ちびってません さーしーえー
おちてる。
試験じゃない。
物理。
科目じゃない。
────私、物理的に、おちている。
──────ごおおおおおおおおおお!!
「くっぐらゔゔううううん────!!!」
『────反重力機構、展開。』
やあ、みんな!
反重力機構の仕組みは、簡単だよ!
1.小さい歯車を軸に、大きい歯車を回すんだ!
2.大きな歯車を、上に回る時に大きく、下に回る時に小さくするんだ!
3.それをいっぱい体につけてね!
────さぁ、みんなもやってみよう!
(キラッ)
ヴウウウウウウン⋯⋯
⋯⋯空中に、停止した。
30メルは、落ちた。
まだ、底が、深い。
「!っは! はっ、はっ、はっ、はっ、はっ⋯⋯」
涙、じんわり⋯⋯。
『────重力値±0。基点停滞中です。上部入口より、38メル56セルチ地点。』
穴が、20メルくらいの深さなら、しんでた⋯⋯。
「う、う、う」
『────外傷無し。入力待機中。』
「おぅ、おゔぢがえるぅう〜〜〜〜〜〜!!!」
ちびってない
ちびってない
ちびってない⋯⋯
「ぐっ、ぐっ、ぐすっ」
『────クラウンギアは激励を申請。』
「うう〜〜!」
すいません⋯⋯
1フヌだけ、マジ泣きさせてください⋯⋯。
は〜〜⋯⋯。
「⋯⋯行ぎましょう。ぐらうん、暗さをどうにかしたい。できる?」
『────"カーディフの火"の利用を提案。』
「! や、山火事じゃない! ⋯できるの?」
『────隔離展開します。』
とても小さな歯車が、10枚ほど、周りに出現する。
ボッ! と、火が出た。
すごいね⋯⋯火を小分けにしてるんだ。
空飛ぶロウソクみたい。
⋯⋯あれ? まてよ?
火って、アイテムバッグとかに入れられたっけ?
でも、山火事も入ってるし⋯⋯
「⋯⋯いっか。クラウンありがと。これで行くよ」
『────低速降下します。』
きゅん、きゅん、
きゅいいいいいいん!
ゆっくりと、体が穴の底へ降りていく。
空飛ぶロウソク達も一緒だ。
熊を倒した必殺技、"断罪執行"。
何故、こういう名前なのかは、わからないが⋯⋯
この技で、私は空に浮いた。
回転遠心力を使った、准反重力機構。クラウン談。
ただ、万能って訳じゃない。
わかりやすく言うと、
上下運動は簡単。
前後、左右運動は、まだ難しい。
姿勢が上手く制御できないのだ。
鳥のように、自由に飛ぶことはできない。
⋯⋯スキルレベルが上がれば、どうにかなるかもしれないけど。
上に浮き続ける事はできるけど、まだお星様になる気はない。
今はその逆。ゆっくり下に降りている。
「ふっか⋯⋯くら」
下を見ると、大きな、おおきな空洞だった。
恐怖は感じるが、クラウンが、かなりゆっくり目で降ろしてくれてるので、そこまででもない。
⋯⋯気を使ってくれてる?
壁面は、石を積み上げたような⋯⋯そう、でっかい井戸みたいだ。
湿気があり、あんまりよい気分にはならないが、とても大きな空間のため、妙な神秘さを感じる。
静かだ。
身体を浮かす歯車の音が響く。
小さないくつもの火が、暗闇で映える。
『────底面確認。102メル87セルチ。』
「そんなに⋯⋯100メルって、縦だとこんなに深いのね」
ゆっ、くりと、着地する。
目の前を火たちが照らす。
大きな洞窟道が、一つ。
しかし、舗装されているように見える。
仮面は、落ちた風圧で、オデコらへんにずれていた。
⋯⋯もうこのままでいいか。
「クラウン。あなたの頭には、初期ダンジョンの知識があるわよね。ここってまさか⋯⋯」
『────分析完了。
────正。確かにこの地形には、ダンジョン基盤が見られます。魔力値は、上部魔法陣以外は、0。ダンジョンコアは消滅していると予測。』
「迷宮跡地⋯⋯」
驚いた。
ドニオスとカーディフの間に、こんな所があったなんて。
呪いの仮面は、役目を終えた迷宮に、私達を誘ったのだ。
この洞窟⋯⋯舗装されてるから、水路みたい。
学校の社会科見学を思い出す。
「進む。動く物がいたら、教えて」
『────検索継続。』
小さな歯車の火を、先に送りながらあるく。
流石に怖いな。くらい。
横穴は、まるで光がない。
と、思ったら、道の両側が点々と、光り出す。
また、仮面が少し温かくなった。
「光の魔石⋯⋯あんたに反応してるの?」
デコの仮面を、指でカンカンとつつきながら言う。
先ほどの魔法陣も、この仮面をつけないと見えなかった。
この仮面をつけた人が通ると、道が示される仕組み。
⋯⋯何が隠されているっていうの。
魔物が住み着いている可能性も考えたが、何にも会わなかった。所々、道を埋めたような跡がある。
この1本道は、意図的に作られている。
突き当たりに、着いた。
天井が少し、高い。
火で、照らされる家具。
ここは、⋯⋯部屋だ。