⚙⚙⚙ フライングカーディフ! ⚙⚙⚙ さーしーえー
メリクリ!ヾ(*´∀`*)ノ
────ドゥンッ!
「──ぶのさぁ──ん、ちゃいす──! ねぇー、ちょっとはやめに地元に帰ることんなったから、なんかピエロに見えない服と、あとガルン返してほしいん……」
{{ ちょ、ちょっとピエロちゃん、あ、貴女なんてナチュラルに、ドアを蹴り開けるの……流石の店長も怒り──…… }}
『──ガルン?』
巨大な真っ黒の二足歩行のワニが、
こっち、振り返りました。
「…………」
{{ …… }}
『────……。』
『>>>…………』
「む? おお! これは"姫"と、"約束されしせくすぃ"よ! ご無沙汰しておりますなァ!」
「……アブノさん? あのね、私ね、今、服屋さんに入ったのよ。そりゃ、ドアを蹴り開けたのは私が悪かったわ……でもね? 服を買いに来たのに、変態と、巨大な黒いワニがお店にいるなんて、ちょっと神様は、私に罰を与えすぎじゃない?」
「はっはっは! 姫よ、なァにを言うのであるか! 見よ! 装甲を上手く着脱することに成功し、ガルンは自らの手足で行動できるようになったのですぞ!」
『──ガルンガルゥ──ン!』
ずしーん、ずしーん。
「お、おお……ちょ、待って待って……くるんじゃねぇ」
ガルン、あんた本当にただのワニじゃないのよ……。
でっか……。
レエンでドンパチした時の縮小版やないの。
おいこら、背を伸ばすんじゃねえ。
天井ギリギリだなこいつ。
顔の比率がでかいから、
見た目はある意味、今の方が凶悪だわ。
『──ガルンガルゥ──ン♪♪♪』
「あぅわァ──……」
でかい黒いワニに抱擁される私。
目撃されたら憲兵さんがガチで助けにくるレベルね。
このドラゴンヨロイ着てなかったら、私でもちょっと怖いわ……。
『──ガルンガルンガ〜〜♪』
「あぁ、よしよし……アンタ、他のお客さんに抱きついちゃだめよ? キッティが討伐クエスト貼っちゃうかんね……」
うーん、見た目は凶悪な面にも程がある。
下顎がでかいから本当に食われそうね……。
ただ、私はこの子の性格(?)を知っているので、非常ぉーに愛嬌を感じる。
あんたホント頼むから、ヒゲイドさんにバレるなよ……?
「え、てか、バイクじゃなくなってるじゃないのよ……私、カーディフの街までアンタに乗りたかったんだけど……」
『────分析完了。形状変化に伴い:歯車法結合部が解除されています。』
「え、それってすぐにバイクに戻れないんじゃ……」
『>>>いや後輩ちゃん、流石にドニオス・カーディフ間をガルンで爆走するのはやめた方がいいよ……あんな光を飲み込みそうな黒のバイク、めちゃくちゃ遠くからでも視認されるし、あそこは距離が近いから、定期的な馬車も多い。むりむり、伝説作っちゃうって……』
「え! そ、そぉ〜〜う……?」
『──ガルルッ♪ ガ〜ル〜ルゥ〜〜♪』
あぁ……絵面的には絶対襲われてるみたいになってるけど、なんかこいつ、可愛いな……。
一般の方々が見たら、クルルカンのカッコした女の子が、でかい黒いワニの腕に拘束されてるようにしか見えないわね……。
{{ ガ、ガルンあなた……! }}
お? イニィさんがプルプルしている……。
どしたどした。
{{ と、とうとう、お手手と足が生えたのね……! }}
あ……なんか感極まってらっさるわ……。
しかしこのピュアハートな怪物くんは、けっこう通報対象だ。
ちょっとした油断で、
私不在時の、ドニオスの平和を脅かしかねない。
カリスマ販売員、イニィさんを見張りにつけた方がいっかな……。
「え、てかアブノさん、ガルンについてた金色のタイヤとか、どうしたの……」
「あ、コレであるな?」
……ギシ。
『>>>スキルの同期を、技術だけで分解したのかこの人……』
『────……理解不能な存在。』
なんかクラウンと先輩が絶句してたけど、
とりあえず私のスキル経験値の塊なので、
受け取っておいたとっとっとっと!
おぉお、重いなおい!
アブノさん、どんな筋力してんのよ……。
「あ! アブノさん、えと、服ある服? ピエロっぽくないの。いや、私は前のワンピでもいいって言ったんだけど、仲間の一人から猛反発がありまして……頭の王冠も隠したいんだけど……」
「ピエロっぽくない? ふむ、それでしたらな……」
{{ ガルン、あなた……! もぉ、一人でも、立派に徘徊できるわねぇ……! }}
『──ガァルンガルン〜〜♪』
< 女の子はね!? いっぱい着飾っとかなあかんえ!? >
【 ……ずずぅ〜〜…… 】
と、いうことがございまして。
「──クラウン! "距離滑り"──!!」
『────レディ。サスペンション機構展開。』
──きゅいんきゅぃん、きゅうううううんん────!!
私は懐かしの移動デバイスで、
ちょっと街道をそれた所を、爆走しておるわけですよ!
「うーん、イニィさんも置いてきて、だいじょぶだったかな?」
『────肯。イニィ・スリーフォウとガルンツァーユニットの流路は:密接な関係です。ポイントが近い方がよいと予測されます。』
『>>>まぁ、あの大きさじゃ、きみの実家では、箱庭フォートレスに閉じ込める形になっちゃうしな。あー、でも夜寝たら、夢の中で会えるのか……』
「それいいね! クラウン、やっぱ"ベアークラッチ"だして。あれ便利だわ」
『────レディ。』
私の頭を包む、獣の爪のようなアナライズカード。
よっしゃ。
これで全方位、全て見えるわ。
前を向かなきゃ前が見えないなんて、
時代遅れよね?
「────っと!」
きゅうううううんん!!!
ぎゃ ぎゃ ぎゃ
とんとん きん、きん、きん、
たたん ぎゅおおおおおおお────!!!
『>>>バレリーナ……』
「ん?」
『────よい例えです。』
「んん?」
あんたたち最近、仲いいわね?
「ま、こんなふうに、自分で突っ走るのもいいよね!」
はたから見れば、よそ見しながら、
くるくる爆走してるように見えるけど、
ま、当然全部見えてるんだわ。
私の動きに合わせて、
ツインテールと、マフラーが付いてきて、
面白い。
ちなみに、ベアークラッチを使ってる時の私って、半目なんだって。
そういやそうかな?
眠たそうな顔してるんだってさ。
『>>>里帰りも2回目だねぇ──』
「そーねぇ」
『>>>たぶん、実際は、千年ぶりくらいだよ?』
「はは……えらいこっちゃ」
『>>>しかし、よく帰ってこれたよねぇ……覚えてる? きみがスライムの湖に、ガルンをほりこんでなけりゃ、途中で歯車のストックが切れてアウトだったよねぇー』
「あ、あれ、可哀想なことしたな……」
『────ガルンを所有したままでは:歯車法の経験値を、全て消費してしまった恐れがありました。』
『>>>うんうん。そしたら、どんづまりだったよね……』
「途中で歯車が追加されたから、何とかなったってことね……こわいこわい」
『>>>! そだ、クラウンちゃん。ストレージの中にさ、ちょっと歯車、"お取り置き"してたらどう? 緊急時用にストックしとくんだよ』
『────む。面白い提案と定義されました。』
「はは、下ごしらえみたいな? ちがうか」
『>>>あ──、あと、その歯車を使って、ストレージ内で、色々と実験できるじゃない! ほら、歯車を使ってさ? 新しい機構を作ったりさ?』
『────クラウンギアは歯車機構、実験ユニットの提案を可決。アンティ:よろしいでしょうか。』
「ん? バッグ歯車の中に"お取り置き"した歯車で、なんか"新しい料理を作る"ってこと? いいよ」
『>>>えっぐいの作ろうか! えっぐいの!』
「おいこら男の子」
『────"えっぐいの"の定義を検索中……。』
「こらクラウン、やめなさい。ほんと男の子って、何歳になってもたまに変なこと言い出すよね……」
『>>>え、そんなに男の子としゃべったことあんの』
「クラスの男子とは、ほぼ全員と追いかけっこしたわよ? 怒りに任せて」
『>>>あ……追いかける方なのね……』
『────歯車法の一部の経験値を隔離しました。』
「お、仕事はや。それ、歯車法のレベルは下がらないんだよね? あ! てか、私、いまレベルいくつ?」
『─────歯車法は現在:レベル6です。』
「……。え……? ええっ!? そ、そんな、レベル、あがってないじゃん!!! えッ!? わ、わたし、魔王倒したのに!! えぇええぇえ……。え、普通にショックなんだけど……」
『>>>なんでだろうね……』
『────予測:1。単体討伐の経験値の少なさ。
────予測:2。経験値ごと、対象を消滅。
────予測:3。歯車法レベルアップ自体の、経験値増大説。』
「ええ……その、"経験値ごと消滅"って、なに……」
『>>>"あの姿"の、力なのかな……いや、わかんないけど、もしそうなら、もったいないよねぇー』
「も、勿体ないとか、そういう問題なの……? う、なんかすごい徒労感がぁ……ああぁあぁぁ……」
『>>>いや、全く経験値が入ってないわけじゃないと思うよ? ただねぇ、レベル上げってのは、おっきい魔物を一体倒すより、ちっこい魔物をいっぱいはやく、効率的に倒す方が、はやいもんなんだよぉー』
「うへぇい……」
『────クラウンギアよりアンティへ。元気だしてください。』
「ありがとぉ……」
『>>>ほ、ほら、笑顔笑顔。これから試験なんでしょう?』
「いや、これからっていうか……カーディフに着いたら、はやめに試験を受けていいか、交渉しないとダメなのよ。だいじょうぶかなぁ〜〜……」
『────クラウンギアは:試験支援をひょうめ──……。』
「カンニングはせぬ」
『────……むぅ。』
ぴゅんぴゅん、おしゃべりしながら、
踊るように、駆ける。
カーディフの街は、もうすぐだ。










