裏技ゴクンチョ
『 ガルルロロロロ…… 』
「……あなたも心配?」
いま、イニィさんの身体の表面に、
たくさんの流路が、流れてる?
うん。流れてるって表現で、いいと思う。
"カクカクとした川の流れ"? のような光の線が、
規則正しく、ビッシリと、イニィさんを包む。
ほんのりと紫に光って、けっこう不思議な感じだ。
「うう……」
「クラウン、どう……?」
『────問題ありません。イニィ・スリーフォウの生命を維持するには、充分な量の流路が補填できています。デーモン系の魔物の回復は可能判定。』
「……ちょっと身体が可愛らしくなっちゃってるけどね……?」
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>>>ねぇ あっちのイニィさんの父親?
あっちも心配なんだけど……
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「! そだった! ゼロンツさん!」
お城の、天井の崩れた部屋
……ってか崩したんだけど、その中の瓦礫に、
寄りかかるように置かれた、木のようなモノがある。
『────分析完了。
────ゼロンツ・スリーフォウは、聖属性の魔物:植物系に変異しています。』
「なんですって!? し、植物って、フォレストウルフとかの!?」
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>>>それよりも なぜ彼だけ聖属性に……
何にせよ 気を失うワケだね
これだけ一気に 闇の力が
溢れ出たんだ
聖属性の魔物にはキツイはずだ
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「で、でも今は……!」
イニィさんを支えながら、
視線を外側の空に向ける。
大きな、大きな光の翼が作り出す、聖なる檻。
どんどん、大きく、眩しくなってきてる。
今ここには、光と影が、混ざりあってるわ……。
輝く中で、大きなシルエットが浮かび上がる。
ガルンの、胴体だ。まだ闇に、沈んでいない。
一番上に見える、2枚の黒い羽根の様なものは、
多分、ガルンの、2つの下顎だよね……。
アレが未来のアブノさんのお店まで、
長い時をかけて、旅をするのかな……。
……──ォォォォオオオオオオオオォォ──……!
『────転換路の出力が最大値に到達。現在:封印プロセスを実行中です。約10フヌ単位で、同期限界と共に実行されます。』
「どうきげんかい……? それって!」
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>>>潮時だって ことだね……
過去の世界に お別れする頃合いだ
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「……! ……!!」
………そ、そんな……!
こんな、突然にお別れなんて……!
なんか、やだ。
ヤだよ……。
「……このまま、イニィさんをここに置いていけって言うの……? それに、ガルンも……!」
『────現時点でガルンを格納すると、イニィ・スリーフォウに深刻なダメージが残ります。』
「でも……! この後、ここはどうなるの?」
『────……大出力の聖属性魔法による結界術式が展開されます。』
「それって」
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>>>光に 飲み込まれるってことだね……
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──!!
そんな、そんなことになったら……。
「……ねぇ、私わかんないんだけど、強い光の魔法って……それって、例えば太陽みたいなモンなんじゃないの……?」
『────……。』
クラウンは、しゃべらない。
……何となく、予想はついた。
あの、外側の光の、羽根の方から……!
『────アンティ。』
「私、やだよぅ……こんな中途半端で、見捨てるみたいな感じで帰るの……」
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>>>アンティ……イニィさんの
聖属性への耐性は かなりのものだ
"しろいふた"が閉じても
無事でいる可能性はある
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「可能性!? それって、無事じゃない可能性もあるってことだよね!?」
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>>>…………
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あ……。
ちが……、先輩にあたっても……。
「……ごめん、でも、私……」
『────アンティ。過去にいるあなたと、未来のあなたは繋がっている。あなたは、過去であるこの場所にも、"居る"ことになっています。この場所であなたが光に巻き込まれ、未来のあなたにどのような影響があるか、未知数なのです。』
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>>>きみの性格を……ぼくたちは
よく知ってるつもりだよ
でも それでも今は
きみの安全を優先したい
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「……」
わたしは……。
……──ピリリッッ、パシッ──!!
「──!!」
──今の、光ったの!! 何!?
……────パシッ、パシッ、ピシパッッ──!!
「!! あそこ! 雷みたいなのが……!」
『────暗黒地表面に、放電現象に酷似した力場を確認。』
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>>>! これは……!?
白い雷と 黒い雷が……!
光と闇が反発しあっているのか……?
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『────不可解です。ガルンという意識体を失い、地表の闇系統流路は活動を停止していると予測。闇魔法のみに光が接触しても、爆発的な反応はおきないはずです。』
「そうなの? でも……うわ! アレとかめっちゃ大きいよ!」
……────バリバリ、バシュゥン──!!
光の翼に囲まれた、真っ黒の大地の上で、
白と黒のイカヅチが、飛び交ってるわ!
まるで、大きなスネーク達が、
地面から出たり、潜ったりしているみたい……!
見ていて、とても不安になる光景だわ……。
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>>>もうすぐ封印が終わるって時に!
これじゃあ 雷の嵐だ……
!!!
アンティ! よけて!
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「───ッ!」
経験則。
先輩がヤバいって言ってくれた時は、
本当に、やばい。
すぐに、"反射速度"を発動して、
片足を立てながら、状況を確認する。
ッ! 白い、雷が────ッ!!!
「────くぅぅ──ッ!!」
─────キィィん!!
かみなり、はやい。
イニィさんと杖を抱え、真横に地面を蹴る。
"力量加圧"の加減をミスった。
真横の瓦礫に、背中から突っ込む。
『────光学聴覚保護積層。』
……────ドゴォオオオオオシュバァァァァアア!!!
「〜〜〜〜!!」
さっきまでいた所に、
龍が噛み付くように、
白い雷がおちた。
目と耳のアナライズカードが次々と消え、
手の中のイニィさんを見て、ほっとする。
「! が、ガルンとゼロンツさんはっ!?」
『 ……──ガルロロロ──…… 』
ほっ。
なんとか無事みたいだ……!
ゼロンツさんもあそこにいる!
『────警告。あの規模の魔法が直撃した場合、甚大な被害が生じます。』
「……そりゃそうよ。雷に打たれたことなんて、人生で一度もないけど……わかるわ」
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>>>アンティ! きいて!
イニィさんは闇属性
ゼロンツさんは聖属性……
つまり!
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「!!」
イニィさんに白い雷、
ゼロンツさんに黒い雷……
反対の属性の雷が当たれば、アウトだわ!!
が、ガルンはどうしよう……!
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>>>またくるっ! 次は黒いのだよ!
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「うわっ!? "ベアークラッチ"!!」
────ガラガラ、キィん────!
イニィさんと杖を持ち上げ、ゼロンツさんの方へ飛ぶ!
後ろを、言葉にし難い、轟音が、通り抜ける。
"ベアークラッチ"で真後ろの視覚を拾うと、
まるで大きな黒い鞭で、
お城の床が、ぶん殴られたみたいだった。
……めっっちゃこわい。石から湯気でてる。
「クラウン!! この現象はおさまらないの!?」
『────予測不可能判定。未知の現象です。』
────キィん。
ゼロンツさんの側に降りる。
意識はないみたい。
どうにかして、みんな守りたい。
このまま、私だけ未来に逃げ帰るなんて……。
外を見る。
巨大な、光の翼が天を突き、
地面は、闇に覆われている。
まるで意識を持ったような、
雷の龍が、踊り狂っている。
この世の……終わりみたいな光景だった。
『────アンティ。同期切断の、許可の入力を。』
「……! クラウン……!!」
それは……!
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>>>アンティ
ここは もうすぐ 光によって
閉じ込められる……
光と闇が反発して
ものすごいエネルギーが
生まれてる……危険なんだ
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「……でも……!」
これは、優しさだった。
多分、わがままなのは、私だ。
たくさん、望みすぎているのは……私。
この二人は、もう、家族みたいなもんだ。
私のために、危険を、切り捨てる。
多分、言う事聞いた方が、正しいんだ。
少し、ぐらぐらとした。
善意に、わがままで、足を立てている。
でも……私は……。
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>>>あれは……ダメだ……
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目の前の、先輩の"文"に、少し、気づくのが遅れた。
見上げる。
白と黒の雷が、螺旋の渦になって、
ぐるぐるしながら、まっすぐ、私達の方に来る。
でっかい。
ものすごい、魔法だ。
……──────"魔法"──……?
『────強制同期切──……。』
「まちな、クラウン」
手をかざす。
とても、私のような娘っ子には、
受け止められないように、見える。
ブーツの歯車が、一つ、はずれた。
「────クラウン」
『────予測展開。』
2ヶ月くらい、前かな。
まだ、仮面先輩と会っていない頃。
私は、歯車法を、なんちゃって研究した。
その時、わかったこと。
"うーん、やっぱりこれ以上大きな歯車は出せないみたいね"
"────肯。現状のスキルレベルの限度値と分析。"
①出せる歯車の大きさは、スキルレベルに依存する。
でも、それには、例外がある。
"でも、ベッドをしまった時はもっとデカかったじゃない"
"────ストレージの展開範囲は該当アイテムに依存。"
"うーん納得いかん……"
「────て、ことなのよ」
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>>>歯車法……とんでもないねー……
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そう。
歯車の大きさは、
バッグ歯車の時だけ例外的に、
"格納する該当アイテム"に、依存するのよ。
そして、
私の"時限結晶"は、
魔法も、しまえんのよ。
つまり、しょいこむモンが、
デッカい魔法であれば、
デッカい魔法であるほど────……!
「──バッグ歯車は、おっきく、なるっ!!」
高らかに上げた、私の、金の片腕。
その上で、
バケモノみたいな歯車が、ぜんぶ、のみこんだ。
(*´﹃`*)風邪をひいたので、
仮面ライダークウガを見て治した。