新しい絵本の、1ページを さーしーえー
ピカァアアア────!!!
「わ!」
{{ !? }}
『──ガルルッ!!』
紫の時限結晶が、いきなり光り出した!
な、なん?
『>>>やっぱりだ……離れないね』
『────そのようです。どのような剥離コードも受け付けません。』
「? どういうこと?」
{{ ! 紫の結晶に引っ付いている、ヒールスライムの事ね? }}
「!」
『>>>ああ、そのとーり。今ここに浮いて見える結晶には、白い小さな羽根が付いてるだけだけど、流路的には、かなりの量のヒールスライムがくっついてるんだよ』
『────切り離し:不可能判定です。』
「うええ───……じゃあ、紫の時限結晶を持ち運んだら……」
{{ 後ろから、巨大スライムが付いてくることになるわね }}
「うえっへええぇぇ────……」
そんなん、ただの呪いの石やないか……。
いや、ヒールスライムだから、害は無いんだろけども。
「ここに置いていくっての……やっぱ危ないかなぁ?」
『>>>うーん……この石ね、イニィさんの言ったとおり、このスライムの核になってるんだと思うんだよ。よくわかんないけど、"しろいふた"の意識は、この巨大スライムに溶けているっぽいでしょう? この核を中心に、意識が集まり始めたら……』
「! "魔物"としての意識が、戻っちゃう!?」
『────起こりうる予測です。非常に緩やかにですが:今も流路の合成と集束が行われています。』
{{ "しろいふた"が、最初からスライムだったのかはわからない……でも、このままだと、いつか、巨大な魔物として、意思を持ってしまうわ }}
「うぇぇええぇまじかぁああ……」
『>>>困ったね……』
『────この速度ですと、2000年ほど経過すれば、意識の一部が表面化すると予測。』
「に、2000年後ッッ!?」
『>>>アンティ、どする? 正直、ここにほっといても、きみの人生には関係ないかも』
え!! う、う〜〜ん、
そりゃ、こちとら普通の娘っ子ですから?
そんな先までミラクル婆ちゃんになって、
生きているとは思いませんがなぁ……。
「で、でも、未来の人たちが困るのを、見過ごすってのはなぁ〜〜!」
『>>>きみらしい答えだねぇ〜〜!』
『──ガルル〜〜!!』
いやいや、あんた達……
同意してくれんのはいいんだけどさ、
根本的な解決法を見つけないとお……!
「あ〜〜!! もう!! クラウンがいたら、魔物の言葉、わかるんでしょう!? ちゃっちゃと私が生きてる間に起こして、スナヌシみたいに会話できないの!? セットクよ!! セットク!! "大人しくしてください"って頼めばいいのよ!!」
{{ ピ、ピエロちゃん、何言って── }}
『────それです。』
『>>>それだあっ!!』
{{ ええっ!? }}
「あ、え? 採用?」
『>>>最ッ高に冴えてるよ! クラウンちゃん、スライムの構成体自体は白魔法だから、格納いけるよね?』
『────問題ありません。紫の時限結晶本体は露出させる形となりますが、流路構成体を格納し、意識の修復を補助:精神回復を速めることは可能判定。』
「え、それって……ホントに私、生きてる間にスライムとおしゃべりしなきゃ、な流れじゃない……」
{{ ……ピエロちゃん、ビックリ人間ねぇ…… }}
あ、悪魔にビックリ人間って言われましたよ……
てか、イニィさんも、
流路で魔物の感情とかよめるんじゃ……。
ああー余計なこと言ったかな?
でも……しゃーないか……。
世界平和のために、食堂娘ができる事を!
なんつて。
「やれやれ。"旅は道連れ、世は情け"ねぇ……」
『>>>! ……き、きみ、それ……』
「じゃあ、さっそくしまっちゃお──!」
歯車を出すために、手をかざそうとすると──……
『『『 金の君よ その旅に──娘を共に、連れて行ってやってはくれまいか? 』』』
{{「!」}}
ゼロンツさんが、語りかけてきた!
さっき、思っくそ叫び返してしまったけど、
これだけ大きな大樹が声を出すと、
そう……やまびこって、こんな感じかしら。
深い、男性の声が辺りに木霊して、
足元の白い魔法の草原がシャラシャラと鳴った。
──小さな悪魔が、大樹に語りかける。
{{ お父様! そんな……お父様を置いてなど! }}
『『『 ……イニィよ 私はもぅ 大地から離れる事は出来ぬ……なぁに、私と其方は、今まで悠久を語り合ったではないか 』』』
{{ ……でも! お父様が、一人ぼっちになってしまいます……! }}
『『『 ……──私は、罪に思うている。其方をとうとう、この
場所から、出してやる事ができなかった……其方を守ると意気込むあまり、どうだ! 今の今まで、この地に縛りつけてしまった 』』』
「それはっ……! 私のせいも、ある、から……」
{{ ! ピエロちゃん…… }}
『『『 ──ふ。お陰で、親子の語らいが出来たものよ…… 楽しい時であった! ネコ殿には、少々手を焼いたがな? 』』』
「ネ? あ……」
あいつか……。
こんど会ったら、
シメよう……。
『『『 ……イニィよ、私はもう人ではない。時の感じ方はもう 大きく、大きく、違っているのだ 』』』
{{ お父様ぁ…… }}
『『『 よい。外の世界を、友と共に、見て巡るがよい! ──金の君よ、たのめぬだろうか? 』』』
! "友"……。
……ふふ、そうね。
いっしょに過ごした時の長さなら、
この世界で、ダントツ1位だわ。
「えーっと」
{{ …… }}
横のちっこい悪魔を見る。
ずっとずっと、ここに閉じ込められていた、
レエンの忘れ形見。
王の血をひく、最後のプリンセスを。
敢えて、ここは道化として振る舞おう。
片足を後ろに回し、
手を差し伸べ、
頭を垂れて、迎えよう。
「……参りましょうか、王女様? 」
{{ ! ……あ、貴女 }}
この黄金の道化が、
心優しい悪魔の王女を、
この白の王宮から、かっさらうのだから。
──これくらいの演出は、必要でしょ?
{{ ……3食おやつは、でるのかしら }}
「私めの、手作りでよろしければ」
{{ あら、今はその冠が映えること! 金の王子様に、お料理なんて、できるのかしら? }}
「えっへん。おまかせあれぇ」
……ふふ、
この小さな王女様は、
私が食堂の一人娘だとは、知らないらしい。
劇場由来のマントは、
私を絵本の通り、
黄金の騎士に見せるだろうか。
{{ …… }}
私のおふざけにノッてくれた悪魔の姫は、
少し考えた後、そっと私の手に、
手を、重ねてくれた。
{{ ……我が獣の友と共に、御厄介になりましょう。この大恩、この身にかけて、必ず返します }}
「──ぶっ! お、大袈裟だよ〜〜! お互い様なんだし、まぁ気楽に行きましょ?」
{{ あら……悪魔の契約は、そう簡単には解けないわ? }}
「! た、はははっ!」
まっっったく!
女騎士だったり、王女様だったり、
かと思えば、悪魔としてふる舞ってみたり!
楽しい仲間が増えたわねっ!
「よろしくね。イニィさん、ガルン!」
{{ ええ……! }}
『──ガルンガル──ン!!』
ガチャコ……
「!」
{{ ! }}
『──ガルン?』
ガルンから、ひとりでに十字の杖が外れた。
これって、イニィさんの本体……だよね。
── ふわぁ──……
! 私の前まで来た!
!? 十字架が、小さくなっていく!?
「い、イニィさん!」
{{ これは……? }}
心配になってイニィさんを見るけど、
……なんか、本人もキョトンとしてるわ。
小さくなった杖は、私の手におさまって──……
この形は、まるで……!
「……"フォーク"?」
『────"魔杖:イニィ・スリーフォウ"のデバイスを取得。
────完全同期しました。』
{{「えっ」}}
小さな、紫と白が混ざったフォークは、
私の手の中で輝いている。
『──……ガルンガルーン!』
ガルンが、「いいフォークだね!」とでも、
言いたげに、側まで寄ってきた。
……うん、ステキな意匠ね!
{{ わ、私の相棒が、食器に…… }}
「あ、あはは……」
『『『 生きてる内に、一度は遊びにくるがよい 』』』
「あ、はいっ!」
{{ 必ずや }}
『『『 あっ、一度はちょっとカッコつけすぎた。三度くらい遊びにくるがよい 』』』
「きはははっ! もちょっと多めに遊びにきますよ!」
{{ お父様ったら…… }}
『──ガルンガルンガルゥゥ───ン!!』
ずいぶんお茶目な、しゃべる大樹だこと!
『『『 うむ! 待っていようぞ! 』』』
ポアァ……
え……?
「……ねぇ、ゼロンツさん」
『『『 ? なんだね? 』』』
「光……」
ゼロンツさんのまわりに、
まぁるい光が、いっぱい、飛んでいる……。
『『『 なんと……! 』』』
「きれい……」
『>>>すごぃな……』
{{ これは……? }}
『──ガルぅーン!』
『────精霊の発生を確認しました。』
「! 精霊、ですって?」
『────肯。聖属性の空間に起因する。
────……美しい、ですね。』
「うん……すごぃ……」
聖なる大樹の周りを、
いくつもの光が、舞っている。
下にきた光は、白い草原を照らしだし、
よりいっそう、その幻想な姿を増した。
ふたつの大きな光が、
私達の前に降り立ち、
形を、変え始める──……。
あ……。
『『『 ……イニィよ……私は、寂しい思いをすることは、なさそうだ…… 』』』
1人は、ふとっちょの王様のカタチ。
1人は、綺麗な、お妃様のカタチだ。
{{ }}
王の精霊が、優しく微笑み、
妃の精霊が、静かに、歩む。
小さな悪魔は、唖然と、見上げている。
スッ……と、お妃様は、悪魔に目隠しした。
すぐ近くで、精霊となった"彼女"の、顔を見る。
イニィさんにそっくりな、ぱちくりとした瞳の、
めちゃくちゃ、綺麗な人だった。
『『 ……よく、がんばりましたね 』』
{{ あ…… }}
白のお妃様の、
左手が、悪魔の右の眼を、
右手が、悪魔の左の眼を、撫でる。
両手は、左右に、ゆっくりと、ひらく。
「……イニィさ、……! "目"が……!」
{{ ──、……ぇ? }}
小さな悪魔は、
ゆっくりと、目を開け、
そして、目の前の彼女を、見て、
その、深紅の瞳を、
まんまるにした。
{{ ──、──……、──! }}
────きゅっ。
そして。
白の妃は、小さな彼女を、抱きしめる。
悪魔の尻尾は、雷のようになった。
{{ ……、……、ぁ }}
ふとっちょ王の、のんきな笑い声が、響く。
『『 ──お〜〜っほっほっほっほ! よきかな、よきかな…… 』』
キラキラキラ──……
「あ……」
周りを見ると、精霊たちは、形を成していた。
ある者は、天空に剣をかかげる、騎士達に。
ある者は、花を舞い華やかす、村娘に。
ある者は、偏屈そうな、優しい魔法使いに。
ある者は、無邪気に笑う子供達に。
みんな……みんな、祝福してくれているのだろうか。
この国、本来の王女の旅立ちを──。
天を見上げると、14人の天使が、
輪になって、くるくると、まわっていた。
「……絵本の、最後のページみたい……」
思わず、つぶやく。
神秘的な空間で、
母が、子に、わずかな言葉で、紡ぐ──……。
『『 ──私たちの分まで、その瞳で、見ておいきなさい 』』
{{ ──、ぅ、あ…… }}
イニィさんは、しゃべれなかった。
生まれて、初めての涙で、
ちょっと、無理だったのだ。
つよい白が、塗りつぶしていく。
紫の時限結晶が、光り出す。
私は、光に向かって、手をかざした──……。
『『 ── またね、イニィ ── 』』
{{ お"、お"があさ──……! }}
そして、光が──────────… … …
精霊宿りの大樹は、レエンの底に根を下ろし、
白は、聖と水に分かれた。
14の天使は、魔と、獣と、金と、聖を、
天空へと、引き上げた。
… … … … ────
……────気づけば。
レエンのほとりの、
遺跡の上に、立っていた。
眼下には、何事も無かったかのように、
まんまるの湖が、広がっている。
湖は、しばらく光っていたが、
やがて、白はおさまり、夜に染まった。
……────星が、輝いている。
「……──イニィさんって……星見るの、はじめて?」
{{ う"ん…… }}
「……──そっか。遠いもんね、あれ……」
さすがのイニィさんも、
あんな遠くのモンの流路は、
感じ取れなかったみたいだ。
でも、今、私たちの瞳には──……。
{{ ……わだ、し……今日の事、忘れない。今日ッ、見た、ぜんぶ……ぜったい! わずれないわ……! }}
「……──うん……」
しばらく、
しずかに、
星を見る。
私の片手は、小さな悪魔の手を握って。
もう片方には、小さなフォークと、
紫が輝く、歯車があった。










