⑤「王冠の魔法アクセサリーつけてるじゃねぇか!」
えと……、大事な相棒なんだってぇ……。
え? ま、魔法で浮いてるアクセサリー?
や! 確かに回ってる! 回ってるけど!
ほ、宝石!? あ、や、ついて、る、けど!
そんなもん一般市民はつけないって!?
や、やめぃ! 私は一般人だ!
な、なによその疑いの目はッッ!!?
⑥「従獣を直接、肩に乗せてますし!」
まさかのうさ丸効果……。
これだけ私の服が高級に誤解されていると、
肩に乗せたうさ丸は、貴族が道楽で愛玩従獣を連れ回してるように見られるらしい……。
違うって……。や、可愛いけども。
そんな高貴な存在じゃないって……。
良くも悪くも、にょきっとだって……。
いつもは、受付カウンタで、にょっきにょっきしてるんだって……。
⑦「「本人がまるで動じてない!!」」
……どゆこと……?
本人って、私のことでしょう……。
え? 同年代の一般市民が?
そんなぶっ飛んだ格好してたら?
おどおどして、しょうがないって?
────ほっっっとけいッッ!!
いつもそんなカッコしてるから堂々としてるんだろって?
……え、何、泣くの私?
いま、心に刺さったよ……?
「う、うう、動じてない、ワケじゃ……」
「……いや、違うのかィ? てっきりどこぞの、風変りな貴族の娘っ子かと思ったんだが……」
「う、うん、うんうん──!」
宿屋の色黒のおやじさんと娘さんが、疑わしい目で私を見ている……。
「ち、違うんです! そ、その、これは……ホラ! 私、"大道芸人"でっ!!」
「にょ!?」
「ほぅ、大道芸!」
「そうなんですかっ?」
「なんか芸を見せてくれねぇか?」
「えっ……」
き、急に言われてもねぇ……。
うーん。
──あ。
(クラウン、レモン、7個──)
『────レディ。』
……──きゅうううううんんん!
「よっと……」
ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽ────ん!!
「おっ……! ど、どこから出した……?」
「わぁ──! お手玉だぁ──!! すごぉ──い!」
これくらいなら、今の私には簡単かな?
「にょ!」
ぴょん!
「え! ちょと……」
うさ丸が、レモンお手玉に乱入した。
7個のレモンと、うさ丸が宙に舞う。
あ、あんたね、けっこう力加減とか、難しいのよ?
「にょっ! にょっ!」
「おお……! こいつはすげぇ……!!」
「わぁぁあ────!!!」
おお、喜んでくれてるわ!
この街にきてから、子供にはなんか、ビビられてたからね。
なるほど、貴族に不用意に近づくまいと思われてたワケか。
ちょっと嬉しくなってしまったので、調子にのることにする。
7個のレモンを、少しずつ違う野菜にとりかえて……。
……きゅうううんん──!
「あれっ!? キャベツになってるぞ?」
「あ! ニンジンだ!」
「おっ! オニオンもあるじゃねぇか! こりゃ早業だ!」
ふふふ……見よ、"シチューの具おてだま"……!!
……あ。
や、うさ丸ごめん、そういう意味じゃ……。
「にょんむ〜〜♪」
「ほほほぉ〜〜!!」
「きゃー♪ きゃー♪」
……さて、二人の笑顔が見れたところで、そろそろいいかな?
──とんとんとんとんとんとんとん、にょむ。
宿屋のカウンタの上に、色とりどりの野菜と、うさ丸を置く。
私は食堂屋の娘だ。食材を落としたりなどせん。ふふんっ。
「──てな感じで、どうかな……?」
「にょきっと!」
うさ丸もどこか誇らしげだわ。
……お手玉の野菜が、シチューの具しばりだったことは、秘密ね。
「すげぇじゃねぇかぁぁああ────!!!」
「すごぉおおおいいい────!!!」
パチパチパチパチパチパチパチ────!!!
「や、ども、ども」
うん、これで妙な恐怖心は無くなったかな?
ラビットでお手玉をする貴族はいまい。
「娘っ子が踊り子じゃなくて、まさかピエロのほうでせめてくるたぁな!!」
「すごかったです!! 私、あんなすごいの、初めて見ました!」
「あ、ありがと……」
宿屋の小さな女の子が、とてもキラキラした目で私を見ている。
ホッ。
「あ、や……でもなぁ、食材が不足してるのは本当なんだ。オレが買いに行くのは、メリを一人にして不安だしなぁ……」
「私だけで買いにいっても、量が持てないし……」
「あ、それなら、私が食材を持ち込むわよ。その野菜に加えて──」
──どぉん!
カウンタに、肉、どーん。
木の業務用まな板つき!
「……へ?」
「……え?」
「これで何か作ってください。今日の晩御飯、楽しみにしてるから。余った材料で、奥さんにも何か作ってあげて」
「……」
「……おっ、お父さん?」
「あ、それで、宿代なんだけど、とりあえず一泊で……」
「──!! い、いやいやいやいやちょ、ちょっと待てお嬢ちゃん!! な、なんだこのでかいブロック肉は!? オーク肉だな!? 綺麗なピンク色だァ……新鮮そのものじゃねぇか! お嬢ちゃん一体何者だぃ!? てかよぉ、こんな野菜も肉も貰っちまって、宿代もらえるわけねぇだろう!!」
「あっ……いや、でも王都ご飯食べたいし……。奥さんも病気なんでしょう? 栄養つけなきゃ!」
「あ、あんた本当に貴族じゃないのか!? なんか常識が崩壊してるぞ!? ととと、とりあえずこの食材は買い取るっ!」
「え!! や、いいですいいです! そ、そのお肉、拾ったようなもんだし! あ、ほ、ほら! そんなあっても、腐らせて私一人じゃ食べれないでしょう! あったかくなってきたし、無駄にしたくないんですよっ」
本当は永久に腐らずに保管できるけどね……。
「お、お父さん、肉って、道ばたに落ちてるの……?」
「ほ、本当にいいのか……?」
「だからいいですって。お昼は食べちゃったし、晩御飯期待してます! ていうか、ここに泊まれなかったら、私、かなり困るんだけど……」
「……」
おやじさんは、しばらくポカーンとしていたけど───。
「……かぁ────!! わあった! わかったぜ! こいつはたまげたなぁ! ははっ、オメェさんなら、王都一の大道芸人になれるぜ!! オレはグルテンってんだ!! "コムギ亭"にようこそ!! 夜メシは美味いの食わせてやっから、楽しみにしとけよっ!」
「あら、そうこなくっちゃ! 言っとくけど、私、舌はこえてるわよ?」
「や、やったね! お父さん!」
「おぅよ! メリ! このでっかいオーク肉、いっしょに運ぶぞ! おぃ見ろよ、この野菜、どれもよりすぐりだ! 光ってやがるぜ!」
ふふん、そりゃそうよ。
私が直接見て、メニーさんに箱買いさせられたんだぞ!
まだまだあるんだからね!
「あ、ところで宿代なんだけど……」
「──バッキャロゥ!!! こんなにいただいてもらえるか!! オメェは今日はタダだ、タダ!! 夜までゆっくり観光でもしてこいや!!」
「え、そ、そう?」
「おねぇちゃん……やっぱり常識崩壊してます……」
「そ! そんなことないわよ!」
メリちゃんというらしい女の子に、2階の部屋に案内される。
落ち着いた、いい部屋だった。
こんくらいの狭さで充分すぎるわ。
よし、これで今日の野外ベッドは回避した……。
「にょむ……」
「あら」
うさ丸が、ウトウトしてる。
……今日の朝、早かったからなぁ。
部屋にうさ丸を残していくのは、ちょっと不安かも……。
ひと通り部屋を確かめ、うさ丸を抱っこして、一階に降りる。
カウンタに、メリちゃんがいた。
「お願いがあるんだけど……」
「ふぁい?」
「この子、そこのカウンタで寝かせてくれないかな?」
「! 寝ちゃったんですか?」
「うん、一人だとさみしいかもしれないから、見てあげててほしいのよ」
「い、いいですよ! わぁ……!」
そっと宿屋のカウンタにうさ丸を置くと、
メリちゃんの顔が綻んだ。
「もし起きたらね、うさ丸に、私が出かけてるって伝えてほしいのよ。その子、かなり頭が良くてね? "アンティは出かけてる!"って言えばわかるから」
「そ、そうなんですかっ!?」
「しー……」
「あっ……」
「にょむ……」
「わ、わかりました……起きたら必ず伝えますね!」
「お願いね」
よっし。
これで、うさ丸が起きた時に私がいなくても大丈夫、と……。
じゃあ、王都観光、いきますか!
「メリちゃん、なんかオススメの観光スポットある?」
「え、そうですね……いっぱいありますけど、いつも仕入れをしてる、"ラッカセイ市"は、色々ありますよ! 今日はそこに行けなくて困ってたんです……助かりました! その先に、有名な喫茶店もありますよ!」
「"ラッカセイ市"ね! りょーかい!」
(クラウン──!)
『────レディ。
────ナビゲーションを開始します。』










