おかんむりむすめ さーしーえー
「ふぅ〜〜! ちょっとすっきりしたぁ」
──パラパラ……
「あ……」
爪の生えてしまった手で、
なんとか身体を支え、
その人の、背中を見る。
床に付きそうな、マフラーマント。
光のように流れる、ツインテール。
なびく。
なびく。
なびく。
包むは、黄金。
幻影のように、淡く、輝いている。
それは果たして、光か、影か。
『────敵対象腹部に命中確認。間違いありません。対象は魔物化しています。』
「! 60回目くらいで言ってたね。それ、ほんとなの?」
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>>>体半分 黒い霧になってたでしょ
もう だいぶ置き換わってると
思う
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「頭おかしいわね……」
……!
先ほどから、目の前の黄金の少女から、
"3人分"の意識を感じる……!
……会話、している?
黄金の少女の他に、
小さな女の子と、若い殿方は、
どこにいるのだろうか。
私の目の前に突如現れた、
三つの人格を有する、黄金の道化の幻────。
──彼女が、振り向く。
────………。
黄金。
黄昏の、仮面。
いや、それよりも。
瞳が。
なんて、
なんて、輝かしい流路なのでしょう……!
あなたは────……。
「……ごめんね……」
「──え?」
「私が……もちょっと、早ければ……」
金のグローブが、私の頬に、手を伸ばす。
穢れた、私の身体に。
すでに、人ではない。
こわい、でしょうに。
なのに。
先ほどから感じ取る流路は。
陽光のような、あたたかな熱量を、
優しく、激しく、ほとばしらせている────。
「────」
手が、頬から離れ、
惚けたように、金を見る。
そして────……
──がっちゃん!
「───っ」
無粋な音が鳴り、
────その拳に、ナックルが、おりた。
「────まってて」
私に、かけられる言葉は、福音。
────しかし。
「──料理に出せないミンチを、つくってくるから」
「え……と」
──怪異に向けるソレは、灼熱である。
───ぎぎぎググゴ……、バァこぉん──!!
──っ!
「…………」
瓦礫が、ひっくり返る。
……愚かなる弟が、立っていた。
こちらを、恨みがましい目で、見ている。
────あの体ッ……黒い、霧が……!
もう、腹部にまで……。
少女の内から聞こえる声のとおり、
あいつは、もう……人では……。
「…………なんだぁぁぁ、おまえはぁぁぁ……」
「"道化師"よ」
「…………ふざけてるのか」
「いや見たまんまよ」
「…………おまえは、罪を犯した」
「へぇ」
「…………僕は、王だぞ」
「ほぉ」
「…………死にたいらしいな」
「言いたいことがあるの」
「あ?」
「アンタさあ」
────きゅういいいいいいぃんん──……!
────!?
この、流路の煌めきはッッ!!?
「 ──とりま、"王冠"、ぬげや──……! 」
────キィィィィン────
「──!」
「────!?」
────掻き消える。
────姿がっ!!
────どこへ?
────!!
「──なっ!!!? ぐぼごごおぁぉおおお!!!」
─────ドぉぉおおおん!!!
なっ……。
「…………すごぃ……!」
あの邪悪の化身が……、
踏みつけられていた──!!
突っ伏した王の、首あたりを、
黄金のブーツで、踏んづけている。
「ぐぼ、ぉ……」
「にあわねぇから」
ガッ───。
あっさりと、彼の王冠は、盗られた。
────キゴォォオン!!
「くァ」
け、蹴った……。
冠の無くなった、頭を……。
鐘をつくような、音が鳴って、
王は、床を旋回しながら、壁までとんでった……。
「……イニィさん」
「──は、はいっ!」
「この王冠、大事?」
「…………」
……なんで、私の名前を知ってるのだろう。
「……実の、お父さんのでしょ?」
……!
少し離れた、
木になってしまった、お父様を見る。
彼には、黄金の道化師への驚愕もあったが、
でも、穢らわしい私を、しっかりと見て、
"おまえが決めろ"と、
流路で、目で、言ってくれた。
「……捨ててください。あまり見ていて気分がよいものではありません」
「はは……そだね。アレが被っていたモンね。いち女の子として、同意する」
華やかな光を放つ笑顔で、
彼女は、王冠の輪に、両手をかける。
───ギギギ──ぐにゃぁあ────。
「うそ──……」
愚王の王冠が左右に、水飴のように、のびた。
……"いち女の子"の腕力では、決して、ない。
伸びきった王冠"だったもの"からは、
赤く、熱量が生まれてきている。
……────ガラガラガラ……。
「うわ、おきた」
黄金の少女が、
仮面越しに、嫌そうな顔で、言う。
「…………」
顔が、砂まみれになって、
体中から闇が噴き出した男が、立っていた。
憎悪の表情が、ありありと浮かんでいる。
「うわっ、きったね」
………あ、無視ですね。
黄金の少女が、
熱でベトベトになった金色の金属を、
床にはらい捨てた。
……あなたの身体と同じ色だということは、
言わないでおこう……。
「……おまえは、王に、許さ「あんたに、教えたげる──」
道化師が、愚王にかぶせて、言う。
「帽子を脱いだ後の髪型って、サイアク」
「…………死ネ」
ブワッッ────!!
────!
空中に、いくつもの剣が舞う!
浮いて、いるの──?
あの剣……"時限石"がはまっている!
あんなものまで、操作出来るの!?
剣の切っ先は黄金を向き、
そして────。
「……じゃあなァァ? クッソピエロぉぉお──……!」
一気に、こちらへ飛んできた──!
くっ────!
「──」
黄金の少女は、チラリとこちらを向き、
また、前を見る。
────後ろの私を、気にした──……?
「クラウン、ベアークラッチ。先輩、捕捉まかせた」
────ギュゥゥウオオオオオオンンン!!!
「っうおッっ!!」
「──!!」
金の右腕が、恐ろしい光を放ち出す!!
「あら、ずいぶん同じ軌道なのね」
────────────────────。一閃。
──ギィヤァァアアアン!!!
「……んだと」
……剣が、粉々に、飛び散った。
一体、何が……!
──ギュウウウウウンン……。
「…………」
光がおさまった少女の右腕では、
何かが、ゆっくりと回転を止めるところだった。
アレは……?
輪の、ようなものだろうか。
周囲が、ギザギザしている。
たくさん、腕に通っている。
交互に、反対に回っていたようだわ。
高速回転した輪が、剣を弾いたのだわ!
……でも、あんなにある剣を、
一度の軌道だけで打ち砕き抜くなんて……!
「ひとの顔ばっか狙ってんじゃねーよ。あとシネとか簡単に言うな。ガキか。ったく」
「……クチの聞き方に気を「説教されてる時にしゃべんじゃねぇよ」っ…………」
「あのさぁ、人がしゃべってっときにしゃべんなって、習わなかったの?」
ちょ……あの、道化師さん……。
こ、こんな場面で、その。
そういうのは、その……。
あ、あなた、けっこうガラ、わるいわね……。
あと、人が喋っている時に喋るなって、
それ、あなたも当てはまってると思いますよ……。
────ぐぅおおおおおん!!!
──!!
王の両側から、大きな騎士モドキどもがあらわれる。
2体!? くそっ!!
大剣と、ハンマーを持っている。
からだがっ、動かない!!
この身体──ッ!!
小さな金の女の子に、
振り上げられた凶器がせまる────!!
だめ────────!!
────キキィィン。
「────え」
「──なぜだぁ……」
とまった。
左に、大剣。
右に、大槌。
掴まれている。
つ、かむ?
そんな……ことが。
両側、正反対からの同時攻撃を、
いなす訳ではなく、
武器の形状を理解して、掴むなんて……!
……通常の人の視覚と筋力で、
そんなことが、可能なんだろうか。
「……あなたたちも……人間、だったんだよね」
少女は、寂しそうな声で、
しかし、力で、制しだす。
横一線で受け止められた大剣は、
まだ、戸惑う騎士モドキによって、握られている。
剣の角度が、変わり始めた。
少女の手首を軸に、ゆっくりと回りはじめる。
「ヴォ、ヴオォオオオオ……!!?」
大剣から手をはなさない怪異は、
持ち手が下にいく大剣に、引っ張られていく。
ここまでくると、滑稽ですら、ある。
少女の3倍程はある身長の怪物が、
じりじりと、剣の回転によって、
膝を付けさせられていく。
大剣は縦一線となり、
怪異はまるで、
黄金の少女に、
まるで、王に、ひれ伏すように、膝をつく。
「……後ろにいる、気高き騎士に習い、情けはかけるわ。でもね?」
金の左足が、後ろに引かれる。
「──いたい気な少女に、斬りかかってんじゃねぇよ」
────ごッッ、ぅぅぅうおおおん──……!
────ドぉん!!! ……パラパラ
足を、あげた。
そういう表現が、正しい。
だって、まるで抵抗がないんだもの。
天井に、何故か、穴があいたけど。
「グゥオオオオ………」
「おるあ」
──ガッキン。
「グォッ!」
"あっ!"とでも言ったのだろうか。
唖然とする怪異が、
ハンマーから手を離した。
あの娘……
手首のスナップだけで、武器を奪った……。
黄金の少女の手に、
明らかに不釣り合いなハンマーが、
逆さまに、握られている。
「よしょ」
ハンマーが、空中に投げられた。
金のブーツを支える床が、ギリギリと、いう。
大槌は、くるくると舞い、
パシッと、正しい持ち方で、握られた。
「イニィさんの、真似でもするかな────?」
横に、振りかぶって────……、
────ずどぉぉぉおおおん!
────…………ァン……。
「…………」
次の瞬間、真横の壁に、穴があいた。
今の、まさか……私の、あれのマネ……?
……ちょっとまって私そこまでしていませんから。
「……キサマぁ……王の財産を……!」
「あのさぁ」
────くるくるくる……
「さっきから、王サマ王サマ言ってっけどさぁ」
────ぐぉんぐぉん、キィィン。
滑らかな動きで、
巨大なハンマーがふられ、
黄金の肩に、かつがれた。
「──私が怒ってるコトより、重要なことなの?」
「────」
「────」
そして、気づく。
この娘の、あたまのうえに、輝く、
その、造形に。
────くるくるくる──────。
「…………"王冠"……?」
いま。
この場で、
王冠をしているのは、
彼女だ。
時空を超えたことの
説明がないだとっ!?
((((;゜Д゜))))










