ジゲンスナイプ さーしーえー
……──ォォォオオオォォォ────……!
また、空を飛んでいる。
狙撃は、ここからする事になった。
この街の中心の地面を狙うのに、
お城がお邪魔だったからだ。
「──構えはこれでいいの?」
『────良好です。地面に固定していないため、射撃時に肩に衝撃を受けます。ヨロイの基礎防御力と、"力量加圧"で受けきります。』
「それ、めっちゃ怖いんだけど……」
私の肩、取れないでしょうね……。
「それより空中に放り出されるほうが怖いわね」
「ヤな事いわないでイニィさんッ!」
十字架を抱きかかえる私を支えるのは、
イニィさんの悪魔的な腕力と、その翼だけ。
今の私の歯車の残数だと、
お空でぷかぷかするのは難しいわ。
山火事飛行だと安定しないし。
……お空は悪魔におまかせコースね。
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>>>頬当てもないからなぁ……
歯車に余裕があれば
バイポッドの代わりに
なったんだろうけど……
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『────杖の内部構造を利用し、ライフリングの代用が可能判定。銃身内を高密度流路で強化開始。』
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>>>そりゃ僥倖!
マスケット銃ではなくなったわけだ
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相棒と先輩が、
何やらイミフメイな会話をしているが、
もう知らん。
やる事はシンプルだわ。
私は、狙って、衝撃に耐える。
──そうよね?
『────テレスコピックサイトは構築不可能判定。望遠機能をアナライズ式に置換中。少々お待ちください。』
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>>>レティクルは?
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『────光学式を採用。クルルカンに質問。知識野のホップアップシステムの概念の必要性が理解不能。』
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>>>いらない
実物に無いし 真下に撃つから無視
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「……ピエロちゃん、この方々は……さっきから何を言ってるの」
「…………」
前々から思ってたけど、
何かをイチから作る時、この2人、仲いいなっ!
チンプンカンプンだわ。
……ぶぅ。
「……ね、ねぇ! この弾丸? どうすればいい?」
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>>>持ち手の付け根のスキマから
中に入れちゃおう!
クラウンちゃん 銃口どうする?
開いてないでしょ
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『────歯車の空間で接続。経験値数:2。』
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>>>弾丸には歯車3つか……丁度5枚!
アンティ! スコープ出すよ!
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「はいっ──!?」
────シュババババババっ!
下を向いている私の身体。
右目のすぐ手前から、地面の方に向かって、
何枚ものアナライズカードが順番に展開する。
カード遊びみたいだわ……
綺麗に等間隔に並んで停止して……えっ!?
動く……?
あ、これ、杖の向きと連動してる?
「! なんか大きく見える!」
「……! "照準"ですね……?」
えっ、イニィさんわかるの……!?
『────銃口部の歯車にて、照準補整を行います。』
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>>>杖で ボルトアクションの
単発式のスナイパーライフルか……
はは……ロマンだねぇ
これって仕込み銃になるのかな?
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『────訂正箇所。この機構には遊底自体が存在しません。その表現はどうかと。』
「こ、こらこらあっ! 2人とも、いい加減にしなさいなっ」
そろそろ拗ねるわよっ!
私の知らない魔法の話をされてるみたいだわ。
ううう、学校の教室を思い出すふぅぅ……。
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>>>ごっ ごめんごめん
アンティ 弾丸を中に入れて
回転出来るかい?
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「……! うんっ!」
イニィさんの十字杖の握りのところ。
今は、そこがちょっと伸びて、
その表面が、網の目状になっている。
アップルパイの模様みたい!
そのスキマから、
3枚の歯車で包まれ、"杭"のようになった、
紫の時限結晶を、そこに押し込む。
「回転……こうかな」
……──きゅういいいいいい───────……!!!
クおお……クぉぉぉおおおおお────……!!!
歯車弾丸の表面のギザギザが、
高速回転で、見えなくなった。
杖の中で、空気が摩擦する音が、ビリビリと響く。
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>>>準備おっけー!
クラウンちゃんは?
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『────全力を込めます。』
「わ、私の肩……」
確かに、"くろいふた"は貫通しなきゃダメだけど、
流路作るのに関して、アンタの全力って無限なんでしょ……?
きっ、キモチ、労りをお願いね?
────キキキキキキキキ────!!!
杖の表面が、金色に変わっていく。
キレイだ。思わず見てしまう……と、
いかんいかん。真下に集中しないと。
身体に対して右側に杖を抱き寄せ、
頭を杖にコツンってして仮面を密着、
重なったアナライズカードを覗き込む。
……! 光の十字が地面に見える。
──そっか。クラウン、あそこを撃つのね?
「──イニィさん、さっき言ってた"闇属性の流路"の転写は?」
「貴方達の流路……ぶっ飛んでるわ。膨大すぎて、介入できません。撃ち終わった後に、一気に転写します。……お願いします」
「うん、頑張る」
あ、杖、光りだしてるわ。
これ、私がんばらないと、なんか吹っ飛ぶわ。
ぐぎぎ。
『────三翼の転換路と、気密性の少ない銃身が衝撃を緩和する予測です。後はあなたの腕力に起因する。トリガーデバイス:確定しました。』
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>>>アンティ いくよ
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「あい。注意は?」
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>>>握る位置は出来るだけ
杖の中心の近くを握るんだ
リコイル……反動が少なくなる
その長さだと
正直、付け焼き刃だけど……
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「何もないよりいい」
『────報告。軸動補助システマ、"値震煉異"が機動します。流路パス直結完了。』
…………。
「……ねぇクラウン、前から気になっているんだけど、その、"ネフルネコト"って、なぁに?」
『────……"赤の時限結晶"を、私の頭脳と心臓とするならば、"値震煉異"は、神経と血管に該当します。概念で構築される、流路の"通り道"。私の存在に、張り巡らされたもの。』
「! クラウンの……」
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>>>クラウンちゃんからしたら
今の状態は……"血湧き肉躍る"?
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「……なるほど??」
「ふふ……貴方の時限結晶には、精霊が宿っているのね」
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>>>いや ぼくもいるんですけど……
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──ガチャ、キキン、ガチャン……!
む、クルルスーツの装甲が、
所々、動いてる。
うわ、ここ開いたんだ。
「クラウン?」
『────恐れ入ります。排熱シークエンスに一部、クルルスーツの機能を流用しました。』
「わかった」
「ピエロちゃん……ほんとにわかったの?」
「……わからないことが、わかった」
……────キィィィイイイイン────……!!!
『────レディ。いつでもいけます。落ち着いて照準を合わせ、出来る限り杖本体を垂直に構えてください。トリガーデバイス起動。カウント開始。10、9、8、……。』
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>>>補整カンペキ どんぴしゃ
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「イニィさん、やばかったらゴメン」
「……いいんですよ」
……ググッ……
『────4、3、2、1、……──"ファイア"。』










