トライ:77 さーしーえー
『────過去のお城と、今のお城を"同期"させる──?』
────トライ:74。接続、error。
『────そんなことが、可能なの?』
可能性が、あります。
今現在、巨大ヒールスライムに投影されている、
レエンの流路形状は、過去にも、
同形状の物が発生しているはずです。
"再現"の流路と、全く同じ流路を、
過去の流路より、"検索"後、
過去の城と、"あなたがいる"今の城。
この二つを、一時的に"同期結合"します。
────トライ:75。接続、error。
『────…………』
『……アンティ。クラウンちゃんはね、今、"きみがいるこのお城"を、過去のお城に、"上書き"するってことを、言ってるんだと思う』
『────! そんなこと……できるの?』
『……正直、ぼくも信じられない。クラウンちゃん。そんな事がもし出来るなら、それは、"過去を、未来に合わせて、書き換える"って、ことだよ……?』
むっ。
過去と未来。全く同じ形の、巨大な城の流路。
流路が交流する事を助ける、巨大な十字の杖。
かつて起きたであろう、黒き、時空間の歪み。
そして、私の"同期結合"及び、"検索エンジン"。
事象条件は、揃っています。
『────……本当に、できるなら』
『……! アンティ……!』
『────本当に、できるならッ! 私は、やってみたい! たすけて、あげたい……!』
そう。あなたは、そういう人だ。
『……本当に、いいんだろうか……』
『────え?』
────トライ:76。接続、error。
『……アンティ。きみがもし、過去のレエンに行けるなら、それは、大きな歴史の変化に繋がるかもしれない。巨大な都市の、運命を変えてしまうかもしれない』
『────……』
『……もしかしたら……もしかしたら、だけど、きみの過去自体も、何かが変わるかもしれない』
『────……』
『……正直、わからない……。仮に、過去に介入したとして、そんなことを、ぼくたちがしていいのか……』
『────でも』
…………。
私は、嫌です。
『────!』
『……クラウンちゃん』
クルルカン。
あなたの発言を、私は理解する。
もし、仮に同期が成功し、
過去に滅びた都を、救えたとしましょう。
それは、大きな人の流れの変化を生み、
たくさんの生死が、更新されるでしょう。
人の流れ、歴史。誰と誰が出会ったのか。
それが、大きく変わってしまう。
そうなってしまう、可能性がある。
『……そう、そしてそれは……』
例えば。
レエンが国として再臨すれば、
争いが生まれ、
新しい戦果の火種を作るかもしれない。
例えば。
レエンで生き残った末裔が、
将来、カーディフの街に移り住み、
その街で、誰かと恋をしたら。
アンティは、産まれないかもしれない。
その無限を、私達は想定できない。
『────! …………』
でも、私は……
"かわいそう"だと、思ってしまった。
『────!』
『……クラウンちゃん……』
笑ってください。
私は、スキルです。
スキルの、システマライズでしかない。
なのに、どうでしょう。
当機は、随分、手前勝手になったものです。
"かわいそう"などと……
自己を持った者だけに許される、
上から目線の、驕りです。
今、この城の流路を、
アナライズカードを使って、
スキャニングしています。
アンティ。クルルカン。
私は、やってみたい。
最初の私なら、止めたでしょう。
あなたを失う可能性。あなたがする必要性。
私はそれ以上を、考慮できなかった。
笑ってください。
私は、多分、今、
"生き様"の話をしようとしています。
この、偶然生まれた意思の、
この、手前勝手な感情から。
私は、あなた達と、
彼女を、
"なんとかしてあげたい"と、
思ってしまった──……。
『……ぼくは、ヘマをして死んだバカ野郎だけど……その気持ちを笑うような、クズにまでは、なりたくないな』
『────ふ、ふふふ。アンタが、"手前勝手"なスキルですって?』
『……あ、笑っちゃうのね』
……アンティ?
『────初めから、充分、手前勝手だったわ。勝手に生まれるわ、勝手にツインテールにするわ、勝手にベッドを墜落させるわ……あげだしたら、キリがないったら……!』
…………。
『────いいじゃない。上等よ』
──!
『────助けられるかもしれない。歴史が変わるかもしれない。責任? ハッ! 食堂屋の一人娘に、何を期待してんのよ』
アンティ……。
『────クラウン、私たちは多分、正しくなんかない。いつも、私たちが一番正しいなんて、そんなの、ありえないって思うから……だから────……』
ああ、ああ、彼女が。
私に"感情"を与えた、彼女からの。
黄金の光を、確かに感じる。
『────せいぜい、ただ好き勝手に、私たちは行きましょう! 自分たちが良いと、思うままに! 歴史がかわる? もっといい歴史になるかもしれないじゃない。私が産まれないかもしれない? だいじょぶよ、あんの2人、なんだかんだラブラブだから、世界がひっくり返っても出会うわ』
この人の瞳からは、
色以外の黄金を、感じるから。
『────過去に殴り込みにいく責任なんて、私たちだけで、とれるはずがないわ。だから、ひとつひとつ、確かに、この目で見よう。私たちの心に、素直に動こう』
ただ、ただ、前に踏み込む、
──────その心意気を!
『────勝手にアイツを、殴りにいくわ? 殴らないって、選択肢は、私には、無ァい!』
『……うわ! いやぁ、物騒だねぇ。途中まで、いい話だったのに』
『────あによ。反対?』
『……いや……のった。やってやろう! やってから考えよう! ぼくは心配性過ぎていけない。全ての事が、やる前に、考えただけで、解決するワケがない!』
『────ふっ切れたじゃない。──クラウン?』
はい、アンティ。
『────"心"のままに、いきましょうよ。私たちの、思うままに。ここにいる、私たちだけの、ズルい特権よ。──さぁぁ。バカを、殴りにいきましょう──!!」
──はい、アンティ。
「クラウン────。もう一度よ!』
……ふふ。
そうか───。
私たちは、勝手に、振る舞うのですね。
良いか、悪いかは、おいといて。
心のままに、一歩、踏み出すのですね。
──わかりました。
この"感情"にかけて、
私は、私の、できることをしましょう。
あなたの黄金を、
どこまでも届かせるために。
『────アナライズスキャニング。
▼レエン城全体の流路構成をリアルタイムで捕捉中。
▼スリーフォウ基幹スキル:"価値交流"再直結完了。
▼近接している同スキル媒体を探しています──。』
私の、胸の装甲が、ひらく。
ドレスを模した、
ジグザグに綴じられた、装甲が。
『────時空間検索。
▼流路同一座標を追従。
▼あわせ──、3、2、1、リンクしました。
▼過去時間の時限結晶体とコネクト中……接続しています。
▼過去媒体にエネルギー出力を検出。動源確保。』
露になった私の胸元。
大きな穴が、あいている。
太陽の歯車で縁取られた、光の穴。
その中に、血のように赤い、
それでいて、澄み渡ったような宝石が、
宙に浮くように、はめ込まれている。
禁忌の宝玉。
時空の結晶。
無限の空間。
────そして、私の、心。
さあ、唸れ。
その真紅をもって。
私は"心"を得た。
だから、今なのだ。
『────流路構成体形成。軸動転写:開始します。』
──ッキュイイイィィィィイ─────!!!!!
軸動補助システマ、"値震煉異"────。
この、紛い物の肉体に巡る、私の血液。
真紅に直結したそれらが、
淡く、やがて激しく、金の光を放ちだす。
この運命の歯車に、
私は、反対する。
私は、反発する。
私は、反目する。
私は、反抗する。
私は、反映する。
時は、未来から、過去へ。
今だけは、反転する。
私の心臓を、なめてはいけません。
無限の力を、思い知りなさい────。
『────"反駆動空間転写"、起動します。』
助けて
お願い
誰か たすけて────。
『────受諾、されました。』
「え────────?」
『────トライ:77。接続、成功しました。』










