15番目
きっつい回です(つд⊂)
最初、目の前の少女を、神と疑った。
突如、現れ、
光の如く舞い、
力を以って征す。
その黄金の鎧と髪は、神聖を帯びていた。
しかし、いま。
目の前にしゃがみこむ、この少女はどうだ。
結わえた髪は解け、
力なく崩れ、
黒の顎にもたれかかり、
自身を、悔いていた。
──少女、だった。
大きすぎる力を持って、
しかし、その色は……。
今の彼女は、
道化でも、神でもなく、
ただの、年頃の少女に見えた────。
『 ……── "ガルン"……? ソレハ、"ガルン"、カ──……? 』
暗黒から切り離された獣が、
黄金の少女に名をもたらされ、
"個"を、理解し始める。
悪意など、微塵も無かった。
無垢な心だ。
血の繋がった愚なる王を、
恥ずかしく思う程に。
『 ……── オマエ、ハ、ドウシタ ──……? 』
! ……やれやれ、ピエロちゃん、
貴方、倒したカミサマにまで、心配されてるわよ。
「……アンティ、いつまでそうしてるの」
「……」
落ち込んでいる少女に、声をかける。
勘弁なさい、これでも人嫌いの悪魔なのよ。
人を励ますなんて、最高にニガテな分野だわ。
「……未来から、私のために、来てくれたんでしょう」
「……ぅ……」
………。
やれやれだ。
なんでここにきて、
傷心の女の子を元気づけるなんて、
難易度の高い事をしなくてはならないのか。
せめて悪魔になる前に、練習させて欲しかった。
私は元々本音を隠して、最低限の会話で生きてきた。
近しい人など、限られていた。
言葉など、当然、上手くはない。
むぅ……。
……。
そうだ……
お父様によくやられた、
アレをやってみよう。
自分の手を見る。
こんな、爪まみれの手で、
出来るかは、わからないけど……。
へたり込み、黒にもたれかかる金に、
背後から、ゆっくりと近づき、しゃがむ。
爪が触れないように、
髪を乱さぬように、
ゆっくりと頭を撫でた。
お父様みたいに、
上手くはいっていないだろう。
なでなで……。
なでなで……。
「────……、……」
………。
あ、ちょっと回復したわ。
……不思議だ。
悪魔でも、頭を撫でるという技は使えるのね。
よい魔法だわ。
「………がんばりなさい。道化師は、最後まで心を尽くして、戯けるモノよ……」
「…………ん……」
あら、素直。
全人類は、彼女を見習えば、
私に嫌われずにすんだのに。
あら……ちょっと悪魔的思考すぎたかしら。
……────キィン──……。
黄金の少女が、ゆっくりと、立ち上がった。
『 ……── ガルルルルゥ ──……? 』
「……ちょっと待ってて、すぐ、終わらせるから……」
ガルンにそう言って振り向いた彼女に、
流れる光の髪が遅れ、サラサラと舞う。
「……イニィさん、あの暗黒を閉じよう────……!!」
「……ええ……!」
涙のにじむ金の瞳に、力強さがあった。
目の前に、杖をかざす。
ふふ、悪魔になっても、こいつは相棒らしい。
「それ……」
「……これは、常に私と共にあった杖。私の、ちっぽけな人の心を、とうとう、繋ぎ止めた杖よ。そして、この都の地下の封印……"しろいふた"を縫いとめる、"十四の十字架"の、十五番目でもある」
「"交流"させるんだね……?」
「! ……そうよ。一定の周期の流路の向きを変え、互いに、入りまじらせ、縫いとめる。十字架たちの、本来の役目だわ……」
「えと……私はどうすれば」
「……まず、やってみましょう」
少し、目の前の少女は、ふらついていた。
あんな力任せの大技をやってのけたんだもの。
ひどいもんだわ。
まず、私だけで流路を探る。
ここは、都の中心に位置する城だわ。
恐らく、14の十字架は円状に……。
都合がいいわ。
十字架を真っ直ぐに立て、
跪き、腕を絡ませる。
……ふ、悪魔がするには、滑稽ね。
まるで、神に祈りを捧げるポーズだわ。
祈る。
うまく、繋がることを────。
……─────ゥゥウウウンッ──!!
「──!」
捉えた!
なんて、容易い──!
悪魔になっている影響かしら。
それとも、この都が、闇に浸ってしまったから?
闇の魔物になった私にとって、このフィールドは、
とても有利に働くのかもしれない。
……。…………?
……なに、この流路……。
……14……。十字架……。
……………………"人"……?
─『『 お 』』─
─『『 ね 』』─
─『『 が 』』─
─『『 い 』』─
─『『 し 』』─
─『『 ま 』』─
─『『 す 』』─
────────14の、キオクが、映った。
「───────────ッッ!!!」
「……──イニィさん?」
………! ………!! ………ッ。
「ど、どしたの……?」
「な、なんでもない、わ」
「"14の転換路"と交流するのって、そんなにツライの……?」
「だいじょうぶよ……」
…………。
…………。
…………。
……なぜ、
なぜ、私の杖が、
15番目の十字架が壊れたか、わかった。
中身が、用意できなかったからだ。
彼女たちは、14人しか、いなかった。
最後の1人が、見つからなかったんだ。
……私と、同じチカラ。
体のどこかに、闇を持つもの。
光を吐き出し続けるのに、
それが、必要だったんだ。
一つの十字架には、魂が転写されなかった。
だから、壊れたんだわ。
……。
…………私は、15番目だ。
「イニィ、さん……?」
「…………」
この娘は、
私のために、泣くかしら。










