うさ仮面 さーしーえー
「…………」
「俺達はな、ついさっきまで、お前の話をしていた。キッティも、手紙の仕分けをしながら、お前のことを心配していたんだぞ」
「…………」
「……確かに今回は長かった。十日だ。お前が来てから、初めての遠出だったろう」
「…………」
「だからだな。お前が帰ってきたら、柄にも無く、"おかえり"の一言くらいは言ってやろうと思っていたのだ……それがどうだ、この有様は……」
「………ぅも」
「やれやれ……俺はギルマスとして、この状態で帰って来たお前を、どうしてやったら良かったんだ……」
……。
……そんな事、言われてもねぇ。
「にょきっとぉ〜〜!」
「──おいコラッ! ちゃんと聞いているのか? うさ仮面!!」
「……ふぁれは、うははめんはへん」
誰が、うさ仮面やねん……。
「おい!? う、うさ仮面だッ……!」
「ん? ──ぉおぅほッ!! あ、あれは、どう見ても、うさ仮面じゃないか!!」
「なんてこと……うさ仮面だわ!」
「う、うさ仮面、だな……」
「う、うらやましいぃぃ……」
「あ、アマロン様に報告せねばッ!?」
「だ、ダメだ! 今はホールエルの街の教会まで行ってらっしゃる!」
「なんてこったッ……! この奇跡をお伝えできないなんてッ!!」
「よぉ、おまえら! ん……? みんなで何を凝視して、な、何じゃありゃあああああああああ!!?」
「……ねぇ、クルルカンの顔面に、うさ丸が装備されてるように見えるんだけど……」
「あ! あなたも見えるのね? ほっ。私がおかしくなったんじゃないんだわ!」
「おぉ、義賊の嬢ちゃん!! 帰ってきたのか! って何だ……うさ仮面か……」
「……あれはつまり、感動の再会なのか?」
「そのようだ……あそこまで発達した前足でのホールド、簡単にはとれんぞ……」
「息、できてるのか?」
「お、おい! よく見ると、いつもの金色の仮面をしてねぇぞ!」
「何!? と、ということは! 素顔の上に、うさ丸がくっついてるのか!!」
「「「クルルカンの嬢ちゃんの素顔、気になるな……!」」」
────モフ、ガッ!!
「にょやっ!?」
「────ふぁ!?」
「えいっ!」
────ぎゅううううううううう!!
「にょ、にょんやぁあああ〜〜!!!」
「ふむむむむむむまむむむたたた!!」
「……とれませんねぇ……?」
ちょ、こら、キッティ、きさま。
「──は、はへはさいほ、ひッひィ!! はほ、ひえんえひょ!」
「あ、私のことわかるんですね? アンティさん! てっきり、うさ仮面で見えないものかと……」
はっ!
黄金の義賊ナメんじゃないわよキッティ!
アブノさんの店から、すでにあきらめて、
"ベアークラッチ"、展開してんのよ。
うさ丸が顔面にへばりつこうが、
正面どころか、全方位すべて見えとるわっっ!
うううっ!
「はほがひえると、こはるのでやへへくははい」
「……うさ丸がひっついているのに、顔は冷えんだろう」
「ふっきぃぃい──!!!」
「ね、アンティさん、そろそろ私達、顔を見せてもいい間柄ですよね!? ほら、ちょっとだけ、ちょっとだけですよ」
き、キッティてめぇ……!
そりゃ、やぶさかじゃないわよ!
色々迷惑かけてるしさっ!
でも周り見ろよ!
みんな、うさぎを顔面に貼り付けた黄金の義賊を、微笑ましそうにバカにしてんでしょ!
ベアークラッチで、ぜんぶ見えてんだぞぉ!
そして、みんなには見えてないけど、
私は恥ずかしくて、涙目なんだぞぉぉ!!
こんなかに、ウチの食堂でご飯食べた人がいたらどうすんのよ!
見せるとしても、奥の部屋だコラァ!
ちょ、こ、コラ、はなせっ!
うさ丸をはなせっ、キッティ!
そして、うさ丸!!
おまえは後でちゃんと私をはなせっ!
ここではダメだっ!
後でいっしょにお風呂入ってあげるからっ!
ぎゅううううううう──!
「にょ、にょきっとぉ〜〜……!!」
「やれやれ。先ほど、うさ丸が耳をぱたぱたして飛び出して行ったと思ったら……このようなうさ仮面になっているとはな」
う、うさ丸。
なぜ私が、あの変態店にいるの、わかったのよ……。
あ、イニィさんとガルンは、アブノさんの店の天井の穴の修理、手伝ってます。
「! そうだ、アンティ。入れ違いになったゴリルから、面白い噂をきいた。お前、何か知っていたら教えろ。……その有様なので、首を縦か横にふれ」
「?」
うわさ、って?
「ラクーンの里で、夕焼けが爆発するような現象が目撃されたそうだ。お前なにか知ってるか?」
………。
ふるふる。
「にょきっと」
「……ほんとか? 何やら魚を焼くようなよい香りがしたと、前に別の報告があったのだが……」
……。
ふるふる。
「ひひはへん」
「……ほぅ。では、南の空で、爆発するような光の柱が目撃された件は、お前、なにか知ってるか?」
……。
ふるふる。
「にょっき!」
「うさ丸、本当に離れませんねぇ……耳が左右に揺れてます」
「……俺は、レエン湖辺りがあやしいと思っている。この後、ラクーンの里とレエン湖に向けて、冒険者による調査隊が組織される」
……。
どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、どっ。
「ほ、ほうなんでふねー」
「……アンティ」
「はひ」
「南だ」
「はひ?」
「……お前が、行った、方角だ。ほんとうに、なにも、知らんか?」
……。
「ひははいほ」
「………………」
し、しらない。しらない。しらない。
しらないよぉおおおおおおお……!
「ひ、ひははいほ……!」
「うむ……うさ仮面で、表情が読めんな。まぁいい。お前も疲れているだろう! 今日は配達は止めておけ。ゆっくり休むがいい」
「あっ、アンティさん! 例のあの部屋に、まぁまぁ仕分けた手紙が置いてあります! また、よろしくお願いしますね!」
「ふゃい、わはりはしは」
「……よく、無事で帰ってきた」
「! は……はりはほう、ほあいはふっ!」
「くっくっ……うさ丸は随分さびしがっていた! 今日は、かまってやれ」
「ふぁい!」
ズシ、ズシ、ズシン……。
「さぁて! じゃあ私も、レエン湖調査クエストの張り紙、作りますかぁ! アンティさん? 後で私に、美味しいご飯の差し入れしてくれても、いいんですよ?」
──ダダダダ……!
「た、たいへんよキッティ! なんか、さっき保護された記憶喪失の人、あのドレッド将軍みたいなのよ!」
「ぇえっ! それって前に、隣の酒場のお姉さんに手ぇ出してトラブルになった、あの貴族の人ですよねぇッ!? あぁぁ……また面ッ倒ぉぉぉぉおな、仕事がぁぁぁ……」
コツ、コツ、コツン……。
「…………」
あわわわ。
ボロが出る前に、塔の自宅まで、急ぐ。
「おい……うさ仮面を見ろよ!」
「すげぇな、まるで見えているかのように進むぜ!?」
「は、はやいっッ!」
「まさか、ああいう仕様なのか……?」
「見えてるってこと!?」
「今度、うさ丸に試してもらおうかしら」
「いやいや、俺らには絶対無理だろ……もふもふして、前なんか見えねぇよ!」
「なるほど……黄金の義賊クルルカンだからできる芸当というわけか」
「も、もふもふ、顔面……う、うらやましいぃぃ……!」
何故かいつもより視線を集めている気がするが、
構わず、塔の入口がある扉まで進み、
中に入る。
キィ────バタン。
…………。
…………。
…………。
ガガっ!!
「にょっ!?」
「てぃっ」
「にょきっと……ッッ!?」
うさ丸の両手を持ち、
顔からひっべがす。
ドラゴンのヨロイのパワー、なめんじゃないわよ?
「にょややぁ〜〜!」
「はいはい。わかった、わかったから……」
「にょ?」
──ぽふん。
塔の下、ちょっと薄暗い、四角い空洞で。
寂しがり屋のボゥルラビットを、胸に抱き抱える。
「にょ! ……にょきっとな〜〜♪」
「次からは、乙女の顔に、しがみつくんじゃないわよ?」
「にょにょっき!」
「……もぅ、しょうがない子ね」
……。
……。
……ナデナデ。
「にょっき〜〜♪」
ふもふも。
横のレンガの壁に、背中を付け。
ずるずると、座り込む。
……。
……う。
「……うさ仮面で、良かったぁああァァ〜〜〜〜……!」
「にょ、にょきっと?」
『────表情の隠蔽は、情報秘匿に有効だと予測。』
『>>>ははは……やっぱりあの光、見られちゃってたね〜〜』
「そんな予想ついてたんなら、先に教えといてよぉ〜〜……」
まさか、調査隊まで出てくるとは……。
うさ丸がいなかったら、確実に顔に出てたわ……。
あ、先輩の仮面でも、顔は隠れるか。
……とにかく。
「……うさ丸、助かったわ」
「にょっき?」
……なでなで。
「にょっき〜〜♪」
これからは、なんかで問い詰められたら、
うさ仮面でいこっかな?










