シンパイセンパイシンパシー
>>>本当に強い人って、どんな人だろうか。
試験当日で百点満点?
スポーツの大会で優勝?
大食い大会で一位?
お仕事の会議でケイヤク?
……ぼくは、未成年でこっち来ちゃったから、
会社とか、よくわかんないけど。
すごい力を出せる人って、
どんな人なんだろうか。
いつも、勉強してる人?
いつも、練習してる人?
……そうかも、しれないね。
ぼくが、まだこっちで生きていて、
王宮と、仲がいいフリをしていた頃。
大広間に飾る、バカでかい絵を描いている、
宮廷画家のじいさんに、会ったことがある。
描きかけだったけど、素晴らしい絵で、
近づいて、横から、しげしげと見た。
「──あなたは、天才ですね」
と言ったら、画家のじいさんは、
脚立の上で、筆を動かしながら、
軽快に笑った後、こう言った。
「──あなたはすごい勘違いをしておられる」
「──え?」
「私は、やめなかった。ただ、やめられなかった」
「…………」
「だから、絵の具が、積み重なった。それだけですよ」
それは、なんだか……
とても、心に残る言葉で。
その、つまり、
"教訓"みたいなモノ、だったんだろう。
楽しくても、辛くても、
必死でも、ゆったりでも──、
"積み重ねたもの"ってのは、強くて、感動する。
それを、努力でやる人もいるし、
楽しみながら、やれてしまう人もいる。
そういう事なんだと、思った。
あのじいさんは、
謙遜して、
あんなふうに言っていたけれど、
ずっと、ひとつの事をやり続けて、
楽しいことも、辛いことも、あったはずなんだ。
なのに、
あんな素敵なことをサラッと言えちゃうのは、
すごく、かっこいいなぁと、思った。
だから、ぼくも、
盗賊になった後、やり続けてみた。
色々やりすぎて、1人ぼっちになったけど、
最後まで、やってみたんだ。
やり続けてやろうという、
意志が生まれた。
……ま、最後の最期に、
ああなっちゃったけどね。
積み重ねの"重さ"に、
ぼくは、負けたのかもしれない。
それに耐え続けられる強さが、欲しかった。
ぼくは、あのじいさんに、
「天才」って言った事を、恥じている。
あの人は、あの人の戦いをしていた。
────ぎゅうううううういいいいんんん!!!
今、ぼくの前で、後輩ちゃんが、戦っている。
あの時のぼくと、
同じ仮面を被って。
黄金のヨロイ。
たなびくマント。
手足には、強烈に回転する、金の歯車たち。
踊り、狂っていた。
目の前に、人外の、愚王。
ここの王も、クズ野郎だった。
「グぁぁあああああ──!! なんで、当たんナイんだぁぁあ!!」
─────────────────────────────
>>>…………
─────────────────────────────
昔、ぼくが嫌いだった王さまは、
それでも、人間だった。
でも、こいつは……もう、違う。
あいつの体に埋まっていた時限石は、
アンティがいくつか、砕き潰した。
ハンマーで殴って。
グローブで握って。
ブーツで、瓦礫を蹴っ飛ばして。
あいつの体は、もうほとんどが、"黒い霧"だ。
体の所々、蝙蝠の飛膜のような、
ボロマントのようなものが見える。
体に残ったたくさんの時限石は、
生肉のようなピンクの光を放ち、
黒い霧の中で、まるで眼の様だ。
もう、あいつの頭に、王冠は無い。
もう、あいつの体は、人では無い
たくさんの眼を持つ、黒い、化け物だった。
「ぐぅおオオおおおっっ!!」
暗黒の霧の体から、六つめの腕が出る。
でかい腕を五本も生やしても、
黄金姫は、捕まらなかったからだ。
「クソッ、クソッッ!! ぐそっ!! ぐぞゥ──!!!」
────ぎゅういいいいいいんんんんん!!!
愚かな王の、くぐもった声が、
ぼくにはまるで、
駄々をこねる子供のように聞こえた。
そう、まるで、当たらない。
言葉を選ばずに言うならば。
──今の彼女は、神憑っていた。
オレンジゴールドの瞳。
まるで、遠くの景色を、眺めているような。
穏やかささえ感じる、虚ろな表情。
まるで、敵を余所見してるようだ。
かと思えば、まるで星のマークを、
ひとふでがきにするように、
金の瞳が、素早く動く。
いま、ぜんぶ見た。
────────もう、当たらない。
ゴォォォオオオオオ────!!!
いくつかの時限石が埋め込まれた、
暗黒の腕が、せまる。
アンティは、バレリーナのように、
竜巻のように、避ける。
助走など、ない。
あらゆる経験が、加速を生む。
暗黒の腕が、アサガオのように、広がる。
世界が逆さまになって、
離れた所に、黒い花が見える。
──とっくに、回り込んでいる。
「ぐ、ぐぅウオアアアア───ッッ!!!」
体に手を突っ込まれると、
学習してしまったのだろう。
愚王が、恐ろしい遅さで、
本能をもって、反対に回避する。
「────」
アンティは、何も、しゃべらない。
先ほどまでとは、全く違う。
瞳は、うつろで。
体中、歯車が回っていて。
ガクガクと、動き、
まるで、
まるで、神様があやつってる、
────"操り人形"みたいだった。
─────────────────────────────
>>>───! ──、──……!
─────────────────────────────
はっきり言うか。
この時。
人外の愚王よりも。
無表情の彼女の方が、
よっぽど、人間離れして、見えた。
ぼくは、思う。
積み重ねて、人は、強くなると。
心をもって、人は、強さに耐えると。
ねぇ。
ぼくはさ。
彼女に、
積み重ねさせ"過ぎて"、
しまったんじゃないのか?
────キィン!! ────キィン!!
──────キュルルルルルルルルル!
────ダッ!! ───ドッ!!
──────キュルルルルルルルルル!
────トトッ、タン、タ────ン!
──トトン。 ──キンキ────ィン。
タンタン。
─────キキキキキキキキキキン……!
──────────────────ュヤッ──!!
────タッ、ト、トン。
──キィン。
「ググぐ……グググぐ……!」
「 ────── 」
─────────────────────────────
>>>…………
─────────────────────────────
どんなに激しい動きでも、
どんなに繊細な動きでも、
大人になる前の、柔らかい女性の関節が、
しなやかに、受け流した。
マフラーマントが、軌道を、舞う。
……強さが────"完成"……した、のか?
…………。
……彼女は、この旅で、
強く、強く、強く────。
─────キィン──!
「 ──── 」
しゃべらない。
集中して、いるのか?
彼女の強い想いは時たま、
クラウンちゃんを通じて、
ぼくにも伝わる事がある。
でも、今は、
とても、静かだ。
……静かすぎる。
────"心"は、大丈夫なのか?
多くの力を積み重ねて、
多くの戦いをしてきた彼女の、
"心"は、"強さ"に、耐えられているのだろうか。
「 ──── 」
─────────────────────────────
>>>…………
─────────────────────────────
この強さに──、
耐えられなくなって──、
壊れて、しまわないかい──?
昔の、ぼくみたいに────。
「……──なぜだァ……なぜだア!!」
─────────────────────────────
>>>……!
─────────────────────────────
愚王が、堪らず、しゃべる。
気持ちは、わかってしまう。
あいつの攻撃は、
ただの一度も、当たってはいない。
「さ……さっきカラ、ぼクは、オマエのりュうろに向かって、たくサんの力を、放っテイる……! ナノに……なノにィィイ!!」
愚王の塊は、声が二重に聞こえて、
気持ちがわるかった。
「なぜェ、ゼンゼン、きかナいんダァ──!!? 手ゴタえが、なイッ……! オマエ、魔法ヲ使えナいのカァ!? リュウロが、流路が、なぜ、操れナイんだ……!?」
「 ──── 」
「──まルで……マルデ……"流路が無限にアるみたイ"だァァあ────!!!!」
─────────────────────────────
>>>…………
─────────────────────────────
愚王がクイズに正解して、
悲鳴じみた奇声を上げて、
再び、こちらに迫り来る。
こちらも、動き出す。
最強の、"黄金の人形"が、動き出す。
なんだろう。
ザワザワする。
これじゃ、まるで、
─────"機械人形"みたいだ────!
────キィィィィィィィイン────
やだな。
それは、やだな。
とっても、やだな。
──ぼくは────……
『>>>──ぼくは、きみがいくら強くなっても、"心"は、きみでいて欲しいな──……』
─ ─
─
─ ─
─ ─
─ ─
─ ─
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─ ─
─ ─
─ ─
─ ─
─
─ ─
─ ─
─ ─
─ ─
─
─ ─
「────はァ!!?」
『────発言意図:不明。』
─────────────────────────────
>>>────うエッ!?
─────────────────────────────
──────ドォオオオオオンン!!!
「ぐぁ、ぐぉおオオアアア────!!!!」
あ、愚王、殴られた。
うわぁ────黒い煙で、前見えない!
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>>>ちょ! この霧!
流路を操るんじゃないの!?
危ないんじゃ!?
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「……別になんともないわよ?」
『────クルルカン。当機に搭載されているのは、無限の流路を保有する、"赤い時限結晶"です。この程度の流路干渉能力で、クラウンギアを掌握しうる可能性:皆無。』
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>>>あ えと……
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『────ナメてもらっては:困ります。』
お、おおぅ……。
クラウンちゃん……
そんな事、言う子だったっけ……?
あ、愚王は?
……あ、あっちに寝転がってますね。
黒煙が出まくって、
コゲたフライパンみたいになってますね。
「……それより先輩、さっきの、何よ?」
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>>>ふェっ!?
─────────────────────────────
「……いや、だから。なんか黙ってんなーと思ったら、いきなりなんか変なこと言ったでしょ。"心"がなんたらこうたら……」
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>>>うえっ!?
ぼく それ 伝えたっけ!?
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「いや……うん。だから聞いてんでしょうよ」
────……。
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>>>ひとつ、教えておきたい
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「なに?」
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>>>初心な男の子は
女の子が無表情だと あせる
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「……それ、今言うことなの?」
…………。
…………。
…………なぁんだ。
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>>>……集中したアンティって
顔 こわいよね……
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「アンタぁぁ、そぉぉぉおんなに、おナベで煮込まれたいのォォォ。ほぉ〜〜、ふぅ〜〜ん、へぁ〜〜〜〜!」
"へぁ〜〜!"って何なのさ……。
…………。
………ははっ、はははッ。
……ひどぉいな。
……いや、モチロン、ぼくがさ。
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>>>はあぁ……
ぼくたちは、
ぼくたちの絵を描こう アンティ
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「はぁあ?」
……はぁあぁ。
こういう時に、
恋愛経験少ないと、
なんか……
出るんだろうなぁ……。
かっこつけないで、
バスリーちゃんと、
イチャイチャしとくんだった……。
はァ──……。
「──ぷ」
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>>>──?
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「ぷ、くふふふ……急に感傷的にならないでほしいわねっ。きひひひッ」
『────クルルカン:理解不能。』
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>>>う、うるさいなぁ!
ぼくにも色々あるんだよぅ!
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「……はァ、あによ。ずっと黙ってたくせにぃ。それよりもさ先輩──」
────ォォオオオオオォォオオオォ────
……────!
また、黒い霧が、ヤツに、集まってきている……!
こりないな──!
「──さっきからずっと考えてんだけどさ、なんか、思いつかない? あいつの時限石、"一気に"ぶっ潰す方法!?」
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>>>え! 一気に?
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「そ! 一気に! あんなの、いっこいっこ潰してられないわっ!」
『───クルルカン。先ほどの発言は隔離するとして、あなたの発想は、時に、とてもユニークです。とっとと何か案を吐きなさい。』
……後輩ちゃん。
クラウンちゃんに、悪影響あたえてんなぁ……。
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>>>え えーっと……
つぶす……つぶす……
一気に叩き潰す……
大きな……何かか…… あっ!
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「おっ!?」
『────発言許可。』
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>>>えーとね こんなの どう?
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ゴニョゴニョゴニョ………。
「──おおっ!」
『────ほぅ。』
──はは、ははは。
この子ら、"心"が天才だわ。
(´ω` ).。oO










