旅立ちと、わがまま仮面 さーしーえー
わー。
いーい天気だなぁー。
絶好の、旅立ち日和だなー。
机の上に、仮面あるんよ。
ふふふふふー。
「ありえねぇー……」
人間、恐怖のどん底でも、けっこう寝れるもんだ。
ちなみに、けっこう寝すごした。
もう昼前だね。
お日様の位置は上の方だ。
今日はお店は休みだ。
朝ごはんと昼ごはんは、同時になりそうだ。
あらためて、仮面を見る。
昨日、独りでに動いてたやつだ。
お日様パワーで、かなり恐怖が薄れている。
冷静に見ると、けっこう派手な色の、お面だ。
全体の色は、オレンジベース。
黄色いラインの装飾。
かぶると、顎は少し下から、はみ出すだろう。
貴族様が、舞踏会とかにしていけば、案外似合うかもしれない。
少しだけ艶があり、朝日でキラキラ光っている。
呪われてなければ、美しい仮面だった。
「呪われてなければなぁー……」
仮面を見る。
こちらをまっすぐ、向いている。
……なんか、期待しているような印象を受けるのは、気のせいだろうか。
「ううう、わかりました、わかりましたよ。連れてきゃいいんでしょ」
机とイスごと、仮面を格納。
ついでにベッドも、バッグ歯車に突っ込み、遅い食事を食べに、1階におりた。
「アンティ、風邪でも引いたか?」
「う〜ん、熱はないわねぇ〜」
「はっはっは! 旅立ちに緊張してやがるのかぃ!」
「あらあら〜」
いや、ごめん父さん母さん。
ちょっと呪われちゃって。
放心しぎみで、ご飯食べてごめんね。
せっかくの門出なのにね。
ほわほわと、食堂を出る。
父さんらに、声をかけられる。
「アンティ、俺達はここまでだ」
「ふふ」
「! え、なんで……」
街門まで、付いてきてくれないの……?
「アンティ、見ろ」
「? え……あ」
この時、私は父さんらの言いたい事がわかった。
父さんと、母さん、そして、後ろの食堂。
馬鹿でかい、オレンジ色の派手な看板。
我が家の風景。ここなんだ。
「ここが、お前の帰る場所なんだ」
「ここで、私達は、待っているわ」
「「だから、ここから送りださなきゃいけない」」
そうだ、この光景を、瞳に、焼き付けなきゃいけない。
だから、ここなんだね。
父さんと、母さんに、抱きつく。
「ありがとう……行ってきます!」
「ああ!」
「いってらっしゃい〜」
ふふ、そうだ。
私いつも、ここから見送ってもらったじゃない。
変わらないんだ、それと。
とても、安心したよ。
「まぁ、1ヶ月後に、テストだけ受けに帰ってくんだろ?」
「父さん、ムード台無しだから」
街門に行くまでに、何人かの常連さんに声をかけられる。
元気でやるんだよ、とか。
そんな軽装で大丈夫か、とか。
バッグ歯車持ちですから、とは言えんので、先に荷物だけ送ってるとか何とか言い訳した。
嘘ついてごめん。
街門につくと、門番のおっちゃんがいた。
「よう、嬢ちゃん!」
「は〜い、こんちは」
「いよいよだな」
「うん!」
「……がんばれよ!」
「……うん!」
馬車の停留所に行くまで、おっちゃんは、手をふり続けてくれた。
シンプルな言葉だっだけど、なんか、いいよね。
お日様の温かさが、心まで届いたみたいだった!
……超呪われてんだけどね。
待合の馬車があったので、乗り込む。
天気がいいから、4、5ジカで、ドニオスに着くはずだ。
私の他に、数人乗り合いがいた。
比較的すいている。
さて、これから東に進む訳だが、私の気になる事は、ただひとつ。
仮面さんの、行きたい所が、果たしてドニオスかどうか、だ。
他のお客さんは、お昼すぎだから、うとうとしている。
私は気づかれないように、そっと、歯車から仮面をとりだす。
キラッ
おお……やっぱりハデだな……
オレンジ、て。
こう見ると、ホント呪いの仮面っぽくないわね……
もっと、黒とか紫とか、他にあんでしょうよ。
────ワクワク。
……私は気が狂ったのか。
一瞬、仮面がわくわくしているように感じた。
そんなわけねぇ、そんなわけねぇよ。
自分の感性を疑うわ。
(クラウン。仮面の、べくとる、だったっけ? 行きたい方向を示せる? )
『────レディ。表示開始。』
透明の板のような物が、仮面の側に出る。
アナライズカードの材質だね。
……矢印みたいなカタチだ。
なるほど。こっちに進まないと呪われるのね。
「かんべんしてほしいわね──」
「? 何がだい?」
「! な! 何でもないです……」
あっぶな──……。
向かいのお客さん、起きてたよ。
やばい、独り言に見えるよね……。
き、気をつけないと……。
仮面の矢印は、やはりドニオスの方に向いている。
うごいてくれるなよ……。
私は祈る事しか、できなかった。
ガタゴト、がたごと。
パカパカ、ぱかぱか。
2ジカほど経った時、悲劇がおきた。
矢印の方向が、変わったのだ。
「……さいあくだ」