くむ?
や、やば。
アンティのほっぺた、ふんづけちゃった。
気をつけないと……。
いま、ぼくは、頭の上の王冠を隠している。
大切な仕事だ。
クルルカンの正体がバレたら、お話が終わっちゃうんだって。
よくわからないけど、そんなのいやだ。
すれ違う子どもたちが、こちらを笑顔で見てくるので、
挨拶しておこう!
ふりふり、ふりふり、こうかな?
正解らしい。とても喜んでいた!
「……こりゃうさ丸。あんたの耳の遠心力で、私の首筋が鍛えられるじゃないの。耳じゃなくて、手をふりんさいな」
えっ。
いや、それは無理だよ、アンティ……。
きみの頭の毛、すっごいサラサラなんだ。
前脚なんか離したら、ツルッといくよぅ。
ただでさえ太陽の光を反射して、眩しいのに。
いま、ぼくが掴まってられるのって、
けっこう、すごい事なんだよー?
「おう、アンちゃん!」
「あ、今日はおっちゃんがいる!」
"もん"の所に、大きな男のヒトがいた。
このヒト、会ったことあるな。
すごく、優しそうなヒトだ。
ヒゲイドさんよりは、小さいかな?
「今回はいきなり帰ってきたから、焦ったぜ」
「あはは、ちょっと月末に用事ができそうでね……はぁ」
「? なんだ、元気ないじゃねえか、どした?」
「あ……えと、その……"冒険者の集まり"みたいなのがあるかもしれなくて……ちょっと、緊張してるっていうか……」
「ほぅ! 冒険者は、そんな会議みたいなもんがあるのかい! 俺は途中で挫折しちまったからなぁ……やるじゃねぇか! アンちゃん!」
「え? い、いや私がすごいってことじゃなくて……」
「むぅ? なんだ、ケンカごしのお客も手玉に取るアンちゃんが、緊張するほどの相手がくるのかい?」
「そ、そ……けっこう、すごい人たちの集まりで……」
「すげぇじゃねぇか! ワクワクすんな!」
「はは……」
「じゃあ、あの子もくるのかい?」
「え?」
「ほら、あの子さ!」
「???」
「ほぉら! "紫電"!! 紫電の魔法使いさ!」
「──!!」
「アンちゃんの憧れの魔法使いだろぅ!? 会えたらいいな!!」
「──……そ、っか……そいう、可能性もあるのか……!」
「なんだぃ、いつか冒険者として、探し出してやる!! くらいの意気込みだと思ったぜ!! がはははッ!」
「お……! おっちゃんありがと! ちょっと元気でたっ!」
「お? おぅよ! ま、体に気をつけな! 応援してるぜ!」
「うんっ!」
大きな"おっちゃん"とアンティは、
手を、パンッて、打ち合わせてた。
"ハイタッチ"って、あれのことかな?
ぼくの前脚でも、できるかな??
街を出てしばらくすると、アンティは"ついんてーる"になった。
"ふたつの尻尾"? ??
ぼくのしっぽ、そんなんじゃないよ?
「ヒキ姉の話を信じるなら、バスリーさんのとこ、寄れそうだね!」
『────概算で可能判定。"プレミオムズ集会"の予測開催日まで:数日の余裕があります。』
『>>>あ、ぼくのお墓、まだ精霊花に埋もれてないかなぁ……』
──!
また、アンティが、誰かとしゃべってる!
ちょっと前から、聞こえるようになった。
うーん、もしかして、この"王冠"さんかな??
よく聞いてると、そんな感じがする。
なんで急に、こんな声が、
はっきり聞こえるようになったんだろう。
ふしぎだ……。
「お昼に間に合うかな……少し急ぐわ。うさ丸! あんた頭じゃなくて肩に掴まんなさい? ちょっと、激しいわよ?」
「──うんッ!」
アンティのはやさは、すごかった!
ふつう、木はタテに生えてるでしょう?
でも、今はぜんぶ、ヨコなんだ!
地面が、左にある! 空が、右!
アンティの左の肩とかから、ごぅごぅと、火が出てる!
すごい! これで浮いてるの!?
真横になったアンティが、
ぴょんぴょんと、真横の木々を、とびこえる!
すごいすごい!
世界の向きがおかしいや!
やっぱり、最高だね!
「う、うさ丸、もちょっとしっかり掴ま──……」
「にょやぁぁぁぁ──……」
いっかいおちた。
めげない。
それから、世界の向きが戻って、
アンティは、足の金の輪っかで、
きゅるきゅる走ってる。……滑ってる?
しまったなぁ。
さっきの楽しかったのに。
「……くるかも、しれないかな……」
『────詳細入力。』
『>>>あぁ、さっき門番さんが言ってた……』
「うん。"紫電"。プレミオムズ集会に、さ?」
『────アンティの:憧れの人物と登録されています。』
「! ええ、そうよ! あの子の雷魔法は、ホントすごいのよ!」
『>>>はは、どんな感じだったんだい?』
「えとね、とにかく、同時に落ちるの、雷が。詠唱が無くて、手を、まっすぐ空に上げてね?」
『────同タイミングによる一斉攻撃は:バッグ歯車で再現が可能です。』
「や、あれは反則だから! その時まだ、私もあの子も、11歳だったんだよ!?」
『>>>その歳で、無詠唱か……確かに、すごいな』
「でしょ!? でしょ!?」
『────クルルカン。クラウンギアは:通常魔法の知識が不足しています。補足願えるでしょうか。』
「う……それって、私が歯車法以外は、魔法がまったく使えないからよねぇ……ぐすん」
『>>>落ち込まないの。きみはそのチカラで、いっぱい助けられたさ。んーとね、ぼくの生きてた時? まぁ200年くらい前は、無詠唱はだいたい35歳から40歳の人が、よっぽど才能があればできてたかなぁ……ほら、きみと模擬戦したレンカって子も、口はボソボソ動いてたろぅ?』
「そ、そだったかな……」
『────アンティは:魔法の軌道自体を読んでの回避行動を多用していました。』
『>>>ね! 生身でそれはすごいから! ぼくはかなり、スキルだよりだったし……あ、でも慣れると、詠唱の口パクと、相手の目線で、だーいたいの魔法の向き、読めるよ!』
「……んなことできるの、先輩だけだわ……」
『────クルルカン。あなたの未来予想力は:尋常ではない。』
『>>>そ、そーぅ? 目線、読むだけだよ……? 後輩ちゃんならできそうなモンだけど』
「あ──やだやだ、ホンモノの"英雄サマ"はコレだから」
『>>>な、なんだよー、その言い方はー。ぼくもまさか、自分が絵本の主人公として有名になってるとは、思わなかったよー。まだ200年しか経ってないのにぃー』
「あ……。ねぇ、先輩?」
『>>>? なんだい?』
「前から聞こうと思ってたんだけども……」
『>>>??』
「言いにくかったら、言わないでね?」
『>>>!』
「……──"狂銀"って、ホントにいたの? 」
『>>>────、……』
『────……。』
「ごめん」
『>>>いたよ』
「!」
『>>>せんっ……"狂銀"はね、力が、抑えられなくなったんだ……』
「……! ……」
『>>>"氷"のチカラが、暴走してね……あの人が行く所は、全てが白銀になった』
「──! ……だから、"義賊クルルカンの冒険"の最後のページは、真っ白なんだ……」
『────……。』
『>>>あの人も、素早い魔法が得意だったんだよ? さいしょは、ああじゃなかったんだ。"氷乱"って言ってね? こぅ、逆さまのツララが、地面をズバァっ! て伝わって、ビシビシ! って、生えてね?』
「せんぱい……」
『>>>その氷に触れたら最後、氷の鎖が隠されていて、身動きが取れずに、足から凍らせるんだ。訓練相手で勝てる人なんていなくて……すごいカッコよくて……』
「……わたし、やな事聞いたね」
『>>>──ッ!! そうじゃない。いいさ……。はは、つい話してしまったね……』
『────……。』
「…………」
『>>>あああ───!! ごめん、ぼくが全面的にわるい、暗くならないでくれ! やぁ──、バスリーちゃんトコ行くの、楽しみだなァ────』
……。
むずかしい話で、よく、わからないところもあったけど、
この男のヒトは、むかし、つらいことがあったのかな。
「……おせっかいかも、しれないけどさ……」
『>>>──! ……ん?』
「その人も……"狂銀"も、先輩みたいに仮面になっててさ……? その……また会えて、おしゃべりできたら、いいね……」
『>>>! ……ありがとう。きみもな』
「え?」
『>>>ほら、"し・で・ん"っ! 憧れの人、なんだろう?』
「! ぁあ! ……──ははっ! うん……私ね? あの子の名前、知らないんだ……」
『>>>そうなのかい?』
「うん。"紫電"って、そりゃ本名じゃないだろうし……カーディフの街門の前で"ありがとう"って言うので精一杯で……なまえ聞くの、忘れちゃったの! ふふ……」
『>>>……あえるさ』
「ありがと」
『────アンティ。まもなく:"精霊花の丘"です。』
「──! おーらい!」
『>>>……そうか、"かめん"……かお、か……』
ほんの少しだけ、明るい雰囲気になって。
ひらけた場所に、ついた。
しろい! 光ってる!
昼間なのに、わかるね!
一面の、花畑だ!
……あれ、そーいえば、ぼく……、
この花、食べたことあるような……?
──ずぼぶっ。
「──おわっ! ……なんか、めちゃくちゃ茂ってない? 精霊花……。ヒザまで埋まるんだけど……」
『────花弁部:地表より:平均30セルチ単位です。』
『>>>す、すごいな……あの"蕾のナイフ"から、よくもまぁ、ここまで……』
「これ、うさ丸落ちたら、花で見えなくなるわよ?」
や、やめてください!
前を見る時に、
いちいち、ぴょんぴょんしなくちゃいけなくなる!
「いや、これほんとすごい精霊花まみれね……隠れんぼ、し放題じゃないのよ……」
『────前回よりも:面積も増えているようです。』
『>>>え、これヤバくない? バスリーちゃんたち、大丈夫か……?』
「うーん、とにかくお家に行かないことには……」
────この時、
ぼくを含めて、みぃんな、油断してた。
ものっすごく、油断してた。
だから、そいつが立ち上がった時────、
────シャラ──……。
『────くむ?』
「 」
『──── 。』
『>>> 』
なるほど、声がでなかった。
めっちゃおっきいウルフが、目の前に、いる。
一巻のおまけは、紫電のお話です(^^)。










