黄金の死神 さーしーえー
ふとした、瞬間にね?
私、なにやってんだろ、って、
思う時って、あるわけよ。
がんばってる時とか、
必死な時とかに、
気づいたら、
"なんで、こんな事やってんだろ"
……って、ね?
まったく、不思議なもんよ。
私、食堂の一人娘。
言っちゃったら、街娘Aよ。
それなのにさぁ。
いま、でっかい穴ん中で、
巨大スライムの道の上を、
意思のあるバイク使って、
駆けずり回ってんだから。
それの目的が、
「魔王が外に出ないようにする」よ?
私、街娘A。
おい、
勇者とかいたら、仕事しろ。
……ぐすん。
『──ガルンガルン、ガルルルルロロロ──……!!!』
「いいいイニィさんッ! 時空砲って、チャージまだ!?」
{{ さっきの回避の時に、使ったばっかりでしょう!! まだかかるからね! }}
うえっ……!?
"反射速度"、使いまくってるからかな。
さっきから、かなり経ってると思っても、
実は数フヌも経ってない時があるわっ!
こりゃースキルの弊害と言えるかも。
意識だけ加速しまくってたら、
心だけ、おばあちゃんになっちゃわないかしら。
と、思ったら黒いニンジンのようなのが、
飛んできたわ!
いやでかいわ、人くらいあるわ。
「イニィさん! 溜まってるだけ撃って! 」
{{ もう〜〜〜〜!!! }}
ガルンツァーで爆走する横を、
ぴったりと離れずに飛んでいる悪魔の幼女。
もう〜〜〜〜! とか言っても、
可愛いだけだかんね!
フォウン フォウン フォウン ──!
ガルンツァーは、真っ黒バイクである。
……今の私には、
これが"バイク"と言うものだと、わかってしまう。
その左側には、十字架のような杖が、
私の歯車を使って、固定されている。
杖っていうか……これ、"移動砲台"なワケだ。
付け根から、まわり、ひらき、角度が変わる。
──照準が、あった。
{{ 杖よ── }}
幼い見た目とは反対に、
精神的には、1000歳くらいの悪魔の女の子。
杖に触れる。
タァアン! タァアン! タァアン!
どぉおおおんん!!
リンゴみたいな弾丸が、
でっかい黒ニンジンとぶつかり合って、
互いに砕け散り、ばらまかれる。
実は、この光景を、もう何回も見てる。
「やった! なんだ! 撃てるじゃない! もっと連射はできないっ? 」
{{ 3発だけだったでしょ! 貴女の時限結晶の流路は無限でも、それを時空球に変換するのはあくまでも杖です! }}
『──ガルンッ!!』
うおっと!
前から触手がきてるわね!
ん? さっきから、クラウンと先輩、
なんかしゃべんなくない……?
{{ のぼり坂にするわよっ! }}
「ありがとっ!」
イニィさんの杖は、
この穴の中に張り巡らされている、
ヒールスライムを操る事ができる。
これも、スキルの"価値交流"の、
応用なのかな……。
真っ白な水が伸びていって、
目の前の何も無かった空間に、
上へと続く坂ができあがる。
『──ガルルロロオオオンンン──!!』
「ふっ」
かなり急なのぼり坂だった。
腰をあげ、車体の前に重心を寄せる。
イニィさんは、ぴったりとついてくる。
「……」
……羽根が、ほとんど動いてない。
滑空しているみたいに見えるけど……。
『──ガロォオオオンン──!!』
のぼり坂が終わり、
スライムの道が、重力と平行になる。
一瞬、車体が浮き、
すぐに着地する。
悪魔は、そう簡単には、離れない。
たぶん彼女は、
先輩や、クラウンと一緒で、
魂は、生きている。
でも……その身体は……。
{{ ……考えてること、わかるわ }}
「……」
{{ 言ったでしょ、ゴーストみたいなものだって }}
「……」
{{ この身体、壁だって素通りできるかもね }}
「イニィさん……」
{{ ……今は、集中なさい! 私はこうして、貴女に会えた! }}
「っ! ……はいっ! 」
横を飛ぶ小さな悪魔には、
目が、元々ない。
でも、今、
こちらを振り向いて掛けてくれた言葉は、
瞳に宿る力のようなものがあった。
「っ! イニィさん、あれっ!」
{{ ……人のカタチを、しているわね…… }}
「いや、あの髪型……」
真っ黒なシルエットが、無数に、
宙に浮いている。
あの、鳥が羽根を開いたような髪型……
あの、バカ王の髪型と一緒だ……。
正直、きもちわるい。
{{ ……ガーベッジ }}
「……イニィさん、まだチャージ終わんないよね……」
{{ まだ、弾に変換できていないわ……どのみち、あの数じゃあ…… }}
「……ややこしいな」
宙に漂う真っ黒の人影は、
パッと見、100体くらい、いる。
動きが不気味で、きもちわるい。
人型なのが、嫌悪感があるよぅ……。
「イニィさん、杖、持っていい?」
{{ ──! ガルンから外すの? }}
「うん。ね、イニィさん、この杖、"大鎌"にして、戦ってたよね」
{{ ──!! わかったわ、やってみる }}
「!」
イニィさんの身体が、濃い紫の光になって、
十字架に、吸い込まれていく。
「……」
いや、今は、気にしてもしょうがない。
車体の左の杖をロックしている歯車を、
解除した。
持つ。
{{ 左手でいいのね? }}
「うん。右手はアクセルだから離せないの」
{{ ? }}
悪魔は消えてはいない。
杖から、声が聞こえる。
共に、戦うんだ。
{{ ……やるわ。少し外側に離して }}
「む……こぅ?」
杖の先を、外に向ける。
次の瞬間、
────キンッ!!!
「 ──!! 」
イニィさんの杖は、
十字架の先の内、3つが、
食器のフォークみたいになってるんだけど、
その全てから、平たいシンプルな光の刃が、
それぞれの方向に、飛び出した。
{{ まぁまぁ鋭いはずだけど、薄いから、強度はないの。砲弾より形成が簡単だから、次々作り直すわ }}
「──わかった、やってみる。いくわよガルンッ!!! 」
『──ガルルルロロロオオオォォオオン!!! 』
うようよと、黒い亡霊は集まって来ている。
刃付きの十字架を、左手一本で、振り上げる。
「──どぉりゃああああああっ!!!」
大群に、突っ込んだ。
なぐ。
なぐ。
なぐ。
薙ぐ。
薙ぐ。
薙ぐ。
払う。
払う。
払う。
断つ。
殴り、切る。
右上から、左下。左の黒は、裂けた。
左下から、左上。上の黒は、裂けた。
ガルンの前輪を軸にして、回る。
回転した刃付きの杖は、
周りの黒を、薙ぎ散らす。
刃は、薙ぐ度に、折れ、
残りの刃で舞う間に、
新しい刃が、装填される。
……物騒な十字架だわ。
すぐに、作業みたいになった。
音に慣れだして、
気にならなくなってくる。
「……」
{{ ……みごと、だわ }}
あぁ、あぁ、あぁ。
なぁーんで、私はこんなこと、してるんだろ。
なんで、こんなこと、できちゃうのかな。
……人のカタチをしてるもんを、
切り裂きまくってさ。
わかるの。
今の私には。
どこの軌道に刃をのせたら、
いちばん、はやく、薙げるのか。
もちろんスキルで、腕力は増してる。
でも、かなり効率よく、杖を振るえてる。
思考が、感覚が、反応が。
私を、負けさせなかった。
{{ だいじょうぶ……? }}
「……気分は、よくないわね」
右手で動きを操り、
左手の十字架で、薙いだ。
世界は、私を中心に、まわっている。
まわる度に、裂けた。
まけなかった。
ぜぇんぶ、見えていて、
ぜぇんぶ、やり方がわかった。
……。
……。
私って、
こんなこと、
できたんだね……。
この目は、全方位、見ることができる。
前後も、左右も、上下も。
下には、当然、自分の身体が見える。
……戦ってるのは、確かに、私の身体だった。
「──ほんの2ヶ月前まで、何もできなかったの」
しゃべる余裕すらある。
「家を手伝って、ご飯を作って、お客さんとしゃべって」
杖は、空気を鳴らして、止まらない。
「学校でバカにされて、追いかけっこして、くやしくてね」
刃が、折れなくなってきている。
「それなのにさ……なんで、こうなっちゃったんだろうね」
{{ ………… }}
「こんなこと、ずっとしたくないなぁ……」
多分、私はいま、客観的に見れてしまうんだ。
自分の、やっている事を。
くるくると、刃の付いた杖はまわる。
一回も、止まる事などない。
……まるで、死神だ。
「……"紫の時限結晶"見つかるかな」
黒い首が、5個とんだ。
{{ 必ず、どこかにあるわ }}
後ろにいたので、6個とばす。
「見つけたら、ぜんぶ終わるかな」
縦にふるって、4つ裂けた。
{{ 恐らく、"しろいふた"の核になっているのよ }}
2つ、無意識にとばした。
「……どうやって、見つけよう」
ちょうど横にいたので、肘で1つ。
{{ ……必ず……近くにさえくれば…… }}
思いっきり振り払って、9つ、薙いだ。
…………。
こんなこと、したくないなぁ。
こんなこと、したくないなぁ。
こんなこと、するために……私は……?
「はやく、みつけて……帰ろう……」
{{ …… }}
私、
勇者じゃなくて、いい。
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>>>あ────
そのことなんだけど……
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「ふぇ?」
『────試してみたいことがあるのです。』
{{ ……た、ためす? }}
「…………ほぅ」
人ががんばってるのに……
ず〜〜〜〜っと黙っててぇ〜〜〜!!
やっとしゃべったと思ったらぁ〜〜〜!!?
なんか、思いついたのっ!?
いい方法っ!!?
「……さっさと、教えなさぁあああああ──いい!!!」










