なんじゃうでぇ! さーしーえー
『────分析完了。ガルン胴体流路部:沈静化を確認。頭部が本体だった模様。胴体部の闇魔法系は、緩やかに回転しながら、地表暗黒部に落下を開始。』
「ほんとだ……渦を巻きながら、ゆっくり下に吸い込まれていくね……」
首……正確には上顎が取れちゃったガルン。
頭のなくなった胴体は、
闇魔法の渦でできた柱だ。
真っ黒な雲みたいなソレが、
ゆっくりと、地面の黒に、沈んでいくように見える。
ゆっくり、ゆっくり、
ほんとうに、ゆっくりと。
頭の所に残った、2つの下顎。
それが、上に開いて、
まるで、叫んでいるかのような形で、
動きを止めていた。
くらっ。
「! ピエロちゃん!」
ゴォオオオ……オオオ……オオ──。
ゴッ、ボッ。
────ガシッ。
「……ん、あ……イニィさん……?」
「ふぅ……ずいぶんおネムですわね」
「はは……ちょっと疲れちゃった」
やば……今、ちょっと寝ちゃった。
イニィさんが掴んでくれなきゃ、
真っ逆さまだったわ。
背中の歯車から出ていた炎が消え、
ヨロイに、キィん、キィんと、戻ってくる。
「! 貴方、その腕は───! 」
「あ、これ? はは、なんか鉤爪っぽくなっちゃったね。相変わらず変なヨロイだなぁ……」
さっきまで見ていた右手を、
もっかい、チラッと見る。
爆裂ビンタの時に、ちょっと力入れすぎたかな?
指がいつもより、とんがっちゃってる。
このキンピカヨロイ、今までも力を入れたら、
トゲトゲしたり、装甲が厚くなったり、
よく勝手にガッチャンガチャンするヨロイだなーと、
思ってたけど、
ここまでガッツリ指先まで変化するのは、
なんだか、珍しーかな……?
おっ。
空を飛ぶのに使ってた歯車を回収したからかな。
ちょっと意識がはっきりしてきた。
15フヌくらい居眠りした後みたい!
「よく、こんな風に、とんがったりするのよ、このヨロイ」
「とんがる……?」
後ろから、イニィさんが、首を傾げる気配がする。
……? そんなに不思議かな?
「……ピエロちゃん、確かに今、その鎧から危険な流路の色は見えません……ですが、本当に"その"状態は、よくある事なのですか?」
「え──……?」
深刻そうな声色に、思わず眉が上がる。
イニィさんが続ける。
「その右腕……指先から肩口まで、最初と、全く違う形になっていますわよ?」
──!!?
どっ、なっ、えっ────!?
「ッ、え、ええっ!? う、うそっ」
ガッと首を右肩の方に向ける。
さっきは手のひらしか見てなかった!
あっ! えっ!? なんだこの形っ!
うわっ、なんか違うっ! えっ!?
「! っち、ちょっと、空で暴れるのはおやめなさい!」
「あ、す、すみません……」
「もう……ガルンの上顎が飛んでいった、お父様のいるレエン城が心配です。先ほどの場所に降りますから、その時にでもゆっくりご覧なさい」
「は、はい……」
叱られている内に、どんどんお城が近くなる。
いっぱいとんがった建物があるけど、
一角だけ、平べったいところがある。
私がさっき、バカ王にアッパーした所だ。
近づいていく。
……──バサァァァ────!!!
「と、とと……」
────キィン。
イニィさんが、ゆっくりと降り立ち、
私の足がついた。
「ありがとうございます……」
「……やはり、ずいぶん変化しているように見えますね」
…………。
「なんじゃ、こりゃ……?」
まじまじと見る。
右腕ぜんぶ、ぜんぜん違うフォルムんなってる……!?
いや、急に別物に取って代わったって訳じゃない。
この装甲のカラーは、確かに私のヨロイの金だ。
材質は、ゼッタイ、変態アブノ印のはず。
でも、そのカタチはかなりの変化をとげていた。
元のままの左腕と、比較する。
「どーなってんの……」
なんというか……
元のまんまの左腕は、
ナックルが付いてたり、
グローブをはめてるみたいだったり、
ジグザグの装甲が打ってあったり、
バラバラな感じだ。
内側ではドラゴンお肉で繋がってるけど。
でも、今の右腕は……。
簡単に言うと……繋ぎ目が無い。
曲線が目立つ意匠で、肩から手の甲まで、
滑らかなカーブを描いてるわ。
ナックルの装甲まで、お手手に埋め込まれてる感じ。
指先のとんがった爪になっている所が、
全体の曲線のフォルムのせいで、とっても目立った。
「こんなになってるなんて……クラウン!」
『────レディ。すでに分析を完了。形状が変化した以外は、特にエラーが検出できません。』
「なっ、いやっ、形がこんなになっただけでも、どえらいエラーだと思うんだけど……」
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>>>暴走してるってわけでも
なさそうだよ……
全体を包み込むようなカタチだね?
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「う? う〜〜ん……」
確かに、別に痛いトコとかないし……。
にぎにぎ。
うん、普通に動く。
え、何、この腕、ずっとこのままなの。
「……不思議な鎧です。まるで、貴方の腕を、自身の攻撃力から守っているようですね」
「……私の腕を?」
そいえばさっき、イニィさんが言ってたな。
このヨロイは、私を大切に思っている……みたいな?
……私、なんかしたっけな?
ドラゴンに好かれる理由が思いつかん。
左右の腕を見比べていると────……、
「ッ! ピエロちゃん! ガルンの胴体から、何かが飛んできます!」
「!?」
イニィさんの声に、振り返る!
「クラウン、補捉できる?」
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>>>アレだ!
まっすぐこっちにくる!
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『────分析完了。危険度:無。ドロップアイテムです。』
「! "ドロップ"ですって?」
……─────きゅいいいいいん───……!!
あ、あれって──……!
うわ、こっちきた!
「おっ! ──とっと! きゃっちぃいいい────!!」
────ガキぃん!
変になった右腕で、とんできたモノをつかむ──!
おお、うん、この腕、問題なく動くわ。
掴んだモノを、見る。
「うわぁ……」
「……ピエロちゃん、それ、何ですか」
あ、そだね。
流石のイニィさんも、これは知らんよね……。
「──"どらいぶ"よ。私が倒した魔物からは、時々、ドロップするの……てか、アレ魔物か……?」
……──まっくろの、"はぐるま"だった。
マジか……
くろいかみさまの"どらいぶ"じゃないのよ……。
こんだけ黒いんだから、多分、名前は──……!
「──"あんこくどらいぶ"!」
『────不正解判定。』
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>>>あ おてつきだ
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「──ええっ!? ちがうの!?」
───クォオオオオン……チチ……ガシュン!!
「!! うでが!!」
も、戻った……!!
みぎうで、元に戻った!!
「イニィさん! うで、元に戻ったよ! わぁい!」
「え、ええ、ここで見てたわ……。で、その真っ黒な歯車はなんなんです……?」
イニィさんが私を見る表情が、
なんか、奇っ怪なモノを見る感じだ。
な、なんですか……その滲み出るような、
「こいつ常識崩壊してんな」的な雰囲気は……。










