マントは大事/黄金の常識崩壊 さーしーえー
前話にヤンさんの挿し絵を追加(*´ω`*)。
ドニオスギルドの執務室の、光の魔石が灯る。
キッティが入れてくれた紅茶を飲むと、ちょっと落ち着く。
小さな正方形の机を囲み、3人で座った。
「ふふ、アンティさん、おかわりいりますか?」
「ん。ありがと、お願いキッティ」
……カチャ。
「ふぅ……"キングセントラル"──王都か。やはりな」
「は、はい。この首輪に、そう文字が浮かんで……」
どうやら"プレミオムズ集会"があるのは、確定みたい。
はぁ〜〜……なんてこったぃ。
「あ! そう言えば、"王都"で開催するっつったって、あんな広い街の、どこでやるんでしょうか……。プレミオムアーツには、簡単な言葉しか出てこないし。やっぱり、ギルドの施設とかですか?」
「うむ。お前の認識は、正しいが、甘い。確かに王都で開かれるプレミオムズ集会は、セントラルギルドの第一集会室だ。だが、それがある場所が厄介なのだ……」
「ど、どこにあるんですか?」
「王城の中だ」
「 」
お、お、おうじょ、う……?
「…………」
「お前がある意味、最も恐れている貴族の巣窟だ。まぁ区画階層は城の中でも分かれているが、ある程度は覚悟しろ」
頭、真っ白になるわ……。
え、何……。
私、絵本の主人公の格好で、王さまのいる城に突っ込むの……?
「……私、生き残れるかな」
「あ、アンティさん、最後の戦いに行くんじゃないんですから……」
「やれやれ……前にも言ったが、お前にとっての初回のプレミオムズ集会を欠席することは、不信感を生み、調査対象になる可能性が高い。ヘタに調べられないように、ありのままを見せてくるしかなかろう」
「あ、ありのままって、こ、これなんですがぁ!?」
金ピカ義賊ちゃんやねんぞ……。
「アンティ、ちょっと立ってみろ」
「? は、はい」
ギッ……キン。
な、なんだろ……。
立っても座っても金だぞ。
すごいんだぞう。
「ふむ……キッティ、どう思う」
「はい。アンティさんの装備は確かに英雄的なアレですが、もしこの世に、あの絵本がなければ、軽装装備としては通用すると思います。ハデですが、ちゃんと鎧のていは成しているかと」
「うむ。縫製箇所が全くわからんのに、装甲の脱落はないように見える。いったい誰がこんなもの作ったのやら……」
あんたの街の変態よ……。
「アンティさん、前から気になってたんですが、この二の腕と太ももの素材、布じゃないんですか? タイツみたいですけど、防御力もあります?」
「え、あ、ここはその、チカラを込めると硬化するというか……」
「……アンティさん、そんな軽量で硬化する鎧とか、めちゃくちゃな価値つきますよ……?」
「そ、そぅ?」
や、そりゃ素材がドラゴンっぽいから……。
あれ? 私、この2人に、このスーツが、
"捕食"のソウルシフトが付いたヨロイだって、話したっけかな……。
「……キッティよせ。こいつは絵本の住人だ。「なんでやねん!」アンティ、仮に王城に乗り込むとして、そのマフラーマントはどうするつもりだ」
「え? えと……そりゃできるだけ金ピカを隠すように、でっかいマントにして身体を覆って──」
「ぜったいやめろ」
「ぜったいだめです」
なんでやのんな……。
「アンティ。極端な事を言うと、仮面をかぶってマントで身体を隠す奴は、中に武器を隠し持っていると思われても仕方がない」
「はい……王城に頻繁に出入りする貴族の方なら別ですが、アンティさんが全身をマントで隠してしまうのは、非常に警戒されると思います……」
「な! そ、そうなの!? じゃ……こうやって、マントは消して……」
……───シュルルルル──!!
「! ……例の歯車にしまったのか……便利なものだな」
「こ! これで問題ないわね!? うう、顔の下半分が隠れない分、かなり精神的なダメージくらうけどぉ……」
「うーん……」
「え、なに」
「……アンティ。何度も意見してスマンが、今度は身軽すぎる」
「はい!?」
「あ、私も同意見です……アンティさんの鎧は、見た目だけなら、軽技職の物に分類されます。マントがないと、その……」
「???」
「うむ。つまり、王宮内では"身軽な暗殺者"に見られるかも、ということだ」
「動くのに邪魔なマントをとっぱらって、何かよからぬ事をやろうとしているのでは? と感じられるかもしれません……」
そ、それホントにほんとなのッッ!?
お、お、王城、めんどくせぇ────!!!
「な、なんなんですかそれ! マント被ってもダメ、取ってもダメ……じゃあ私はどうしろと!?」
「うむ。アンティ、いつもの感じに戻せるか?」
「はい……」
シュルルルル──……。
「こ、うですか……?」
「うむ。やっぱり、これがしっくり来るな」
「そですね。アンティさんは貴族ではありませんが、その金の鎧には、やはりマフラーマントがあった方がよいですねぇ……」
「わかんない、私、もうわかんない……」
「アンティ、そう悲しい顔をするな。丁寧に説明しよう」
「??」
「お前のその鎧は、確かに一見、王城に入るには無茶に思えるだろう。だがな、今、改めてお前を見ていると、なんというか……非常に、バランスが良いのだ」
「へ?」
「あはは……端的に言うと、すごくよく似合ってるんですよ。アンティさんが着る、その金の鎧は」
「え、えええ〜〜……」
「普通に考えれば、そのようなハデな色の鎧を着込めば、まるでダイコン役者のようなニセモノ感がでるものだ……まるで、子供の仮装のように、な。しかし……お前には、それがない」
「変な言い方ですけど……まるで、本当に絵本から出てきたかのような、ホンモノのような……そんな感じがするほど、全体の装備の調和がとれているんです!」
そ、そりゃ、仮面はホンモノのクルルカンの仮面だけど……。
え? なんなの、この流れ……?
「マントで全身を包んではいかん。マントを無くしたら、身軽すぎて、くせ者ではないかと思われる。しかし、そのマフラーマントの形状は、お前を見た者に、必ず、"黄金の義賊"を彷彿とさせるのだ」
「はい。"黄金の義賊クルルカン"は、大衆にとって、"絶対の英雄"の印象を持ちます。アンティさん。あなたはその格好で、王都に赴くべきです」
「…………」
「最後にひとつ。個人的な意見だが、お前の性格は、話していて気持ちがよい」
「……──!」
「ふふ、そですね。なんというか、その英雄の格好に、ピッタリだと思います」
「最初は驚かれるだろうが、王城にいるギルド職員にも、いつも通り、誠実に話せ。そうすれば、お前は"笑い話"になれる」
「ふふふ、"絵本の英雄"の、専売特許じゃないですか」
「ぅ、ぅえ……、えと……」
な、なんだなんだ。
なんか、性格を褒められてるんですけど……。
照れるんですけど……。
クルルカンにピッタリな性格って、全くよくわからんが。
王城でも、ふつうにしゃべれって。
ホントにいいのかな……。
「やはり、そのマントは、いつものマフラー型がよいな。それが一番、"クルルカン"を連想する。だが……アンティ。ちょっとこっちにこい」
「は、はいっ」
キンキンキン……。
ヒゲイドさんの座る魔王ソファに近寄ると、
マフラーのように巻いた、マントの前の部分をいじられた。
「今言ったように、このマフラーマントは、お前をよりクルルカンに見せる事によって、可笑しさを伴った警戒心の軽減に繋がる。しかしだな。今回、この首輪……"プレミオムアーツ"を隠すのはまずい。ギルドカードを見せられないお前の、唯一の身分証明だからな」
「あ……」
確かに、この金の首輪を見せていなければ、
王城には入れないかも……。
私が、"プレミオムズ配達職"である、
証だもんね……。
ヒゲイドさんが私のマフラーの正面を持ちあげ、
頭をくぐらせ、背中のほうに流す。
「ぷ、はぁ……」
「シンプルだが、このような形はどうだろう」
「は、はぁ……」
背中側に、"白金の劇場幕"が、「M」の字に付いてる感じかな?
確かにこれなら前から首輪の紋章が見えるけど、
こ、こんなんでいいのかな。
「あはは……! 本当に、アンティさんって、変な"気品"みたいなのがありますよねぇ〜〜」
「え、そ、そんなことないと思うけど……」
「やれやれ……お前はたまに自分を客観的に見れていない時があるな……。まぁ、それでいけ。似合っている」
「ぅ、は、はいっ!」
なんだか変な丸め込まれ方をしてしまった……。
なんか、ワケわからないまま、褒めちぎられてないか私。
妙な照れが、ほっぺに残る──。
「──あ、そだ! じゃ、王都に入る時は、ヨロイ脱いでて、いいですよね!? あと、王城に入る直前まで!」
「「──! ……うーん」」
え、何さ、2人して……。
「だ、だって、こんな目立つ格好で、中まで入ることないじゃん……」
思わず言葉が崩れますよぅ……。
「や、あのなぁアンティ……お前、たまにやらかすだろう……」
「ほんと、突拍子もないことやりそうですもんね……」
「はいっ!?」
「その時、お前が私服なら、アウトだぞ……」
「やらかした瞬間、顔バレしますよ?」
「な、な、なにその理論!? 大丈夫ですってば!!」
「40メル上空から、飛び降りるし」
「──!?」
「空飛ぶし」
「えっ」
「ゼルゼウルフ燃やすし」
「やっ」
「レッドハイオークをワンパンだろう」
「や、あれは……」
「ドラゴンデライド大量調理」
「……」
「ヒキハ・シナインズと友達……」
「や、それは……」
「火の玉……」
「ぐ……」
「光の柱……」
「…………」
……や、あれらは、ですねぇ。
「お前はたまに常識が崩壊したことを、"ポッ"、とするのだ……。いかなる時も、顔は隠しておいた方がいい……」
「ですねぇ……」
「そ、そんなことないってばァ〜〜!!」
な、なんでそんなに意見が一致するのよ!
ヒトのことを非常識人みたいに!
ぶぅぶぅ────!!
「あ〜〜あ、わかりまちたよぅ、着ときゃいいんでしょ、着ときゃ! でも、お城に着くまでの街中では、マントで身体隠しますからねっ!」
「そうしろ。俺が安心だ」
ううううう〜〜!!
信用されてんだか、されてないんだかぁ……!
「てか私、集会の用意とか、まっっったくしてないんですけど、何すればいいんですかぁ……」
「お前は挨拶したあとは、聞き役にまわって大丈夫だと思うがな……資料を用意するなら、手紙や小包の配達数などでよいだろう。む! アンティ、大事な事を聞き忘れていた。お前、ここから王都まで、どれくらいで着く?」
「ドニオスから王都までなら……数ジカは、かかりますよぅ……?」
「…………」
「……あ、アンティさん? 言葉がおかしいですよ? "数ジカはかかる"じゃなくて、"数ジカしか、かからない"ですよ……?」
「……移動手段は?」
「走る」
「「…………」」
な、なんだよぅ……。
仕方ないじゃないのよう。
出来るんだから。
「はぁ……まぁ、それが真実なら、簡易な資料を作る余裕は、かなりあるな。部数は予備を考えたとしても、10部あればよいだろう。キッティ、手伝ってやれ」
「そですね! アンティさん、頑張って、ここ2ヶ月くらいの配達数、まとめちゃいましょうか! じゃあ、台帳持ってきますね!」
「あ! キッティまって! 台帳が無くても、わかるから!」
「──え?」
一人がけソファを立ち上がろうとしたキッティを止める。
配達の情報なら、私の相棒におまかせだ。
「あ……ヒゲイドさん、何か白紙の紙を頂けますか?」
「──!! そうか! お前はよく、"焼印活版"をしているな!」
「あっ──!」
2人が、何か勘づいた顔をする。
今から何をするか、なんとなくバレたかな。
ヒゲイドさんは魔王ソファに座ったまま、でっかい腕を伸ばし、紙束を掴んで私にくれた。
「これをつかえ。余った紙は持っておけ」
「こ、こんなにいいんですか!? ありがとうございますっ!」
500枚はある。
受け取った私はソファに戻り、ヒザの上にバッグ歯車を出し、
大量の紙を乗せる。
下から、順に吸い込まれていく。
この2人にもう、バッグ歯車を隠す必要はない。
2人とも、黄金の歯車に吸いこまれる紙を、物珍しそうに見ていた。
「……アンティ。俺とキッティは、もう随分と、お前の秘密に踏み込んでいる。これは純粋に興味だが、お前はいつも、配達の台帳をどうやって"焼印活版"で作っているのだ? 普通は金属でできた一文字印を並べ替え、熱し、紙に押し付けて印刷する。だが、お前は……? や、言いづらければ、言わないでいい」
「あ……私もすごく気になります……」
「あ、あ────……」
そうかー。
そういや、やってる事なんて、見せたことないや……。
この二人には、お世話になってるし、いいかな?
「わかりました。ここでやってみますね」
「「────!!」」
ふぅ……。
「──クラウン。デバイス呼び出し、"ヒートプリンタ"。アナライズ機構は可視化して」
『────レディ。オーダーを受諾。
────デバイス名:"ヒートプリンタ"を展開します。』
「「────!!」」
……──きゅぅううううん、ヴぉん、ヴぉん──!!
私の膝元に出る、直径50セルチくらいの金の歯車と、
その上に重なる、何枚かのアナライズカード。
白紙の紙が一枚、サンドイッチされている。
アナライズカードは、紙より少し大きい。
「クラウン、私の配達記録をわかりやすく印刷して」
『────レディ。
────初回配達時より合計数を算出しています……。
────算出完了。
────配達物の種類を分類しますか。
────。』
「おねがい」
『────レディ。
────お任せを。』
ヴぉん──ヴぉヴぉぉん、ヴぉヴぉヴぉん──!!
カチカチカチカチカチ……。
「な、なんだ、この透明の板は──……!」
「も、文字が浮かんでる──……!」
総合計の配達数や、小包の数、招待状、家族への手紙など、
ジャンル別や、地域別にわけられた情報が、
アナライズカードに文字となって整理されていく。
うへぇ……だいたい7万通だって……。
こんないっぱいの手紙が、よく何年も滞納してたもんよ……。
『────総合計ページ数:2。両面印刷しますか。』
「いえ……片面で2ページでお願い。資料が1枚だけなのは恥ずかしい……」
『────レディ。実行します。』
きゅうううううんん……!
文字が浮かんたアナライズカード。
その線が、下向きに陥没する。
そう、これは、大きなスタンプだ。
「「……、……!」」
スタンプ化したアナライズカードは、紙に押し当てられる。
アナライズカードは、1枚だけだと、衝撃には弱い。
でも、熱には、非常に強いのだ。
だから、つまり────。
『────"カーディフの火"による:バッグ歯車の加熱を完了。熱圧縮します。』
上から、
①スタンプ化したアナライズカード。
②白紙。
③支えのアナライズカード。
それを、上と下から、熱された歯車が、サンドイッチする。
熱は、アナライズカードを伝わる。
クラウンによって調節された絶妙な高熱は、
アナライズカードの凹凸文字を、紙に焼き付けるのだ。
……──ジュゥ──……。
──キィン──。
その間、約、1ビョウである。
『────印刷完了しました。』
……──ペラっ……。
「──と、まぁ、こんな感じです」
キッティに、できた印刷物をわたす……。
「「…………」」
横から、ヒゲイドさんも覗き見ている。
ふふー、どうだ、すごいでしょ。
「クラウン。残り9部と、2ページ目も10部ね」
『────レディ。印刷終了まで:19ビョウ単位。』
……───シュパン、ジュゥ──。
……───シュパン、ジュゥ──。
……───シュパン、ジュゥ──。
……───シュパン、ジュゥ──。
……───シュパン…………。
……。
「はい、でけた。クラウンありがと」
『────お役に立てて光栄です。』
あはは、何そのセリフ。
「「…………」」
ん? なんだ……?
ヒゲイドさんとキッティが、動かないぞ……?
「…………か、か、……」
「はぁ……」
え、な、なに?
「かっ……革命だわ……!!」
「なんてことしやがる……」
? ??
「ぎ、ぎ、ギルマスゥ……! い、いつもとは言いませんっ。た、たまにでいいですぅ……だから、だから多忙な時に、アンティさんに書類作成、手伝ってもらっていいですかぁぁぁぁぁ……!」
「……よほどの機密書類ではなければ、許可する……。その時にはアンティ、お前にも報酬を出そう……」
「えっ……マジ……?」
お仕事もらえるん……?
「ううううう、な、なんでこんな……便利すぎます……クルルカン、便利すぎますぅぅう〜〜!! 私たちがいつも、どんな思いで書類作って……びゃゃわわ〜〜!!」
キッティが小さな女の子みたいに、泣き出した。
「……アンティ。やはりお前、王都では絶対、私服にはなるな。常にクルルカンでいろ!!」
「──なっ!? なんでですかぁ──!?」
「……おまえがなぁ……ビックリ人間だからだぁぁあああああああ!!!」
そのあと、ちょこちょこあった。
カンクルと精霊花を見つけた報酬?
が、受け取れるみたいな話になって、
意味わからんからいらんって言ったかわりに、
「あ! じゃあ、塔のお風呂に湯船がほしいですっ!!」
と伝えておいた。
そんなこんなで、王都に出発する日になった。










