⚙⚙⚙ 呪いの仮面 ⚙⚙⚙
今日、私のお別れ会で、食堂は貸切だ。
いつもは夕方前にお店を閉めるが、今日はこのまま、晩御飯まで騒ぐとの事。明日はお休みでよいと、多くの常連さんが言ってくれたからだ。父さんも、母さんも、普段なら意地でも店は開けるタイプだが、今回ばかりは見送りがしたいと、お言葉に甘える形となった。
「いや〜アンちゃんが出てっちまうとはな〜……」「こりゃ! 新しい門出をしんみりさせるんじゃないよ!」「お料理ができる婿さんでも連れて帰っておいで!」「プライス君がバリバリ働くから大丈夫よ〜」「え、えぇ! 新しい人は? まさか雇わないんですか!?」「バッキャロー、甘いこと抜かすんじゃねえ!」「くぁっかっか! お嬢が帰ってくるまでに店建てねぇとな!」
「そんなぁ〜〜!!」
な、なんかプライス君の激励会みたいになってるけど、気のせい? 私、主役だよね?
今は夕方が終わったくらいの時間だけど、学校の連中は清々しいほどに誰もこなかった。今は魔法の実技が始まったらしい。授業が楽しいのもあるけれど、日々、魔力切れが続く時期らしいので、皆この時間は家で伸びているらしい。まぁ魔法覚えたら限界まで使ってみたいよな……。
魔力切れか……。
私の魔力量ってあるのかな……?
神官のお姉さんが、体力とか魔力量も見えない、って言ってたよな……。
クラウンが言ってた"オーバーヒート"ってのがソレなのかな……。
よくわからんなぁ、歯車法……。
「おねえちゃん……」
「お、アンタ達」
自分の、へんてこスキルについて考えていたら、アナ、ログ、ユータが側にきていた。いかんいかん、今日の主役が、上の空じゃいけないよね。
3人はそれぞれ、綺麗に包装された箱をもっている。
「これ、"あたらしい、かどで"に!」
「「"かどで"に!」」
「ふふ、ありがと」
3人からの贈り物を、両手に抱え込む。今日1日で、こんなにプレゼントを貰うとは、思わなかったな。看板娘冥利につきるってもんだね。
「「「フェイカーズは、いつも、アンティおねえちゃんの、みかただ!!」」」
「あ、ありがとね」
最近、この子達は、街中の困った人達を助けているらしい。フェイカーズって何よ。てか、アナ。何であんたも木の杖もってるの? ユータとログ、怒ったほうがいい?
「アンティちゃん……」
「あ……ども」
ユータのお母さんだ。後ろに、アナやログの親御さんもいる。いやいや、そんな女神を見る目で見ないでください。
「今回の件は、本当にありがとう……。これ、大したものじゃないけど」
「! タオルですか!」
「ふふ、布物は、いくらあっても足りないからね。よかったら持っていって」
「ありがとうございます!」
私のアイテム歯車袋? は、ものっそい量が入る。何せ、山火事が入るんだもの。昨日までの準備で、かなりの量を詰め込んでいる。明日の朝起きたら、ベッドも持っていくつもりだ。備えあれば憂い無し、ってね。今日いただいた贈り物を、全て持っていけるのは、純粋に嬉しい。クラウン様様だ。
『────敬称が二重になる意図が判別不能。』
頭の上の王冠から、つっこみをいただいた所で、1人が、急に歌い出した。徐々に、皆が、歌い出す。みんな、こっちを見ている。
ありふれた歌だ。新しい旅立ちを祝う、どこにでもあるような歌。
……でも、これは反則だよ。
聞いてるだけで、涙がどんどんでてくる。
歌に感動するって、こういう事なんだね。
私だけのために、みんなが歌ってくれる想い。
やってもらわないと、こんな感覚、知らないままだったよ。
「あ"、あ"りがどう、み"んな……!」
拍手喝采。
みんな、私、頑張るからね。
世界一の、歯車看板娘になります。
夜になり、自分の部屋で、もの思いに耽る。
……この机とイスも、しばらくお別れかな。
あ、バッグ歯車あるわ。
あとで、ぶっこもう。
山火事も入ってるけど、全部、燃えたりしないよね。
「しないよね?」
『────正。各アイテムは常時隔離中。』
「さすがクラウン先生」
『────教鞭を振るった記録に該当無。』
んー?
何かちょっと、受け答えが柔らかくなったかな?
……気のせいか。
前も、ベット落としてビビってたもんな。
『────クラウンギアより不服申請。』
「心の中まで隠せませんよーだ」
部屋の中には、沢山の小包やら、大包やらが山積みになっている。あ、これ貰いすぎだわ。普通、旅立ちの前日にこんな贈り物しないわ。私が、バッグ歯車持ちじゃなかったら、どうなってんだ、コレ。
「まぁ全部、持ってけるからいいか……ん?」
ひとつ、見覚えのない包がある。
おかしいな。中身は全部その場で1度開けたか、中身を聞いたかしているはず。
綺麗なベージュの絹の袋。
オレンジのリボンの装飾。
「……誰からだっけ?」
立ち上がり、持ち上げる。
シュルリとほどける。
やけにいいリボンね……バッグ歯車行き。
「? 変な形だな……」
袋の上からは、お皿みたいな形だ。
袋がよい材質すぎて、手がすべった。
「っ! あっ!」
するりと手から滑りおちる袋の端っこを、慌てて掴んで持ち上げる。
あああ! 中身がおちる!
ガシッ!
……何とか……おちる前に、掴んだ。
なんだこれ……
「やっぱりお皿? ありゃ、穴が空いてる。二つも……」
『────警告。
該当アイテムは呪詛状態です。接触により、常時展開に移行しました。危険性を検索中。』
「────────なっ!!!」
なっ、何ですって、いま何て、言ったの!?
「くっ、くく、クラウン! 分析!!」
『────分析完了。
名称【 呪いの仮面 】
(スキル媒体/アイテム)
状態:呪詛
対象:アンティ・キティラ
特異:ベクトル指定
────呪詛継続中です。』
……………………。
…………なんでやのん。
…………うち、まち、まもったんやよ。
…………なんで、のろわれんと、あかんのんな。
「────ぴぎゃああああああああ!!!」










