メンチ、カツ さーしーえー
「わわわわわ私ッ、お茶いれてきますねぇぇええ〜〜!!!??」
ききぃ〜〜、ドンッ! バタンッ!!
ローブの冒険者の正体がわかって、
真っ先にキッティが、執務室から逃げた。
……いや、それでいい。
あの金ピカに、はやく伝えるのだ。
(やれやれ……犯罪者などとは、真逆の存在だったな……)
俺の目の前にいるのは、どこか張り詰めた表情の、
王都で名を知らぬ者はいないであろう、女騎士だ。
孤児でありながら、姉と剣を学び、
数々の魔物や賊を討ち、
今、最もSランクに近いとされている剣技職の片割れ……。
「まさか君だったとはな、"羊雲姉妹"、ヒキハ・シナインズ」
「……こうして、面と向かってお会いするのは初めてですね、ヒゲイド・ザッパー殿」
「……」
さて、ここでひとつ、俺の良い所を教えよう。
俺は、内心どんなにガクブルでも、顔には出ん。
今も、大きな大きな机に寄りかかり、
腕を組んで、堂々と目の前の騎士を拝んでいるように見えるだろう。
この俺の冷静そうな仮面を剥がせるのは、
黄金の仮面を被った新人冒険者くらいなものだ。
しかし、当然の事だが、
俺の内心は、このようにどっしり構えてはいない。
ひと言で、言い表すなら、
「 やべぇ、どうすっぺ? 」
である。
うっわぁやべぇこれヘタしたら黙ってSランク登録したのもバレてんぞあの金ピカなんでこんなルールにうるさいヤツ代表みたいな羊に名前知られてんだいやアレ偽名だけどうわ偽名登録も俺のせいになるじゃねぇかいやそれは小せぇ問題だ王様に黙ってSランク登録はシャレにならん何で情報が漏れたあんの金ピカっ子ハデにやりやがって大道芸は子供レベルでやれよというか逃げろこいつはヤバイぞ付いてったら王都で尋問されんじゃねぇかてかあいつぶっちゃけ俺より強いんじゃね能力バレたら兵器運用されっぞやべえやべえ俺牢屋行きであいつ戦略兵器とかいないないないないないない──……。
「……巨躯のギルドマスターとあって、もう少し、荒くれ者であると勝手に思っておりました。その落ち着きはらった態度。流石、ドニオスギルドを統べる方、と言った所ですか……」
「……ふ、王都からわざわざ、俺を褒めにきたのか?」
このお嬢ちゃん、人を見る目はないな……。
「私の、名を出さない、というのは本当に?」
「……言わんといったら言わん。ドニオスまではるばる、下手人でも捕らえに来たか?」
……ほら、俺とか。
「……信じます。目的は先ほど話したはず」
──! くそ……。
俺じゃない……アンティだな……。
「ヒゲイド殿……失礼だが」
「? なんだね……」
「あなたの口ひげ、どうやらポタージュが付いているようなのですが……」
「──! ポタ……? ぬ、シチューだろうな……これは失敬」
いかん。先ほどスプーンなど使わず、
木のボールから直接、あいつのシチューを飲んだからな……
ハンカチ代わりの手拭いを出し、口元を拭う。
「……大きな器ですね。あなたもこのような物を召し上がられるのですね」
「ふん……差し入れなどしてくれる者がいるのでな」
「……それは、"黄金の義賊"のような?」
「──!!」
なん、だと……!?
アンティ、貴様……!
料理の腕まで知られているのか!?
どういうことだ……!?
「あなたはアンティ・クルルに、随分と信頼されているようですね」
「……どうだかな。このシチューは気まぐれに、よこしただけかもしれん」
「気兼ねない仲、ということですか……もしや、私がここに来た理由、もう、ご存知なのでは?」
「……?」
え、何こいつ……俺に聞いてんのか?
え、なんだ、俺、試されてる?
いや、十中八九、アレだろうけども……。
見てくれはダンディなギルマスのポーズのまま、
女騎士に言い返す。
「……アンティに、責任はない」
「……! やはり……」
! しまった! これでは、
「あの火の玉と光の柱は、あの金ピカがやりましたよ〜!」
と、言ってるようなものではないか!
や、やべぇ。
この羊、カマかけてきやがった……!
くっそ、「やはり」だと……。
アイツの仕業だと、確認されちまったぞ……。
全く顔には出ないが、
かなりの焦りが、俺を襲う。
こりゃやべぇ、アンティ、さっさと逃げろ。
「……あなたは、私が憎いでしょうね」
「……! 俺は別に、お前をそのようには思っていない。ただ、恐らくアイツは、精一杯やったのだ……!」
「……!」
「まったく、いつもいつも……少しは隠しながら任務を遂行できんものか……」
毎回手紙を配る度に、知名度を上げてきやがって……。
「……"任務"、と言いましたかっ……!?」
「……?」
え、この羊、何を驚いている……。
「あな、た……あなたはまさか……"レッドハイオーク"の……あなたが……!」
「……!」
あ、あんのクルルカン……!
レッドハイオーク倒したのまで、バレてやがんのか!
アイツが間抜けなのか、王都の騎士の情報収集能力が、優れているのか……。
「そこまで掴んでいるのか……流石だな」
「あ、あなたは……! 何ということを! これは歴史に公表されるべきことだ!」
「む……」
あいつが実は、とても強く、
ゼルゼウルフでも、ぶっ飛ばせるということか。
ま、今回も、大規模な魔法を使ったようだしな……。
だが、そんなもの……。
「……酷いことを言う」
「! むごい、と……? なぜ……」
「そんな事を公表して、アイツが幸せになると思うのか」
「な……! 、……!! 、……」
ん……?
この羊、またなんか驚いていやがるな……?
なんだと言うのだ……。
「名誉など、とるにたらないと言うことです、か……ヒゲイド・ザッパー、感服いたしました……! なんという……」
ん? んん?
何か、会話が噛み合わなくなってきたぞ……?
よ、よし、適当に合わせるか……。
「お前は王都から、アイツに会いに来たようだが、アレを連れ帰るワケではあるまいな」
「そ、そのような事は……」
「お前のせいで、アイツが不幸になるのは、避けたいのだ」
「ぐっ!」
「何故、"個人的に"会いに来たのかを、俺は知りたいのだ……」
しょっぴく気か。
スカウトする気か。
手柄にする気だろうか。
やめてやれ。
どうせアイツは、あんな性格だ。
何かを助けるために、バカやったんだ。
「わ、私は……」
お、何か揺れているな……。
もしかしたら、情に弱いタイプか?
これ、もしかして丸め込めるんじゃないか?
おっし、これはいいぞ……。
このまま王都に帰ってもらって……。
運命の神は、どうやら俺に味方したようだ。
よくわからんが、歯車は、テキトーに噛み合った。
目の前の女騎士は、何かを迷っている。
そうだ、お前の行動で、黄金の少女の人生が決まる。
その妙齢で、王都の剣士のナンバー2なのだ。
それなりの道徳心と言う名の騎士道が、
少女の行く先をあわれむだろう!
ふ……勝ったな。
こいつさえ帰れば、うやむやだッッ!!
わかるぞ……こいつはもうすぐ折れるぞ……!
もう少しで……!
────ぴょ───────ん!
──ぼふん。
「────」
「────」
「にょきっと!」
ぷくー。
────思考停止。
─────────────────────────────
おんな けんし の うえ に
うさぎ が ちゃくりく した !
どうしますか?
すきをつく
こうげきする
▼みえないふり
にげる
─────────────────────────────
「にょんやぁあああああ!!!」
────ぱこぱこぱこぱこぱこ!
─────────────────────────────
うさぎ の たこなぐり !
くりーん ひっと !
おんな けんし は うごけない !▼
─────────────────────────────
……お、お、お、おお、お……。
────この世の終わりだ。
俺は今、何を見ているんだ……!?
うさ丸がッ!!
ヒキハ・シナインズの頭に着陸しッ!!
その赤いグローブでっ!!
頭を叩きまくっているぞッッ!!?
「──にょぉおっきっとぉおおお────!!!」
ぽかぽかぽかぽかぽか────!
「あぅわわ、あわぅわわあああ……」
ふと見ると、横の扉から、
キッティが半身で覗き見て、顔を青くしていた。
……なぜだ……キッティ。
なぜ、うさ丸の侵入を許したのだ……。
「にょんやぁあああああ!!!」
ぱかぱかぱかぱかぱか────!
「…………」
う、うさ丸よ……。
おまえ……恐れを知らんな……。
そのお嬢ちゃん、王都のAランク冒険者だぞ……。
プレミオムズの、双子の妹だぞ……。
ギルド内に、従獣でない魔物がいるって時点でアレなのに……。
これは、うさ鍋決定だな……。
あ、俺の罪状、増えるな……。
……プルプルプル、ぷるぷるぷる。
「……?」
──妙だ。
ヒキハ・シナインズが、動かない。
うさ丸に、ぽこぽこにされていると言うのに……。
いったい、どうした事だ。
王都の剣技職部隊の副隊長とあろう者が、
こんな愛嬌に極振りしたような魔物に、
臆するはずがない。
なぜ、動かない……?
────その時。
───────きィィイン!
「───ッ!!」
──ヒキハ・シナインズの肩が、びくり、と、上がった。
「……バカな……」
キッティ……。
なぜ、つれてきた──……!
──────きィィイン!
俺たちの元へ、あの足音が、近づく。
うさ丸に気を取られていたが、
彼女は、もう、部屋の中にいたのだ。
──────きィィイン!
「ガクガクブルブルブルブル────……!」
「───!?」
「にょっきぃぃ────!!!」
ぽけぽけぽけぽけぽけ────!
ヒ、ヒキハ・シナインズが、震えているッッ!?
うさ丸に、フルボッコにされながら!?
な、なんだ──? これは……
お、"怯えて"いるのか……?
"羊"の後ろから、ゆっくりと、
"金"は、近づいてくる。
震える"羊"は、振り向かない────。
────きィィイン……!
────きィィイン……!
────きィィイン……!
────きィィイン……!
────きィィィィイイイン……!
「…………あ、あわ、あわわ」
ごごごごごごごごごご…………!
こ、これはっ、黄金の、威圧感……!?
女剣士の真後ろ。
黄金が、いる。
背中を、とった。
動かない。
うさ丸が、ぽこぽこ殴る音だけが、響く。
俺も、キッティも、固唾を飲んで、見守る。
そして────……。
羊雲の髪の剣士は、
ギギギギギ、と、
首を、後ろに回すのだった。
「あああ、あばばばば……!」
────。
「────ひぃ〜〜……」
「────きぃ〜〜……」
「────はぁ〜〜……」
「────ちゃあぁぁ〜〜〜〜ん……???」
「────────────ぃぃぃぃぃい!!!!!!!」
メンチ切ってる、黄金の義賊が、そこにいた。










