激おこクラえもん
だいじょうぶって、言った。
だいじょうぶな、もんか。
──────悪魔は、嘘つきだ。
「うわあああああ!! イニィさぁあああん!!」
「ぐ……」
悪魔の羽根が、光になって、崩れていく。
私は杖とイニィさんを抱きしめ、
落下に備えた。
お城が、近い。
速くなるスピードの中、
私は、思いっきり、城を蹴っ飛ばす準備をした。
一蹴、物理。
「……───ィさん! イニィさん!?」
城に横たわる、悪魔は起きない。
燃えてる。
イニィさんの身体で、白い炎が、燃えていた。
ジワジワと、ジワジワと。
全身から、何かが漏れだしていた。
グローブで、ひとつひとつは小さな火を、
さわって、もみ消そうとする。
全く熱くない。
小さな火だ。
でも、消えなかった。
羽根は、もう見る影もない。
「あ……あ……からだ、が……!」
気づいた。
イニィさんの身長が……縮んで、る……?
からだの、体積が、減っていた。
「うああ、うああ……! どうすれば、どうすればいいの!? 消えないわ! この白い炎……消えない!」
このままじゃ、イニィさんが──!!
「──水、かけてみるっ!!!」
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>>>おっ おちついて!
アンティ 変だ! 速さが 遅い!
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「お、おお遅いって!?」
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>>>くそ……
闇属性に 聖属性か……
イニィさん 黙って やったな……
アンティ! 悪魔系に光系魔法を
撃ち込むと 瞬時に爆発した
みたいになるんだ!
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「どっどういうこと!?」
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>>>イニィさんの身体には おそらく
シャレにならないくらいの
光系 もしくは聖属性の
魔法が流れてる……! でも見て!
"じわじわ"と 燃えてるだろう!?
まるで 炭みたいに!
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「!? ば、爆発とかはしてないよ……!?」
それって、つまり──?
『────耐性が強い、ということです。アンティ。』
「──クラウン!」
よかった! あんた起きたの!
気絶とかはじめてだったから、
心配したじゃないの!
『────分析完了。
────十字杖より、高密度の聖属性魔法が伝達しています。イニィ・スリーフォウの体組織が減少中。アンティ、こちらを。』
────ヴォン。
「!!」
目の前のアナライズカードに、
情報が映し出される。
これって……イニィさんのアナライズ情報!?
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対象名【イニィ・スリーフォウ】
種族:"アークデーモン"
無効:暗黒属性 耐性:聖属性
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「!! ……──"聖属性"に、耐性!!」
『────クラウンギアは、予測します。イニィ・スリーフォウが、この土地から受け継いだ流路は、闇の属性だけではない。彼女は知らず知らずの内に、光と闇の、両属性の性質を持って生を受けた。』
「!!」
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>>>光の魔法の量に対して
身体の崩壊が遅すぎる
恐らく 本人も気づいてないけど
聖属性にかなりの耐性があるんだ!
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「でもそれって……死ぬかもしれないって、思ってたって事……だよね……!」
イニィさん……!
そ、そんなの……!!
ふざ────……!!
『────ふざけないでほしい。』
「──へっ」
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>>> へっ
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………えっ。
怒気をはらんだ、女の子の、声。
えっ、え?
い、今の、クラウン?
『────経過報告。既に、イニィ・スリーフォウの流路を掌握。現在、聖魔法の流路の切り離しを進行中。アンティ、既に闇の流路は完成しています。維持はこちらで行いますので、このバカ悪魔から、十字杖をとりあげてください。』
「あ、うっ、うん……」
ば、バカって言った……
クラウンが、バカって言ったよ!?
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>>>うおっ ちょ! クラウンちゃん!
このプログラムなに!?
こえぇよ! 顔がこえぇよ!
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え、なに……
何が起きてんの……?
あ、私は言われたとおりに、
杖を貰いますよっ、と……。
『────本当に、ふざけないでほしい。』
「く……クラウン、さん……?」
どったのよ、アンタ……。
『────この悪魔は今、自分を犠牲にしようとしたのです。』
あ……。
……ん、そだ、ね……。
『────冗談が、過ぎます。そんな事を認識して、アンティ、あなたが、悲しまないはずがない。』
「──! クラウン──……」
『────あなたは進んできた。何かを守りながら、必死に、進んできた。明日に、後悔しないように。ぐっすりと、すっきりと、良い朝を迎えられるように──。』
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>>>きみ……もう 心が
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『────ふざけないでほしい。ここまで助けにきた、私の相棒の未来を、地獄のような毎日にする気ですか。』
……ああ。
クラウンが、怒っている。
怒って、くれている。
あのクールな相棒が、私のために。
……ちょっと、こっちがビビるくらいに。
『────悪魔にしたって、おイタが過ぎる。私はアンティが笑っていれば、世界なんてどうでもいい。ですが、あなたが笑うために、世界が救われなければならないのなら、私は、全てを救いましょう。世界だって、悪魔だって、救ってみせます。』
「──! イニィさんの炎が……!」
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>>>おおっ! 消えていってる!
でも 身体が
一回り 小さくなってるね……
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「うう……」
「! イニィさんが! ……何だか、辛そう!」
『────消失した闇属性の流路の割合が、甚大と予測。自身の想定以上の聖耐性で、持ちこたえています。』
イニィさん、苦しそうだ……。
私の両の腕には、
苦しむ悪魔と、白い光を纏う、十字架。
……まるで、彼女のために祈っているみたいだ。
「闇の力が少なくなってるんだね……? ど、どうすればいいの」
『────アンティ、あなたのすぐ後ろに、大きな黒い顎が転がっているでしょう。』
「────!!」
ばっと、振り向く。
『 ……── ガルルロロン ──……? 』
「──ガルンッ!!」
そ、そうだ! こいつ、
闇の魔法の化身みたいなモンだわ!
ガルンから出ていた黒い煙が、
随分、収まっている!
最初より、ちょっと小さくなった上顎。
いや、でも、充分でかいわ──!
『────このバカ悪魔と、ガルン上顎部を、流路直結します。近くに移動を。』
「あっ、はい、ただいまっ」
な、なんか今は逆らわないほうがいいわね。
よっこぃ、しょ。
「う……ん」
『────次に起きた時には、悪魔お説教プログラムです。』
…………。
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>>>アンティ……
やっぱきみ もう少し
お淑やかに生きたほうがいいよ……
子は親に似るっていうじゃん……
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「──なっ!? アンタ、なんてこと言うのよ! 私が何をしたっての!」
『 ……── ガルルルルオオン ──……! 』
────キンキンキンキィン……!
ちょっと、ちっちゃくなっちゃったイニィさんと、
白い十字架を携えて、
ガルンのところまで走った。










