⚙⚙⚙ 王都に行こう! ⚙⚙⚙ さーしーえー
王都に行くまでだけど、色々と問題があるわ。
◇問題その1◇
寝れんかった。
や……、ちょっとは寝たのよ?
でも、まぁ……目が冴えるったらないわね。
どうしようもないので、暗いうちから出発することにする。
あ、いつもみたいに受付カウンタの天窓からは、
飛び降りてないかんね?
あそこ、暗いうちは、コウヤカイって魔物の目の殻でフタしてるし。
ちゃんと塔の螺旋階段の方を、飛び降りたわよ?
うん、40メル。
え? 階段つかえって? や、やぁよ。めんどくさい。
ヒゲイドさんとキッティが、眠そうにしながら見送りに来てくれた。
「ひゃわわわ……アンティさん、こんな暗いうちに出発するんですかぁ……?」
「やれやれ、ちゃんと寝たのか?」
「だいじょぶ、いざとなったらベッド持ち歩いてるから」
「あ、アンティさん……15歳の女の子が、野外ベッドなんてホントにやめてくださいね……あなたの御両親に私、なんて言えばいいんですか……」
「えー。"どこでも私ベッド"、便利なのよ? 一回やったし」
「ギルマスぅ……!」
「……まさしく、"言語崩壊"だな……」
『>>>!』
「?? なにそれ?」
「都市伝説ですよ。アンティさん!? ベッドは室内に置くものですっ!!」
◇問題その2◇
うさ丸にバレた。
「にょきぃとぉぉ……」
「へそはやめぃ、うさ丸……こ、こら! すりすりすんなって! こちょばいからっ!」
塔の螺旋階段を飛び降りた時、
「キ────ン!!」って、けっこうな音がした。
泊まり込んでいたキッティとヒゲイドさんが気づき、
後から、うさ丸も来た。
カンクルはまだ、寝ているみたいね。
白いもふもふが、私のお腹に抱きついている。
「……うさ丸? 今回はヤバいのよ。王都よ王都。ラビットが入ったら、すぐに騎士さんに捕まって、王様ランチよ?」
「にょ、きゃ〜〜!!」
「王都にそんな常識はない」
「ウソはいけません」
「にょ、にょや〜〜!!」
「いや、ちょ……」
うさ丸が、へそ越しに私を上目づかいで見ている。
この前、素で忘れて置いてったからなぁ……。
おへそがうさ丸の体温で、あったかい。
「にょきっとぉ……」
「……」
うーん……。
……。
「……ふぅ。わかった。負けたわ」
「にょや!」
「えっ」
「……本気か?」
実を言うと、王都に行くのは、めっちゃ不安だ。
ギルド出張所は大概、街の街壁に埋め込まれて建ってるので、
普段の配達では、街の中までは入らない。
今回は、そうはいかない。
超、侵入する。
生身一人でさびしいので、
ちょっと、うさモフ恋しかった感は、否めない。
「ちゃんと私の言うこときくのよ? いざと言う時は、屋根の上にでも跳んで、隠れてなさい? あんた、そんくらいのジャンプなら、お手の物でしょう!」
「にょや! にょきっとな!」
「い、いいのかなぁ……」
「やれやれ……知らんぞ?」
よし……。
これで、くじけそうになったら、モフモフしよう……。
「じゃ、いってきまーす!」
キキキキキキィ────ン……!
「行ってしまったな……」
「行っちゃいましたねぇ」
「あっ」
「え、なんですか」
「"審議官"のこと言い忘れた」
「うっわぁぁぁ……うわあああああ! アンティさん、お、おわた……」
◇問題その3◇
ガルンがおかしい。
『──ガルルルルルロロろろろろおぉォオンんん!!!』
「ちょっっとぉおおおおお!!? なんかガルンのカタチぃ!! かわってなぁああいぃぃぃいい!!!??」
{{ あ……店長がちょっと、改造しちゃったのよ…… }}
「──あの変態ぃ、なに勝手してくれとんのじゃあぁぁぁ────ぃ!!!」
『>>>この前までは、ギザギザアメリカンだったのに……今はコレ、ずいぶん有機的なデザインだよなぁ……』
『────変形機構を発見。展開します。』
──がきぃぃぃいいんん!!
「うわっ、前輪のびたぁぁぁああ──!!」
『────この速度ですと:車体が浮きます。上方に向けカーディフ・ブーストを推奨。バーニヤ構築。』
『──点火ニャ!。ポチッとニャ?。』
ボォオオオオオオオオッッ────!!
「うわっ、火ぃでたぁぁぁぁああ──!!」
『────バーニヤ部6機:正常燃焼。』
「にょきっとぉぉおおおお!!!」
「うさ丸! あんた私の足の間に挟まっときなさい! 後ろに転げたら丸焦げよ!!」
「にょんやぁぁあああああ!!!」
『────ガルンツァー亜種型の呼称登録名を入力できます。』
「先輩まかせた!!」
『>>>えっ……じ、じゃあ……"ガルンバイパー"……?』
『────登録しました。』
『──ガルンガルゥゥゥウゥゥゥウウウンンン──ッッ!!!』
◇問題その4◇
はやく着き過ぎた。
「……まだ王都の街門、しまってんだけども……」
『────早朝すぎるからと予測。』
うぇい……。
朝日が壁に当たって、まぁ綺麗。
朝焼けってやつかな?
こんなに金色に見えるのは珍しいわね……。
うん、どこにも入り口がないわ。
壁だわ、壁!
「うーん、こうやって見ると、王都の街壁って、超でっか──い王冠に見えるよね?」
『────内包物質量なら勝っています。』
「いや、張り合えっつってんじゃないのよ……?」
あ、いつも手紙届けてるギルド出張所なら、開いてるんじゃ?
◇問題その5◇
王都のギルド出張所が……。
あ、やっぱ開いてた。やりぃ。
受付で、ギルド職員さん、うとうとしてる……。
お疲れ様さまです。
「あ、すみません、今日は配達じゃないんですが……」
「……ぁ……」
「あ、おはようございます。えとですね……」
「お、お……」
「? お?」
「おおおお"黄金姫"だぁぁぁァァァ───!!! "黄金姫"がきたぞぉぉぉぉォォォおお───ッッ!!?」
「ち、ちょっ──!?」
「うわぁぁああああ────!!? きたぁぁぁぁあ────!!!」
「えっ!? えっ──!?」
「おい! おいっ、ドブック!! 起きろっ!! "手紙の女神"だっ!! いるっ!! そこにいるぞっ!!」
「な、なんだっってぇぇええ────!!?」
「お茶だぁ!! 最高級のお茶をお出ししろぉ!! 仮眠室のヤツら、全員たたき起こしてこいィィ──!!」
「まかせるるおおぉぉォォォぉお────!!」
「えっ、えっ、あ、あのッ……!」
「ほら、ほらみろ……いたじゃないか……やっぱり、いたんじゃないかっ……! オレが、ど、どんなに居たって言っても、みんな、夢だって……黄金の義賊が手紙を持ってくるはずないだろ、って……ぅ、ううっ、ぅ……!」
「え……あ、あ、あの……な、なに泣いてん、すか……?」
「にょ、にょむぅ……?」
────ガッシャァァあン!
こんころろん──。
「わっ!? あ、お、おぼんがっ」
「にょやっ……?」
「…………」
「なっ……え、エリナッ!? キミは何をしているんだっ! そのグラスは高いんだぞっ!!」
「……」
「え、エリナ……?」
「……そ……、"尊主"……さま……?」
「? にょ、にょきっとな?」
「な、な、な、な、ナマ、"そんしゅ"、さま……? く、きゅ〜〜〜〜……」
──バタムッ!
「え、エリナぁぁぁああああああ──ッ!!?」
「………どうして、こうなった、の……」
「──にょむむ……」
非常に騒がしくなったけど、王都の手紙と一部の書類を整頓してあげたら、出張所職員総出で、漢泣きして喜ばれた。
しばらくすると、気絶した職員さん、エリナさんが起きたので、
うさ丸が心配してヒザの上に乗ったら泣いてた。
「……私はあなた方に、この身を捧げればよろしいですか?」
「こわいので街門を通らずに王都に入る方法を教えてください」
「にょやっ!」
◇問題その6◇
嬉しい誤算。
書類を整理する手間はあったけど、
ギルド出張所を通り抜けて、早朝に王都に入れた。
まだ街門は閉まっているので、けっこう反則だと思う。
わいわい、がやがや。
「建物、でっかいなぁ……!」
「にょむ〜〜!!」
おわぁ、遠くにお城も見える……。
うわぁ、かっこいい……キラキラだぁ……。
「私、あんなとこ行くのか……」
荘厳で高貴なお城も、見るだけならいいけど、行くとなると、本当に洒落にならない……。
くせ者は処刑されてもおかしくない場所だと思う。
それを、絵本の主人公とはいえ、義賊のカッコして行くことになろうとは……トホホ。
食堂娘には、過ぎた挑戦だわ……。
ギルド出張所を抜けてすぐ、
"白金の劇場幕"で、首から下を覆う。
前にやった、"アンティラ様"の、王冠と仮面有バージョンだね!
うさ丸は肩に乗ってもらって、と……。
ワイワイ、ガヤガヤ。
わぁ! 人が多い! いや、多いよ!
まだけっこう朝はやいのに!
おとと……油断するとぶつかっちゃいそう。
いろんな種族の人がいるな……!
わ、あの人、キャットみたい……!
うわ、尻尾がある!
! 今の人、ラクーン族だ!
あ、ああいう人が、リザードマンなのかな……。
けっこう甲冑や部分ヨロイを着てる人も多いわ!
あっ、あの人、フェイスガードしてるっ!
あっ、またいた!
うわ、あの女の人、宝石だらけだ……。
ちょっとやりすぎでしょう。
あれ一つで、チキンフラフラ定食のお代、いくつ分だろう……。
いやぁでも、これはしめたわ!
私も宝石付きの王冠して、ハデな仮面してるけど、
これだけ人が多いと、逆に自分が目立たないわね!
うさ丸も肩の上でキョロキョロして楽しそう!
これは嬉しい誤算だった!
やっりぃ!!
「よっしゃ! これならお城までなんとか行けそうだね! おとと……」
『────アンティ。懸念事項:プレミオムズ集会の開催時刻は不明瞭。』
「うん、わかってる。でも、まだ街門が開くか開かないかの早朝だよ? こんな朝はやくからって事はないでしょう!」
『────肯。クラウンギアは予測解答に賛同を表明。』
ヒゲイドさんによると、プレミオムアーツは簡易的な文字しか"通知"できないらしい。
まったく! 遅れたらどうすんだか。
でも、食堂ほどではないけど、今もけっこう朝はやい。
よし、いくか……!
彼方に見えるお城が、徐々に、徐々に近づいてくる。
朝日を反射して、白く輝くようなお城。
まるで、絵本の世界だ。
うわぁ……大きさの比率がおかしい……。
あの塔とか……一本だけで、"役立たずみ台"より高いわよね……。
知らないうちに、街の雰囲気が変わっている。
もしかしたら、貴族街というやつかもしれない。
でも、田舎モンの食堂娘に、確かな事はわからない。
ホントに、あんなトコでやんのかな……。
王城の全貌が明らかになる距離で、
明らかに人が寄り付きがたい領域にでた。
見たこともないような、綺麗な石レンガが地面に組まれている。
これは……すごい。
見上げると、でっかすぎるお城の建物。
空を刺してるみたい。
とんがった構造物も多かったけど、
六角柱のどでかい塔みたいなのも、たくさんあった。
あの塔、屋上があるのかな……。
登ったら、景色、いいだろうな……。
お城の周りは、ぐるっとどでかい溝のようなもので囲われており、
とりあえず正面に、これまたどでかい橋がある。
そして、そこが、大きな大きな、見上げるような門だった。
……渡るしかないか。
──バサァ──……。
マントをほどき、首の紋章が見えるようにする。
「すぅ────。はぁ────……。よし」
大きく綺麗な橋を、歩きだす。
端っこを渡ろうかとも思ったけど、
弱腰はだめかな、とか思っちゃったりしたので、
真ん中を行くことにする。
キン。
キン。
キン。
キン。
キン。
「にょむ」
「わかってる」
大きな門の前に、二人のフルメイルの騎士が立っている。
足音で、もちろん私に視線が集まっている。
後ろの大きな門が開け放たれているのは、少し意外だった。
王城の中の様子が、少し見える。
防犯とかは、大丈夫なんだろうか。
背中のマントが空気を孕むのがわかる。
今、前は何も隠していない。
あの二人の騎士の目には、自分たちに近づいてくる、
"肩にラビットが乗った黄金の義賊"が、
映っているはずだ。
キン。
キン。
キン。
──カシュ。
……──カシュ!
門を護る騎士の一人が、金属製のフェイスガードを、ガントレットで弾き上げた。
つられたように、もう一人の騎士も、そうする。
目が、見えた。
ポッポ鳥が、フライビーンズを食らったような顔だ。
キン。
キン。
───キン……。
騎士たちまで、
あと、五メルと言ったところで、
とまった────。
「…………む」
「…………」
「────」
「────」
……。
さて。
誠実に。
道化をもって、演じなければ。
"笑い話"に、しなければならない。
────"黄金の義賊"である、自分自身を。
もちろん、緊張が、ある。
でも、太陽の温かさが、背中にあった。
初めて、このヨロイの露出が多くて、よかったと思った。
なんとか、朝日に背を押され、口を、開く。
そして、言葉は────。
「────私は、"プレミオムズライダーズ"、"アンティ・クルル"。プレミオムズの集まりに馳せ参じました。ギルドの関係者に取り次いでいただきたい」
「────」
「────」
──緊張からか、えらい芝居がかったセリフになった。
言ってから、「あ、やば!!」と思ったけど、
今からしゃべり方を変えたら、不審がられる……。
内容は、まぁ明確で、間違ってはいない。
このまま、ぶっちぎるしかない。
「……、……」
「……プレミオムズ、"配達職"、と言ったか」
騎士の一人が、真っすぐ私を見て、問い返した。
返す前に、言葉が続く。
「"配達職"とは、かなり以前に消滅したクラス職だが……」
「存じ上げております。私が……最後の一人ですから」
「な……、……」
「……君が……?」
う〜〜ん。
敵意は感じないけど、かなり困惑が強いなぁ……。
そりゃそうか。
王城を護っていて、
まさかクルルカンがくるとは思わないわよね……。
「いや、しかし……」
「その、君の、その格好は……」
──ふぅ。
音のしないため息をついた。
バカにされないだけ、まだいいわ。
"ふざけてんのかてめぇ"くらいは、
言われる覚悟で、来たもん。
それよか、随分マシだって。
ここまできたら、簡潔に。
誠意をもって、話すしかない。
「……──騎士殿。私は、自身の格好の特異さを、よく理解しているつもりです……ですが、私もプレミオムズとして、集まりに参加しないわけにはいかない」
「「…………」」
「……──お手間を取らせますが、この王城にいるというギルドの関係者の方に、"アンティ・クルル"の名だけでも、確認を取っていただきたいのです」
「……どうします?」
「むぅ……」
「……──どうか、頼みます」
──キン……。
「「──!」」
背筋をのばし、手を揃え、
少し後ろにお尻を出し、一礼する。
王城では、この礼は、失礼なのかもしれない。
でも、私の人生で、精一杯の敬意の表し方は、これしか知らない。
うさ丸も、黙って耳を下げた。
肩に、しがみついている。
下を向いて、後ろに流したマントが見えた。
背中に、日が当たるのがわかった──。
「───……」
「───……」
……。
「……ふ、ふふ……」
「───……?」
──。
「ふ、おもしろい……」
「───……!」
お?
「顔をあげられよ、"義賊殿"」
「──!」
顔を上げると、金属の鎧の隙間から、
穏やかな顔が見えた。
どちらも体が大きな男性だが、
一人が若く、一人が口ひげを蓄えている。
歳を重ねた方の騎士から、問われた。
「ひとつ聞こう。貴方は貴族であらせられるか」
「!! ……──い、いえ、私は貴族ではありません」
「──! はっはっは! 尚のこと、おもしろい。よろしい。私がギルドの者に確認をとりましょう」
「! ありがとうございます」
「この石造りの門の内側は、我らの詰め所になっている。こちらに椅子があるので、そちらのラビット殿と共に、しばし、お待ちいただきたい」
「ご配慮、感謝致します」
「にょきっとな!」
「! はは。では、義賊殿とラビット殿を頼む」
「わ、わかりました」
カチャ、カチャ、カチャ……。
騎士おじさんが、離れていく。
よ、よかった……?
何とか、なったかな……?
「よし……君、こっちだ。付いてきなさい」
「! はいっ」
騎士にいちゃんに案内された場所は、すぐそこの、石と石の壁の間の椅子だった。
ホントに、イスだけしかない。
周りは石の門の中なんだろうけど、まだ半分、外みたいなもんだ。
ま。こんな黄金の不審者を、いきなり詰め所の奥になんて入れないわよね。
座って、うさ丸を膝の上に置く。
うさ丸は空気を読んでくれて、あまり鳴かなかった。
いい子。軽く撫でておく。
「〜〜♪」
チラリと、お城の内側を見ると、
草原の地面の中に、また門が見えた。
やっぱり、何重か巨大な門があるみたい。
他の騎士さんも、所々に見てとれた。
あまりジロジロ見るのもアレなので、
目を閉じて、のんびり待つことにする。
……。
……。
……。
──ぅん?
何やら視線を感じる……。
ぱちくり。
────ガシャ!
「──……」
あ、こっち見てたな?
『>>>いま、見てたね……』
『────敵意は感じません。』
……ぷ、くく……。
なんか、同情しちゃう。
なんだこれ。
だって、クルルカンだもんな。
そりゃ、見るって。
くく、くくくくく……。
見なかったフリをして、また目を閉じることにする。
(ふふ、ふふふくく……)
何とか笑いを誤魔化したけど、
微笑みは漏れていたかもしれない。
天気がとても良い中、石の影にある椅子で、
ひとりの騎士と一緒に、待っていた。
────。
しばらくして、
ガシャ、ガシャ、と、
騎士おじさんが戻ってくる音がする。
「──お待たせした。確認がとれた。アンティ・クルル。確かに君の名前は、名簿にあったよ」
「──あったんですか!」
「ありがとうございます。どちらに伺えばよろしいでしょうか」
「や、それが、ちょっと言い難いのだが……」
え……なになに……?
「プレミオムズ集会は、明日だよ」
◇問題その7◇
一日、はやかった。
(´・ω・`)はやかったん……。










