フェイバリットファイア さーしーえー
「ね、ね、これでいいの? ほんとに? ねぇ」
『>>>いい。それでいい。いいから真ん中に窪みつくって』
『────"カーディフの火":調整完了。現状の温度を維持します。』
ジュウウウウウウ……!
「ね! ちょ、これ上に乗ってるの火が通らないんじゃないの!?」
『>>>いーからいーから! クラウンちゃん、中火より、きもち強めね?』
『────"きもち"の数値化が不可能判定。比率で入力を期待。』
『>>>え……比率って何……?』
「クラウン、ちょい強よ、ちょい強っ!」
『────……レディ。期待した私が未熟でした。お任せ下さい。』
『>>>アンティ! それはぶ厚すぎるって! それじゃテキだよ、テキ! スライスして!』
「ええっ!? これより薄くすんの!? 歯ごたえないわよ!?」
『────ダイオルノシュオンの表面温度の上昇を確認。』
『>>>ああっ!? ストップストップ!! アンティ急いで! 窪みを避けて、肉を置くんだ!』
「ちょ、ちょっと待ってよ……よっ!」
スゥ───────……!
『>>>おお……すごぃ……サキさんの切れ味、やばいな……』
【 ──はん! 】
「あと私の腕ね! ……ねぇ、ほんとにこんな薄くていいの? ほんのりピンクが透けてるわよ?」
ジュワわぁぁあああ──……!
『────告。ダイオルノシュオンより、白煙が発生中。』
『>>>うわわ! いいから置いてったら! 真ん中は開けるんだよ!?』
「も〜〜! せっかちねぇ〜〜! テキのほうが美味しいのに……」
『>>>真ん中! 卵、卵!』
「え、卵、どこに出したっけ……」
ぷしゅ────……!
『────告。植物層より水蒸気が発生中。』
『>>>ふぁ───! たまごぉ────!!』
「──にょきっと!」
コンコン、パカッ。
────ぽてっ。
「………」
『────……。』
『>>>…………』
「……にょんや?」
「……卵を割れるラビットって……」
ぶしゅわぁぁああああああ──……!
『────告。卵白部が流動。ダイオルノシュオンに接触。』
『>>>あっやばい! アンティ、もっかい生地かけて!』
「え、え!? かけるのッ!? また!? 上から!?」
『>>>はやく! はやく!』
「えっ、ぜったい生焼けよ!? 草やら肉やら乗ってんのよ!?」
『────告。卵白部が凝固を開始。』
「いや、クラウン、あんたはちょっと火を弱くしなさい……ええい! どうなっても知らないわよ!? そぉりゃ!」
じょっっばぁあああああ!!!
『>>>あ、やばい!』
「なに!?」
『>>>ひっくり返す道具がない!』
「おいこら先に言え!」
『────とろポタタ部:沈殿。キャベツ及びオーク肉に展開。生焼けです。』
「にょや〜〜」
「うさ丸、ちょっと離れなさい。毛が入る」
「──にょやっッ!!?」
ガゴ……
『>>>え、何する──……』
ぐっ……!
「……────っと!」
……───パシャん!
ジュウウウワワワワァァァ!!
『────告。調理物、反転しました。』
『>>>すげぇ……手首のスナップだけで……さすが食堂の一人娘……』
「先輩ィイ! あんたねぇ! ひっくり返して火を通す料理なら、そう言っときなさいよね! コゲそうだったから、あせったじゃないの! 見なさい! とろポタタ入りの生地、顔やら胸元に飛びまくっとるわ!」
『>>>あ、さ、さーせん……さーせんした……』
『────告。卵白も飛び散っています。バッグ歯車による格納清掃を開始。』
じゅぉぉおおお……
「もぉおうぅ。あ、でも、いい匂いしてきたわね」
『>>>フタ、どうしようか?』
「だ、だぁかぁらァ、先に言ってよぉおおお!」
『────案。アナライズカードでの遮断を推奨。』
「ふ、フライパンに、アナライズカードでフタすんの!? ……なんかアナライズカードに怒られそうね」
『────? 私は怒りません。蒸し焼き上等です。』
「あぁそか……アナライズカードって、クラウンになんのか……えいっ!」
────ヴォン!
──ポプぅううううう────……!
『>>>便利すぎか。衝撃には弱そうだけど、熱には強いよねーアナライズカードって! ほら、手紙配達の時、文字が浮き出たアナライズカードを炙って、紙に押し付けて印字してるだろう?』
「あ、あれ、けっこう他の街のギルドの人に好評みたいよ? キレイで読みやすいって!」
『>>>あ、ごめんクラウンちゃん、もちょっと強火で……』
「おいこら、先に言わんかい」
『────了解。"もちょっと":強火に調整中。』
「ふぅ〜〜。先輩の故郷の料理を教えてくれるっていうから、やってみれば……今度からは、先に全部きいてから作るわ」
『>>>はは……ごめんよ』
『────調整完了。確認願います。』
「カンペキ、いい子。そういやさ、このフライパンも、"魔盾"になってるのよねぇ。普通に料理していいのかな……」
< どんとこいやよ〜〜! >
『────過去のレエンにて、強大な範囲攻撃を、物理、流路共に、無効状態にしました。現在:魔盾ダイオルノシュオンの冷却は解除されています。スキル使用可能です。』
『>>>"絶対拒絶"か……サキさんの、"絶対断絶"にソックリだね』
「包丁とフライパン、どっちもエンマさん作だからかなぁ?」
『>>>アンティ。その……きみは"会った"のかい?』
「! それって、"フライパンの人"に、ってことよね?」
『>>>うん』
「……会った、てゆーか、後ろから話しかけられたっていうか。顔は見てないのよ。優しい女の人の声だったわ」
『>>>うーん……やっぱ、一度会いに行ったほうがいいよなぁ……』
「え!? どゆこと!?」
『────アンティ。現在、バッグ歯車内に、巨大な建造物らしきものの構築を確認しています。』
「……はい?」
『>>>そうなんだ。"箱庭フォートレス"って、ご丁寧に識別コード設定もされていてね』
「ご、ごめ……いきなり過ぎて、ワケわかんない。これ、しばらくフタしてていいの?」
『>>>あ、大丈夫。えーっとね、簡単に言うと、でっかい船のようなモノに、でっかい建物が乗ったようなモノが、バッグ歯車の中に出現したんだ』
「ふぇ? ふ、ふね……?」
『────的を射た比喩表現です。"箱庭フォートレス"は、現在も時限結晶内を:航行しています。』
「……バッグ歯車の中に、巨大な船が走ってる……? いやあんたら、先に言えよ……食堂娘、ビックリよ……」
『>>>あ、ははは……。でね? その船の上の建造物なんだけど、どうやらそこ、サキさんと会った場所っぽいんだよ』
「! 何ですって!?」
『────補足。まだ、私とクルルカンは、距離を置いて観察したのみですが:建造物中央部には、朱色の木材のような材質と、金の葉を持つ、黒い幹の大木が確認できました。』
「……!! "箱庭"って……!」
『>>>そ。心の中で、サキさんに会った、あの場所かもしれない』
『────同意。歯車法にて、精神とストレージは、密接な関係があると推測します。"魔刀ヨトギサキ"と、"魔盾ダイオルノシュオン"がそろったことで、"精神の箱庭"が強化構成されたと予測しています。』
「よ、よくわからないけど、ようするに……その、バッグ歯車内の、おっきな船の上には、サキ"達"がいるかもって事……?」
『────的を射た予測です。』
『>>>そゆこと。いま、一応、スパイを頼んでる』
「はぁ!? 誰にッ!?」
『>>>イニィさん』
「ま、マジですか……!?」
【 ……ハッ 】
『────イニィ・スリーフォウの潜入調査が終わり次第、あなたの精神を:箱庭フォートレスに投影できるか試みます。』
「そ、そんなことできるかも、なんだ……あぁ、でもサキにはもっと自由に会いたいなぁ」
『>>>フライパンさんにも挨拶できるかもね!』
『────イニィ・スリーフォウの無事を祈りましょう。』
「こらこら……物騒なこと言わないの」
「にょんや! にょんや!」
「え、なに、うさ丸。あ!? そろそろいいかな?」
『>>>あ、お好み焼き、忘れてた……』
「忘れんなよ……ソースはフライソースとマヨでいいの?」
『>>>あとアオノリとカツオブシもね! いやぁ、まさかナトリで売っているとは……』
「ごめんサキ……このカッツォブシ、硬いのよ……ちょっとあんた使うわ……」
【──おぅ、やったれ】
べしょ、ぬりぬり。
ショリショリ、シャンシャン……
パラパラパラパラ──……。
……。
「……ヤバイのができたわね……」
『────総カロリー:算出中です。』
『>>>いや、すごい美味そうだよ?』
「にょんややぁ───!」
「いや、うさ丸は食べちゃダメよ? 食べたらラビットじゃなくなるわよ?」
「──にょっ、や、……!?」
「よし、毒味だ……キッティとギルマスに持っていこう……死なばもろともだわ……」
『>>>ひでぇな……』
『────生きてください。』
「クラウン! コード入力! "変身"!」
『────レディ。
────コード入力確認。
────"変身シークエンス"を開始します──。』
ギャァオオオオオオオォオオンン──……!
「アンティさん……! あなた、何てモンを作ってくれちゃってんですかっ!」
「……ん! これは……ッ!」
「「うまァ〜〜〜〜い!!」」
キッティと2人でお好み焼き一枚食いつくしたので、
ギルマスには丸々一枚焼いて、持っていきましたとさ。
『>>>そらみたことかぁ〜〜〜〜!!』
『────危険。口内がアオノリまみれです。』










