フライパンでセーブは可能ですか? さーしーえー
………。
………?
ここは……?
あれ……あれ?
さっきまで、私、あのお城に……。
後ろから、ふわりと、
温かいものに、包まれた。
< くわばら、くわばら……"おへそ"は、大事にしなぁ、あかんよぉ? >
(……──えっ?)
なんっ……
< いっかいめ…… >
……────しゃんら、しゃんら────……
(──! この音って……! でも、今の声はっ──?)
耳元で囁く、
ちょっと訛りのある、
優しい、女の人の声。
振り返ろうと───────……!
< またね、安ちん── >
(! まって──……!)
────────。
───ォォオオオオオンン……
「───────ッ!?」
音が、世界が、元に戻った。
「!? まさか、未来に戻っちゃったの!?」
ぺたんと座ったまま、慌てて下を見る。
私の手の中には、小さな悪魔と、杖。
「ほっ……よかった……まだ、過去だ……」
「ピエロちゃん……貴方、いま……?」
─────────────────────────────
>>>後輩ちゃん!?
いまの どうやったんだい!?
─────────────────────────────
「えっ……えっ?」
『────多方面衝撃波到達と同時に、全てのエネルギーが消失しました。』
「ピエロちゃんの周囲の流路が、根こそぎ、消し飛んだのよ……あんな、膨大な量が、いきなりね……」
「そう、なんだ……」
さっきまで、どこか違う場所に、いたような。
……あの、女の人……?
" ……──しゃんら しゃんら──…… "
「……」
耳に残る、金属がキラキラと鳴る音。
……サキの髪飾りと、おんなじ、音だったわ……。
─────────────────────────────
>>>! 手に持ってるそれは……!
─────────────────────────────
「え? ……あっ!」
空にかざし、ひらいていた金の指。
今は、握りしめられている。
──エンマさんにもらった……フライパン!?
「っこれ! いつの間にっ……!」
フライパンにしては珍しい、
白の、金の装飾が描かれた意匠。
「なんで私、これを握ってんの……?」
バッグ歯車は出してない。
つか、出せない。
空に浮かぶ、あのでかいのしか、今は。
なのに、いつの間に……。
『────アンティ。該当アイテムに、形質変化が認められます。』
「! おしえて」
『────再分析完了。
名称【 ダイオルノシュオン 】
(スキル媒体/アイテム)
分類:魔盾
状態:冷却中
特性:絶対拒絶
────────同期結合履歴を確認。』
「あっ!!」
ダイオル……"ノシュオン"?
フライパンの名前が、長くなってる!
それに……!
「……"魔盾"……!」
ふ、フライパンなんだけど……。
ここ、前は"調理器具"ってなってたような……
分析結果が変わってるわ!
─────────────────────────────
>>>状態が "冷却中"とあるね
……さっき 使用されたんだ……
連続では使えないのか?
─────────────────────────────
「! 先輩! そんな、"物"みたいに言わないで! "この人"はっ──……、あ……」
─────────────────────────────
>>>! アンティ……?
……まさか そのフライパンにも
ぼくたちのように…?
─────────────────────────────
「……」
「貴方、不思議なマジックアイテムを持っているのね……何だか、フライパンに似ているけれど……」
「あ……いや……」
卵は焼けたから、
フライパンとして使えるのは間違いないんだけど……。
どうやら、この、
"絶対拒絶"ってのが発動したみたい?
サキ……、ヨトギサキの、
"絶対断絶"に、そっくりだわ……。
"ヨトギサキ"
"ダイオルノシュオン"
どちらも、エンマさんが作った調理器具。
だから、似たようなスキルがあるのかな。
それとも……。
辺りを見ると、
さっきまで迸っていた白と黒の雷は、
嘘のように静まっていた。
……掻き消えてしまったように。
魔法の嵐が無くなり、ずいぶん静かに感じる。
この街を囲む光の翼が、とても、よく見える。
暗黒の地面が、外側の翼の根っこから、
ゆっくりと、白い光に、食われていってる……?
「あれが、ここまできちゃったら……!」
どうにかして、イニィさん達を、
この街の外に出せないかな。
あんな凄そうな光の魔法……
イニィさんとガルンでも、
流石に耐えられないかもしれない。
ゼロンツさんは、聖属性の植物みたいだけど……。
「あ……イニィさん、身体の白い炎消えてるけど、大丈夫? てか、めっさ子供っぽくなってんだけど……」
「────ッ!?」
ガバッ!!
「──!! ちょ──!」
っと! いきなりバランス崩さないでっ!
右手に杖、左手にフライパン持ってんだから!
いきなり上半身を起こしたイニィさんが、
ガルンの胴体を、食い入るように見ている。
幼い驚きの声が、腕の中で響く。
「……!? なッ!? そん、な──!?」
「! イニィさん!?」
『────警告。ガルン胴体部の:流路活動が活発化しています。』
「!! どういう事なの!?」
『……── ガルロロロロロ ──……』
ガルンの上顎は……私が考え無しに、
ふっとばしちゃって、今、すぐ横にある。
よくわかんないけど、頭が無くなったら、
胴体の闇の魔法は、大人しくなるんじゃないの!?
何故、活性化なんか……!
「……あれ、よね!? どうして!」
さっき、中から闇がこぼれ出た、ガルンの胴体。
……!! 何よあれ!!
中身がこぼれたんじゃないの!?
明らかに、おっきくなってるじゃないの!!
『────流路形成を確認。頭部が構成されています。』
「なんですって──!?」
ふ、ふざけんじゃないわよ!?
新しい顔ですって!?
が、ガルンって、顔、生えんの!?
ど、どうしたら……!?
─────────────────────────────
>>>セーブポイントはどこですか……
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何言ってんの先輩……。
「あ……あ……」
「イニィさん、どうしたの!?」
なんで、こんな驚いてるの!?
「まだ、おわって、ない……」
「え……?」
「 あいつのいのちは、おわってない……! 」
ゴッ────。
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■ お ■
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■ ■
■ ね ■
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■ ■
■ え ■
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■■■ ■■■
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■ ち ■
■ ■■■
■■■ ■
■ ゃ ■
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■ ■
■ あ ■
■ ■
■ ■■
■ ■
■ あ ■
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■ ん ■
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『……── ガル、ルロロォォ ──……』
「……ふざけろ」
新しい暗黒の顔は、
どっかで見たツラだった。
< かっ、髪、元、もどらん〜〜!! >
【 そ、それどころやないぞ大姉!! 】