うさぎさんぶれいこう さーしーえー
人生、色々、あるもんですよ。
私が言うんだから、間違いない。
自分のスキルがしゃべりだしたり、
呪いの仮面が先輩になったり、
食堂娘だったのに、絵本の主人公になるし、
……もぅ、いみわかんないわね。
今も前で、馴染みのラビットが、巨大化するしさ……。
「……──、──……」
地面にペタンと座りながら、ポケットの中に手を突っ込んでた。
ここにはね、"しろいはぐるま"が入ってんのよ。
紫の宝石がついた、まっしろな歯車がね。
私には、先生がかけた防御の魔法があるよ?
でも、目の前の"うさぎの騎士"は、丸裸もいいトコだ。
こんな所で、白玉肉のグリルになられちゃ、目覚めが悪いって。
料理すんのは、食う必要がある時だけよ。
この真っ白なバッグ歯車には、街ひとつ覆えるような、ヒールスライムがしまわれてる。
効果はわかんないけど、傷を癒やすには、もってこいのはず。
おい、うさ丸。
……あんたはね、もう友達なのよ。
そう簡単には、グリルにはさせないわよ。
おら、無理せずに、こっちにきなさい?
……ねぇ、うさ丸?
────。
「──、──なん、で……?」
くるくる、くるくると。
───炎の、ダンスが、はじまる。
おかしい。
何も、焼けるにおいなんて、しない。
まわってる? ほのおが?
なにが、起きているの──?
" ──ぎゅううううううんんんんんん──……! "
「──え?」
聞き慣れた音がして、ビビった。
今のは、はぐるまが回る音……?
まさか……。私、今は、使ってないよ?
でも……すぐ、目の前から、聞こえる……?
" ──ぎゅううううううんんんんんん──……! "
「な、なんだ……?」
「何の音よ……?」
「炎の中から聞こえるぞ……!」
「あのラビットちゃん、どうなったの……?」
「! 見ろっ! 炎が……!」
「「「まわってる!?」」」
「そ、それだけじゃない! 何だか、火が小さく──……!」
"──ぅぅぅううんんんんんん──……!!"
みるみると、炎は。
二つの渦になって、小さくなっていく。
これは、まるで、あの山火事を、吸い込んだ時みたいだ。
左と、右に、螺旋をつくって、
吸い込まれて。
吸い込まれて。
吸い込まれて。
────炎に隠れた、姿が見えた。
" ──うぅぅぅぅぅ、ぅぅん─ ─ ─…… "
──炎はぜんぶ、その、赤いグローブに、おさまった。
私の金色の瞳は、今、まん丸だろう。
目の前の、彼みたいに。
「あんた……うさ丸、だよね……?」
『────……』
凛とした瞳。
しろい、まん丸の巨躯。
太陽を向く二つの大耳。
赤い、でっかい、りんごみたいなグローブ。
そこまでだけなら、さっきの彼だ。
でも、今の彼は、大きな赤いシューズを履いている。
耳に、歯車のリングが回る。
グローブとシューズには、赤のスキマに、金の煌めきが見えた。
うさ丸は、ゴーグルをしている。
似たものを、知っている。
ウチの食堂で、肉を丸焼きにする時に、
父さんが目を守るために、着けるゴーグル──。
そう、それは。
────"グリルゴーグル"に、似ていた──。
クラウンが、髪のスキマから覗き見たのか、
彼を、アナライズしてくれる。
『────分析完了。
────対象名【 ウサマルオーブレイズ 】
────種族名:スーパーボゥルラビット。
────弱点:不明です。
────全長:3メル33セルチ単位。
────ユニーク認定されました。
────現在:対象名"ウサマルオーブレイズ"の流路に、"ほのおどらいぶ"が完全に同期しています。
────武装解析。
────歯車法により:"友軍機認定"されました。
────流路同期を開始します。
────"バスターボンバーユニット機構"のデータをインストール中……。』
「は、ちょ……待って、まってって……」
う、"うさまるおー"!?
ゆ、友軍機認定って……!?
てか、あのグローブとシューズ……!
あ、明らかに"ほのおどらいぶ"、取り込まれてるでしょう!
な、なんか……赤い軽鎧で武装したみたいになってるわよ、うさ丸……?
あ、こっち見た。
『 ………… 』
「 ………… 」
なんだ……やんのかこら……。
『 ──にょきっとやんなっ! 』
「──ぅおッッほいぃぃ!! なんか語尾ちがうぞうさ丸ぅぅ!」
な、な、なんでやねん……あわわわわ……。
こいつ、これ以上鳴き声イカれたら私の手に負えないわよっ……!?
『>>>う、うわぁ……今、お団子頭の隙間から観測してるけど……いやぁ、カッコ可愛いねぇ……超つよそうじゃん……』
「ああああ、でかいラビットってだけでも頭かかえたいのに、赤い鎧でめっちゃ武装しちゃってんだけど、この子……」
『 にょきっとぉやぃなぁぁ〜〜 』
やぃな〜〜、ちゃうぞッッ!? うさ丸ぅぅ!!
ここ、私の学校だぞぅっ!?
おまえ、私の召喚獣扱いになってんだぞっ!?
おんま、ちょっ……、でっか……、自重してぇな!!
『>>>ウサマルオーブレイズ……。"ブレイズ"って、"炎"って意味だよねぇ。兎さん……炎とお友達になったの?』
「え……"蒸し煮こみ"じゃなくて?」
『 にょ、にょにょにょにょお……! 』
ガクガクブルブル……。
「あ……こいつ、うさ丸だわ……」
「────分析完了。
────【バスターボンバーユニット】:
────炎系魔素エネルギーを吸収し、グローブ部:及びシューズ部より開放する格闘系流路放出型ユニットと判明。
────必殺技:不明。」
「か、格闘系……ラビット……?」
『>>>やけにすんなり情報が引き出せたね! やっぱり、"ほのおどらいぶ"が、なんかの拍子に、うさ丸専用の装備になっちゃってるから、流路が繋がってんのかな?』
「え、えええぇぇ〜〜!!?」
『────肯。"ウサマルオーブレイズのコンディション"は:逐一こちらでモニターすることができます。歯車法の能力の一部が:取り込まれたと予測。』
「"歯車法"を、取り込んだ……? な、なんでうさ丸にそんな事ができんの……」
『 にょ、にょきっとなぁ〜〜? 』
あ、いつもの鳴き声だ……。って、
可愛い声で首捻ってるバヤイじゃないわようさ丸!!
耳がゆっくりかたむく……、わぁ、こいつ、でかいなぁ。
よくわからんが、あんた歯車法の一部みたいになっちゃってんのよ!?
どどど、どうすればいいの……!?
「な、な……」
「ん?」
「な、なんですの、そのラビットの姿はッッ……!」
「あ……」
レンカと模擬戦してるの、素で忘れてたよ……?
「「「「「「…………」」」」」」
……。
うわぁ……。
周りのギャラリーのみなさま、
全員、絶句してんじゃないのよ……!
め、め、目ッ線、こっわぁぁ────!!
みんな黙ってんのに、全員の視線、こっちに刺さってるぅ!!
お、おいやめ……見るな、やめろ見ないでぇぇ────!!!
「な、なんて雄大な姿なの……ッ?」
え、そーぅ? まぁ確かにでかいわよね……。
唯一、対戦相手のレンカだけが自我を取り戻している……。
すっげぇ冷や汗、かいてらっしゃるけど。
「き、巨大なラビットが何をするかと思えば……まさか、部分鎧を着込むとは思いませんでしたわッ……!」
あ、部分鎧……なるほど、そういう風にも見えるわね……。
『 にょきっとやんね! 』
真っ白いふわふわボディに、
真っ赤な歯車の耳飾り、
真っ赤なゴーグル。
真っ赤なグローブ、
真っ赤なシューズ、
お、尻尾にも、でっかい赤の歯車ついとる。
「ふ、ふん……! それが、あなたの召喚獣の"真の姿"と言うわけですか……! 人に、奥の手を出させておいて、さらにこんな手順を踏むとは、なんて精神攻撃を……! アンティ・キティラ、あなたって人は、なぁぁんていやらしい策士ですのッッ!?」
「あ……?」
ちょ、おい、レンカ、こらきさま。
私は何もしておらぬ。
こいつ、勝手に空から降ってきたかんな?
巨大ラビット襲来とか、
食堂娘には、ちょっと予測不可能な天気やかんな?
「ええぃ! そんな姿、こけおどしに決まっていますぅ!! "赤の戦士"!! やっておしまいなさいぃぃぃ!!」
「──!!」
──ごぉおおおおお!!!
3体の炎の騎士たちが、私たちに襲いかかる!
うわぁ、やっぱ見た目がこわいっ!!
だって、燃えてくる人の形したモンが、
剣持ってこっちにくんのよ!?
ホラーかっ!!
『 にょきっとなっ!! 』
「! うさ丸……」
……──ズオオオ……。
おお、なんだこいつ……。
凛とした眼差しと、真紅のヨロイ。
わぁ……なんか、かっこいいな……。
そして、でかいな……。
うん、でかいな……。
……いや、しゃーない。
こんな地元の大勢の前で、歯車法は使いたくない。
今は……うさ丸に、頼るしか────。
「……私のこと、まもってくれる? うさ丸……」
『 ──! にょきっとなぁ!! 』
「くらいなさぁああい───!!」
──ぼぼぼぉおおんん!!!
赤の騎士達から、たくさんの炎が、弧を描いて、せまる。
「────……」
『 ──にょ……! 』
「……!」
大きなうさ丸は、スッ、と、
赤い歯車付きのグローブを、少し上で、広げた。
そして、大きな手と炎が、ぶつかって────。
……──どぉおお、しゅぅぅうううう──……。
「──なっ!?」
「わ……すいこんじゃった」
『 ──にょんやぃ! 』
──ぎゅうううううんんん……。
今のうさ丸のグローブには、真っ赤な歯車の輪っかが、
いたる所に組み込まれていて、ぐるぐる回ってる。
てか、歯が結構陥没した歯車だから、まるで螺旋状に筋が入った車輪みたいだ。
かなりの速さで回ったりしてるけど、形は変わらないのかな?
なんにせよ、触れたらイタイじゃ済まなさそうだ。
「あんたすごいわねー」
『 にょんやぁ──♪ 』
「くっ……! それなら!」
……ぼぼっ! ぼぼっ! ぼぼっ!!
レンカが、小分けに炎の球を撃つ!
この子すごいなっ!!
あんなゴーレムを3体も操りながら、あんな細かな魔法を操れるのっ!?
こんな子が後衛に入ったら、無敵のパーティができるんじゃないの!?
うわっ、火ぃきたっ!
でもっ、今のうさ丸なら……?
……──ぎゅうううんんん──!!
わ!
耳に付いている赤い歯車も、回ってる!
あ! や、やった、吸い込んでる。
ビッグうさ耳、やるわねっ!
「わ、私の炎が、うさ耳にッ……!? 」
大きな魔法も、小さな魔法も防がれて、レンカもショックみたい。
まさか、自分の魔法がうさ耳に無効化されるとは、夢にも思うまい。
あの子、さっきからすごい魔法を連発してる。
そろそろ、魔力切れにならないかな?
あのゴーレムを倒したら、かなりの魔力を無くせるかもしれない!
「──うさ丸! まず、あのゴーレムを破壊できる? レンカは傷つけちゃダメよ!」
『 にょっき! にょきっとなぁぁあ──!!! 』
『────アンティ。敵勢力の魔力切れを狙うのですね。』
「む……それもあるけど、ちょっと、思いついたことあるのよ。ま、上手くいくかは、わかんないかんねっ?」
『>>>おっ? どうするつもりだぃ?』
「くぅうう──!! くそぉ──!! くやえぇ────!!!」
「! おわぁっ」
炎の騎士が、燃える剣で突っ込んできた! しかぁし!
私は、かぁなぁりぃ疲れてるけど、まだ動きを捉える感覚は、ナマっちゃいない!
二代目クルルカンなめんなあっ──!!!
「──うさ丸っ! 右のヤツが最初にくる! 左に行けば囲まれる! 右からやっつけなっ!」
『 にょいっ! にょきっとなぁッ! 』
……──敵の、さいしょの炎の、斬撃が──……!
『 ──にょ、 』
華麗にかわされ、滑り込み、
『 きっ──、 』
赤いピカピカした拳が、……ん? ……火ぃ漏れてない?
『 となぁあ────!!! 』
振り抜かれて。
──どぉぉおおおおおおおおおおおおんんんんん!!!
「…………」
『────……。』
『>>>…………』
「…………」
「…………」
「…………」
「「「「「「…………」」」」」」
『 にょっわ……にょわわわわあああぁぁ……!? 』
今日のトピックス。
うさ丸さんに殴られたモンは、大爆発する。
……炎のゴーレムが、炎により、ほふられたわね……。
……地面の火の粉が、やべぇ……。
……残り、2体いるわ。
……あ、泣きそう。
……。
「すべてをグリルにする気か……アンタ……」
『 にょ、にょやぁぁあああ────!? 』










