表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
388/1216

黄金の大道芸人

(●´ω`●)れんとう?


「え、えええ〜〜!!!」



 とんでもない誤解が判明した……。


 "仮面をつけて、マントで全部身体を隠す"と、

 私はどうやら、貴族に間違えられちゃうらしい。

 宿屋のおやじさんと娘さんの話を中心に、整理してみよう……。



 ①「そんな仮面、貴族しかつけねぇぞ?」


  そういや、私は初めて先輩仮面を見た時、

  クルルカンの物だとは気づかなかった。

  けっこうユータたちに、絵本を読んでたのにもかかわらずだ。

  つまり、身体が見えずに、単体だけなら、

  この仮面は、貴族がパーティでつけそうな、

  高価な仮面に見えるってことだわ!

  なんか模様も入ってるし、

  冒険者のフェイスガードよりは、

  とても高級に見えてしまうらしい……。



 ②「マントの刺繍、金色ですっごい高そうです!」


  アブノさんから、なし崩しにもらった、"白金(しろがね)劇場幕(げきじょうまく)"。

  そう、実はこれ、裾に金糸で、めちゃめちゃ刺繍が入っているのよ!

  マフラーみたいにちょっと巻いてたら、

  そんな目立たないんだけど、

  全身を覆うようにした途端、白地に金の刺繍が、

  これでもかってくらいに、目立つの!!

  アンティラ様の時も、こんなだったのかっ……!

  アブノさんの変態的なこだわりの金の刺繍は、

  下手な貴族の服よりも、よっぽと高級に見えるらしいわ……。

  つまり、変態のせいで、全身マントの私は恐ろしく高貴に見えちゃっとる!



 ③「髪と瞳が綺麗すぎるだろ……」


  んなこと言われてもねぇ……。

  生まれつきだかんねぇ……。

  淡い金色の髪と、燃えるようなオレンジの瞳。

  このふたつがそろったら、そんなに人間離れして見えますかね?

  え? 貴族のお嬢様に見える?

  どこがやねん……。

  や、確かにお風呂好きだからけっこう入るし、

  歯車でお湯作れるし、汚れは吸い取れるし、

  滝作ったりしてジャブジャブたまに遊んだりしてるから、

  けっこう綺麗だとは思うわよ?

  や、だからサラサラは生まれつきだって……。

  クセっ毛って、けっこう憧れなんだかんね!



 ④「マントにもヨロイにも、全く汚れがありません!」


  や、だからそれはですね……。

  私の歯車は、高熱の水蒸気とかブシューってできるワケですよ……。

  汚れもピンポイントで吸い込めるワケでして……。

  そりゃ、毎日洗濯するよね。ん? 洗濯か?

  汚れとか、ほとんど落ちるわよぅ……。

  もち、ピッカピカやがな。

  さっき、マントのスキマから見えた手甲も含めて、

  高級すぎるから貴族だろって?

  違うのよぅ……。

  このヨロイ、マントをちょっと取ったら、

  すぐクルルカンに見えんのよぅ……。

  へそとか、実は丸見えなのよ?

  背中とか、肩甲骨まで、丸見えなのよ?



 ⑤「王冠の魔法アクセサリーつけてるじゃねぇか!」


  えと……、大事な相棒なんだってぇ……。

  え? ま、魔法で浮いてるアクセサリー?

  や! 確かに回ってる! 回ってるけど!

  ほ、宝石!? あ、や、ついて、る、けど!

  そんなもん一般市民はつけないって!?

  や、やめぃ! 私は一般人だ!

  な、なによその疑いの目はッッ!!?



 ⑥「従獣を直接、肩に乗せてますし!」


  まさかのうさ丸効果……。

  これだけ私の服が高級に誤解されていると、

  肩に乗せたうさ丸は、貴族が道楽で愛玩従獣を連れ回してるように見られるらしい……。

  違うって……。や、可愛いけども。

  そんな高貴な存在じゃないって……。

  良くも悪くも、にょきっとだって……。

  いつもは、受付カウンタで、にょっきにょっきしてるんだって……。



 ⑦「「本人がまるで動じてない!!」」


  ……どゆこと……?

  本人って、私のことでしょう……。

  え? 同年代の一般市民が?

  そんなぶっ飛んだ格好してたら?

  おどおどして、しょうがないって?

  ────ほっっっとけいッッ!!

  いつもそんなカッコしてるから堂々としてるんだろって?

  ……え、何、泣くの私?

  いま、心に刺さったよ……?





「う、うう、動じてない、ワケじゃ……」


「……いや、違うのかィ? てっきりどこぞの、風変りな貴族の娘っ子かと思ったんだが……」

「う、うん、うんうん──!」


 宿屋の色黒のおやじさんと娘さんが、疑わしい目で私を見ている……。


「ち、違うんです! そ、その、これは……ホラ! 私、"大道芸人"でっ!!」

「にょ!?」


「ほぅ、大道芸!」

「そうなんですかっ?」

「なんか芸を見せてくれねぇか?」


「えっ……」


 き、急に言われてもねぇ……。

 うーん。

 ──あ。


(クラウン、レモン、7個──)

『────レディ(準備完了)。』


 ……──きゅうううううんんん!


「よっと……」


 ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽ────ん!!


「おっ……! ど、どこから出した……?」

「わぁ──! お手玉だぁ──!! すごぉ──い!」


 これくらいなら、今の私には簡単かな?


「にょ!」


 ぴょん!


「え! ちょと……」


 うさ丸が、レモンお手玉に乱入した。

 7個のレモンと、うさ丸が宙に舞う。

 あ、あんたね、けっこう力加減とか、難しいのよ?


「にょっ! にょっ!」


「おお……! こいつはすげぇ……!!」

「わぁぁあ────!!!」


 おお、喜んでくれてるわ!

 この街にきてから、子供にはなんか、ビビられてたからね。

 なるほど、貴族に不用意に近づくまいと思われてたワケか。

 ちょっと嬉しくなってしまったので、調子にのることにする。

 7個のレモンを、少しずつ違う野菜にとりかえて……。


 ……きゅうううんん──!


「あれっ!? キャベツになってるぞ?」

「あ! ニンジンだ!」

「おっ! オニオンもあるじゃねぇか! こりゃ早業だ!」


 ふふふ……見よ、"シチューの具おてだま"……!!

 ……あ。

 や、うさ丸ごめん、そういう意味じゃ……。


「にょんむ〜〜♪」


「ほほほぉ〜〜!!」

「きゃー♪ きゃー♪」


 ……さて、二人の笑顔が見れたところで、そろそろいいかな?


 ──とんとんとんとんとんとんとん、にょむ。


 宿屋のカウンタの上に、色とりどりの野菜と、うさ丸を置く。

 私は食堂屋の娘だ。食材を落としたりなどせん。ふふんっ。


「──てな感じで、どうかな……?」

「にょきっと!」


 うさ丸もどこか誇らしげだわ。

 ……お手玉の野菜が、シチューの具しばりだったことは、秘密ね。


「すげぇじゃねぇかぁぁああ────!!!」

「すごぉおおおいいい────!!!」


 パチパチパチパチパチパチパチ────!!!


「や、ども、ども」


 うん、これで妙な恐怖心は無くなったかな?

 ラビットでお手玉をする貴族はいまい。


「娘っ子が踊り子じゃなくて、まさかピエロのほうでせめてくるたぁな!!」

「すごかったです!! 私、あんなすごいの、初めて見ました!」

「あ、ありがと……」


 宿屋の小さな女の子が、とてもキラキラした目で私を見ている。

 ホッ。


「あ、や……でもなぁ、食材が不足してるのは本当なんだ。オレが買いに行くのは、メリを一人にして不安だしなぁ……」

「私だけで買いにいっても、量が持てないし……」

「あ、それなら、私が食材を持ち込むわよ。その野菜に加えて──」


 ──どぉん!


 カウンタに、肉、どーん。

 木の業務用まな板つき!


「……へ?」

「……え?」


「これで何か作ってください。今日の晩御飯、楽しみにしてるから。余った材料で、奥さんにも何か作ってあげて」


「……」

「……おっ、お父さん?」


「あ、それで、宿代なんだけど、とりあえず一泊で……」


「──!! い、いやいやいやいやちょ、ちょっと待てお嬢ちゃん!! な、なんだこのでかいブロック肉は!? オーク肉だな!? 綺麗なピンク色だァ……新鮮そのものじゃねぇか! お嬢ちゃん一体何者だぃ!? てかよぉ、こんな野菜も肉も貰っちまって、宿代もらえるわけねぇだろう!!」


「あっ……いや、でも王都ご飯食べたいし……。奥さんも病気なんでしょう? 栄養つけなきゃ!」


「あ、あんた本当に貴族じゃないのか!? なんか常識が崩壊してるぞ!? ととと、とりあえずこの食材は買い取るっ!」


「え!! や、いいですいいです! そ、そのお肉、拾ったようなもんだし! あ、ほ、ほら! そんなあっても、腐らせて私一人じゃ食べれないでしょう! あったかくなってきたし、無駄にしたくないんですよっ」


 本当は永久に腐らずに保管できるけどね……。


「お、お父さん、肉って、道ばたに落ちてるの……?」

「ほ、本当にいいのか……?」

「だからいいですって。お昼は食べちゃったし、晩御飯期待してます! ていうか、ここに泊まれなかったら、私、かなり困るんだけど……」

「……」


 おやじさんは、しばらくポカーンとしていたけど───。




「……かぁ────!! わあった! わかったぜ! こいつはたまげたなぁ! ははっ、オメェさんなら、王都一の大道芸人になれるぜ!! オレはグルテンってんだ!! "コムギ亭"にようこそ!! 夜メシは美味いの食わせてやっから、楽しみにしとけよっ!」

「あら、そうこなくっちゃ! 言っとくけど、私、舌はこえてるわよ?」

「や、やったね! お父さん!」

「おぅよ! メリ! このでっかいオーク肉、いっしょに運ぶぞ! おぃ見ろよ、この野菜、どれもよりすぐりだ! 光ってやがるぜ!」


 ふふん、そりゃそうよ。

 私が直接見て、メニーさんに箱買いさせられたんだぞ!

 まだまだあるんだからね!


「あ、ところで宿代なんだけど……」

「──バッキャロゥ!!! こんなにいただいてもらえるか!! オメェは今日はタダだ、タダ!! 夜までゆっくり観光でもしてこいや!!」

「え、そ、そう?」

「おねぇちゃん……やっぱり常識崩壊してます……」

「そ! そんなことないわよ!」


 メリちゃんというらしい女の子に、2階の部屋に案内される。

 落ち着いた、いい部屋だった。

 こんくらいの狭さで充分すぎるわ。

 よし、これで今日の野外ベッドは回避した……。


「にょむ……」

「あら」


 うさ丸が、ウトウトしてる。

 ……今日の朝、早かったからなぁ。

 部屋にうさ丸を残していくのは、ちょっと不安かも……。


 ひと通り部屋を確かめ、うさ丸を抱っこして、一階に降りる。

 カウンタに、メリちゃんがいた。


「お願いがあるんだけど……」

「ふぁい?」

「この子、そこのカウンタで寝かせてくれないかな?」

「! 寝ちゃったんですか?」

「うん、一人だとさみしいかもしれないから、見てあげててほしいのよ」

「い、いいですよ! わぁ……!」


 そっと宿屋のカウンタにうさ丸を置くと、

 メリちゃんの顔が(ほころ)んだ。


「もし起きたらね、うさ丸に、私が出かけてるって伝えてほしいのよ。その子、かなり頭が良くてね? "アンティは出かけてる!"って言えばわかるから」

「そ、そうなんですかっ!?」

「しー……」

「あっ……」

「にょむ……」

「わ、わかりました……起きたら必ず伝えますね!」

「お願いね」


 よっし。

 これで、うさ丸が起きた時に私がいなくても大丈夫、と……。

 じゃあ、王都観光、いきますか!


「メリちゃん、なんかオススメの観光スポットある?」

「え、そうですね……いっぱいありますけど、いつも仕入れをしてる、"ラッカセイ市"は、色々ありますよ! 今日はそこに行けなくて困ってたんです……助かりました! その先に、有名な喫茶店もありますよ!」

「"ラッカセイ市"ね! りょーかい!」



(クラウン──!)


『────レディ(準備完了)

 ────ナビゲーションを開始します。』






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ