トゥディ・ランチは小悪魔と さーしーえー
そう、手を、にぎったんだ。
彼女は顔が紅くて、
たぶん、私も、そうだった。
すごく、ドキドキしながら、
あの時、あの子に、お礼を言った。
まっすぐ、お互いの目を見合って──……。
"ありがとう。あなたが来てくれて、よかった────……"
"はい──……"
──ぱちくり。
「 ───…… 」
起きると、もうお昼で、うさ丸がいなかった。
……ちょっと、さびしい。
ぽかーんと、ベッドの上で、天井を見ている。
「……また、懐かしい、夢を……」
そう。むかし本当に、あったこと。
あの時の事は、とても、とても、覚えている。
あんなに若く、
あんなに強い冒険者なのに、
お礼を言った時の彼女は、
なんだか、とても身近に感じて。
それが、なんだかおかしくって。
とても、憧れて、
私は今、ここにいる。
でも、夢に足をつっこんでみて。
けっこう、いろいろ、あるもんだ。
「 ……泣き落としとか、何やってんだ、私は……」
昨夜の泣きべそ事件を思い出すと、頭から布団をかぶりたくなる。
あの後、なんだか疲れて、かっくり寝てしまった。
カンクルを、何とかここに置いてもらえる事になりそうだ。
いま、ヒゲイドさんとキッティが、一応、調べてる。
私の力が生みだしてしまった魔物とは、言えないなぁ……。
一度、大きくなった状態からちんまくなってるから、
食べて、体が大きく成長するのは、ないのかな?
「あ……うさ丸と同期……ってことは、片方が大きくなったら、どっちも巨大化するかもしれないのか……」
……てかさ、明らかあの二人、
うさ丸がでっかくなれる事、知らないっぽいのよね……。
き、機会をもうけて、話そうかな……。
「 ………… 」
おへそに両手をのせる。そこだけが、温かい。
一人の空間に、ひたる。
────、──、──。
雲の切れ間に太陽が入ったのか、
部屋が、少し暗くなったり、明るくなったりする。
ふわり、ふわりと、光がなびく。
静かだ。
「ぷくしゅ」
……風邪、ひかないようにしないとな。
──トン。
{{ ……──あら、"ドン・アンティ"? かわいいおへそと、かわいいくしゃみは、お友達にならないほうがいいわよ? }}
「……その呼び方、あのヌコにやめるように言っておいて」
{{ ふふ、自分でがんばんなさい。お昼、買ってきたんだけど──どぅ? }}
大地から40メル離れた、天空の窓際。
ふわりと、紙袋を持った小悪魔が、おりたった。
……イニィさぁん。
空飛んできたら、見られちゃうってば……。
〜 イーストハニー・ドニオス店 本日のオススメ! 〜
『 スクランブルエッグのベーグルサンド 』
★優しい気持ちになれるスクランブルエッグに、
ひと口サイズベーコンを和え、リーフレタスと、
新鮮なスライストマトと一緒にサンドしました!
ソースはケチャップとドレッシングの2種から
お選びいただけます。
あなたの思い描く朝食が、ベーグルにギュッと
つまった一品です!
「もんぐもんぐ」
{{ ──でね? 私とガルンにお給金が出てるんだけど、貴女にちょっと入れた方がいいのかなって。……きいてる? }}
「うめぇ」
{{ ……うん }}
「いや、お金はイニィさんで貯めてなって。せっかく自分で働いてんだし? ……てか、なんで私がお金ハネる考えになるのよう……」
{{ え、いやほら。義賊団の、首領アンティだし? }}
「……や、やめぃ。私は清らかな身だ……」
{{ ふふふっ。じゃあたまにこうやってランチを買ってくるわ。ガルンの分も、貯めとくわよ }}
「あいつも元気?」
{{ 何人か馴染みのお客さん、ついてたわよ? }}
「す、すごいわねッッ!?」
エプロンをつけているとはいえ、魔獣……。
{{ 飲み物も買ってきたらよかったわね }}
「水でいい。水がイチバンおいしい」
{{ ……15歳とは思えない発言ねぇ…… }}
「せんじゅうごさいだもーん」
{{ まぁ、貴女は止まっていたでしょうに。あ! そうそう、貴女に実験の結果を伝えてなかったわ! }}
「?? もぐもぐ、??」
{{ "バッグ歯車の中で、格納した食料を私が食べられるか" }}
「──!! そ、そういやイニィさん、普通に今、ごはん食べてるねッ!?」
{{ 気づくの遅いわよ? みんなの中で、私だけ中途半端に、肉体があるのよねぇ……。あ、結果から言うと、無理だったわ }}
「そ、そうなの? 今は食べられるのに?」
{{ このベーグルサンドと一緒に私が格納されると、バッグ歯車内では食べられなくなるわ }}
「そうなんだ……てことは、その、クラウンとか先輩とかは、このベーグルサンド、食べられないんだ……ちょっとかわいそうだな……」
{{ ──ところがどっこい、よ! }}
「……ど、どっこ……?」
{{ 安心して。どうやら箱庭フォートレスに出現する食べ物は、私たちの思い出の中からランダムに選出されてるらしいわ }}
「えっ!? お、思い出……それって」
{{ そ。昔、食べた事があるモノが召喚されてるっぽいって、王冠ちゃんと仮面さんも言ってたわよ }}
「そーなんだ! え、てことは、このベーグルサンドも?」
{{ ええ! いつかは"箱庭"に出現するかもしれないわね! }}
「はは……ホント意味わかんなぃな、私のアイテムバッグ」
{{ 無限の可能性を秘めた空間ですもの……。ね、ピエロちゃん、貴女、身体はなんともなぁい? }}
「な、なに? やぶからぼうね……」
{{ いえ、ね。私もほら、時空魔法の使い手だったじゃない? その大きな力が、気になるというか…… }}
「???」
{{ ほら……私、あの時の貴女の姿、ギリギリまで、生で見てたから、その……けっこう心配にならないでもないというか…… }}
「あの時??」
{{ ほら、レエンで……ヨロイのチカラを少し、解放した時の! }}
「──ああ! あん時のことね!」
{{ はぁ。貴女、あんなすごい力を使っておいて、よくそんな平常心を保っていられるわね…… }}
「や、んなこと言われてもねぇ……ねぇ、イニィさん! あの時の私って、どんなだったの……? 自分じゃあんまり、見えなかったのよ」
{{ 神さまみたいだった }}
「……。──ははっ! またまたぁ〜〜!」
{{ ……や、ふざけてはないつもりなんだけど…… }}
「いち食堂娘が、そんなトコまで踏み外さないって〜〜」
{{ いや、事実、魔王は倒してるけれどもね…… }}
「……ま、偶然ぐうぜん、たまたまよ! いきあたりばったりで、いっしょうけんめいした! ……それだけよ。はぃ! ごちそうさま!」
{{ ふぅ。やっぱ、いぃ性格してるわ…… }}
「あによぅ、しょーがないでしょうよ。こう育っちゃったんだからぁ」
{{ あ……ねぇ、プレミオムズ会議があるかどうか、いつわかるの? }}
「……は────い!! ヘコんだヘコんだ! 美味しいランチで元気になった私の心が、いま荒みましたよーだァァ……」
{{ つ、机で顔ゴロンゴロンは、おやめなさいな……ケガするわよ? }}
「……ヒキ姉の話では、数日前に、プレミオムアーツに開催場所が表示されるんだって……」
{{ ! プレミオムアーツって言うと、あの、貴女のヨロイの首に付いてある…… }}
「……そ。金色の、"郵送配達職"の紋章がある首輪ね」
{{ その集会……何か、私に助けられる事はある……? }}
「いや、それなんだけどさ……まず大事なのが、不審な印象を与えないことが大事かなって、ヒゲイドさんと……」
{{ 私、人の心、読めるわよ }}
「や、ありがたいんだけどさ……別に、腹の探り合いとかは無いと思うんだよね……思いたい。私が出来ないし……それにさ? 例えばクラウンやらイニィさんやらが横から話しかけてきて、私が冷静にお芝居できるかっつったら、その自信がない……」
{{ あ、あ──……。つまり、他のプレミオムズのメンバーの前で、私や王冠ちゃんが干渉しすぎたら…… }}
「……そ、顔に出て、逆に不審人物認定されかねないってことよぉ……」
{{ な、なるほど……。い、一理あるかな……? }}
「あああ──、無いといいなぁ──、プレミオムズ会議……」
{{ プレミオムアーツに通知がくるんでしょ? ヨロイ、着てなくていいの? 通知がくるとしたら、今日か明日くらいでしょう }}
「きたら、クラウンが教えてくれるよぅ……」
{{ ……なるほど。やっぱり一応、私もバッグ歯車にはいることにするわ。アブノ店長に希望休は出したし! 万が一ってことがあるからね }}
「──万が一お尋ね者とか、洒落にならんッッ!」
{{ あ……。不審人物について、いっこ、言いたいんだけど…… }}
「……はい、イニィさん」
{{ いや、その……。"黄金の義賊クルルカンの格好をした女の子"って、現代の不審者レベルでは、どの程度をいくの? }}
「……──〜〜うううっ、ぅっぅうぅうぅぅ〜〜──……!」
{{ ……謝るから、机に突っ伏して、むせび泣かないでくれる? }}
「ふしんしゃ、やだぁぁあ〜〜〜〜……!」
{{ 試練ねぇ…… }}
その日の夕方。
プレミオムアーツに、通知がきた。
金の文字が、浮かぶ。
『 ── Place:King-Central.
In three days ── 』










