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懺悔と告白



 パシュっ!

        パシュっ!


   パシュッ!

          パシュッ!




   ────ゴドぉおんん!!




「────!!」


 目の前の、道化師の少女の、

 巨大すぎる黄金の右腕から、

 空気のようなものが漏れる。


 ロックのようなものが外れ、

 切り離された?



 ……────ジュウゥゥゥ……


 床に落ちた巨腕部からは、

 焼け付くような白煙が立ち登っている。


 金の装甲に包まれていた、

 彼女自身の腕が姿を現す。

 ……あの衝撃に、耐えうるなんて!


『────"爆震握手(シェイクハンド)":パージしました。

 ────バーン部はスキル経験値へと移行。

 ────冷却を開始します。

 ────残機はクルルスーツ装甲の補填を実行中。』 


 ────ォオオオオおぉぉ──……


 ────きんきんきんきんきんきん────



「……きれい」


 思わずつぶやく。

 巨大な腕の残骸が、

 まるで、絵本の流れ星のように、

 光となって、分解されていく。


 光は金のヨロイに吸い込まれ、

 または、元の黄金色となって、

 その身へと、装着されていく。


 幻想的な、光の輪舞曲(ロンド)が、そこにあった。



 ……がくん。


 ────キィン……。



「──!?」


 人ではないこの目で、

 その光景に見とれていると、

 いきなり金の少女が、膝をつく。

 やはり、身体にダメージが!?


「……クラウン。ぶっちゃけ、"熱暴走(オーバーヒート)"まで、どんくらい……?」


『────……あまり余裕はありません。

 ────装甲補強や、意識の維持には支障:無。

 ────しかし、"インボリュート"レベルの技は、しばらくは使用不可。』


 ……──パラ……


「あ、あなた……」


 彼女の二つ結いの髪が、解けた。

 サラサラとした淡い金髪が、

 ほどかれ、肩へと流れる。

 髪をまとめていた金の輪のようなものが、

 光となって、王冠に吸い込まれていく。


 よく見ると、彼女の金のヨロイからも、

 細い湯気のようなものが出ている。

 ……明らかに、消耗しているわ。


「……だいじょうぶ、なのですか……?」


 のったりと、仮面の顔が、持ち上がる。

   

「……だいじょうぶ。ちょっと、貧血みたいなものだから」



 気だるそうに、金の少女が応じる。


「────……まぁ」


 私と違って、美しい金のストレートの髪。

 くるくると回る、神秘の王冠。

 (みやび)な印象を受ける、黄金の仮面。


 金の光がほどける中、

 ゆっくりと、こちらを向くだけで、

 充分に、絵になる一場面だった。


「────」


「……イニィさん、その……身体、だいじょ、ぶ?」


 なぜ、彼女が私の名を知っているかはわからない。

 しかし、害意など、皆無だった。

 この黄金の流路に、悪意など微塵も通らない。

 心より助けてくれたのは、一目瞭然だった。

 この子が駆けつけてくれなければ……

 私の身体は今頃、あの"弟"に……。


 少しずつ、動かせるようになってきている、身体。

 紫の鉤爪が生えた、自らの手を、眺める。

 ……もう、人間では、無い。


(……クラウン。分析、できる……?)



 ────!

 金の流路が、瞬いた?

 心の、"声"が聞こえた……?

 なぜ……。

 ……ぶん、せき……?





『────……分析完了(アナライジング)


 対象名【イニィ・スリーフォウ】

 種族:"アークデーモン"

 無効:暗黒属性 耐性:聖属性。

 ────……魔物化、しています。』




「──ッそん、なっ……!」




 ……──────ッ!!!



 ……、……! ──……、……。


 目の前の少女が、思わず声を上げた。


 ……両の手の平を、自身で見る。




「……アーク、デーモン……私が……」


「──ッ! イニィさん……ッ!?」


『────申し訳ありません、アンティ。

 ────流路経由で発言を探知されていました。』


「……いまの……筒抜けってこと?」


「……」


 …………。


 お父様と共に、

 騎士の真似事をなんとかやってきましたが……

 行き着く先が、"起源の悪魔"とは……。

 ……ふふ、滑稽ですら、ありますね。

 この、肌が露出した、紫の身体。

 サキュバス辺りを、連想していたのですが……。


「……──金ノ騎士、ヨ……。ソレは、マコト、カ──……」


「「──!!」」


 声をかけられ、金と共に、振り向く。

 ……──お父様、だった。

 木の、塊となってしまった、愛しい、お父様──……。


「……──イニィ、ガ、"あーく、デーモン"とイうのは、マコト、ナのか──……?」


「おっ、お父様……ッ! わ、わたしは……!」


「……──イニィさん──」


「……!」


 金の少女が私に駆け寄り、

 肩を、貸してくれる。

 ……"魔"となった、私なんかに。

 自身も、だいぶ消耗しているでしょうに。

 金と、紫の髪が、交ざる。


 ヨタヨタと、歩き、

 顔のある、木の怪異の側に、しゃがみこむ。


「お父様……ごめんなさい、ごめん、なさい……」


「……──今のオまエに、ナニを謝ル、コとがあロウか──……」


 ああ、ああ、お父様だ。

 変わり果てて、このようなお姿になっても。

 今の表情。流路。声。

 この方は、親愛なる、私の……お父様だぁ。


「……──イニィ、あヤまるのは、ワたしだ、わたシなのダ──……」


「……お、父様……?」


「……──おヌしは、前イデカ王と、故イチサ王妃の、ヒトり娘ダ──……!」


「────! そ、それは……!」


 あの、愚かな弟と思しき王より、聞いた事。

 流路より、嘘ではないと思っていたが、

 ……お父様から聞くと、真実味がある……。


「……──イデカ様は、イチサ様ヲ、アイしていた……。そシて、オヌしを、アイさない事ガ、デキなかっタ──……」


「し、しかし、私は、王妃様を……!」


 私を産んだから、王妃様は……!


「……──18ネン前、この城ニ呼び出サれたワタシとニオスは、イデカ様よリ、この城ノ封印ノ歴史と、オヌシの身柄ヲ、預かっタノダ──……そこに浮いていル、十字のツエと共に──……」


「……──!!」


 後ろを、振り返る。

 十字架を思わせる、私の愛杖が、

 真っ直ぐ、浮いていた。

 ……魔となった私に、とても不相応な形だ。

 今は、至る所に、金の流路が流れている。

 黄金の道化師は隣で肩を貸し、静かに、

 私と父の会話を、見守ってくれている。

 

「……──王家の歴史デは、"くろいかみ"に見初メラれし赤子が、よく、生まれた……その者ハ、例外なク、高い魔力を持チ、闇を纏う者ニなるとイウ──……」


「あの愚か者は……"神憑(かみつ)き"と……」


「……──"神憑(かみつ)き"は、狂ウ。成長すルと、"デタイ、デタイ!"と叫ビ、闇ヲ、身体カラ吹き出スのダ……イデカ様は、ソレを防ぐタメ、そノ杖ヲ、ツくった──……」


「……──! ……」


 "デタイ、デタイ"……。

 そんな事を言って、闇を吹き出し、狂う……。

 そんな、恐ろしい事が……。


「……──イニィよ、懺悔をキイておクレ……。我と、ニオスハ、もシ、お前ガ狂ッテしまっタ時に、スグに(ほふ)ル為に、側にいたのダ……!」


「────!」

「──ッ……」


 金の流路が、少し、揺らめくのがわかる。

 私のものも、少し、揺れ動いている。


「……すマナイ……すマない、イニィよ……! 我ハ、ただノ、コロし屋であっタ……! ワタシは……オヌシを預かる前ハ、トテモ人にハ言えヌ、オゾマシい仕事ヲする、騎士デあった……!」


「……! しんじ、られません……お優しい、お父様が……」


 察するに、汚れ仕事や、

 暗殺を司る部署に所属する、

 影の騎士だったと言う事なの……。


「……──イニィよ、我ガこのような化け物に、成るノは、天罰ダ……! ソレだケの事ヲ、我はシた……! だガ、オヌシのような、"ホンモノの騎士"ガ、その身ヲ、魔にヤツすなドぉ……! タ、耐えラレぬ……! う、ウ……我ハ、ぁ……!」



 気づけば、お父様は泣いていた。

 木の怪異となって、

 私のために、泣いていた。

 わかる。

 私は、流路が見えるから。


 この人は私を、心から、愛してくれていた。


 泣けないのが、辛い。

 瞳など、無くていい。

 でも、せめて、涙を通す道が、

 私は、欲しかった。


「お父様……、お父様ァ……! 私は、本物の騎士なんかじゃ……とても、そんな立派な者では、ありませんでした……ッ! いつも、あなた様の、影に隠れて……」


「……──チ、チガウ……、イニィよ、オヌシは、狂わなカッタ……! 杖ノ助ケも、あるやモシれん……。シカシ、オヌシは、イツモ心ガ、強くアッタ!! ミよ! 黒いチカラに、身をヤツそうとモ、オヌシのココロは、清らか、ソのモノダ……! だカラ、我はオヌシ、を─────……!」


「お……お父さ、ま、ぁ……」



 身体が、ブルブルと、震える。

 お互い、人の形をした時に、

 この話を、したかった。

 私が、人の女の形をしている時に、

 この流路を、感じたかった────!


 そうすれば、こんな未来には──……!



「……、……、……。金ノ騎士ヨ、ムスメを助太刀シて頂キ、感謝ノ念、()えヌ。御身ハ、神ノ、御使いナルや──……?」


「……え、や──……」



 急に話を振られた少女が、

 面くらったように慌てている。

 顔が、少し赤い。

 先ほどまで、私も彼女に、神を垣間見ていた。

 しかし、今、隣で髪をほどいている彼女は、

 確かに神秘的だが、

 年相応の女の子のようにも、見て取れた。


「────……」

『────よいの、では。』

─────────────────────────────

 >>>ぼくも そう思う

─────────────────────────────


 彼女の中の友が、彼女を支持する。

 姿は見えなくとも、充分な信頼関係が、

 感じられる。


「……──イニィさん、と、ゼロンツ、さん? ……私の"王冠(クラウン)"を見てください──……」



「「──……?」」


 言われた通りに、顔を向ける。


 くるくると回っていた、黄金の王冠。


 とまった。


 正面を、向いている。




 ──そこに、真っ赤な宝石が、はめ込まれていた。


 


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