せんかん、とっかん、れいかん さーしーえー
「……クラウン、"カーディフ・ブースト"、いける?」
『────肯。使用可能判定。バーニア部を形成します。』
──きゅぅううううんん!!
私の周りに、金の歯車たちが、キラキラと召喚される。
この前、"カーディフ・ブースト"を使った時は、
輪っかから、火を噴いてただけだったけど……。
──キン、キン、キン──!
『>>>前の時と違って、歯車節約しなくてすむからねぇー』
歯車同士が組み合わさり、
噛み合い、それがまた歯車で包まれ、うわぁ、細かい。
できたのは、"黄金のコップ"みたいなパーツたち。
見た目に反して、かなりの歯車が使われている。
小さい歯車ばかりだから、あんまり経験値は食わない。
黄金のコップが私のヨロイに、
かちゃんきん、かちゃんきん、と、
身体のあちこちに、組み込まれていく。
ふくらはぎ、足裏、肩、背中。
うわぁ。私これ大丈夫か。
「か、髪は燃えないようにしてね?」
『────レディ。ツインテール部:アナライズコーティング。』
『>>>燃焼物は"カーディフの火"自体から貰おう。ずいぶん気体も吸い込まれているからね!』
『────了解。ストレージ空間での推力は不明。随時調整をトライ。』
「え、それだいじょ『>>>点火!』むぇ──ッ!」
────ジュッッ──……ボッ、ボッ──……!
ボォォォォォ──ァァァアアアア────!!!
「お、おわ……!」
私の身体が、ゆっくりと持ち上がって、向きが変わっていく。
レエンでやった時は、勢いに任せて、
「ギュ─────ン!!」「ズバァ─────ン!!」
みたいに動いてたけど、今は全身から、
まんべんなく炎が噴き出ているから、安定感がある!
────ごぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉ────!!
山火事を全身から噴き出して、
アイテムバッグの中を飛ぶ、
金ピカの、食堂娘。
……。
「どうして、こうなった……」
『────憂いの原因が不明瞭。疑問の入力を。』
「い、いや、前の時より精度が上がってるのは、私でもわかるわ! ありがと……でも、そろそろ山火事、無くなりそうで怖いね?」
『────心配には及びません。』
「え、なんで」
『>>>いやあんなモン、そう簡単に無くならないよ?』
「はぃぃ?」
『>>>ほら、あそこ』
? ん?
あや、まぶしい……。
あんれ。ここ、アイテムバッグの中よね。
太陽があるじゃないのよ。
なして……?
んんんッ!?
ま、まさか……。
「うそだと言ってよ、せんぱい……」
『────"カーディフの火"の視認。』
『>>>むしろ今、気がついたんだね……』
ペッカ────。
山火事さんペッカ────。
サンサ───ン。
……星やないか。
なるほど。
私、いま夢を見てるんだわ……。
「ふぅ……。ね、"箱庭フォートレス"って、でっかい"船"なんでしょ?」
『>>>え、あれ、う、うん。おっきいよ〜〜』
『────全長:180.24メルトルテ単位です。』
「────ふぁッッ!? ひゃ、ひゃ……、ひゃくはちじゅうメルトルテぇ!? そそそ、それって"船"っ言うの!?」
『>>>あ──……、船っていうか……"せんかん"……』
「ふぁい?」
『────クルルカン。"箱庭フォートレス"に重火器は設置されていません。不適切な表現です。』
『>>>いや、でもまさに、要塞、って感じだよ……?』
「そ、そんなモノが止まらなくなったの……?」
『>>>──アンティ! 』
「えっ!?」
『────告。"箱庭フォートレス"、接近しています。』
「う、うそっ!! な、何も見えないわよ!?」
別に、なにも────……!?
─────ピシッ、パシッ──……。
「な……!?」
『────分離構築アナライザ構造体:亀裂音。"ベアークラッチ"展開。』
『>>>右下!! 下だっ! もぐってやがる!! 突き出てくるよ──!!』
「なん────……?」
────パンッ!
パン、パンッッ!
ピシシッッ!!
「 きれ、つ、が 」
くうかん、を、裂いて────……!
────ビギギギギギキキ────……!!
──ググん。
──ググんッ!
──ググんッッ!!!
「い、ぁ」
パキパガバギバギバギ…………、
パァァあ、パァぁぁあ、パァァあァアアアア──!!!
……───────ドドォォオオオオオオッッおおんん!!!!!
「 ─────…… 」
『 ────……。 』
『>>>────すげ……』
パラパラ────……。
カン、カン、カン、カン、カン。
しゃらら、しゃらら、しゃらら、しゃらら。
キュぅぅうう、うぅぅうう────ンン、、、。
────。
大きな船体が、天を突くように、
氷の板のような海を、かち割る。
ゆっくりと、倒れ、
それは、進みだす。
─────ザバァアアアアアアアンンン!!!
「……すごぉい」
泳いでる。
確かに、船だ。
でかいし、ながい。
白金の船に、黒金の甲板。
その上に、朱と黒の建築。
乱立する、鳥居と、灯籠。
船の巨大な動きに合わせ、
鳴り響く、紐結いの大鈴。
黒に浮かぶ朱赤の造形が、
あの異様な長船の全てに、
とても、格式のある艶を、
まとわり、つかせていた。
中央に積み上がるは、城。
黒金と白金と、朱色の城。
その城の傍らに、あった。
黄金の葉、黒の幹の、樹。
それに、見覚えがあった。
「"金色の葉"……"黒い幹"! あれ、私、見たことある!!」
『────同意。私たちは、あそこで、出会った。』
『>>>ああ……サキさんと会った時に、あの木が、側にあったよ!』
覚えている。
初めてサキにあった場所で、
あの金の葉が、あたたかく、舞っていた。
──ぐおおおおおおおおおおおお────……ん……!
「あの木の場所に降りる!! クラウン、たのむ!!」
『────レディ。噴射角調整。加速します。』
「ッ、ぐぅぅうッ───!!」
ごぉおおおおおおお────!!!
船は、かなりの速さで進んでる!
でも、今の私は多分、
彗星よりかは、はやいわよ?
ぐんぐんと近づく、朱色の城。
あの時の箱庭が、近づいてる。
みえ、た!
あの、"箱庭"だ!!
「クラウン! "ブースト"解除!」
『────レディ。』
────シュオ──……!! チャキン!
身体中の炎を吐く杯が、
とてもシンプルな音で、消え去る。
落下。
四角い、箱庭へ。
くるくるくる────。
────きぃぃぃいいん──!
『>>>着地、おみごと!』
「もぅ、茶化さないで! ……間違いない、ここだわ」
朱色の建物は、近くで見ると、木材で出来てるのがわかる。
本当に木かどうかなんて、わからない。
見た目の話だ。
少し、ナトリの街のギルド出張所と、雰囲気が似てる。
……! そうか!
サキって、ナトリの人達と、似てるんだわ。
サキと、人の姿で、初めて出会った場所……。
急に、とても会いたくなる。
いつも、クラウンや先輩とは、よく話してる。
でも! いつも使ってる、大切な包丁なのに。
サキは……ヨトギサキは、とても静かなのだ。
まるで、わざとしゃべらないようにしてるみたいに。
そんなのって、さびしい。
たまらなくなって、
私は、大きく、呼んだ。
「サァぁキぃ─────!!! イニィさぁあ────ん!!! いるんでしょおぉ────!!! どこぉ────!!」
……"和風"と、言うんだろうか。
朱の箱庭で、さびしく、叫ぶ。
まだ、この船は、止まってはいない。
『────警告。妙です。ヨトギサキ:ダイオルノシュオン:イニィ・スリーフォウ。全ての反応がロストしています。』
「!?」
『>>>おかしい……少なくとも、スキル"価値交流"は使えている。じゃないと、後輩ちゃんの精神は、ここに留まることはできない。イニィさんは、この空間のどこかに、いるはずなんだ。なのに……』
「だれも、いない……?」
ブワァ──、と。
風が吹いて、金の葉が、舞った。
なぜ。
なぜ、誰もいないの。
なぜ。
見慣れない、赤の木の空間で、
とても、くらくらする。
どこ。
みんな、どこ。
あいに、きたよ?
【<{{ くすくすくす…… }}>】
「────っ!?」
──バッ!!
『────アンティ。』
『>>>どした?』
「……い、ま……いた」
『────入力待機。』
『>>>だれ、が……?』
「……ま、」
ごくり……。
「全く知らない、女の子が……」