お菓子じゃ、なぁいっ!
『────告。対象名:ガルンへの隣接距離:35メル単位。現在:左顔部を並走中。対象推定全長:108メルトルテ。107、111──変動しています。』
……────ォオオオオオオオぉぉォォォ────……
「壮観、ですね……」
「…………」
"壮観"って言葉は、
本当は、景色を見て言うんだと思う。
でも、わかる。
これ、景色ね。
おっきすぎて、もう、景色なのよ。
まるで、雲。
ゆっくりと、動いている。
黒い巨軀の表面は、
肌とは言えず、鱗なんて無く、
ただ、雲のように、揺らめき、集う。
違うのは、その揺らめきが、
プライス君が焦がしたグラタン皿よりも、
ずっと、とんでもなく、
──ど真っ黒、だっつートコよ。
……──ォオオオオオオオぉぉォォォ────……
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>>>まぁまぁ離れてるはずなのに……
確かに この大きさじゃあ
"隣接"って表現になっちゃうね
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うん……。ちかい。べらぼぅに。
ちなみに私たち、ガルンにガン無視されてる。
私たちは、こいつの左側を、飛んでいる。
こいつ……お城と反対、街の外へ、外へと、
暗黒の地面を、進んでる。
やばい。
どうにか、とめないと。
てかこいつッ、
ホントにあの馬車モドキの昔の姿なの!?
あの下顎、あんなにデカかったっけ……。
比率がおかしいでしょうよぉぉ。
「先ほど、"伝承"がどうとか言っていましたね……貴方、あれを知っているの?」
「未来で、一緒に旅をしてたのよ」
「……意味が、わかりません」
「はは、ほんとだね……」
ビフォーアフターで、
ちょっと痩せ過ぎよね。
……──ガルルルルルァァア────……
ゴロ ゴロ ゴロクロォゥ ── … … 。
ピカッ、 ピカッ ──!
……──ッ!
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>>>今の見た!?
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『────告。ガルン体表の霧状表皮上に、発光現象を確認。』
「えっ、今の光ったって言うの!? 黒かったよ……?」
「暗黒の光……見て。また迸っている」
……──ピカッ! ……──ピカッ……
ゴルロロロロロォ── … … …
「うわ!」
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>>>まずいよ……まるで積乱雲だ!
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「せ、せきらんうん……?」
『────雷雲の事です、アンティ。』
「かみなり! "黒い雷"!? 」
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>>>おっ……
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"黒い雷"ですって……?
そんなの、有り得るの……!?
いや、今、真横で歩いとるけども。
いやいや、雷が横で歩いてるって……
もおそれが有り得ないわっ!
「……クラウン、あの黒いの、"雷"の魔素なの?」
雷と聞いて、昔、私の街を救ってくれた、
あの魔法使いを思い出す。
"紫電"。
名前は知らない。でも、憧れの魔法使い。
私が、冒険者になるきっかけをくれた人。
11歳の時に見た、同じ歳の、雷使いの女の子。
あの、かっこいい雷魔法は、
あんな真っ黒じゃあなかったんだけど……。
『────分析完了。
────否定。発光部は、闇系の魔法流路と判定。
────ですが、雲放電と現象は酷似しています。』
「闇の魔法の、流路……?」
ゴロ─ … ゴロル─ … …ロゴロ─ … …
……──ガルルルルルゥゥゥウウウオオ──……
あ、アレが、全部、闇系の魔法ですって……。
雷より、ヤバイでしょ……。
"闇魔法"って、攻撃特化魔法のイメージしか、
ないんだけど……。
なんか、木の根みたいにも見える黒い光が、
ガルンの黒いはずの体表に、
さらに黒く、深く、瞬いて見える。
……きれいで、こわい。
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>>>"神鳴り" とは
よく言ったもんだね……
イニィさん ちょっとあなたの力で
気になってることが あるんだけど
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! 先輩……?
「私と……"ガルン"との、属性の相性の事ですね?」
「!?」
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>>>ドンピシャ
あなたは その流路の色を見る
感覚が無くとも 聡い人だと思う
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え、先輩、どゆこと?
? 属性?
「今は羽根を広げた聡い悪魔です。つまり、そういう事です」
『────理解します。攻撃方法の模索が必要。』
「ぅえ、え? 何、何の話──!?」
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>>>あのカミナリワニを止めるのに
どういう攻撃をするかって話
アンティ ガルンはおそらく
"闇と時空"を司る何かだ
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「"司る何か"って……アバウト?」
『────クラウンギアより、謝罪申請。
────あれは、分析足りえない。
────あれは常識の外の何かです。』
うおぅ、いやクラウン謝らないで!
アンタがあんなモン知ってたら、
どっかのダンジョンに、
ガルンガルンしてる奴がいるかもしんないってことでしょ!
そんなのやだ!
「えと、攻撃するのは……私? 殴る?」
「…………」
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>>>そ それもある意味
期待はしてるけど……
ほら イニィさんもすごい
魔法使いでしょ
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「あ!」
そか!
時空魔法、私なんかより、
めっちゃ使えるじゃない!
「しかし、今回は恐らく、私の魔法は通用しない」
「えっ!」
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>>>アンティ かみなり雲に
サンダーの魔法 撃ったら……
……もう わかるね?
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「ッッ! ……理解、したわ」
うわ、そうか。
私の、バカぁ。
イニィさんがガルンに魔法で攻撃しても、
お風呂にお湯をつぎたすみたいなもんだわ!
い、いみないっ!!
……ぜったいガルン止めて、
ドニオスの塔の家に、お風呂、増設してやるわっ!
『────アンティ。』
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>>>きみ シャワー派じゃなかったの
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「湯船の無い部屋に住んでいるのね」
はっ……!
しまったつぃ……!
この人ら、私の心読める方々ばっかだわっ!
「わ、わるかった、私がわるかったわ! ゴメン。でも、そろそろだよね────……?」
……──ガルルルロロオオオオオオォォォンンン─……!!!
『────確認しました。予定ポイントまで、後、50メルトルテ単位。』
三つ顎の、あんこくワニさんを前に意味もなく、
呑気におしゃべりしてたわけじゃあないのよ?
お城には、まだ、イニィさんのお父さんがいる。
体は、もう、人では、ないけど。
まだ、温かな魂は、残っている。
最低限の、距離は、稼げた。
これで、こいつがちょっと暴れても、
お城には、被害が少ないはず。
『────43、36、29……。』
「ピエロちゃん、最初に一撃だけ、試しに時空魔法をやってみるわ」
「有効か試すんだね」
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>>>アンティ 気をつけて
今のきみは ほとんど歯車を
使えないはずだ!
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「──しゃあない!」
ここでやらねば、だれがやるっ!!
「どのようにしたら、こんな明るい娘が育つのでしょう」
「父さんと母さんにきいて。杖、構えるよ!」
私を支えて飛ぶイニィさんの代わりに、
左手の十字架を、黒の怪物に向け、
まっすぐ、かざす────!!
「いこう! 私達しか、いない───……!」
『────"視覚域拡張野":展開──。
────────攻撃ポイントです。』
(*´﹃`*)ガルンは通天閣くらいある。










