腰周り注意報 さーしーえー
はぁ……
馬車の中で、思わず、ため息がでる。
「どうしよう……」
仮面さんの、行きたい方向矢印が、動いちゃった……
今まで東に向いてたのに……はい、北です。
また、森やないか。
乙女がホイホイ行くような所ではないよ……
……ん?
……うるうる。
イラぁ。
き、気のせいだ、呪いの仮面が涙目のはずが無い。
こいつの目は、ふし穴だ。
涙目のはずがないんだ……
……うるうるうる。
「おりまーす!」
「────はぁ!!?」
御者さんに、超、変な目で見られた。
めっちゃ止められたが、馬車、降りた。
「乙女の大事なものが、漏れるんです!」
って言って、降りた。
次の馬車が通ったら乗せてもらうんだよ。
って、哀みの表情で言われました。
羞恥で、泣きそう。
ぐすん。
パンパンッ!!
あああ、こうなりゃとことん、やってやろうじゃないの!
バッグ歯車には、食料も蓄えてある。
どんだけ時間経過に耐えれるか、わかんないから日持ちする干物やパンもあるよ!
お腹が減っても大丈夫だ。
ベッドもあるし……
森の中でベッドとか、マジ勘弁だけどね!
この矢印、やっぱり森の奥に向いてるな……。
「クラウン。"スケイルスケイター"!」
『────レディ。
移動デバイス:" 距離滑り "展開します。』
きゅるるるるるるるる!
両足に纏う回転が、地を蹴る。
まったく、もぅ。
幸か不幸か。
森を翔け抜けるなら、アンティさんの右に出る者は、そうそういませんよ〜だ。
かかん、こん!
「よっと!」
きゅるるるるるる
きゅいいいいいいん
と────ん!
デコボコ、木の枝、なんのその。
スイスイポンポン、飛び越すよ。
あーあ、こんな所で役に立つとはね。
いろんな経験はしておくもんですね。
もう、熊野郎は、勘弁だけれどもね。
びゅんぴゅんぴゅ────ん!!
ていうか、ヤケになって森に突っ込んじゃったけど……魔物とか、大丈夫かな?
…………。
やばいかな。
やばいかな。
だいじょぶだよね?
『────状況分析。前方に敵性反応。数7。』
「だいじょばな────い!!」
『────識別完了。フォレストウルフです。』
「!!」
フォレストウルフ、って。
4年前に、カーディフの街に入ったヤツらだ……
「迂回できそう?」
『────10ビョウ後に会敵判定。』
「うわぁぁぁん!」
くそぅ!
なんでこんな目に!
覚えてろよ呪いの仮面!
いた。
前にまず2匹。
ウルフの形をした、木の化け物だ。
街に入った事のある魔物を、学校の図書室で調べた事がある。フォレストウルフは、獣系ではなく、擬態植物系の魔物だ。移動するために、ウルフのマネをするトレント。その表現が正しい。
「……実際に対峙する事になるなんて」
まったく、わがままな仮面のせいで……。
少し、不安がある。
4年前、こいつらは、街の、私達の恐怖の象徴だった。
大丈夫かな。
ちょっと怖い。
ケガはしたくない。
でも、速さはこっちが上かな?
振り切れるかもしれない。
「……っと!」
葉っぱのような物が飛んできた!
いや、葉っぱだね! 紛うことなき!
よけました!
逃げ切れるか試す。
全部で7体もいるし。
ダメだ! 走って付いてくる!
ダテに、ウルフの擬態をしていない。
あっ! あぶな!
ジグザグに移動して葉っぱを回避する。
葉っぱは、木の幹に当たり、届かない。
くるっと半回転して、振り返る。
後ろ向き走行だ。あぶないね。
フォレストウルフの走る軌道に、蔦が尾を引いているのが見える。
あれは絡まれると厄介そうだ……こわっ。
葉っぱを避けて、逃げながら、攻撃する。
よぉし、行動決定!
私自身に、レベルというやつは存在しない、らしい。
ただ、私のスキルは違うよ。
私を今、分析すると……
アンティ・キティラ
人間(♀)15歳
スキル:歯車法Lv.2
こうなる。
────そう、スキルが、レベルアップしているのだ。
「クラウン! "投げ輪" 両手!」
『────レディ。構成編成中。』
前に試した事。
"高速回転する歯車は、ゆっくりした動きしかできない"
前にやった解決法。
"私が、高速回転する歯車を纏って、突っ込む"
でも、スキルがレベルアップして、少し歯車の自由度があがったんだ。
両手に現れた歯車は、
それぞれ、大小セットになっている。
小さい歯車の外側に、大きい歯車。
さぁ、もう、わかるよね!
『────凍結解除。再起動開始。』
きゅういいいいいいいいいん!!!
きゅういいいいいいいいいん!!!
当たってほしいな。
けっこう練習したんだよ?
『────臨界点です。』
「投擲する! 補正おねがい!」
小さい歯車は回ってない。飛ばせる。
大きい歯車は回っている。小さい歯車に固定されながら。
だから───────
「とおぉ、りゃ!!」
一緒に、投げ飛ばすことができる。
「! クォォォォオン!」
かわされた!
でもね。
1回よけたぐらいじゃ……
きゅるるるるるる!
「ギャン!」
「ふりきれないよーだ!」
回ってない歯車の軌道は、自由自在なんだよ!
ちょっと勢いには欠けるけどね。
触れたら危険!
アンティ印の、空飛ぶ円盤!
さぁ! くらいなさい!
2体のフォレストウルフが、瞬く間に枝になっていく。
こいつら、体の部分部分は細い枝だわ。
削れる削れる。どんどん削れる。
あ、ぶった切れた。
『────動体接近。数5。』
「な! いっきに!?」
わわっ! 囲まれてるぅ!
ど、どうしよ、思わず止まっちゃった。
あ、まずいかも……。
「クォォォォオン!!」
「びゃっ! クラウン! おっきぃ投げ輪!!」
『────予測展開します。』
私の腰周りに、大きな二重の歯車が展開される。
「かっ、回転、拡大!!」
『────予測展開。』
きゅいいいいいいいいん!!
鋭利な歯のついた外側の歯車が、唸りをあげて回転しだす。スキルレベルアップで、出せる歯車の大きさ上限もあがった。バッグ歯車を使う時は、あんなに広がるのにな……。
フォレストウルフ5体が飛びかかってくる瞬間!
歯車がぎゅうん! っと広がる!
「「「「「ギャーン!!」」」」」
……おぉ、上下に真っ二つだ……。
サンドイッチのバケットみたい……。
「け、計画的、しょーうり……」
『────────。』
「あ、あによ……」
『────現在の行動に攻撃認定。攻撃名を登録しますか?』
「え。じ、じゃあ遊び輪…… 」
『────攻撃名"フラフープ"を受理しました。
攻撃名を入力した場合、腰周りに発動します。』
 










