ぶきじてん
『>>>いやぁ〜〜、ひゃくてんだったねぇー』
『────お見事です。クラウンギアは:称賛を表明。』
「い、いや……あんた達、この状況、打破する知恵、かしてよぅ……」
「うおおおお!! すっげぇ〜〜!!! なんだいまの!!!」
「やっばッッ!!! すっげ、やっばッッ!!!」
「ほらぁ!! やっぱり金さじちゃんじゃん!!」
「あっ!! 試験の時にいた、マブい子か!」
「え、なに、なんなの、いまの空中三段蹴り……!!」
「ハンパねぇ!! おれ、しっかり見ちゃったよ!!」
「き、金さじさま……! あなたは私をどこまで興奮させるの……ハァ、ハァ……」
「そのとき、神が降臨なされた」
「え、てゆかマジですごくない? あんなこと普通、できないっしょ!」
「リズ先生のクラスだったのか……! メモメモ……」
「サインください」
……──わいわい、ガヤガヤ。
「あわ、あわわわわわわ……」
ぐるっと、囲まれている……。
2クラス分の生徒が集まっているので、
簡単に逃げられない。
ああ、ダメだ……なんだこれ。
どう、しゃべっていいかわからん。
私、年上と、年下の人は、お客さんで慣れてるけど、
まったく、同年代の子たちとは、
ちょっと会話し慣れてないのよね……。
魔無しだったこと、けっこう気にしてたかんなぁ……。
同じクラスの顔見知りならともかく、
隣のクラスとか、ぜんぜん知らん。
キョドりますよぅ……。
「あ、あの、私、かえ」
「てか、なんで戻ってきてんだ!? ドニオスで冒険者やってるんだろ!?」
「あ、いや、用事があって、試験はやめに受けにきて」
「用事!? ね、それって、クエストとか、そういうの!? 金さじちゃんって、冒険者として、どんなことしてんの!? 気になる!!」
「え、いや、あのその」
黄金の義賊の格好をして、手紙を配りまくってるとは言えん……。
「いろいろ、いろいろ、よ」
「あ! "守秘義務"ってやつだな? 依頼人の秘密は、守るってか!」
「えー! なにそれ! でも、あんなすごい事できるなら、すっごい特別な依頼とか受けてるんだよね!!!」
「えっ、や、そ、そんな……」
最近した特別な仕事は、襲ってきた子供にスイカをあげて、逃げたくらいだし……。
ん? しごとか……?
「なぁー、かたいこといわず、おしえろよ〜〜!」
「そーだそーだ!! 私たちの仲でしょう!?」
「な、な、な……」
ぷしゅ〜〜〜〜……。
な、なんで、こいつら、こんなに私に馴れ馴れしいの……。
あれ、こいつら、こんな感じだっけ……?
前はバカにされて追っかけてたのに、
逆にこんな迫られると、どうしていいかわかんないよぅ〜〜!!
非常に困っていると、外野から、声がかかった。
「な、なんですの! そんな魔無しの子のことばっかり見て!」
──赤いくねくねの髪の女の子……レンカって子ね。
「あん、なんだよレンカ!」
「高飛車女がきたぜ……ちょっと炎属性がすごいからってよ……」
みんなが、腕を組んでふんぞり返ったレンカの方に向く。
……ほっ。
助かった……
あの視線の中心にいるのは、キツいわ……。
「あんたさっきのファイヤーボール、何よ!」
「おまえ、調子のりすぎ」
「どうせ、目立とうとして、力いっぱいやったんだろ……」
「ぐ……、む……」
あ……。
いま、レンカが、ミユナとセヴァの方をチラ見して、少し、ホッとしたように見えた。
……この子、たぶん悪い子じゃないわね。
カッコつけようとしたのは、ま、そうなんだろーけど……。
「てかさ! おまえ、金さじとミユナ達に、ちゃんとお礼と、ごめんなさい、言えよ! お前のせいで、あわや大惨事だったじゃねえか!」
「そうだそうだ! 偉そうだぞ!」
「う……!」
「あ、いいよいいから……」
正直、もう帰りたいです……。
おなかいたいし……。
あんな気の強そうな子と、あんま関わりたくないす……。
「おまえなんかより、金さじのほうかすごいに決まってら!」
「そーよ! あんた、魔法ぶっぱなしてるだけじゃない!」
い、いや、あのファイヤーボール?
普通にすごいと思うんだけど……。
なんで私のほうがすごいって結論になんのさ。
私は山火事だよりの食堂娘だよ?
「「「あ〜やまれ、あ〜やまれ」」」
「う、うう、ううう……!」
ちょ……やめてあげなって……。
いいじゃん、誰もケガしてないんだから。
次から気をつければいいのよ……。
ただでさえ、プライド高そうなのに……。
あ、ほら、今にも爆発しそうな────……、
「む、ムッキぃ────────!!! なんですのなんですの──!! そんなにその、魔無しの金ぴかっ子がすごいんですの!!?」
「うわぁ……」
ほらぁ見ろ、怒ったじゃないの……。
なんてバールモンキー的な怒り方なの……。
ほら、ほらぁ! めっちゃ私のほう見てるじゃん!
「そんなに言うなら、魔法で私と勝負ですわ!!」
「げっ……!」
なぁにぃを言い出してくれちゃってんだこいつ!
私ははやく帰って、ゆっくりしたいのよぉおおお!
「────それは、よい考えですね」
「──!!」
「ええ……」
二人いる先生の内、魔法学の先生が声をかけてくる。
はげしくイヤな予感がする。
「ミス・キティラ。先ほどの動き、見事なものでした。遠く離れた街で、冒険者を目指しているとは、本当のようですね」
「え、えと……」
「──ふん!! なんでこんな魔無しが冒険者で、私が訓練をしなければならないの!!」
「う、ああ──……」
歯車法のことは言えん……。
山火事とかの格納も、"時限結晶"に繋がってくる……。
どうしたらよいものやら……。
「しかし、ミス・サラマンド。先程の彼女の動き、あなたはすることができますか?」
「そっ──!! それは……」
「見たところ、ミス・キティラは軽技職のスキルがあるようですね」
いえ、全然違います……。
私、郵送配達職です……。
「ミス・サラマンド、それに皆もききなさい。属性魔法だけが、この世の全てではありません。身体強化、武器の強化も、また、極められし魔法の体系なのです」
「すっげ……軽技職だってよ……」
「え、でも"格闘職"っぽくなかった?」
「何にせよ、金さじちゃんは、私たちより先に、夢を追って隣街まで行っちゃったってことよね!」
「なんか、すげぇよな……!」
お、おお……?
なんか話が、一人歩きしてるな……。
私のメインのお仕事は、お手紙の配達だって……。
逃げるようにドニオスに行ったから、
てっきり後ろ指さされてると思ってたけど、
思わぬ方向に評価されちゃってるわね……。
「ミス・キティラ、ミス・サラマンドの挑戦を受けてはくれませんかな?」
「! い、いえ、先生……私、火の魔法、こわいですし……」
「ふんっ、逃げるんですの!?」
「あ、うん。できれば……」
「なっ──!?」
「──はは、大丈夫ですよミス・キティラ。私は魔法の威力を軽減させる、"マジックイージス"が使えます。あなたにもかけてさしあげましょう」
「え!? いや、あの……!」
「どれ──……かの者の魔を退けよ──"マジックイージス"!!」
あっ、勝手に魔法かけやがった!
ばかぁ! 私ははやく帰りたいのよ!
わ、なんか身体に、透明の光の膜ができたような……。
ふんぞりかえってるレンカって子にも、かかってるみたい。
あ、光、消えた。
「──これでよし。さて、では、ルールはシンプルに、"相手の体に一撃、当てた方が勝ち"、としましょうか」
「ふん、よろしくてよ!」
「ま、まじでやるの……?」
「おおおっ! なんかおもしろくなってきやがったな!」
「がんばれ──!! 金さじちゃ──ん!!」
「す、すげぇ、"魔無しの金さじ"と、"赤熱のレンカ"が模擬戦やんのかよ!! ありえねー!!」
「いや、流石にレンカの炎魔法には勝てねぇだろ……」
「わかんないよ! さっきの蹴り見たでしょ!!」
いや、蹴んないからね……?
あ? でも一撃当てた方ってことは、
私が火を食らうか、私が蹴り入れるかしないと、
試合が終わらないってこと?
ぶるるるるるる……。
「ミス・キティラ。ミス・サラマンドは、杖を使います。あなたは何か武装しますか? 木の剣や、木の盾、木の投擲ナイフなら用意がありますが……」
「え、き、急にそんなこと言われても……」
「ふん、木のナイフなど、焼き払ってさしあげますわ!」
「うえ……」
んなこと言われてもなぁ───!
え、なんでこんなことなってんの。
私、この試合やらなきゃダメですか?
「「「ワクワク」」」
「「「ドキドキ」」」
く……まわりのやつらの期待の目が、すごいわ……。
くっそ……、しゃあない……。
ん、と……強いて選ぶなら、この木の盾、かな……。
持ってみると……。
「! おっも……!」
「ふふ……そんなへっぴり腰で私に勝てるの?」
いや、別にはやく負けてもいいから、帰りたいのよ……。
でも、"マジックイージス"の効果が、どの程度の防御力なのか、まるで、わからないし……。
盾……いや、ダメだわ。
私、今はクルルスーツ着てない。
当然、あれのスキルである、
"力量加圧"は、使えない。
武装で身体が重くなったら、避けれるモンも避けれないわ!
あ、さっさと終わらせるには、避けなくていいのか?
うーん……。
「……先生、この木でできた武器、持たなきゃだめですか?」
「いいえ? ミス・キティラの自前のものでもよいですよ。刃物などを使うようでしたら、"アタックプロテクション"もかけておきましょうか。よいポーションもあるから、安心しなさい」
また、勝手に魔法をかけてくる先生ぇ……。
うーん? 自前の武器?
……。
ヨトギサキ、ダイオルは論外。
包丁とフライパンを戦いに使うなんて、
私のポリシーがゆるさない。
サキとダイさんにも、悪いしなぁ。
イニィさんは……本体は私が持ってるけど、
今は身体はアブノさんのお店にあるんだよなぁ……。
ガルンがそばにいると、できる裏技らしい。
いま、イニィさんの杖を使ったら、
ドニオスの街から急に、
カーディフまで移動しちゃうかもしんない。
こんな緊急時でもない模擬戦で、
そんなことするのは可哀想だ。
接客中かもしれないし!
仮に、私がレンカに一撃入れるなら、
蹴りか、パンチと言うことになるかな?
……なんか、やだな。
模擬戦相手とはいえ、蹴るのはちょっと……、
手頃な、分厚い武器はないかな……。
あ、そんなに重くないほうがいい……。
分厚くて、重くないモノ……。
あ……。
「あれが、あるな……」
「もうっ! はやくお決めなさいな! いつまで私を待たせる気!?」
「あ──……」
どうやって、歯車から取り出そう……。
人目があるしな……。
いいや、ここに手ぇ突っ込もう……。
ごそごそ……。
「な……ちょ、キティラさん、あなた、何を急に自分の服の中に手を……!?」
「ちょ! 金さじちゃん! 金さじちゃん! おへそ見えてるよ!!」
「おいおい……金さじのお腹、だ……」
「な! なんか……色っぽくね?」
「おい!! 男子見んな!!」
「えっち!! ばかぁ!!!」
え? いや、そんな大騒ぎすること?
私、ドニオスでは、常時、おへそは露出してるわよ?
そこまで騒ぐほどのことでも……。
……──きゅうううううんんん!
──すぽっ。
「え?」
「「「え?」」」
「「「「「え?」」」」」
「ふぅ……──私は、これでいいわ」
「な、あなた……そんなものをどこに隠して……い、いや、それよりも、そんなもので、本当に私と戦うというのねっ!?」
「いよー」
これなら、殴っても、
心があんまり、いたまないかな?
「さるでもわかる威力、思い知るがいいわ」
「な、なんですって───!? ムキ────!!?」
私の手に握られているのは、
ログのお父さんがくれた分厚い本。
「バールモンキーでもわかる宝石・鉱石辞典」
である。
正気かよアンちゃん……:(´◦ω◦`):