ペッ、しなさい、ペッ! さーしーえー
───────────────。
穴には、何も無い。
なあんにも、ない。
光が、うがった。
「…………はぁ、はぁ……」
おわった、のかな……。
きぃいいいん──… … …
「ふう…… ふう……」
眩しくて、夢みたいだ。
自分の姿が、よく見えない。
手の中の紫には、
この穴にあった、全ての白が、集まっていた。
あ……いま、撃ち出しちゃったから、
ちょっと、減っちゃったかもしんないな……。
{{ ……───、───ティ───!!! }}
あ……イニィさん、無事だ……。
何もかも無くなった縦穴の端っこの壁に、
ガルンから……え、あれ、腕かな?
なんか生えてるのが、壁に突き刺さって、
車体を支えている……。
よかった……
少しだけ、光を反らせられたんだ……。
これで……これで、終わり、だよね……。
これで……。
あ、そいえば……
ゼロン、ツさん、だいじょ……。
ぐらッ────……
{{ ……──アンティ──────!!! }}
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────。
「んあ……」
{{ あ……起きたわね? }}
「……ぷに悪魔がいる……」
{{ ……ひっぱたくわよ? }}
気づけば。
イニィさんに、膝枕されていた。
見た目は小さな女の子なので、
なんか不思議な気分だ。
起き上がる。
「よ……と、ここ、は……?」
{{ 底よ。一番、底 }}
「え"っ……」
底って……レエン湖の底!?
「そ、それにしては、明るくない!?」
{{ 今、最後の白のカケラが、ここに集まっているからね }}
「──?」
イニィさんの言葉はよくわからなかったけど、
辺りを見ると、ヒールスライムが覆っていて、
淡く、白く、輝いていた。
表面のカタチが特徴的で、
まるで、草原のような、絨毯のような……。
スライムとは思えないほど、きれいだわ。
『──ガルロロロロ……ガルンッ!』
「! ガルン! あんたも無事だったのね! ……あんた、自分だけでも走れんのね……」
『──ガルゥ〜〜ン♪』
白の草原に、魔獣が宿った黒のバイクが、映える。
……車体の横から、三本爪の腕のようなものが出て、
上顎の部分を、ぽりぽりと掻いている。
なんや、照れとんのか。
ふぅッッ、と息を付き、
何気なしに、自分の腕を見る。
あれっ。この見慣れた金ピカグローブは……!
「──! 元に、戻ってる……!」
{{ ああ……あの姿からは、割とすぐに戻ってたわよ? まったく……貴女、本当に神様じゃ、ないんでしょうね? }}
「えっ、あ、あはは……」
『>>>ぼくらは本当の意味で、ヨロイの力を引き出したわけじゃない。あの時、かなり膨大な光属性魔法が、きみに集まっていたからねー……ヨロイは緊急措置として、きみを守ってくれたんだと思うよ』
「な、なるほど──……って、先輩っ!?」
『>>>やぁ。元気そうだね! よかったよ!』
「いや、それはこっちのセリフ……てか、先輩、声が……!」
『>>>はは……なんでだろね。普通に喋れるようになっちゃったね!』
「ホントにっ!?」
私の目の前の縦長のアナライズカードには、
以前通り、会話記録が連なって、
にょきにょき伸びていく。
ほら、私がさっき言った会話内容も、
ちゃんと記録されてるわ。
でも今は、先輩もクラウンと一緒で、
声もちゃんと聞こえてくるわっ!
「──! そうだっ! クラウンは!?」
『>>>あ、いや……さっきから、すぐ側にいるんだけどね……』
『────じぃ〜〜〜〜……。』
……えっ。
な、なに……この会話記録。
じぃ〜〜〜〜……、って……。
『>>>………』
『────じぃ〜〜〜〜……。』
「……えっと、どしたん……」
『>>>はぁ……ちょと、クラウンちゃん? さっきから何なんだぃ?』
『────ッ!。な、何でもありません。クラウンギアは大丈夫です。大丈夫:判定……。』
『>>>ち、ちょっと顔を近づけただけで、そんなにビックリしなくても……』
え、何なんだこいつら……。
{{ なに、どしたのピエロちゃん、変な顔よ }}
「 変ッ!? し、失礼ね! イニィさん……こいつら何か、おかしいわ……」
{{ ?? }}
な、なんだろう。
この2人の、なんかギクシャクした感じは……。
『>>>えーっと……』
『────……ぷぃ。』
「……アンタ達、チャラキングになった影響で、どっかヤラれたんじゃないの……」
『>>>! よしてくれよ……思い出したくない』
『────むっ。そ:それはどう言う意味ですか。』
『>>>えっ、ど、どうって……?』
『────私と直結したのは、忌み嫌う思い出に分類されるのですか。』
『>>>いやいやいや! そこまでは言ってないでしょっ! たっ、ただ、あんなキザ野郎になっちゃうとは、その……心の準備と防御力がさぁ……』
『────むむむっ。』
……。
「……うん、なんかケンカしてるだけっぽいな。ほっとこう」
{{ そ、それで貴女がいいのなら…… }}
あ──、だいじょぶだいじょぶ。
この程度のケンカ、食堂じゃ、日常茶飯事よ。
気にしてたらやってらんないわ?
……ファサ──……
「ありゃ、白金の劇場幕……? いつの間に」
『────熟睡していましたので、掛けるものをと模索しました。』
『>>>ベッドを"落とそうか"、迷ったんだけどね? ふふっ』
『────なッ……。』
「……」
……アンタらねぇ。
ケンカしてるのか、仲良いのか、
はっきりしなさいよ。
『『『 ふむ…… 元気そうだね 黄金の少女よ…… 』』』
「……!!」
えらい響く、男性の渋い声がして、
さっと後ろを振り返ると──……、
「……──"木"?」
めちゃくちゃでかい、白い花を咲かせた大樹が、
私の頭上から、枝を垂らしていた。
うっわ──!!!
「……光ってる……綺麗な木ね!」
{{ あら、よかったわね、お父様 }}
『『『 はっはっは……この歳で、娘さんから、綺麗と言われるとはなぁ…… 』』』
「えっ!? お、"お父様"……? まさか……ゼロンツさんなんですかっ!?」
『『『 さよう。其方のお陰で、生き長らえている 』』』
「ふ、ふぇ────!!」
あんのバカのせいで、
木のコブみたいになっちゃったゼロンツさんが、
こんな、でっかい木になっていたなんて……!
『『『 黄金の少女よ……よくぞ、舞い戻った──! 』』』
「あ、いえ……」
わぁ……でっかい聖なる木に、話しかけられている。
こんなことって、人生にあるのね……。
『『『 其方のあの、光の鉄槌のお陰で、"くろいあな"も、最初の状態に戻ったようだ 』』』
「──! "最初の状態"!? ……無くなった、ワケじゃないのっ!?」
『『『 うむ……見よ 』』』
……──ウウ、ウウウゥゥ──……。
「これって……!!」
目の前に、ちぃさな、ちぃさな、
飴玉くらいの大きさの、
"まっくろ"が、そこにあった。
「…………この、浮いているのが……」
『『『 うむ……全ての元凶、"くろいあな"だ…… 』』』
大樹となったゼロンツさんが、
重々しく、肯定する。
『『『 其方が金の力を使い、"しろいふた"に込められた力をぶつけ、ここまで小さくすることができた……しかし、この小さな暗黒は、このままではまた拡がりだし、悲劇は、繰り返されるだろう…… 』』』
「……完全に消すことは、できないんですか……!?」
{{ 流路を、読んでみたんだけどね……どうも、無理っぽいのよ…… }}
「! イニィさん……そんな……」
{{ ピエロちゃん、私ね? この"くろいあな"を持って、どこか遠くへ行こうと思うの }}
……!!!
「……いま、なんて言ったの……?」
{{ ……見なさい }}
「……?」
イニィさんが、小さな片手を私に差し出す。
……? どういうこと?
その手が何か……。
「……! イニィさんの手……透けて、る……?」
{{ 私を構成する、闇の魔法流路が、尽きかけているのよ }}
「……、……!!」
{{ "寿命"よ。私はもうすぐ、崩壊するわ }}
「うそよ……」
{{ その前に……無くなってしまう前に、どこか遠くへ、この"くろいあな"を、持っていこうと思うの }}
「そんな、そんな……どこへ……」
{{ うーん、空の上の、そのまた、上、とかかしら }}
「……バカ言わないで……」
なん、でよ……
命と引き換えにって、言ってるんだよ……?
また……また、そんな事言って……。
「……クラウン、これ、格納できないの」
『────……不可能判定。スピリット系の魔物の特徴があります。』
「そんな……」
せっかく、せっかくここまで……。
{{ ……できるだけ、遠くまで、運んでみせるわ }}
「……ふざけないで。お空に飛んでって、ひとりぼっちで死ぬなんて、私、許さないわ……」
{{ でも…… }}
「ゼロンツさんは、それでいいのッッ!? あんたの最愛の一人娘が、こんなこと言ってんだよ!!?」
『『『 ………… 』』』
「な、何とか言いなさいよっ!!!」
な、なんで、最後に、
こんな、こんな……
{{ ……いま、私の身体は、ガルンに依存して、何とか構成されているわ。そこに飛んでいる紫の時限結晶は、どうやら"しろいふた"と癒着してしまっていて、闇属性である私の糧にはならないの…… }}
「……!」
すぐ、真横に、
小さな、長く、白い羽根を生やした、
紫の結晶が、飛んでいた。
……今は、どうでもいい……。
「何か、何か方法はないの……ッ!? ほんとうにっ、なにも……」
目の前の小さな悪魔は、
このままだと、消えてしまう。
せっかく、ここまで、いっしょに……。
そんなの……イヤだよ……!
{{ ……アンティ。ガルンを私から切り離して、旅に連れてってほしいの…… }}
「……違う話、すんなよ……」
{{ その子のお陰で、私、ここにいても、すごぉく、楽しかったわ! }}
「……ねぇ、やめろって……」
{{ 外の世界をね、もっとその子に、見せてあげたいのよ }}
「それはっ……! イニィさんだって……!」
{{ ……充分、生きたわ。とても、とても。すごく、ながく。もう…… }}
「やだぁ……」
『……──ガルンガルン……?』
{{ ……! ガルン…… }}
心の宿った魔獣が、近づいてきて、
不安そうに、悪魔に近づく。
目の前には、光を吸い込んでいるような、
真っ黒でちいさな、球体がある。
{{ ガルン、ごめんね…… }}
『……ガル……』
……ホントに、それしか、ないのかな……。
ガルンだって、とても寂しいに決まってるわ……!
ほら、そんなに大きく、
クチをあけて───────……。
「──んっ?」
……………………。
クチをあけて?
『────ガガァ───────……! 』
{{ え あ、ちょ……! }}
『────ガップン……!』
「…………」
{{ ………… }}
『────……。』
『>>>…………』
『『『 ………… 』』』
『……──ガムン、ガムン……ガムムルゥ!』
「な───────……」
ここっ、ここここッッ!!
コイツぅぅううつう!!!!
"くろいあな"ァ、
食いやがったぁあああああ──────!!!!!
『──ガルガム……──ゴックンガル!!』
「うわぁああああああちょっとぉおおおおおお!!!」
あんたぁ、
何やってんのよォおおおおおお────!!!!!
『──ガルンガルゥゥゥ────ンっ!!!』
『>>>うわぁ……。なんかやってやった感が……』
『────……喜びを表していると予測。』
「ちょ! おまっ! ペッ! ペッしなさいっペッ! ちょ、こら、ホントに何考えてんのあんたッ!! お腹壊すわよっ!!? 吐けっ! 吐けコラァ!」
『──ガルッ!? ガガッ……ガルンガルゥン???』
「いや、あんたね……」
上手いこと車体ひねって、
首傾げてるように見せてんじゃないわよ……。
あんた何食ったか、わかってんの!?
『────告。ガルンツァーはバッグ歯車へ格納:可能判定です。』
「え……──ぅえッッ!!? しまえんのっ!? ガルンごと、"くろいあな"、しまえるの!?」
{{ うそぉ…… }}
「えっ、次は何……!?」
{{ 私の身体の流路……今、再構成されたわ……。何、この高密度の闇魔法……ちょっ……これ私、死ぬの無理だわ…… }}
「────マジでっっ!!?」
え、てことは……。
『『『 万事、解決なりぃぃいいいいいいい!!!!! 』』』
「ちょ、おいコラ大木親父いぃぃッッ!! てめ都合よくシめてんじゃねぇゾごるああぁぁあああああ!!!」
────クワッ!
────。
永くの因縁から解放された、
レエンの地にて。
聖なる大樹さんに、
────ちょい、叫びました。
アンティ










