⚙⚙⚙ ああ、懐かしのドニオスよ! ⚙⚙⚙
ワィワィ……!
ガヤガヤ……!
きたで。
「……────きた、ぁぁあアアアッ!!」
目の前にそびえ立つは、門。
そう。 街の、門だ。
相変わらず、人で賑わっているわ!
あ、子供に指さされました。
……手を、振りかえしました。
一歩ずつ、一歩ずつ、踏み出す。
「よォう! 配達の帰りかい?」と、
明るい声を、かけられる。
「はは、まぁね〜〜」と、気さくに返し、
この街に、足を、踏み入れる。
『ヴォン!!』と、乳装甲の裏で鳴る、ギルドカード!
正面には、白い大きな塔が、見えていた!!
そう、帰ってきたのだ────!!!
ひゃっほ────い!!!
「────かえってきたぞっ、ドニオスにィィいいっッ!!!!!」
「あっ! クルルカンのおねぇちゃんだっ!」
「あらホントねぇ──最近見なかったわね?」
「おお、配達の英雄さまじゃねぇか!」
「よォ、後で手紙持ってくぜ!」
「ぎゃ──!! やっと帰ってきたわね!!?」
「ご、ごめんね、この子、ラブレター送るってきかなくて……」
「義賊の嬢ちゃん……今日も眩しいぜ」
「くどいてんのかよお前……」
「あら、お久しぶり! 手紙、ギルドに預けてるわ。ま、よろしくね!」
「黄金娘、今日はお出かけか?」
「うおおっ! 久々に近くでみたら、やっぱすげぇな!!」
「キミはどこからでも見つけられるね」
「おい、今日は中央公園に気をつけろ。校外学習で、ちびっ子どもが集まっている。おまえなんて……──イチコロ、だぜっ?」
「あばばばばば……中央公園、こえぇぇ……」
{{ ……すごいわね }}
「──んぇ?」
ドニオスの街のみんなに、
テキトーに挨拶して返していると。
乳装甲の上の部分に、
ちょっとはみ出させて挟んでいる、
フォークに宿りし悪魔ちゃんから、
驚きの声がかかる。
ドニオスに帰るまでの道で、
イニィさんがバッグ歯車に入っちゃうのは、
確認済みだ。
それでも今は、
少しでも、レエンの外の世界を、
見せてあげたかったのだ。
「……へへ、すごい街でしょ。まぁ私の地元ってワケじゃないんだけどね?」
{{ ……街に驚いたんじゃないわ。貴女に、よ }}
「ふぇ?」
{{ ──皆、さっきから、貴女に親しみをもって、当たり前のように声をかけていくわ }}
「あ、ああ! ほら、帰って来る途中に、説明したでしょう?」
レエン湖からドニオスまでは、
ガルンツァーで、のーんびり、走って帰ってきた。
イニィさんは悪魔化して、
私の前に、チョコンと乗ってね?
走りながら、私の話を、色々したのよ。
元々は、ただの、魔無しの女の子だったこと。
能力おろしで、歯車法って謎のスキルを得たこと。
父さんらがくれた時限結晶をとりこんじゃったこと。
それらを隠すために、絵本の英雄の格好をしてること。
憧れの冒険者のように、自分の生き方を探してること。
実は、この仮面は、本物の英雄のモノだということ。
このヨロイは、とある変態が、タダでくれたこと。
私の仕事が、何かを"届ける人"だということ。
世界で最後の、"郵送配達職"であること──。
私の話をする度に、目の前に座る悪魔っ子は、
深紅の瞳を、コロコロさせてね?
昔、ユータ達に絵本を読んであげていた頃を、
思い出したわ。
……ふふ。
私の話をしているはずなのに、
絵本みたいだなんて、変な感じ。
その後は、
エルフや、ラクーンや、魔族なんかの、
いろんな種族の話をした。
学位では、ちょいニガテな科目だったから、
けっこうアバウトだったけど……。
特に、エルフの隷属意識の緩和や、随分前に、
魔族との諍いが無くなったことは、
けっこうびっくりしてたみたい。
……やっぱ、バスリーさんが言ってたように、
昔って、種族みんな、仲悪かったんだね……。
その話が終える頃になると、
さすがに街の近くにきたので、
ガルンツァーは、しまっちゃった。
あいつどうも、魔獣に分類されちゃうっぽいのよね……。
たまに、歌うしなぁ……。
{{ ……貴方が絵本の英雄の格好をしていることは、理解しているつもりです。けど……地元でもないのに、この人気っぷりは何……? }}
『────分析完了。
────現在:遭遇した半径7メルトルテ範囲の、約7割の住民が、会釈をする:話しかける等の行為を実施している事を確認中です。』
『>>>もう、性格だよ、性格……こんなカッコしてても、愛想と人情が隠しきれないんだよ、きみってやつは……』
「こ、こん……!? あ、あんたそんなこと言うけどねぇ!? このカッコ、アンタのカッコだかんねぇっ!?」
『>>>こ、声、おさえておさえて……』
「あ……やば」
{{ ……この大きな街の、7割の民が、ピエロちゃんの事を知っている……? そ、それって大丈夫なの? 貴女、正体隠してる、のよねぇ……? }}
「い、ぃわなぃでぇえ〜〜……!」
数字のチカラに打ちのめされながら、
とぼとぼと歩く今も、
チラホラと私に、明るい声がかかり続けている。
も、やだ。
おうちかえる。
あ、ダメだ。
その前に、やることあるわ。
「ねぇ、イニィさん。このヨロイ、とある変態が作ったって言ったよね?」
{{ ええ……。聞き違いだと思いたかったんだけど…… }}
「今から、その変態に会いに行きます」
{{ ど、どうしてっっ!? }}
胸元のフォークが、小刻みに揺れている……。
「……えっとね、ちょっと、つっこんだ話するよ……?」
{{ え、ええ…… }}
「ここにくるまでに、魔族とはとりあえず、昔に仲直りしたって言ったよね?」
{{ いまだに不思議な感覚だけどね }}
「でね? イニィさんって、魔族に間違えられると思うんだ」
{{ そう、ね…… }}
「でも、その……魔族じゃなくて、"魔物"、じゃん……?」
{{ ま、まぁ、そうね…… }}
「こんなこと言ったら、イニィさんに嫌われると思うんだけど……」
{{ ん? ……そんなことは有り得ないから、言ってみなさい }}
「……う、うーん……」
{{ 何よ、そんな急に悩んで……いいから、ほらっ。言ってごらんなさい? }}
うっ、じゃ、じゃあ……。
「……"アークデーモン"を街に連れ込んだってバレたら、私、たぶんギルマスに、ほっぺた千切られるのよ……」
{{ ……………………ぅん? }}
「あの人から私、家、無償で借りてるのよ……」
{{ ……………、……ぅっわぁ…… }}
「私の生活のためにも、イニィさんには、"魔族のフリ"をしてもらわないと、困るのよぉぅぅ……」
{{ ……と、とても理解しました }}
「私ね、思うの。魔族と魔物には、わかりやすい、大きな違いがあるでしょう……?」
{{ ……! "魔族"と、"魔物"の違い、ですって……? }}
「ええ……」
{{ ……興味があるわね。それに、貴女は気づいたと? }}
「ええ、超、きづいたわ……それさえクリアすれば、イニィさんは傍から見て、友好的な魔族の女の子ってことで、ぜんぜんイケると、私は信じたいのよ……」
{{ な、るほどね…… }}
「……ごめん、魔物扱いして……」
{{ ……いや、ホントのことだから、仕方がないわ。貴女の生活を脅かすのは、私の本意ではないし……それで? }}
「ん?」
{{ その、魔族と、魔物の決定的な違い、とは……? }}
「えッ!? イニィさん、ま、まさか、わからないのっ!?」
{{ えっ!? }}
「……クラウン、わかるよねぇ?」
『────……予測はついています。』
「……先輩も、わかるよねぇ?」
『>>>あ、まー……アレだろうね』
{{ ??? うーん?? }}
いやいや、悩まないで、
私の心、読めばいいだろうに……。
もーぅ、変なところで、律儀なんだからぁ。
{{ ……──降参よ。この悪魔めに、その違いとやら、ご教授ねがえるかしら? }}
いーや、だからさァ────……?
「服でしょ」
『────服です。』
『>>>服だねぇー』
{{ ………… }}
────いや、だって……。
「……いくら子供だからって、女の子の魔族が外、すっぽんぽんで歩かんでしょうよ……」
{{ ──あぁあ! }}
『────……。』
『>>>…………。』
……あぁあ、って、イニィさんっ!?
そこは、気づいてちょうだいなぁあ────!!!