貴方が落としたのはさぁ さーしーえー
『────回復効果。損傷:無。』
ぶくぶくぷくぷく……。
いや、空気、くれ。
────ばしゃぁああん!
「──ぷっはぁぁあ!」
なんとか、水面に出た!
うへぇ、やっぱりこのスライム、
なんか甘いし、シュワシュワするぅっ!
斜めに傾いてるでっかいスライムの柱に、
なんとか降りることができた!
周りが白く光ってる!
─────────────────────────────
>>>だいじょうぶかぃ!?
水面はけっこう粘度が低いように
見えるけどっ
─────────────────────────────
「けほっ、けほ……この下は泥みたいになってるぅ……! 足がなんとか引っかかるから、立てるけど──……!」
ぐぐぐっ!
うわっ、動きにくいっ!
下半身が、ずっぽりスライムだわっ!
『────再度、飛行ユニットの構築を──。』
「いえ、待って……! こっち、見てるわ!」
『……──ガグルルルルルウゥゥゥウ──……』
たくさんの白い手に抑えられた、黒い化け物。
あの瞳のピンク色は……あんのバカ王の、時限石の色?
……──ちっく、しょ!
「……────おいっ! アンタッッ! いい加減ッ、しつこいのよっ!」
『……──ガグゥアオオオオオ──……? 』
「──まだっ、イニィさんの身体、狙ってんのッッ!!?」
『……──グゴォギャァァアアアアアア──!!!!』
……ッ! まるで、会話にならないっ!
なんなのよアレっ!
ほんとにあのバカ王なのっ!?
『────アンティ。ガルン亜種体の人格は、既に崩壊しています。』
「何ですって!? どういうこと!?」
『────先程から、意識体の流路を確認できません。自我が崩壊していると予測。』
「なっ────!」
─────────────────────────────
>>>あの王様は "くろいあな"の中で
"心"を無くしたんだよ……
─────────────────────────────
それ……って。
私も、"あそこ"に落ちたから、わかる……。
真っ暗な所で、
何も、見えなくて、
音が、わからなくなって。
触れられず、広さがわからず、
地面も、どこにあるか、わからない。
「"やみ"に……心が、とけちゃったの……?」
『────もう、人だった頃の自我など、残っていません。魔法生命体という意味では、"エレメント"に近い魔物と予測。』
「エレメント……って……」
規模が、違うじゃないのよ……。
─────────────────────────────
>>>あいつはもう 獣だ!
本能で動いてる! くるよ!
─────────────────────────────
『……──ギャアアアオオオオオ──!!!!』
──ッ!
黒い腕が、伸びる!
足が……おもいっ!!
────"力量加圧"!!
ばしゃぁああん!
──────ゾォォォオオオオオン!!!
水に飛び込むみたいに、回避する!
「──っぷっはぁ! ね、ねぇ! このスライム、回復効果あるんでしょ!? 歯車法は回復しないのっ!?」
『────分析完了。
────効能:外傷治癒。状態異常回復。
────スキルのクールタイムは回復しません。』
「うわぁん!!」
─────────────────────────────
>>>これってハイポーションとか……
ヘタしたら エクスポーションに
浸かり続けてるようなもんだよね!
あんまりいい状況じゃないね……
─────────────────────────────
「うっぷ! なんでなのっ! おしえてっ! カネトキ先輩っ!?」
─────────────────────────────
>>>えっ!? う うん……!
治療系の回復白魔法ってね
回復と同時に
体の栄養を消費するんだ!
ええと どういえればいいんだろ……
─────────────────────────────
『────大怪我をした場合、治療されますが、昏倒します。』
「いいいっ! お腹が減るってことなの!?」
─────────────────────────────
>>>それのひどいバージョンだねっ!
今はケガをしていないからいいっ!
でも 少しずつ回復されてるって
ことは 身体のエネルギーは
消費し続けてるって事だよ!
─────────────────────────────
「スライムのばかぁぁあああ!!」
『……──ガルゥオオオギャアアア──!!!』
「にぎゃああああ!!」
ばっしゃぁぁあああんん!!
思いっきり、自分からスライムに潜って、
黒の攻撃をかわす。
……ぶくぶく。自分からスライムに潜るなんて、
乙女として、非常にクツジョクだわ……。
うえええ……ぱんつまでびっしょりじゃないのよ……
髪についたの、ちゃんととれるんでしょうねぇ……。
クラッ──……。
「──っ……」
─────────────────────────────
>>>やばいよ……
歯車法はスタミナ切れ直前で
このスライムに浸ってると
少しずつエネルギーを消費する……!
─────────────────────────────
『────……。
────提案1。飛行による一時離脱。
────提案2。アナライズカードによる足場形成。』
くっそお……
頭がぼーっとしてきたぁ……。
『────アンティ。』
─────────────────────────────
>>>上だっっ!!
─────────────────────────────
────ち。
腕を振りかざし、さっきまで火を噴いていた、
最後の歯車を天にかかげる。
「──クラウン、"白い雷"」
『────レディ。』
きゅうううううううんん───!!
バリバリバリバリッッ────!!!
黒い、闇の鉤爪と、
白い、イナビカリが、クロスする。
……ねむい。
「……クラウン、出し惜しみ、無しよ」
『────最大出力。"ホーリーサンダー"。』
バシッ、バシシッ!!!
バァァアアアオオオンン!!!
「──っ」
はじきあう。
とぶ。
しずむ。
ぶくぶく。
─────────────────────────────
>>>すごっ……って!
おきてっ! おきて アンティ!!
ねちゃダメだっ!!
─────────────────────────────
うるさいなぁ……先輩……
わたし、知ってんのよ……
昔、あんなチンチクリンだったくせに……
髪なんて、染めちゃってさ……
むにゃむにゃ……
{{ あら……子守唄でも 歌ってあげましょうか? }}
────────っっはッッ!!?
ざばぁああっ!!
『────コンディション:確認中。』
─────────────────────────────
>>>だ 大丈夫!? 後輩ちゃん……
─────────────────────────────
「……いまの、声だ」
『────?。』
─────────────────────────────
>>>え?
─────────────────────────────
ずっと、違和感があった。
"────こっちだよ"
過去で、少しだけ、違う声だった。
いまの、声は……
そうだ、あの……
"幼い"っ、感じ───────!!
「──ぜったい、いまの声だ!!」
『────……詳細入力申請。』
─────────────────────────────
>>>アンティ?
─────────────────────────────
{{ ……やれやれ、起きたわね? まったくもぅ……きっちり10ビョウ後に、左側に落ちなさいっ! }}
────!!
「──クラウンっ!! カウント! 10ビョウ!」
『────レディ。』
……──バシャ、バシャバシャッ!!
─────────────────────────────
>>>ちょ アンティ!?
いったい何が………
!? ま またくるよっ!?
─────────────────────────────
「──ええいっ!!」
『……──ギャガルグォオオオオオオンンン──!!!!』
グォオオオオオオ────!!!!
バカのひとつ覚えみたいに、
掴みかかってきやがってぇぇ〜〜〜〜!!!
『────7…6…5…。』
……! ちっ。
「──どぉりゃああああああ!!!」
バッッシャアアアアアアアンンっっ!!!!!
─────────────────────────────
>>>ちょお────────!!??
─────────────────────────────
水面をおもいっきり蹴り飛ばし、
白い津波が、視界をおおう。
勢いで、私の身体は、
白い柱の外側に、ふっ飛ばされる────!!
落下が、はじまる────……!
─────────────────────────────
>>>アンティ!? なにを────……!?
─────────────────────────────
『 ……ルルロロロロロロロ──── 』
─────────────────────────────
>>>───え? この おと──……?
─────────────────────────────
「……ははっ、はははははっ!」
きた。
きたのよ。
き た ん だ わ っ !
『────4…3…2…1…。』
──あなたにも、見えるでしょう?
唸り声をあげて、
こっちに爆走してくる、
なんか黒い、"馬車っぽい"、何かが────。
『 ──ガルルルロロロオオオオオンンン──ンン!!! 』
「うるあああああっ!!!」
────ガッキィィィイン──!!
──私は、黄金のグリップを、掴む────!!!
……──きゅううういいいいんんッ────!!!
『────分析完了。
────歯車が頭部に装備されます。
────右側頭部:髪型が変更されます。
────左側頭部:髪型が変更されます。
────状態:ツインテールに変更されました。
────流路接続中。
────クルルスーツ:レディオル改に、歯車機構が補充されます。
────新装甲駆動二輪のプログラミングを終了。
────流路確定。
────全ての機能は同期しています。』
{{ ……貴方が落としたのはさぁ……"金の馬車"? }}
は、はははっ──!
{{ それとも……"銀の馬車"かなぁ? }}
そうよ……この、声だわ!!
{{ それともそれとも、もしかして、もしかすると── }}
私を呼んだ、この、イタズラっ子っぽい───、
{{ "ガルンガルン"唸る、"真っ黒の馬車"っぽい、何かかしらっ!! }}
女の子の、悪魔の声だ────!!!!!!!
{{ キャハハハハハっっ! 久しぶりねぇ!! ピエロちゃんっ!! }}
「イニィさぁあああああん、んんんんっ!!!??」
『────デバイス取得。
────"ガルンツァー:type.フルカウル。
────"スリーフォウカノン"装備です。』
『 ガルルルロロオオオォ───ンンッ!!! 』
イニィさっ……、
ちっさぁぁああああああああ─────!!!