やさがしバイブレーション さーしーえー
「部屋……だよね」
隠された迷宮跡地の、奥の部屋。
ボス部屋……って感じじゃない。
いや、ダンジョンとか入った事ないから、わかんないけどね?
机や椅子、ランプに地図。
ここは……そう、生活感があるのだ。
いま、私のデコにある仮面の、持ち主がいた場所なんだろうか。
「……こんな所に引きこもってたなんて、あんた、めっちゃ悪人だったんじゃないの?」
…………。
「まーいーわ。……で、どうすんの? 生前の恥ずかしいコレクションとかを処分したらいい?」
食堂の娘が出来る範囲にしてね。
ブルブルブルブル……!
「わっ! 震えてる! クラウン、仮面ふるえてる!」
『────確認しています。』
「いやアンタね! ちょっと危機感もちなさいよ! ……あっ」
カポッ
……仮面さん、装着しますたー。
「おデコの血行がよく……あっ!」
光ってる! 机! 机の引き出し!!
入口の魔法陣と同じ、黄緑色の光の紋様だ。
やっぱりこの仮面、隠された魔法を見る力がある!
「……こいつの目的、絶対これよね……」
『────ベクトル指数はポイントに完全に一致。』
「あけますかぁ……」
女の人の、ハダカの絵とかじゃありませんよーに……。
引き出しの取手に手をかけると、黄緑色の光は、外に弾けるみたいに、消えた。
カチッ。
あいたね。
引っ張ると、物凄く滑らかに引き出せた。
よい仕事してます、職人さん。
なかみは……
「ナイフと、……手紙?」
封筒に入った、手紙だ。
宛名だけ、書いてある。
" バスリーへ "
……女の人の名前よね?
誰だろう。
恋人かな?
「……これ燃やせばいいの?」
────ブウウウウウウゥンン!!
「ちょ! また震えてる! 震えすぎ!!」
『────確認しています。』
「バカ!! と、取れない!? やっぱ呪いの仮面よコレ! わぁっ、むず痒いっ! 両目がむず痒いぃ!」
ブゥん……。
「──はっ、はっ、と、とまった」
おい何しくさる。
片思いのラブレター燃やすんじゃないのか。
「……まさか、この手紙を届けろ、なんて言わないわよね」
…………。
……今度は、震えない。
この沈黙は、肯定か?
「勘弁してくださいな……」
『────報告。ベクトル指数は、もう一つのアイテムにも連動確認。』
「? ナイフの方にも?」
この手紙とナイフは、セットってこと?
引き出しの中に手を伸ばす。
「! このナイフ、全部、透明だ……」
持ち手と刃は、普通は、別の素材で出来ている物だ。
でもこれは、刃から持ち手まで、続いた鉱石で、できてるっぽい。
すごい透明度だ。氷みたい。
! 中に、植物が入っている……。
「蕾がある……花かな?」
『────該当種の情報一致が不可能判定。』
「! あんたが、わからない植物って、けっこうレアね」
クラウンの知識には、初期ダンジョン生成時のコア情報がつまっている。
取り込んだ、アナライズカードの特性だ。
モンスター系や、植物系の魔物の情報もあると思ってたんだけど……。
まぁ、ダンジョンに生えないだけで、ありふれた植物かもしれない。
「で、これを、どーしろと……」
『────警告。ベクトル指数が変更されました。』
「──ああん?」
なんですって〜〜〜〜!!!!
「ちょっと! それってまさか!」
『────呪詛対象方角が変化します。』
「おおお、まだどこか行けってか〜〜!!!」
私はパシリじゃないのよ!
学校でも、その手の嫌がらせには決して屈しなかったわ!
くそぅ、こんな仮面に呪われてなければ、無視よ! 無視!
まったく人生、損してるわ!
流石にちょっと、後出しが過ぎる。
「次、こっちね!」 とか……。
よく、プライス君が、母さんにやられてたな……。
母さんに頼まれると、断れないからな……。
コロンッ
「! っと」
仮面が、いきなり外れた。
咄嗟に受け止めてしまう。
手の仮面を見る。
……変な感じだ。
目線が合う。
……ああ、これは、面倒事だ。
下手に手を出して、断れない感じ。
なんとなく、わかってしまっている。
この仮面は今、助けを求めているのだ。
──たのむ。
「……はぁー。私もお人好しに拍車がかかってきたわ」
熊は倒すし。
山火事は消すし。
呪いの仮面の頼みを聞くしね。
「クラウン、まだ、届け先がある事を前提に動く」
『────受諾しました。行動指針に登録。補助を開始します。』
蕾のナイフと手紙を持って、私は、空を登る準備をした。