表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/1216

門番は今日も、おっちゃんする〆 さーしーえー

 俺の疑問を言え(・・・・・・・)だと……。


「デレク、お前は、気づいているのか」

「トルネ、それを確かめたいんだ。他ならぬ、お前と」

「…………」


 夜明け前の、小さな光の魔石がついた店内で、妙な沈黙が流れた。


 疑問……疑問、だと?

 そうさ、気になっているさ!

 俺だって、昔は冒険者になるために、必死に勉強したさ。俺は弱かったからな。それを知識で補おうとしたんだ。だから、わかる。あそこに、あの3人がいた、異常性を。


「…………」

「いいのよ、トルネ。娘のことだもの。」

「ソーラ……」

「聞かせてほしいのよ」


 この2人には、かなわんな。

 ……俺は、正直に話す事にした。


「……俺が今から話すことで、お前たちは俺に失望するかもしれん」

「いいから話せって」

「ふふふ」

「けっ。……まず、あいつらがいた位置がおかしい。」

「位置?」

「ああ。最初の火が見つかった位置を覚えているか。」

「山の中腹だ」

「そうだ」

「? 何がおかしいの?」

「アンティたちを見つけたのは、街から700メルの所だ」

「え……」

「山の中腹までは、短く見ても、2ケルメル、つまり2000メルはある。……離れすぎているんだよ(・・・・・・・・・・)

「でも火の場所に、最初にいたとは……あ」

「ソーラも気づいたか。そう、ユータの火の魔石だ。あの火は、自然に考えて、ユータがつけたんだ。バーグベアを攻撃するために」

「そんな、バーグベアって……」

「次におかしいのが、それだ」


 俺は、酒を口に含み、続ける。


「アンティ達を見つけた場所に、バーグベアの爪痕と血があった」


 ソーラが、信じられないような驚いた顔になる。

 いつも笑っている彼女がすると、すごい違和感があるな。


「そんな……」

「ひとつ、バーグベアは、近くにいる獲物を逃がしたりはしねえ。子供3人なら、尚更だ。食わないという(・・・・・・・)選択肢はない(・・・・・・)


 ソーラが、ギュッと、膝の上のスカートを握る。


「ふたつ、あの血はアンティのじゃねえ。バーグベア自身(・・・・・・・)のものだ(・・・・)。……バーグベアってのはな、転がって山を移動することがある。体は、長くて硬い毛に覆われていて、普通の木や、剣じゃ刃がたたねえ。……血が出たって事は、誰かに、攻撃を受けたってことなんだ」

「何を、いいたいの……」

「最後に、あの消えた山火事だ」

「…………」

「火の精霊が、あんな都合の良いタイミングで、現れるかってんだ!!!」


 思わず酒をあおっちまった。


「デレク……」

「大丈夫だ。結果は、みんな無事だった」

「ああ、そうだ。そして、すべての点に、居合わせている人物がいる」


 もう、ここまで言えば、ソーラも気づいている。


アンティだ(・・・・・)。……俺はなんてバカな事を言っているんだ。くそぅ。でも、筋が通るんだ。どうやって、山からあんな短時間で、街の側まで動けたのか! 子供2人もいたんだぞ! おそらく付いてきたバーグベアをどうしたのか! ……監視は、しばらくは、する! だが、俺はもう、見つからない気がしているぜ。それに、あの炎。どうしたっていうんだ……どこに消したってんだよ」

「「…………」」


 つい、疑問に思っていた事をぶちまけちまった。


「……わるい」

「いえ……あなたがそこまで言うなら、かなりのことなんでしょう?」

「……ああ」

「でも、だからこそ、何かの間違いじゃないの? そんな、非常識な事に、あの娘が関わっているなんて……」

「ソーラ、気持ちはわかるよ」

「デレク」

「だが、考えてみろ。なぜ、子供達は、あの距離を移動したのか。なぜ、バーグベアはいなくなったのか。なぜ、火はきえたのか。」

「……──────守るため(・・・・)

「その通りだ、ソーラ」


どうやったかは誰もわからない。

だか、何故それらが行われたかは、明確すぎる。

守るため(・・・・)


子供達を守るため、移動した。

俺達を守るため、バーグベアは追い払われた。

街を守るため、火は消されたんだ。


「…………」


 デレクの話を、俺が引き継ぐ。


「守る、という明確な意志。あそこにいた者で、それを強く持っているのは、ガキンチョ以外に、あいつしかいねぇんだよ……」

「────アンティ」


そう、彼女しか、いない。


嬢ちゃんがやった(・・・・・・・・)。そうとしか、考えられない。俺は門番失格だ。おかしいぜ。何故、こう考えちまうんだ」

「トルネ、そんな顔をするのはよせ」

「なぁ、嬢ちゃんは、この前、能力おろしだったんだろう。デレクよ、嬢ちゃんの手に入れた力は、どんなものなんだ?」

「トルネ」

「もし、バーグベアを1人でのして(・・・)しまえるようなスキルなら、嬢ちゃんは将来、ゴールドランクにもなれるかもだぜ! 俺と違ってな!」

「……おい、トルネ!」

「! すまん……」


 嫌な空気にしちまった。くそっ、ダメな酒になっちまってる。


「すまん……悪かった」

「……仮にだ」

「?」

「俺の娘が力を持っていたとして、将来どうなる?」

「将来? ……強い冒険者がつく仕事、ってことか? ……そうだな」


 酒をとめて、水を飲むことにする。


「──ふぅ。宮廷お抱えとか、貴族に雇われるとか、色々あるんじゃないのか? よくわからん。金には困らんだろうが」

「アンティが、そんな事を望むとは思えないわ」

「あ……」

「そうだ。俺は、アンティにそこを聞いてみたい」


 そうか……そうだよな。

 嬢ちゃんがどうしたいのか。

 それが1番だな。

 ……俺は何を腐っていたのだろう。



「──お前たちのような両親がいて、俺はアンティが羨ましいぜ」

「な……はっは。何を言い出しやがる」

「ふふふ」

「ホントだぜ? 俺の親ときたらよ……」


 そこからは、嫌な空気などなく、明け方まで食っちゃべっていた。

 久しぶりに楽しいメシだったぜ。









 夜明け直前、アンティが、目を覚ました。

 元気そうだぜ。このおてんば娘め。


 アンティは、勝手に森に入っていた事を気にしていた。

 だが、俺達はわかっていた。

 嬢ちゃんが行かなければ、大切なものが失われていたって事を。

 もう、確信していたんだ。


「ひとつだけ、答えてほしいんだ」

「……どしたの、急に」

「お前、バーグベアに、会ったか?」


 デレクの質問に、嬢ちゃんの顔は凍った。

 その後に、何とか言葉を紡いだようだった。


「……遠くに、ちょっとそれっぽいのが見えたから、ユータたちと逃げたのよ。慌ててね」

「…………」


 ばかやろー。バーグベアを何だと思ってんだ。

 それっぽいのが(・・・・・・・)見えたら(・・・・)もうおダブツなんだぞ(・・・・・・・・・・)


 そして、こう言っちまった。


「こんな15歳の乙女に、熊なんて倒せる訳(・・・・)ないじゃない」


 嬢ちゃん。

 会ったかどうか(・・・・・・・)を聞かれたのに、

 なぜ倒したかどうか(・・・・・・・)の返事をするんだい。

 ……まだまだ、子供っぽい所がありやがるな。


「……そうか、そうだよな……」


 その言葉を聞いたデレクは、何だかホッとしたような、納得したような表情だった。

 ソーラも、とてもにこにこしている。




 今のやりとりで、2つの事がわかった。


 ひとつ。多分、バーグベアはもう倒されている。火を消したのも、多分嬢ちゃんだ。


 ふたつ。嬢ちゃんは、それを隠したい。有名になりたい訳じゃない。守るために、使ったんだ。


 俺は、ゆっくり目を閉じた。

 俺は、感謝していたのだ。

 誇らしかった。

 力を持っても、増長せず、何かを守るための力を隠すなど。

 若いときの俺に見せてやりたいもんだ。


 嬢ちゃんがいなければ、この街の人々は、悲しみに包まれていただろう。

 嬢ちゃんが、この黄金の少女が、1人で戦ったのだ。

 すべてを守りぬくために。


 その嬢ちゃんが、力を隠したいと言う。

 誰にも言うものか。ぜったいに。

 俺は、俺は、彼女が誇らしい。

 守りぬく、アツい心を持った、

 世界一の、食堂の看板娘だ。
















 数日、経った。

 結局、バーグベアは見つからなかった。

 街門の閉門時間は、元に戻っている。

 森が焼けたので、魔物の目撃情報がグンと減った。

 こりゃ、街を拡げられるかもしんねぇな。















 今日、アンティのお別れ会が、食堂で開かれている。


 ドニオスで、冒険者として挑戦したいらしい。

 正直、ちょっと期待しちまうぜ。


 俺は運悪く、門番をしているが。

 くそう。コノボめ、覚えてろ。

 学校の連中は、魔法の授業が楽しくて、ほとんど来ていないそうだ。

 気持ちはわかるが、薄情者め。

 嬢ちゃんがいなければ、この街は無かったんだぞ。

 言わんけどな。


 明日の昼前には、嬢ちゃんはここを通るはずだ。

 その時の挨拶を、考える事にする。




 街を救った英雄の、慎ましやかな旅立ちを(たた)える言葉を。




 俺の名は、トルネ・クリーガー。

 挿絵(By みてみん)

 この、カーディフの街の、門番のおっちゃんだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初から読み直してて気づいたけどここでトルネのおっちゃんが言ってる『ゴールドランク』ってのはGsランクのことなのか、それとも昔はアルファベットじゃなかったのか。気になります。
[良い点] 主人公以外の視点で物語が進むと、話に深みが出て好きです! このパートこおかげで、最後まで読む事を決めました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ