お団子アイドリング さーしーえー
「……おや! 君は……!」
カーディフの街の入口で、若い門番さんに声をかけられた。
確か、コノボさんだ。
「あ、こんちゃ」
「やぁ! 久しぶりじゃないか! あれ……? きいていたより、帰りが早くないか? まだ月末までは、しばらく……」
「あ〜〜色々ありまして……」
あ、もちろん外の茂みで、
ヨロイからアブノさんチョイスに、お着替え済みよ?
……え? ハレンチだって……?
……そゆこと言わないの……。
あ……なんかやってもた感が……。
「隊長に会ったらよろしくな! 君が帰ってきてると知ったら、きっと喜ぶよ!」
「あー、門番のおっちゃんは?」
「この時間なら、きみん家の食堂だろうね。今日は隊長、非番なんだ。だいたい君が帰ってくる時に合わせて休みをとるんだけど、はは! 今回は、あてが外れたな!」
「あははっ! わるいことしたわね」
「……ほぉ」
「え、なに?」
「そのお団子頭、いいじゃないか!」
「えっ……あ、ありがとうです」
「ははは、なんで敬語なんだよ」
コノボさんに、笑われてしまった……。
よかった……さっき悪戦苦闘しながら、
アブノさんがやってくれたのを再現したんだけど、
うまくいってるみたいだ……。
ちゃんとクラウンが、中に隠れてるかな?
「あ、そう言えば……噂のアイツはいないのかい?」
「へ? ?? うわさのアイツ?」
「隊長が言っていたよ? 前に君が帰ってきた時、とても可愛いラビットを連れていたって──……」
「 」
『────。』
『>>>あ』
……やっば。
「連れてくるの、忘れました……」
「えっ!? あっ、はっはっは、そうなの? それは残念だなぁ」
「ご、ごめんなさぃ……」
「え、いや、そんなに深刻にならなくていいよ……え、なに、ホントに忘れてたの?」
……。
ホントに、忘れてたわ……。
ガチだわッ……!
が、ガルンの抱擁力がすごくて……。
またログたちに、会わせてあげたかったのにな……。
「うさ丸、ごめん……」
『────申し訳ありません。クラウンギアも:同行確認を怠りました。謝罪を申請。』
『>>>あー……、まぁ置いてきちゃったモンは仕方がないね……。ま、千年ぶりの故郷だ! ぼく、あんまりしゃべんないから、楽しんでおいでよ!』
『────む。また箱庭フォートレス内:檜風呂に籠城するおつもりですか。』
『>>>な、なぜわかったの……』
ああ〜〜しまったなぁ……。
戻ったらまた、うさ仮面かもしれないわね……。
……──ヴォン。
ヨロイの乳装甲から取り出しておいたギルドカードが、
ポケットの中で、響く。
さて、帰ってきたけど……、
できればすぐに学校に行きたいな。
試験を前もって受けさせてほしい! って、
やれるかもわかんない勝手なお願いをしに行くわけだし……。
今、キティラ食堂は、お昼前の戦地だしなぁ〜〜。
「うー、いや、でもやっぱ、顔は出していこう! そのままウチを素通りするのは心苦しい!」
街の中央まで駆け足で行こうとするけど、
……なんだろ、みょおに、懐かしいというか……。
気づけば、歩く速さは、けっこうゆっくりになってた。
……久しぶり、だな……。
大冒険、だったもんな……。
初めての場所で、寝泊まりしながら進んで、さ……。
帰ってこれて、よかったなぁ……。
街の中央から、少しそれた道。
美味しそうなにおいと一緒に、行列が目に入る。
みんなが並んでるお店には、オレンジ色の派手な看板がかかっている。
『 カーディフいちの味自慢! キティラ食堂 』
「へぃらっしゃい───!!!」
うゎあ〜〜、ゆっくり歩いちゃったから、
けっきょくお昼真っ盛りじゃん〜〜!
し、仕方ない、突っ込もう。
顔だけ見せて、学校へ、行く。
ゴクリ。
ダダダダダダダ……。
「 たのもぉ────う!!! 」
「ぅおっ!? なんだお前、て……!」
「おおっ!? アぁンティちゃんじゃねぇか!」
「な、アンちゃんか!?」
「おーい!! 看板むすめが帰ってきたぞおお!!」
「なにっ!? うおお!! 見ろっ、お団子あたまだぞ!」
「うわはははは! なんてでけぇお団子だ!」
「おお〜〜!! 久しぶりだなぁぁ〜〜!!」
「あらぁ、似合ってるわねぇ〜〜、その髪型」
「ママ──! 金色のダルマさんだ〜〜!」
「うわっはっはっは! ナトリの縁起物で、そっくりのがあるぜ!?」
「え、いや、みんな笑うが、あの髪型とあの服は、かなり似合ってると思うぞ……?」
「ばぁか、んなこたぁわかってんだよ! いやぁ、看板むすめ、百変化だなっ!」
……おぃ、いま誰か、ダルマ百変化って言わなかった……?
「あら〜〜?」
「お! ホントに居やがるじゃねぇか!」
「あっ!」
厨房から、金髪筋肉と、黒髪奥様が顔を出す。
「とうさ〜〜ん、かあさ〜〜ん、ただいまぁ〜〜!!!」
「おぃ、おんまえら、めでてぇぞ!!! 感動の再会だぁ!」
「おぅし、拍手だ、拍手しろ!!」
「ちげぇねぇ!! 割れんばかりの拍手だっ!!!」
「わたしもするぅ〜〜!!」
「え、じゃあママもしようかな?」
「「「 WHAAAAAAAAAAA────!!! 」」」
パチパチパチパチパチパチパチ────────!!!
「やッ!? や、な、やめぃ、やめてってぇぇえええ────!!!」
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいやめやめやめ────!?
でっかい金のお団子に、ゆるやか七分丈パンツスタイル。
初めての髪型と服で実家に帰ったら、
お店満杯のお客さんに拍手喝采とか、羞恥ぷれいだかんね……。
「あら〜〜おしゃれになって〜〜」
「あ、かあさ、むぎゅ」
抱きしめられた。
あたたかい。
横に、きれいな黒い髪が見える。
ま、まってまって、母さんったら!
めっちゃお客さん見てるから!
ひゅーひゅー言ってるからぁ。
「か、母さんぅ……」
「おかえりアンちゃん! ご飯食べる?」
抱擁から解放されて、母さんと目が合う。
相変わらず、すごい綺麗な金の瞳だ。
この人にくらべたら、私の瞳なんて、まだまだだ。
ああ、帰ってきたなぁ、って、思う。
「おおっ! なんか感じが違うな、最愛の娘よ……!」
「あ……ただいま、父さん!」
「デレク? この調子なら、結婚はすぐよ〜〜?」
「「「「「「「 ──なんだってぇ──!!? 」」」」」」」
お客さんと、父さんの声が、きれいにハモった。
「──にゃいにゃいにゃいにゃいにゃいにゃいにゃい────!!!!!!!」
「あら〜〜アンちゃん、ドニオスで彼氏とかいないの〜〜?」
「なっ!? アンティ!! おまえまさかっ……!?」
「ちゃう!! ちゃう!! いないっ!! それどころじゃない!!」
すごい話の流れになりそうなので、
強制的に話題を切り込む事にした。
「が、学校で用事があって、早めに帰ってきたのよ! ごめん、父さん母さん、ちょっと急ぐから、いまから学校行ってきて、いい?」
「あら〜〜」
「なんだそうなのか! かまわん、行ってこい行ってこい! プライスのヤツももうすぐ来るし、なんとかすらぁ!!」
「「「「「「「「ええ〜〜!!?」」」」」」」」
「あ、ありがと。じゃ、ごめん、ちょっと行ってくるね! にははははは……!」
名残り惜しむお客さんに手を振り、学校へ走る。
封印されしお団子の冠よ……(´-` )+