表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
284/1216

シンパイセンパイシンパシー

 



 >>>本当に強い人って、どんな人だろうか。




 試験当日で百点満点?

 スポーツの大会で優勝?

 大食い大会で一位?

 お仕事の会議でケイヤク?


 ……ぼくは、未成年でこっち来ちゃったから、

 会社とか、よくわかんないけど。


 すごい力を出せる人って、

 どんな人なんだろうか。


 いつも、勉強してる人?

 いつも、練習してる人?


 ……そうかも、しれないね。



 ぼくが、まだこっちで生きていて、

 王宮と、仲がいいフリをしていた頃。


 大広間に飾る、バカでかい絵を描いている、

 宮廷画家のじいさんに、会ったことがある。

 描きかけだったけど、素晴らしい絵で、

 近づいて、横から、しげしげと見た。


「──あなたは、天才ですね」


 と言ったら、画家のじいさんは、

 脚立(きゃたつ)の上で、筆を動かしながら、

 軽快に笑った後、こう言った。


「──あなたはすごい勘違いをしておられる」


「──え?」


「私は、やめなかった。ただ、やめられなかった」


「…………」


「だから、絵の具が、積み重なった。それだけですよ」



 それは、なんだか……

 とても、心に残る言葉で。


 その、つまり、

 "教訓"みたいなモノ、だったんだろう。



 楽しくても、辛くても、

 必死でも、ゆったりでも──、


 "積み重ねたもの"ってのは、強くて、感動する。


 それを、努力でやる人もいるし、

 楽しみながら、やれてしまう人もいる。


 そういう事なんだと、思った。



 あのじいさんは、

 謙遜(けんそん)して、

 あんなふうに言っていたけれど、

 ずっと、ひとつの事をやり続けて、

 楽しいことも、辛いことも、あったはずなんだ。


 なのに、

 あんな素敵なことをサラッと言えちゃうのは、

 すごく、かっこいいなぁと、思った。


 だから、ぼくも、

 盗賊になった後、やり続けてみた。

 色々やりすぎて、1人ぼっちになったけど、

 最後まで、やってみたんだ。

 やり続けてやろうという、

 意志が生まれた。



 ……ま、最後の最期に、

 ああなっちゃったけどね。



 積み重ねの"重さ"に、

 ぼくは、負けたのかもしれない。

 それに耐え続けられる強さが、欲しかった。



 ぼくは、あのじいさんに、

「天才」って言った事を、恥じている。



 あの人は、あの人の戦いをしていた。







 ────ぎゅうううううういいいいんんん!!!




 今、ぼくの前で、後輩ちゃんが、戦っている。


 あの時のぼくと、


 同じ仮面を被って。


 黄金のヨロイ。


 たなびくマント。


 手足には、強烈に回転する、金の歯車たち。


 踊り、狂っていた。


 目の前に、人外の、愚王。


 ここの王も(・・・・・)、クズ野郎だった。




「グぁぁあああああ──!! なんで、当たんナイんだぁぁあ!!」


─────────────────────────────

 >>>…………

─────────────────────────────


 昔、ぼくが嫌いだった王さまは、

 それでも、人間だった。


 でも、こいつは……もう、違う。


 あいつの体に埋まっていた時限石は、

 アンティがいくつか、砕き潰した。


 ハンマーで殴って。

 グローブで握って。

 ブーツで、瓦礫を蹴っ飛ばして。


 あいつの体は、もうほとんどが、"黒い霧"だ。

 体の所々、蝙蝠(コウモリ)の飛膜のような、

 ボロマントのようなものが見える。


 体に残ったたくさんの時限石は、

 生肉のようなピンクの光を放ち、

 黒い霧の中で、まるで眼の様だ。


 もう、あいつの頭に、王冠(かんむり)は無い。

 もう、あいつの体は、人では無い

 たくさんの眼を持つ、黒い、化け物だった。


「ぐぅおオオおおおっっ!!」


 暗黒の霧の体から、六つめ(・・・)の腕が出る。

 でかい腕を五本も生やしても、

 黄金姫は、捕まらなかったからだ。


「クソッ、クソッッ!! ぐそっ!! ぐぞゥ──!!!」



 ────ぎゅういいいいいいんんんんん!!!


 愚かな王の、くぐもった声が、

 ぼくにはまるで、

 駄々をこねる子供のように聞こえた。


 そう、まるで、当たらない。


 言葉を選ばずに言うならば。


 ──今の彼女(・・)は、神憑(かみがか)っていた。



 オレンジゴールドの瞳。


 まるで、遠くの景色を、眺めているような。


 穏やかささえ感じる、(うつ)ろな表情。


 まるで、敵を余所見(よそみ)してるようだ。


 かと思えば、まるで星のマークを、


 ひとふでがきにするように、


 金の(ひとみ)が、素早く動く。


 いま(・・)ぜんぶ見た(・・・・・)



 ────────もう、当たらない。



 ゴォォォオオオオオ────!!!


 いくつかの時限石が埋め込まれた、


 暗黒の腕が、せまる。


 アンティは、バレリーナのように、


 竜巻のように、避ける。


 助走など、ない。


 あらゆる経験が、加速を生む。


 暗黒の腕が、アサガオのように、広がる。


 世界が逆さまになって、


 離れた所に、黒い花が見える。


 ──とっくに、回り込んでいる。



「ぐ、ぐぅウオアアアア───ッッ!!!」



 体に手を突っ込まれると、


 学習してしまったのだろう。


 愚王が、恐ろしい遅さ(スピード)で、


 本能をもって、反対に回避する。



「────」



 アンティは、何も、しゃべらない。


 先ほどまでとは、全く違う。


 瞳は、うつろ(・・・)で。


 体中、歯車が回っていて。


 ガクガクと、動き、


 まるで、


 まるで、神様があやつってる、



 ────"操り人形(マリオネット)"みたいだった。



─────────────────────────────

 >>>───! ──、──……!

─────────────────────────────


 はっきり言うか。


 この時。


 人外の愚王よりも。


 無表情の彼女の方が、


 よっぽど、人間離れして、見えた。



 ぼくは、思う。


 積み重ねて、人は、強くなると。


 心をもって、人は、強さに耐えると。



 ねぇ。


 ぼくはさ。


 彼女に、



 積み重ねさせ"過ぎて"、


 しまったんじゃないのか?





 ────キィン!! ────キィン!!


 ──────キュルルルルルルルルル!


 ────ダッ!! ───ドッ!!


 ──────キュルルルルルルルルル!



 ────トトッ、タン、タ────ン!


 ──トトン。  ──キンキ────ィン。


 タンタン。


 ─────キキキキキキキキキキン……!


 ──────────────────ュヤッ──!!


 ────タッ、ト、トン。



 ──キィン。




「ググぐ……グググぐ……!」



「 ────── 」



─────────────────────────────

 >>>…………

─────────────────────────────


 どんなに激しい動きでも、


 どんなに繊細な動きでも、


 大人になる前の、柔らかい女性の関節が、


 しなやかに、受け流した。


 マフラーマントが、軌道を、舞う。




 ……強さが────"完成"……した、のか?


 …………。


 ……彼女は、この旅で、


 強く、強く、強く────。




 ─────キィン──!



「 ──── 」




 しゃべらない。


 集中して、いるのか?


 彼女の強い想いは時たま、


 クラウンちゃんを通じて、


 ぼくにも伝わる事がある。


 でも、今は、


 とても、静かだ。


 ……静かすぎる。



 ────"心"は、大丈夫なのか?




 多くの力を積み重ねて、


 多くの戦いをしてきた彼女の、


 "心"は、"強さ"に、耐えられているのだろうか。



「 ──── 」


─────────────────────────────

 >>>…………

─────────────────────────────



 この強さに──、


 耐えられなくなって──、


 壊れて、しまわないかい──?


 昔の、ぼくみたいに────。




「……──なぜだァ……なぜだア!!」


─────────────────────────────

 >>>……!

─────────────────────────────


 愚王が、(たま)らず、しゃべる。

 気持ちは、わかってしまう。

 あいつの攻撃は、

 ただの一度も、当たってはいない。


「さ……さっきカラ、ぼクは、オマエのりュうろに向かって、たくサんの力を、放っテイる……! ナノに……なノにィィイ!!」


 愚王の塊は、声が二重に聞こえて、

 気持ちがわるかった。


「なぜェ、ゼンゼン、きかナいんダァ──!!? 手ゴタえが、なイッ……! オマエ、魔法ヲ使えナいのカァ!? リュウロが、流路が、なぜ、操れナイんだ……!?」


「 ──── 」


「──まルで……マルデ……"流路が無限にアるみたイ"だァァあ────!!!!」


─────────────────────────────

 >>>…………

─────────────────────────────


 愚王がクイズに正解して、

 悲鳴じみた奇声を上げて、

 再び、こちらに迫り来る。



 こちらも、動き出す。



 最強の、"黄金の人形"が、動き出す。



 なんだろう。


 ザワザワする。


 これじゃ、まるで、



 ─────"機械人形(アンドロイド)"みたいだ────!




   ────キィィィィィィィイン────




 やだな。



 それは、やだな。



 とっても、やだな。



 ──ぼくは────……




『>>>──ぼくは、きみがいくら強くなっても、"心"は、きみでいて欲しいな──……』

    ─ ─

     ─

    ─ ─

   ─   ─

   ─   ─

    ─ ─

     ─

    ─ ─

   ─   ─

   ─   ─

    ─ ─

     ─

    ─ ─

   ─   ─

   ─   ─

    ─ ─

     ─

    ─ ─   

「────はァ!!?」


『────発言意図:不明。』


─────────────────────────────

 >>>────うエッ!?

─────────────────────────────



 ──────ドォオオオオオンン!!!



「ぐぁ、ぐぉおオオアアア────!!!!」



 あ、愚王、殴られた。

 うわぁ────黒い煙で、前見えない!


─────────────────────────────

 >>>ちょ! この霧!

   流路を操るんじゃないの!?

   危ないんじゃ!?

─────────────────────────────


「……別になんともないわよ?」


『────クルルカン。当機に搭載されているのは、無限の流路を保有する、"赤い時限結晶"です。この程度の流路干渉能力で、クラウンギアを掌握しうる可能性:皆無。』


─────────────────────────────

 >>>あ えと……

─────────────────────────────


『────ナメてもらっては:困ります。』



 お、おおぅ……。


 クラウンちゃん……

 そんな事、言う子だったっけ……?


 あ、愚王は?


 ……あ、あっちに寝転がってますね。


 黒煙が出まくって、


 コゲたフライパンみたいになってますね。



「……それより先輩、さっきの、何よ?」


─────────────────────────────

 >>>ふェっ!?

─────────────────────────────


「……いや、だから。なんか黙ってんなーと思ったら、いきなりなんか変なこと言ったでしょ。"心"がなんたらこうたら……」


─────────────────────────────

 >>>うえっ!?

   ぼく それ 伝えたっけ!?

─────────────────────────────


「いや……うん。だから聞いてんでしょうよ」



 ────……。


─────────────────────────────

 >>>ひとつ、教えておきたい

─────────────────────────────


「なに?」


─────────────────────────────

 >>>初心(ウブ)な男の子は

   女の子が無表情だと あせる

─────────────────────────────


「……それ、今言うことなの?」



 …………。


 …………。


 …………なぁんだ。



─────────────────────────────

 >>>……集中したアンティって

   顔 こわいよね……

─────────────────────────────


「アンタぁぁ、そぉぉぉおんなに、おナベで煮込まれたいのォォォ。ほぉ〜〜、ふぅ〜〜ん、へぁ〜〜〜〜!」



 "へぁ〜〜!"って何なのさ……。


 …………。


 ………ははっ、はははッ。


 ……ひどぉいな。


 ……いや、モチロン、ぼくがさ。


─────────────────────────────

 >>>はあぁ……

   ぼくたちは、

   ぼくたちの絵を描こう アンティ

─────────────────────────────


「はぁあ?」



 ……はぁあぁ。

 こういう時に、

 恋愛経験少ないと、

 なんか……

 出るんだろうなぁ……。


 かっこつけないで、

 バスリーちゃんと、

 イチャイチャしとくんだった……。


 はァ──……。



「──ぷ」


─────────────────────────────

 >>>──?

─────────────────────────────


「ぷ、くふふふ……急に感傷的(センチメンタル)にならないでほしいわねっ。きひひひッ」


『────クルルカン:理解不能。』


─────────────────────────────

 >>>う、うるさいなぁ!

   ぼくにも色々あるんだよぅ!

─────────────────────────────


「……はァ、あによ。ずっと黙ってたくせにぃ。それよりもさ先輩──」



 ────ォォオオオオオォォオオオォ────



 ……────!

 また、黒い霧が、ヤツに、集まってきている……!

 こりないな──!



「──さっきからずっと考えてんだけどさ、なんか、思いつかない? あいつの時限石、"一気に"ぶっ潰す方法!?」


─────────────────────────────

 >>>え! 一気に?

─────────────────────────────


「そ! 一気に! あんなの、いっこいっこ潰してられないわっ!」


『───クルルカン。先ほどの発言は隔離するとして、あなたの発想は、時に、とてもユニークです。とっとと何か案を吐きなさい。』


 ……後輩ちゃん。

 クラウンちゃんに、悪影響あたえてんなぁ……。


─────────────────────────────

 >>>え えーっと……

   つぶす……つぶす……

   一気に叩き潰す……

   大きな……何かか…… あっ!

─────────────────────────────


「おっ!?」


『────発言許可。』


─────────────────────────────

 >>>えーとね こんなの どう?

─────────────────────────────



 ゴニョゴニョゴニョ………。



「──おおっ!」


『────ほぅ。』






 ──はは、ははは。


 この子ら、"心"が天才だわ。






(´ω` ).。oO

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
[気になる点] 仕方ない部分もあるけど、周りに流されて自分から行動を起こさず手遅れになって主人公に助けを求める王女より、悪い事だとしても自分から行動して努力し続けて主人公の邪魔さえ無ければ成功してた王…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ