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ほんものの、にせものになるために さーしーえー

 穏やかさを、取り戻しつつある街があった。



 近隣に凶暴な魔物がでた街。

 山火事の炎にさらされた街。


 そう、もう、過去。

 今日は、ただの、天気が良い日だ。

 過去に勇者を語りし少年が、ベンチに座っていた。


「はぁー……」


 ぽかぽかと、心地よい陽気さとは裏腹に、少年の雰囲気は暗い。

 彼は、自分の弱さに、愚かさに出会ってしまったのだ。


 魔物を追い払おうとした、自分。

 山に火をつけてしまった、自分。

 弱くて何もできなかった、自分。


「はぁー……」


 偽物の勇者。それを、飲み込む事はできた。

 でも、それから、どうすればいい。

 自分は、どうしようもなく、子供だ。


 大きな失敗の後の、立ち上がり方が、よくわからなかった。


「……ぼくはいったい、なんなんだろう……」

「……へんなことをいう、ゆうしゃだな」

「!」


 下を向いて言った独り言に、返す声があった。


「ログ……!」

「……ほら、これ」

「これは!」


 差し出されたログの手には、木の剣が握られていた。

 もう片方の手には、木の盾。


「ユータの母ちゃんが、わすれものだって……」

「…………」


 目の前に出される、ゆうしゃの剣。

 かつての相棒。愚かさの象徴。

 ユータはまた、(うつむ)いてしまう。



「「…………」」


 ……コト。


 ログはベンチの上に、おもちゃの剣をそっと置くと、それを挟むように、ユータの反対に座った。


「……ゆうしゃは、やめちゃうのか?」

「…………」


 ログが、木の盾を持っているという事は、家まで遊びに誘いに来てくれたという事だ。

 ユータはそれが、恥ずかしいような、情けないような感じがした。

 前、彼に「よわむし」と言った事がある。

 悲しい気持ちになった。


「ぼくは、にせものだった……」

「! ……ユータ」

「ログ、きみの、いうとおりだった。ぼくはまものに、かてっこなかった……それだけじゃない。アナはあんなにこわかったのに、こえをださずに、ないてくれた。山はもえて、みんなだめになるところだった……」

「…………」

「ぼくは、ただの、こどもだった……」


 ユータは悔いていた。

 初めて、こんなに悔いていた。

 みんな自分が、壊すところだった。

 彼が、助けを呼んでくれなければ────……



「ログ、ぼくは、きみに、おれいをいわなくちゃ」

「! おれい、だって……」

「アンねえちゃんをよんでくれたのは、ログだろう?」

「そ、そうだけど……」

「やっぱりか。……ありがとうログ。ぼくはきみに、よわむし、とか、ひどいことをいったのに。ログがいなければ、ぼくとアナは、しんでた……」

「……ち」

「きみはいいやつだな」

「────ちがう!!」

「!!!」


 ユータは、いきなりのログの大きな否定の言葉に驚いた。


「ちがうんだ……」

「ロ、ログ……?」


 ログは、目をクシャッとつぶりながら、ひざに当てた手を、ブルブル震わせていた。


「ログ……。やっぱり、ぼくを、おこっているのかい?」

「ち、ちがうんだ……おれは、いいやつなんかじゃない……」

「え……?」


 ログは、目に涙をためて、語りだす。


「ユータ、おれが、おまえたちが外にでたことをいったのは、3ジカも、たってからなんだ……その、3ジカのあいだ、おれは、なにをしてたとおもう」

「なにって……」

ふとんのなかで(・・・・・・・)ふるえていたんだ(・・・・・・・・)。オレは、ずっと」

「ログ……」

「ずっと、ずっとだ。おれはしらない。おれはしらない、と。ふるえて、へやにこもっていたんだ」


 ブルブルと、腕は震えている。

 その時の気持ちを、思い出しているのだろう。


「2ジカくらいたったとき、2かいのまどから、おまえのいえが、さわがしくなるのが、みえたんだ……。おまえの母ちゃんの、さけぶこえがした」

「…………」

「それから、となりのアナのいえでも、いないことがわかった……。おれは、はきそうだったよ」

「そんな、ことが、あったのか……」

「おれは、おしえなければいけなかった。すぐに。でもこわかった。おれは、おまえたちのおやに、はなすのがこわかった……なぜ、とめなかったのかって、いわれそうで」 

「…………」

「おれが、おまえのことをいったのは、こわさに、たえきれなくなったからなんだ……だから、アンティねぇに、いったんだよ……」

「で、でも……」

「ユータ、おまえのいうとおりなんだ……おれは、よわむしだ。とんでもない、よわむしなんだよ……」


 気づけば、ログは泣き出していた。


 ユータは戸惑った。

 責められる、バカにされる、と思って礼をいったのに、ログもまた、苦しんでいた。

 悪いのは、自分だ。

 ユータは、ログに、悲しい思いをしてほしくなかった。


「ログ、それでもきみは、いってくれたじゃないか! きみは、よわむしじゃないよ!」

「ちがう! おまえはバーグベアに、たちむかっていった! ……おまえはゆうきがあるよ! おれは、"ほんもののよわむし"だ!」

「────そんなこといったら、ぼくも、"ほんものの、にせもののゆうしゃ"だ!」



 少年は、今回の事でひとつ、できるようになった事がある。

────自分の弱さを(・・・・・・)認める事だ(・・・・・)


「ほ、"ほんものの、にせもののゆうしゃ"……?」

「そうさ……。ログ、きいてくれるかい? ぼくは、バーグベアにあったんだ」

「! そ、そうなのか?」

「ああ、きみにうそは、もう、ぜったい、いわないよ。ぼくは、ないてにげたんだ。アナといっしょに」

「ど、どうなったんだい?」

「今からいうことは、ぜったいにひみつだよ、ログ」

「わ、わかった!」

「よし! ────アンねえちゃんが、助けてくれたんだ」

「ど、どうやって?」

「うん。ほんとうは、アンねえちゃんは、とってもつよいんだ────ゆうしゃなのを、かくしているんだよ」

「!!」

「まえ、やねにのぼって剣をとってくれたとき、金いろのはぐるまを、だしてたろう?」

「ああ、だしていたね」

「あれは、ゆうしゃのぶきなんだ」

「なんだって!」

「あれはすごいはやさで、まわる」

「お、おう」

「じめんもはしれるし、よくきれるんだ。あれは、かたちはへんだけど、ゆうしゃの剣なんだよ」

「!!」

「……やっぱり、しんじられないかい?」


 ユータは、少し寂しそうに聞いた。


「いや、しんじるよ。だってユータは、ぶじで、ここにいるからな!」

「! ああ!」

「それで、アンティねぇは、つよいのか?」

「とっても、つよい」


 ユータは、話した。

 出会った熊の魔物。

 燃え広がる炎。

 その中を翔ける、黄金の勇者の話を。


 その瞳の輝きは、ログにも灯っていった。


「す、すごいんだな! アンティは!」

「すごい! ぜったいにひみつだぞ! ……でも、すごいとおもったのは、わざとか、ちからだけじゃないんだ」

「? どういうことだい?」

「……おねえちゃんの、目をみたんだ」

「目、だって?」

「うん。バーグベアにおいつかれて、ふりかえったときの、おねえちゃんの、"目"だよ」


 挿絵(By みてみん)

 暗闇の中で、それでも心に残った、輝き。


「────"ぜったいに、まもってやる"って、目だったんだよ」

「─────」

「あのとき、ぼくはまだ、おねえちゃんのつよさを、しらなかった。でも────」


 必ず、守り抜くと、決めた者だけに宿る、黄金。


「────あの目をみたとき、すごく、心づよかった。あれは、"ほんものの、ゆうしゃの目"だった」

「……そうか、守ってくれたんだな……」

「守る……?」


 そうだ。守ってくれた。

 なぜ、自分は守られたのだろう。

 なぜ、命をかけてまで、助けてくれたのだろう。









 ────少年は、答えを、だしてみせた。






「────たいせつにおもうから(・・・・・・・・・・)だ……」

「ユータ?」

「……ログ、ぼくは、わかったよ」

「なにをだい?」

「"たいせつにおもわれてること"を、わすれちゃいけないんだ」

「────?」

「そのことをわすれて、ゆうきや、ちからを手に入れてもダメなんだ」

「なぜだい?」

狂銀(きょうぎん)オクセンフェルトは、だれにもたいせつにされなかった。だからくるった。義賊(ぎぞく)クルルカンは、だれかをたいせつにすることを、しってた。だから、さいごまで、たたかえたんだ。……おねえちゃんは、"たいせつにおもわれる"ことをしってるんだ。だから、ぼくも"たいせつにおもって"くれる。だから、ゆうしゃなんだ!」

「む、むずかしいはなしだな」

「かんたんさ! ……ぼくは、じぶんが、たいせつにされているとわかっていたら、あんなことはしなかった……」


 ユータは、あの夜、街に帰って来た時の事を思い出していた。

 すごく怒られると思っていたのに、だきしめて、唸るように泣き出した母の事を。


「……アナも、たいせつにおもう、母ちゃんらがいる。そういうことかい?」

「そういうことさ! ログ、もちろんきみにもね!」

「それが、ゆうしゃに、たいせつなのかい?」


 少年は、立ちかあがり、友を見た。


「うん! "たいせつにおもってくれるひと"を"たいせつにおもってまもる"。それが、"ほんもののゆうしゃ"なんだよ」

「………! なるほど!」


 そう、少年は、少年ながらに気づいた。

 受け継がれていく、あたりまえの、想う心を。

 少年の母も、その母も、そのまた昔の家族も。

 大切に思われていた。それを返し、また次に、伝えていく。

 そうしてきた。

 みんな、そうしてきたんだ。

 それを忘れて、守る事などできない。

 自分は、確かに偽物だった、と。


「……ぼくは、今から、”ほんもののにせもののゆうしゃ"だ!」

「な、なんだって?」

「ぼくは、"にせもの"だ! だから、ほんものをめざす! ぼくは、ゆうしゃになるまえに、たいせつにおもうことをだいじにする! そうするよ!」


 少年の中に、決意が生まれる。

 それは、稚拙な言葉。

 純粋な愚かさ。

 しかし、輝きがうまれた、瞬間だった。


「……ユータだけずるいぞ!」

「ログ!?」

「それなら、おれは、ほんものの"よわむし"だ! だから、おれも"にせもののゆうしゃ"の、なかまだ! おれも、よわむしにはならない!」

「ははは、ログ! "にせもの"のなかまになるのかい?」

「そうさ! おれたちは"偽物たち(フェイカーズ)"だ!」

「ふぇ、ふぇいかーず??」

「ああ、父ちゃんがしごとでいってたんだ。「この宝石は、偽物(フェイク)だ」って!」

偽物たち(フェイカーズ)……それが、ぼくたちか!」

「ああそうさ!」


 ユータが、剣をとる。

 ログが、盾を掲げる。


「「われら、偽物たち(フェイカーズ)!!」」

「あー!!! ずるーい!!! アナなかまはずれ、やー!!!」

「「わぁ!!!」」


 ベンチの裏から、アナが飛び出した。


「あ、アナ……」

「アナ、どこから、わいてでたんだい……」

「ひどい、いいぐさなの!! わたしもふぇいかーず、する!」

「え! いやでも……」

「アナ、おれたちはだな……」

「ユータはけん。ログはたて!」

「「おーい……」」

「じゃあ、わたしは、まほうつかい!!」

「ま、まほう、つかえるの?」

「いま、おぼえるの!」

「むちゃくちゃだな……」

「うるさーい! おうごんきーっく!!」


 ガン、ガン。


「い、いたいいたい!」

「さっきのもっかいやるの!」

「「さっきの?」」



 ────────。

 ────。

 ──。


「え「えと「われら、"偽物たち(フェイカーズ)"!!!」」」



 キメッ。














 穏やかさを、取り戻しつつある街で、3人の子供たちが、よく見られるようになった。


 その子供たちは、それぞれ、剣、盾、杖をもっている。

 だが、冒険者ごっこをするのかというと、


 ことごとく、近所中のゴミをひろったり、

 ことごとく、おばあちゃんの荷物を運んだり、

 ことごとく、街の花壇に水をやったりしている。


 街の人々は、今日も彼らを見ている。

 愛おしい勇者たちを、見守っている。

 ああ、今日も。


 "本物を目指す者達(フェイカーズ)"がやってきたと。




















 ─────そう。






 ──────この時、







 ──────ながい(・・・)ながい(・・・)付き合いになる(・・・・・・・)彼らの(・・・)クラン名が(・・・・・)決まったのだ(・・・・・・)







挿絵(By みてみん)






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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物や展開が瑞々しく、引き込まれました。 [一言] 作品に出会えた事が嬉しく、応援したくてユーザー登録しました。
[一言] はぐるまどらいぶの次はフェイカーズ(本物を目指す者達)の物語が見たいw
[良い点] めちゃくちゃ泣ける・・・。 自分の弱さを知って認められて、もうすごすぎるよ子どもたち・・・!
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