──ダァァアアアンッッ!!!!!
>>>後輩ちゃんは、目の前に表示されたアナライズカードを見て、戸惑っているようだった。
平和な、まるで陽の光がさす、のどかな和室で、
その表情は、少し場違いだった。
「斬王、心、"反"……?」
そう、三つのチカラが組み合わさり、
四つ目のチカラに、手が届いてしまった。
たぶん、そういうことなんだろう。
「……ねぇ、クラウン、先輩。このスキルの表って……」
『────。』
『>>>………』
クラウンちゃんと、無言で目を合わす。
たぶん、後輩ちゃんが言いたいことを、彼女もわかっている。
今、後輩ちゃんが見ているアナライズカードは、これだ。
─────────────────────────────
絶対断絶 >>> 〘 斬絶 〙
絶対拒絶 >>> 〘 王絶 〙
価値交流 >>> 〘 心絶 〙
死絶 >>> 〘 反絶 〙
─────────────────────────────
そして、見ている場所も、想像がつくよね?
『>>>後輩ちゃん。そのスキル一覧には、ひとつ、"仲間外れ"のスキルがあるんだ』
「な、かま、はずれ……」
こう言われたら、きみだって、わかるだろう。
「──"死絶"……ね?」
『────アンティ。そのスキルだけが:表示されている8つのスキルの中で、唯一:あなたが使用する事ができないスキルです。』
「! ……どういうこと?」
クラウンちゃんが、うまい切り出し方をしてくれた。
ぼくが、続く。
『>>>その表はね? 左が、変化前のスキル。右が、"変化後"のスキルだ』
「変化後って……」
『>>>もちろん、"シゼツ"になった後、って意味だよ』
「……」
『────後輩ちゃん。左側のスキルは、本来のスキルだ。つまり、シゼツの本当のスキルは、"死ぬ"に"絶する"と書いて、"死絶"だったんだよ』
「──! 本来の、あの子のスキル……だった?」
『>>>ああ。でもね? きみと会話したことによって……"四"という数字から、逃げないって決めたことで、"死絶"は、"反絶"となった……そうとしか思えない』
「わ、わたしが、スキルを変えたってこと!?」
『────仮説として:全否定は不可能判定。アンティ。あなたは彼女にこう発言しました。"私は絶さない"と。』
「あ……」
『>>>たぶん、シゼツは、"死絶"という力を、恐れていた。そして、きみに聞きたかった。自分が、いていい存在なのかを』
「……」
そう。あれは、相談だったのかもしれない。
ただ、話を聞いて欲しくて、あの空間を切り取った。
そして、彼女は、答えを得た。
『>>>その……会話ログから察するしかないけど、シゼツは、嬉しそうだったね?』
「! ……そう、かな」
{{ それは間違いないと思います。私は彼女の一部でしたから。あの時の感情が少し、残っています }}
< そやねぇ。つらい気持ちから、嬉しい気持ちになっとった気がしよるねぇ〜〜 >
「そ、か……」
うん、ぼくも、その通りだと思う。
金色の心は、死の力を持った彼女の、救いになった。
そう、思える。
「……"死絶"は、使えないんだよね?」
『────クラウンギアは、予測します。"シゼツ"形態になる事によって:四つ目のスキルとして発現するのは:本来、"死絶"でした。しかし、アンティが"四絶"と命名したことにより、そのスキル自体が:"反絶"に変化した。』
【 俺っちらが合わさったら、あいつの力は"反絶"になる。もう、"死絶"は使われん力いうことやぃな? 】
「……そか。どんなチカラだったんだろね。でも、単純かもだけど、"死"なんて言葉がつくスキルなんて、使えなくていいって、思う、私……」
【 ……おまんは、それでえぇ。それが、良ぅ響いたんや思う。俺っちが考えても、"絶対に死なない"か、"絶対に死ぬ"。これくらいしか思いつかん。正直、ホッとしとる 】
キセルを持った方の肘を付きながら、だらんと机に突っ伏したサキさんに、ぼくは同意した。
まったくその通りだと思う。
実を言うと、"死"という言葉を見て、
真っ先に、あいつの事を思い出した。
あいつは、この言葉のせいで、ああなったから。
後輩ちゃんに、この言葉は似合わないと、
バカみたいに、真剣に、思った。
【 まぁ……おいおいチカラ、試せばええんとちがぅけ? なんや、気に入られよったんやろ? 】
「う? うん……えと、呼んだら来てくれるかな……」
< うふふ、わっちらは呼んだら何時でも来るよぉ〜〜 >
{{ 今度、やってみましょうか…… }}
『────各能力の詳細は:開示されていません。予定が落ち着いてからの分析:研究を提案。』
「そだね……はぁ。なんか、夢の中のはずなのに、疲れたよぉ……」
ペタン、と、後輩ちゃんも木の机につっぷす。
はは……座布団に引っかかったツインテールが引っ張られ、
まるで、金のパチンコのようになっている。
【 かっかか! 安嬢、なんや、"まなびや"行かんなならんのやぃな? 】
< 試験、がんばらんといかんねぇ〜〜? >
{{ あとピエロちゃん……ログの中に、プレミオムズ集会? という項目があったのだけど…… }}
「あ〜〜やだやだ、考えたくない! 試験は早めに受けなきゃいけないし! ヤバい集会があるかもしれないし!」
【 安心せぇ! なんやいちゃもんつけてきよったら、俺っちが裂いたらぁ! 】
<{{「『────『>>>それはダメ……』です。』だかんね……」でしょう……}}やよ?>
【 ぅ……は、半分、ホラやかんな……? 】
いや、半分でも代表職の人を裂いたら、
間違いなく、ぼくみたいなお尋ね者になるからね……?
< ま、まぁまぁ、夢の中ならお茶やらお菓子やら出せますぅ。お風呂もあるし、あんちん? ここで英気を養いんさぃ♪ >
「お、お風呂は一人で入ろうかな……あ、でもみんなとゆっくりしゃべれる場所があるのは嬉しいな、へへ……」
確かにね!
こんな場所が、アイテムストレージにできるとは思わなかったな!
すぐ横を見ると、開かれた障子の外に、
金の葉っぱの木に、陽の差す縁側。
あっちの、ばぁちゃん家が、こんな感じだったな……。
障子のとこが、ガラス戸で……。
キンモクセイの木があって……。
……。
こっちと同じ時の流れなら、
ばぁちゃんも、じっちゃんも、
おとうさんも、おかあさんも、
みんな、死んじゃっただろうな……。
にひゃくねん、たってんもんな……。
あのキンモクセイの木は、大きくなってるだろうか。
いや、もしかして、住んでた所がメチャクチャ近未来になってたりして……。
「───てかさぁ。この"船屋敷"、どっから湧いて出たの?」
────!
いかんいかん……。
ちょっとナイーブな感じになってたな。
だって、こんなに雰囲気が似た空間なんだもん。
ずるいよ。
『────……。』
『(>>>──なに?)』
『────……いえ。』
……。
{{ それなんですが……どうやら、"価値交流"の影響で、記憶や思い出が"投影"されてしまっているようで…… }}
【 うーん、俺っちは、船で逃げたことあっかんなぁ……もしかすると、この船ん記憶は、俺っちのから生まれとるかんも知らん…… 】
< この建もんも、丹塗の朱が目立ちよるし、やっぱ、わっちらの記憶が持ちよぅ所が多そうやねぇ…… >
『────同意。ダイオルノシュオンが魔盾と変化したことも:影響を与えていると予測。』
「! てことは、この建物は、サキやダイ姉さんがいた所なんだ! ね! サキとダイさんって、どんな仕事してたの?」
< ────!? >
【 ────!? 】
…………。
お、おおっと……。
後輩ちゃんが、いきなり爆弾、おとしたな。
サキさんとダイさん、すごいかたまってるよ……。
その、ぼくはほら、あっちから来たから、わかってしまう。
煌びやかな朱の建物と、この、豪華な簪。
禿の着物ってのがあったし……。
向かいの上の階には、提灯が見えてるし。
……これ、"花街"が元になってる空間だよな……。
つ、つまりは……。
【 お、おいら…… 】
「 ? おいら? 」
(< ばかっ、花、あんた何正直に言うてんの! >)
(【 い、いや、でも嘘つくんもなぁ…… 】)
(< こんな優しい子に、"花開いてた"言うたら、いろいろ気ぃ使わせてまうよっ!? >)
(【 た、確こぅな……! で、でも、じゃあどうするかいや!? 】)
「???」
【 うぅ…… 】
< はは…… >
………あやしい、あやしいよ、お二人さん!
完全に笑顔、ひきつってるからね!
まぁ、色々複雑なとこだよな……。
後輩ちゃん、15歳の女の子だしなぁ……。
その、花魁って言葉は、
ぼくのせいで、もしかしたら知ってるかもだけど、
有り体に言うと、"娼婦"ってことになっちゃうからなぁ……。
その職業自体を見下す気は毛頭ないけれど、
後輩ちゃんが変に気にして、
みんなの関係に溝ができるのも嫌だ。
……ここは助け船をだしておこうかな?
『>>>……後輩ちゃん? この二人は、"芸子さん"だよ!』
【< ──!! >】
「……! げいこさん……? !!」
『────そ。楽器を使っておもてなししたり、お酌もしたりするけどね。きみの実家のお仕事と似てるんじゃない?』
「げいこ……そか! "芸子さん"ね!? そっか〜〜二人も接客業だったんだねぇ〜〜」
【 そ、そうよな、な? 大姉!? 】
< え、えぇえぇ、うん、そう、そうよぉ〜〜 >
「へ〜〜! じゃあ、ここの建物は、二人のお店が元になってるんだぁ〜〜! 素敵な所だね!」
【 お、おおきに…… 】
< ほ、ほほほほ〜〜…… >
『────:グッ。』
『>>>! はは……』
クラウンちゃんが、ぼくにサムズアップをしている……。
この子、絶対、感情面、豊かになりまくってんだろ……。
イニィさんが解放され、アンティに着物を褒められている。
その隙に、サキさんとダイさんがこちらへ来た。
(【 ど、どうしてなかなか、ようやった、童よ! 】)
(< ほんに助かりもうした〜〜 >)
(『>>>お褒めにあずかりどーも、姐御方?』)
ま、半分くらいはホントだし、これでいけるでしょ。
あ、お茶もいっぱい飲も。おいしいなぁ。
──ん? そっ、とダイさんが、顔を近づけてくる。
え、そこ、耳……。
(< おれいに"夜のおあいて"……、したろぉか──? >)
『>>>──ッ!? ぶッ、ぐ──げっほごっほ! ぐっ! ごっほげっほ…ぉ…!』
「うわ、先輩、何むせてんの……?」
ぐふ、ちょ、ちょと、ちょとタンマ。
【 ……かっか。大姉、加減してやれ 】
< ふふふぅ、ここに殿方は、あんはんしかおらんしなぁ♪ >
『────じぃ〜〜〜〜……。』
う、そ、そういえば……
男が、男がいないじゃないか……。
あ、う、うさ丸はっ!?
な、なんか、それを気にしだしたら、気まずいな。
< あらあら、かわいいわぁ? こんな身体は、しっかりしてんのにぃ…… >
ぴと……。
『>>>ちょ……』
ダイさんが、ぼくの太腿の上に、
手を置いてくる。
いま、あぐらだから、腿の内側だ。
それだけの事だけど、異様にドキドキする。
う、これは、まずい。
< ふふふ……? >
『────じぃ〜〜〜〜。』
い、いや、クラウンちゃん、ちょっと助けてくれ。
ダイさん、やたら艶っぽい顔になってる。
てっきり優しいお姉さんだと思ってたら、
この人、ぜったい小悪魔タイプだ!
イニィさんより、メチャクチャ経験豊富だ!
{{ ちょっと……私にはダダ漏れよ? }}
げっ、心を読まれてるっ!?
いやいやいや、だったら助けてくださいよぉ!
みんな周りにいるから、ただ反応を楽しまれて、
公開処刑になってるだけだからね? これ!
「う〜〜ん??」
【 かか。なんやおっきな子供がおんなぁ 】
えぇい! 好きにいっていいから、
この、這いつくばって迫ってくる遊女さんを、
誰か退けてくれ!
ぼぼぼ、ぼくにはバスリーちゃんがぁ……!
< ……えろぅ可愛い顔すんなぁ……久しぶりに、殿方に興がのりんす……♪ >
おいこらぁ〜〜!
未成年が見てんだろぉ〜〜!!!??
女豹のポーズでゆっくりこないでくれぇ〜〜!!
この時のぼくは、非常にパニクっていた。
綺麗なお姉さんの、着物で四つん這いは、は、破壊力が!
恋愛経験不足もしっかり祟って、
たぶん真っ赤になりながら、パニクっていたんだけど───……、
【 ──ふん。そんなんで、へこたれとったら、いざという時、守りたい女、守られへんぞ──! 】
『>>>──── ー ─ - - 』
──この言葉で、冷や水を、ぶっかけられたようになった。
この時、ぼくはバスリーちゃんの事ではなく、
"戸橋"の方のことを、思い出してしまったんだ。
だから────……。
『>>>──、──く……、ぁ……』
< ──、ひ──…… >
ダイさんは、冗談で、ぼくに顔を近づけていた。当然だ。
もちろんここで、本当に情事に発展するなんて、ないだろう。
……悪いことをした。
たぶん、ぼくはこの時、本当に、怖い顔をしていて。
ダイさんの顔は、ちょうど、ぼくの顔を隠してくれた。
お陰で、嫌な男の顔を、思いっきり、見られただろう。
彼女に怒ってるんじゃない。
かつての自分自身に後悔する、最悪の"かお"を────……、
……──────ダァァアアアンッッ!!!!!
『>>> 』
< >
「────え?」
【 ────む…… 】
{{ ………… }}
すげぇ音がした。
クラウンちゃんが、両手で、
机を、思いっきり、ぶっ叩いたのだ。
この、いきなりの行動に、
ぼくの憎しみはひっこみ、
うまいこと、霧散してくれた。
でも、なぜ────……?
「……──くら、うん……?」
『────……:申し訳、ありません……。少し、風に当たって、きます……。』
「え……?」
机をぶっ叩いたクラウンちゃんは、
そのまま立ち上がって、
縁側の方に消えてしまった。
「…………どうしちゃったの、クラウン……?」
{{ ………… }}
…………。
……クラウン。
やっぱり、やっぱり、きみ……。
【 ……おい、童…… 】
『>>>……はい』
【 ……すまん。今のは……、どうも俺っちのせいやぃな……? 】
『>>>──! いえ、違うんです……これは、ぼくの……』
< かんにんな…… >
ふと、見上げると、
ダイさんも、目の前でしょぼんと、
畳の上に座っていた。
彼女たちは何も悪くない。
これは、ぼくのせいだ……。
『>>>気にしないで、ほしいです……』
【 あほ。横から顔、見えたわ。俺っちぁ今、お前の心、えぐったな? ……すまん。軽く、踏んだ 】
『>>>! ……』
言葉が、うまく出ない。
気にするな、と、何度でも言いたい。
でも、心をえぐられたのは、そうかもしれない。
それを、察されてしまった。
さっきのぼくの……あの顔は、ない。
【 ひとつ、わからん…… 】
『>>>……! はい……』
【 俺っちが今、土足でお前ん心を踏んだんは、わかる。でもなぁ…… 】
『>>>……』
【 ──何故、"食らわず"が、怒る──? 】
…………。
「せ、んぱい……?」
『>>>……! ……』
いきなり、変な空気になって、後輩ちゃんが、不安な表情になる。
……ああ、これは、ぼくのせいだな。
ほんと、ぼくはいくつになっても、クソ野郎だな。
……だから、ぼくが、なんとかしないと。
後輩ちゃんのお陰で、
ぼくのさっきの気持ちは、
きれいに抜けた気がする。
ありがたかった。
『>>>……だいじょぶ。ちょっと、クラウンちゃんの様子、見てくるよ』
「あの、先輩、なんで……」
『>>>ほら、ぼくとクラウンちゃんって、ちょこちょこ言い争いのケンカ、するじゃない? だから、だいじょうぶさ』
「! えと、せんぱい? それってなんか……ちが……」
【 ……任せてええか? 】
『>>>……はい。戻ってきたら、できれば、気にしないでほしい』
【 ! わかった…… 】
< かんにんな……わっちが何や、ふざけよったから…… >
『>>>い、いえ、違うんです……ほんとに……アンティ、だいじょぶだから! 任せて!』
「! う、うん……」
『>>>いってくるよ──』
ぎしっ。
トッ、トッ、トッ、トッ……。
「…………」
【 ……ふぅ──……! やってもぅたな…… 】
< ……なんや、昔の辛い事、思い出しはったんやろか…… >
{{ ……誰も、悪くないとは思います。タイミングが悪かったのだわ }}
「! イニィさん、二人の心、見えた?」
{{ 言わないわよ }}
「! ……、……うん。それで、いいと思う……」
{{ ! ……あなた、相変わらず、優しいわね…… }}
【 ま、あいつ、なんや"食らわず"が怒った理由、心当たりありそうやったしなぁ? いつも通り、けろっと戻ってきよるて 】
「……いつも通りじゃ、なかったよ」
【 ……む? 】
「ここを出てく時、先輩、私のこと、後輩ちゃんじゃなくて、"アンティ"って名前で呼んだでしょ?」
【 ……! 】
「けっこう、真剣な話、しに行くんだと思うよ……」
【 ……そぉか 】
< しょぼん…… >
【 ! そげな落ち込みな、大姉。あの童に任せときぃ! 俺っちらはゆっくりさせてもらおや? 】
< ……そげん事言うて、花も気にしとぅくせに…… >
【 …… 】
{{ ま、彼に任せるしかないと思うわ。むぐむぐ。これおいしいわね }}
「……先輩、頼むよ?」
────。
『>>>……やぁ』
『────……。』
クラウンちゃんは、ちょっと離れた所の、
縁側に、腰掛けていた。
うつむいていて、落ち込んでいるように見える。
『────……皆に:私を回収するように頼まれましたか。』
『>>>いや? ぼくが言いたいことがあって、自主的にきた……』
『────。』
『>>>となり、いいかい?』
『────……どうぞ。』
『>>>よいしょ、と……』
…………。
…………。
『────言いたい事:とは。』
…………。
縁側で、膝に肘をつき、
クラウンちゃんの方は見ないで、
前を向きながら、つっけんどんに、言う。
『>>>"ぼくのために怒ってくれて、ありがとう"』
『────!! ……ぅ。』
この反応……。
……もう、これ、確定だな。
『>>>なあ、クラウン──』
『────……く。』
『>>>──ぼくの"記憶"、どこまで見た?』
 










