すたこら盗賊デストロイ
森を、2人が逃げていた。
暗い道を、だが、足取りは速い。
彼らは暗がりを逃げることに、慣れていたのだ。
しかし、それは限界を迎え始めていた。
「はぁ、はぁ、もうだめだ!」
「うるせえ、もっとはしれ!」
草をわけ、枝に傷つけられても、止まることはない。
命がかかっている。
────クゥオオオオオオオオン!!
「ひっ!」
「くそっ!」
背後から迫る、魔物の気配。
なぜ、振り切れないのか。
前に走る男が、懐の袋を抱え込む。
小汚い男達には似合わない、
うつくしい絹の、淡いベージュの袋。
その口は、商人から盗んだリボンで結ばれていた。
他に、縛るものが、なかったのだ。
これも売り物だったが、この袋の中身の価値に比べたら、どうってことないだろう。
落としてたまるものか。
「も、もう、それは捨てよう! やっぱりそれは呪われているんだよ!」
「ばか言え! 今まで何人、仲間が死んだと思ってる!!」
「だ、だからじゃないか! それは手を出してはいけないものだったんだ!!」
「うるせぇ! これが本物なら、すごい金になるぞ!!」
「で、でも!」
「もうすぐ、もうすぐ街道にでる! そしたら馬車を奪うんだ!!」
欲に、目が眩んだ盗賊は、気づかない。
命が消えかけている事に、気づかない。
当然、それは、訪れる。
ヒュンッ!
ガッ!!
「ごっ!」
「うわぁ!」
背後からのびた蘿が、足に絡まる。
体が、持ち上げられては、もう、どうしようもない。
「そんな、もう少し、もう少しで!!!」
「う、うわぁああああああ!!!」
それは、牙であったか、杭であったか。
もがく盗賊は、とうとう袋を放り投げた。
小汚い彼らに似合わない、上品なリボンで巻かれた、絹の袋を。
もう、遅い。
「「ぎぁぁぁぁぁあ……」」
街道を、商人の馬車が進んでいた。
馬が疲れたため、今は馬を引き、速度を落として歩いている。
ポトン、と音がした。
「……おや?」
後ろを振り返ると、綺麗なリボンを巻かれた、絹の袋が落ちている。
「いかんいかん、荷物を落としてしまっていたか」
商人は後ろに戻り、それを拾うと、荷馬車の中に放り込んだ。
ついでに受けた配達とは言え、無くせば、後々ややこしい事になる。
今回の預かり商品は、贈り物や、包装された物が多い。
多分その中のひとつだろう。
「カーディフで、パーティでもあるのかな?」
そろそろ馬の疲れも、とれた頃だろう。
商人は荷馬車にあがり、馬を走らせる。
その日、風は吹いていなかった。
そばの森の血のにおいは、商人に届かなかった。
魔物も、獲物を食うのに集中していた。
それが、幸いした。
ひづめの音に、魔物が気づいた時、もう馬車は、かなり離れていた。