スタントぴょんぴょん
ニョロニョロと。
くにゃくにゃと。
目の前の矢印は、
伸び続けていく。
「こ、これは──……?」
自分が裸んぼなのも忘れ、
その不思議な光景を、目で追っていると──……。
──にゃるるるるるん!
──にゃるるるるるん!
──なん!?
「……な、なんなの、この名状しがたい音は」
『──ニャニャッ!? ……はい:にょしにょし? ニャッ!? ……わ、わかったニャ。』
「……」
やっぱアンタか。
なに?
誰かとしゃべってんのかな?
『──ニャ、ニャい、ガチャ。……ぶらざぁ達から呼び出し食らったニャ。マジトーンだったニャ……。』
……あぁ。
「それ、絶対サボりに対する報復でしょうね……」
『──そ! そんなことないニャッ! ニャーは兄弟たちの絆を信じてるニャ! じゃあ行ってくるニャ!。』
私には、このヌコの未来が見える……。
「ん、もまれてこい……」
『──ニャ? 何を揉むニャ? そのくにゃくにゃ矢印は置いていくニャ! しっかり頑張るニャ!。』
「え? あ!! そそそ、そう言えばこの矢印ってどうすれば──!!?」
『──バイバイニャ〜〜!!。』
「あ、ちょ──!」
ペカ───!─!─!─!─!!!
……────。
『──ガルルロロォオオオオンンンン!!! 』
「───ハッ!!」
え、あれ……今のは……?
{{ ピエロちゃん! 起きたわねッ!? }}
ここ……
ガルンの上、白い道……
は、はだかじゃないっ!!!
「──戻ってきたっ!! イニィさん私、服着てるわっ!!」
{{ 何を言ってるのっ!? だいじょうぶっ!? あああ貴女、いきなりガルンで走り出したのよ! もうっ! 惚け顔でいきなり発進するから、驚いたんだからね!! }}
「げっ……まじすか」
寝てる間に、ガルンツァー動かしてたのか私……。
あぶなぁぁ……。
一体、どーなってんのよ……。
無意識いねむり運転に恐怖していると、
さらなる恐怖情報が、悪魔よりもたらされた。
{{ ……ついさっき、"白いスライムの腕"が2本、千切られたわ }}
「ほんとなのっ!!!」
私が真っ裸異空間の間に、
なんで腕2本も攻略されてんのよっっ!!
上を見ると、逆光に照らし出された黒い怪物が、
蜘蛛の巣に引っかかっているような、
そんな光景だった。
……うう、くらくらするわ。
大きすぎて、距離感が変になりそう!
やばいよ……明らかに、
さっきより上に登ってるじゃないの!!
「はやくしないと……!」
"メキメキ、キキン……"
ん……?
"ギギギ、ザザ……"
んん……?
「……イニィさん、なんか、変な音しない? すっごい近くから」
{{ もぉおおう!! だから、さっき言ったでしょう! }}
「ぅえ?」
{{ "仮面"と、"王冠"! 今も、"変形"してるわよっ! }}
……へー。
……え?
「──えええええッッ!!? 」
仮面と王冠がッッッ、
"変形"しぃてるですぅうってぇええ────!!!?
『──ガルルロォオオオオンンン!!? 』
え、ちょ!
鏡見たい、やばい、触りたい!!
えっと、右手のアクセルは離せないから……!
左手のクラッチを離して、仮面を触ってみる!
ペタ、ペタペタ、コッ、、、キ──ンッ。
「──!? ななななんか仮面、横に長くねッッ!? 」
{{ え、ええ……仮面は横向きにジワジワ広がってて、王冠は少し縦に長くなってるわ…… }}
「なんでやねん……」
"パキパキ、パキキン……!"
……ひぃええぇ〜〜!
すぐ耳元から、なんか亀裂音みたいなのがぁあ〜〜!
どおなってんのぉお〜〜!
こんなの初めてよォォ────!!!
仮面の左、コレいま触ってみてるんだけど、
肩のすぐ上まで伸びてきてるんじゃないの!?
────ビュオオオォォォオ──!!
ぐ、ぐおおっ!
仮面に当たる風の抵抗がやばいわっ!!
いまガルンで走ってんだぞっ!?
帆船のマスト並に、
風とらえちゃってるじゃないのよぉおおお!!
「く、クラウンッ! せんぱいぃ! きこえるッ!? 応答してっ!! 」
『────』
く、くそっ!! ダメだわ!!
返事がないっ! そんな……!!
"グググ、キキン……!"
{{ !! ピエロちゃん、また、仮面が大きく……! }}
「──くッ!」
ど、どうしたらいいの───!?
これ以上大きくなったら───……!
"ギ、キキ……パキンッ!"
───お───お───びびびび───ぶおォン!!
「 えっ! 」
未知の現象に戸惑っていたら。
一定の大きさを超えた仮面と連動するように、
私の瞳に、あるモノが映しだされる──!
{{ !? どっどうしたの!? }}
そう、これは──……!
「……"やじるし"だ……」
{{ え? }}
「……"矢印"が、見えるわっ……!!」
この、ニョロニョロ、くにゃくにゃ伸びる、
ひ、平麺みたいな矢印は────……!!!
「──くにゃうんの矢印……!」
{{ !? クにゃウンの……? }}
「! イニィさん! 私の視覚に"交流"できる? いま、矢印が見えるようになったの! 」
{{ ……まってね……これは! 見えたわ! こ、これって何なの? }}
たしか……あんのにゃんこは、こう言ってたわ!
「……"王感"……"王の感覚"! これ、紫の時限結晶までの、"道筋よ"!! 」
{{ 何ですって!? }}
『──ガロンガロォオン?? 』
「──クラウンと先輩が引き出した、新しい力だわ! この矢印の"到着地点"は、"紫の時限結晶"なのっ!! 」
{{ そ、そんなことが、可能なのっ? }}
「 信じるしかないっ!! 矢印は、けっこう上の方にある! イニィさん! 最短距離を突っ切る! 力を貸して! 」
{{ も、もちろんよっ! 道は任せなさい! ガルンッ、たのむわよっ! }}
『──ガルルルルロォオオオオンンン!!!』
白スライムの登り坂が、
かなり急なものになっていく。
唸りを上げる、漆黒の駆動二輪。
車体が浮かないように、身体を持ち上げ、
出来るだけ前の方に倒す。
ほぼ、ガルンの上顎に寝そべるような感じだ。
ガルンに組み込まれている歯車達は、
これくらいの坂道に、負けたりはしない。
歯車のギザギザがスパイクとなって、
白い道を削り取るように、登っていく!!!
魔王の巨大な胴体の真横を通る頃、
瞳に表示されている、
長い矢印の先を、確認した。
「! あの、矢印の先って……! 」
{{ ……魔王の頭の、真上じゃない! }}
「あんなところに……ッ!!」
紫の時限結晶を手に入れたからって、
絶対に、あの黒バカを止められるとは限らない……。
でも────!!
「……一度、やってみよう!! 近づくわ!! 」
{{ 無意味かも知れないけど、背中側から近づきましょう!! }}
「──ははっ! この子ちょっと、けたたましいもんねっ!」
『──ガッ、ガルンッ!? ガルルロォオオオオン!!!』
のぼる。
のぼる。
のぼる。
魔王の頭を目指して、
壁のような、白の壁を。
ここまできたら、やってみるしかない!
登って──……!
{{ 攻撃がくるわっ! }}
「ちっ」
魔王を見る。
黒い顔にあるピンク複眼は、
今も変わらず、上にある入り口を見据えている。
その視線を、"とおせんぼ"するような位置に、
矢印の到着点は、位置している。
こちらを見ずに、よそ見してるのに……!
なのに、なんで!
{{ 近づいた物を自動で攻撃してるのかも……くるわよ! 一度離れましょう! }}
……。
「イニィさん、攻撃に合わせて、すぐ隣に道を作って」
{{ ──!? }}
「道の進行方向は同じ。少しだけ高さを落として」
{{ ……本気、なの!? }}
「 上、見て。もう入り口が、あんなに近い 」
{{ ! そ、それは─── }}
「──私の"イメージ"を読んで!! 今は、逃げちゃダメな時だよっ、イニィさん!!! 」
{{ ──〜〜っ!!! この娘の、こんのクソ度胸は、どこからくるのかしらッッ!!! }}
……くは、ははは!
「────クルルカンになりゃ、わかるよっ」
『──ガルルルルロロロォオオオオンン!!! 』
よそ見魔王から、黒い濁流のような物が、
こちらに向かってきている。
まぁ、顔の向きからしたら、
私だって、よそ見してるようなもんだ。
私の"ベアークラッチ"には、
左側から迫る黒の濁流と、
その下に伸びる、もうひとつの白い道が、
しっかりと、とらえられている。
「──イニィさん、今走ってる道、途中で切るよ! 」
{{ ……やるの? }}
「──ピエロに芸は、つきものでしょう?」
{{ ……貴女の親の顔が見たいわ…… }}
───グゥオオオオオオ───。
黒く光る、闇の魔法の洪水が、
私たちに、せまる。
まだ、
まだ、
──。
────ここだ。
培った、経験。
英雄の、感覚。
黄金の、能力。
その全てが、
タイミングを、
完全なモノにする。
「切って」
{{ ……神に祈るわ }}
────少しだけ、ハンドルを右に切り──、
────身体をグワンと、後ろに反らせ──、
────その後、思いっくそ、左に切った────。
『──ガルルロォオオオオオオ───────!!!』
宙に、舞う。
とぶ、バイク。
おおお、この穴、ふっけ。
したを、黒が、通り過ぎる。
空回りする、ホイール。
左回りに、回転する車体。
とびこした、闇の先に捕らえるは、
一本の、白い道。
──ドンピシャだ。
───"黄金の義賊"、ナメんじゃないわよ?
『……───────ドキギギャャンッッ、
ギャルルルラルルルルオオオオ────!!!』
着地の衝撃を、力任せに、いなしきる。
車体をなんとか起こし、後輪を、フカす。
表面の白が、飛沫をあげて、飛び散った。
ふふ、ふふふ……
ほぅら、できた。
うさ丸もビックリの、大ジャンプ、だったでしょ?
「……うさぎさんの時代は、そう簡単には、終わんないわ」
{{ 何の話をしてるのよ…… }}
思わず神に祈っちゃった悪魔っ娘が、
訳の分からないといったふうに答えた。
『──ニャ、ニャんだとぉ〜〜!?。』
「にょっきゃあぃぃいいいいい!!!」










